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    ななめ

    創作BL(@naname_336)と
    二次創作(@naname_line)。

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    ななめ

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    広瀬と入江。お花見の話です。
    まだ広瀬が敬語です。次回から『お互い名前呼び』『タメ口』になります。

    #創作BL
    creationOfBl
    ##広入

    桜咲く 桜の写真を撮るのは難しい。
     広瀬はスマホの画面を覗き込みながら悩んだ。公園の桜は今が盛りで、園内には何組もの家族や友人グループがいる。絵を描く人もいれば犬の散歩をする人もいる。霞がかった淡い水色の空と、柔らかな午後の日差し。どこからか花の香りを運ぶ風。大学の春休みが終わる最後の週末に、広瀬は入江とお花見を兼ねた散歩に来ていた。
     こうやって二人で桜を見るのは初めてだ。せっかくだから入江と一緒に見ている桜の姿を残したい。記録魔の広瀬はときおり日記に写真を貼りつけている。どうせなら印象的な一枚を、と思うのだが、全体を撮ろうとすると中心をどこに置けばいいのか分からず、花をアップで撮ろうとすると輪郭が飛んでしまう。画面の中で花は明るく輝いていた。
     今度、図書館で写真の撮り方の本を借りようか。構図に迷いつつ何枚か撮影したところで、隣から「どうお?写真撮れた?」と間伸びした声が降ってきた。にゅっと入江の顔が近づいて広瀬の手元を覗き込む。
    「ううん、眩しくて見えないなあ」
    「あんまりいい写真は撮れていないんです」
     広瀬は入江との距離に動揺しつつスマホを閉じると、「桜の写真を撮るのって難しいですね」と言ってさりげなく距離を取った。
    「そういうものかなあ」
     入江が首を傾げる。広瀬はさっきの照れくささを誤魔化すように、桜の撮影にどのような困難を感じているのか説明していると、入江が突然「そうだ!」と声を上げて、
    「どっちがいい写真を撮るか競争しよう」
    と目を輝かせた。どう見てもいいことを思いついた子どもの顔だ。
    「えっ、競争って」
    「じゃあ俺、ちょっとあっちの方で撮ってくる。広瀬君またあとで」
    「え、ちょっと先生」
     入江は広瀬の返事も待たずに周囲をきょろきょろと見回しながら離れていった。少し歩いては立ち止まり、また少し歩いては立ち止まり。後頭部の癖っ毛がぴょこぴょこと揺れながら遠ざかる。
     競争って。広瀬は心の中で呟くと、ふっと笑った。こんな風に入江の稚気に和まされることもしばしばだ。もちろん入江との競争にも付き合うつもりだった。広瀬はさきほどのように悩んだりせず、気楽な気持ちで何枚も写真を撮った。画面に飛び込んできた蜜蜂も撮った。そうだった、せっかくだから楽しまなくては。入江のように。
     木陰のベンチに座って、どれが一番よく撮れたか吟味した。入江はまだ戻ってこない。向こうには枝垂れ桜が咲いていたから、それを撮りに行っているのかもしれない。広瀬はああだこうだとスマホを傾ける入江を想像して、その姿を直接見たかったな、次は見逃さないようにしようと考えた。それとも今から迎えに行こうか。腰を浮かしかけたところで入江が近づいてくるのが見えた。どうやら撮影終了らしい。
     入江は背中を丸めて広瀬の隣に座った。
    「写真撮ってきたよ。どれがいいかも選んだ。広瀬君は?」
    「俺もちょうど選び終わったところです。じゃあ写真を送りますね。ラインでいいですか」
     広瀬は桜の花を画面いっぱいに写した写真を送った。あふれんばかりの花。少し白飛びしてしまって写真としての出来は良くないかもしれないけれど、これが今の自分の気持ちに近いと感じたからだ。
    「どうですか、先生」
    「へえ。すごいなあ。いい写真だな。俺も送るからちょっと待って……ええと、うーん……あ、これこれ」
     広瀬は入江の素直な感嘆を心地よく聞いていたのだが、入江の送ってきた写真を見た途端、心臓がドキンと跳ねた。
    「え……これって」
    「広瀬君に気づかれないようにちょっと離れたところから撮ったんだよ」
     入江が、んっふっふ、と含み笑いをする。
     それは広瀬が桜の花を撮影している写真だった。後ろ姿なので広瀬の顔は見えない。スマホを掲げて背伸びしている。拡大したから全体がぼやけていて、広瀬に明るさを合わせているせいで肝心の桜の樹は白っぽくなっている。
     ──これじゃ桜の写真じゃなくて俺の写真だ。
     広瀬が「これって」と言い終わる前に入江が言った。
    「これが今日一番良く撮れた写真」
     広瀬は顔を上げて入江の顔をまじまじと見つめる。入江は目を細めて得意げに笑っている。
    「ずるいですよ」
    「えっ、なにが」
     桜の花を撮ろうと言ったのだ。『今日一番の写真』でいいのなら、自分だって……と考えたところで、広瀬は慌てて首を振った。
    「いや、俺、桜の写真って言いましたよね。これは失格です」
     広瀬は澄まして言い渡す。
    「ええっ、そんなあ」
     一転して焦った顔で、ここに桜写っているしと画面を指差す入江の姿を見ながら、広瀬は自分のほおがじわじわと熱を持つのを自覚しないわけにはいかなかった。
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