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    ななめ

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    【小説】ケーキ、追加注文で【田端】
    『言葉紡ギテ縁ト成ス』bnalオンリーの展示作品です。
    2020年11月1日「想イ集イテ」bnalオンリーオンライン即売会にて、小説再録本『図書館の隙間』に書き下ろした小話のひとつです。他の書き下ろしはweb収録の予定はありません。

    #文アル
    "asWritten"Album
    ##文アル

    ケーキ、追加注文で【田端】 軽井沢風の、とでも言えばいいのか、とにかく小洒落た喫茶店で、室生は目の前の堀と中野がケーキを食べる姿を眺めていた。堀のお気に入りの喫茶店。店自体は小さいが天井が高く開放感がある。格子組の窓からは夏蜜柑のような光が差し込んでくる。
     天然木の四角いテーブルの上には数本のベニバナが飾られている。綺麗なのだが二人を見るのには邪魔だなと、室生はガラスの花瓶をテーブルの端に寄せた。
    「どうしたんですか、犀さん」
    「いや……それよりシゲはそれだけで足りるのか?」
     中野が気づいて尋ねてくるのをなんだか気恥ずかしく思いつつ、室生は話を逸らした。
    「そうだよ、しげじ。足りないんじゃない?僕の一口あげるよ」
     堀が自分のケーキを一口分フォークに刺して、それを中野へ差し出す。「辰、いいよ」「いいから食べて」、そんな会話を微笑ましく眺めつつ、室生はメニューを手元に引き寄せる。今日は二人を労うのが目的だった。武者小路が夏の休暇を取って四人で旅行に出かけてしまったのと、同じ時期に徳冨も休暇を取ったため、その間だけ畑仕事を手伝ってもらったのだ。
    「シゲ、ホットケーキがあるぞ。季節のフルーツもついているそうだ。今日は俺がご馳走してやるから遠慮なく頼め……」
    「犀!!」
     急に誰かが慌ただしく店に入ってきたなと思ったら、いきなり名前を呼ばれて室生は振り返った。萩原がよたよたとテーブルの間を歩いてやってくる。その後ろを芥川が悠々とした足取りで店内に入ってくる。萩原は室生たちのテーブルにたどり着くと「ひどいよ犀」と上気した顔で言った。
    「なにがだ。っていうか朔、店で騒いだら駄目だろう。とにかく座れ」
     室生が隣の椅子を引いてやると、萩原はうなずいて腰を下ろした。芥川が空いている椅子を引き寄せて、当然のように誕生日席に収まった。堀と中野は突然現れた二人に驚いてフォークを持つ手が止まっている。
     萩原が室生を見て、もう一度さっきの台詞を繰り返した。
    「だからなんでだ」
    「だって犀、自分と龍くんを置いてお茶に行っちゃうんだもの……」
    「は?これは二人が畑仕事を手伝ってくれたお礼だぞ。朔は手伝ってくれと言ったら断ったじゃないか」
     すると萩原はおどおどとみんなの顔を見回して、
    「畑?そうだっけ?……というか龍くんが、犀が自分たちを置いてこっそりお茶に行ったって言うから……」
    「おい……芥川には出がけに理由を言っただろ」
     芥川とはちょうど室生が部屋を出た時に、ばったり廊下で出会ったのだ。出かけるのかと聞くから、正直に行き先と目的を告げたのだが。
     ──こいつ、ひとりで乱入するのが嫌で朔を巻き込んだな?
     室生が芥川を軽く睨むと、芥川はいたずらが成功した子供のような笑みを浮かべた。中野はといえば少し呆れた顔で芥川を見ている。
     テーブルの上は給仕が持ってきたお冷の杯が二つ増えただけで、にわかに賑やかになった。テーブルの上は賑やかだが、室生は腕組みをして黙っている。賑やかな雰囲気とは言いがたい。
     萩原は恐縮したように肩をすぼませて、「あの、自分は帰った方がいいかな……?」と席を立とうとした。堀が焦って腰を浮かせた。
    「あ、あの。僕は朔太郎さんと芥川さんが来てくださって嬉しいです。大勢で食べると美味しいですよね。だから朔太郎さんもここにいてください」
    「そ、そう?」
     堀の言葉に萩原は椅子に座り直す。すかさず芥川が、
    「そうでしょ。さすが辰ちゃんこ」
     と言ってえへんと胸を張った。なんでそんなに偉そうなんだ。もう怒る気にもなれない。それに、みんなの世話をするのはそう悪い気分でもないのだ。室生は諦めて言った。
    「もうお前たちなんでも好きなものを頼め。俺のおごりだ。シゲももっと頼めよ。懐の心配はしなくてもいいからな」
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