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    hisakoju

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    hisakoju

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    前に呟いたシャチナバスネタ文にしたのであげ
    書き足します

    シャチナバス走り書き 海流が冷たく頬を叩く。海水のうねりに鰭や髪を遊ばせて尾を振るうと押し戻す感触の後に流れて去っていった。
     その速さに追いつける他者はおらず、形を認識する前にバルナバスの視界から消えていく。
     むすりと引き結んだ口を忌々しげに歪めると小さな気泡が零れて溶けた。
     腹いせのように尾びれで打ち付ける水が音のない悲鳴を上げてバルナバスの巨体を押し出していく。ぐるりと身体を旋回させ鱗にまとわりついていた水草が散った。
     バルナバスについていけるものなどいなく、全てが置き去りにされていく。
     まったく。不愉快極まりない。
     事の発端は腹がくちくなったので獲物を捉えたときのこと。そこそこ食いでがありそうな肉が眼前を抜けたので丁度良いと仕留めたらその獲物は自分たちのだと同族の稚魚共が群がりながら主張したのだ。
     本当に獲物を追っていたなら彼らにも権利はあろう。だが、バルナバスは見ていた。彼らが屠れる技量がないためあえて獲物を自分の眼前に追い込んで仕留めさせたのを。
     なんとも身の程知らずの稚魚か……呆れて顔をしかめるバルナバスに騒がしい小魚達が声を大きくする。
     こちらが返さないのをいいことに威勢の良いことだ。
     そして彼らはバルナバスが了承する前に仕留めた獲物に手を掛けた。それが終わりの合図とも知らずに。
     指先が触れたか触れなかったか、その稚魚が知ることはなかった。肉厚の尾びれが一思いに叩き潰し、漂う空間に赤い霧が霧散する。
     何が起こったのか理解する前に一匹、また一匹と稚魚が消えて濃い霧が生まれていく。
     あたりを漂っていた他の生き物は消え失せ、最期に残された一匹がガタガタと震える。眼前で見下ろす灰青の瞳が海の底より昏い色をたたえていた。
     はくはくと地上で酸素を求めるように口を開けしめしながら見開いた目から、鼻からありとあらゆるところからみっともない汁を幾重にも垂れ流していた。
     
    「覚えておけ、群れてない者から奪うのがどういう事か」
     
     告げられた言葉に稚魚は何度も頷き、謝罪と命乞いを始める。何度も紡がれる言葉はたいくつで聞くだけで耳朶が穢れるほど耳障りだった。
     獲った獲物も食欲が失せたので手放し、バルナバスは去る。稚魚が獲物を口にしたのかは知らない。残ったのは苛立ちの感情だけだった。
     一匹で狩りをするバルナバスには群れて行動する同種が理解しかねた。何故群れる。煩わしいだけであろうに。
     獲物を捕らえるのも、食らうのも、手に入らずくちい思いをするのも全て己だけが好ましい。
     他者を頼り、他者に合わせ、他者を蔑む。そのことに意味はなく群れないと何もできない脆弱さは酷く不快だった。
     同じ箇所を縄張りと称して集団でしかなにも成せない煩わしさはまっぴらだ。
     故にバルナバスは一匹、悠々と海の中彷徨う。気が向けば北の冷たい海域へ。退屈を感じたら南の色彩があふれるぬるま湯のような方へ。
     ひとところに留まらないまま、獲物を仕留めてその巨躯を優美に揺らめかせる姿は彼らの世界で知らないものなどいないほど知れ渡る。
     さながら孤高の王だと。
     関わるな。怒らせると消される。奴が来たら隠れるか逃げるか諦めろ等。勝手に揺蕩う水草のように噂が広まりついぞ手出しする者はいなくなっていった。
     最期にまともな会話をしたのは何処の海だったか。銀髪の深海魚を匂わせる人魚が脳裏に浮かぶ。
     
    「あなた様に仕えたい。ですがそれは我らが王の求めるところではないでしょう。もし我らを必要とされるときは申し付けを…………」

     告げるだけ告げた銀の集団は頭を垂れるとそのまま散っていった。それも随分前のことのように思える。
     と、そこでバルナバスは気がつく。知らずに泳いでるうちに随分と地上に近いとこまで来てしまった。
     揺らめく海面の先に赤い光が灯り、消えていく。海の世界には無い色が散っては去っていた。
     これは、何か。普段なら気にもとめないはずのそれらに何故か誘われてバルナバスがその身体を地上に持ち上げた。
     膜を破るように海面を押し上げて重苦しい外の世界に踊り出る。跳ねて外界をくるりと一周回転すれば夜と呼ばれる黒の色が支配する中に点々と赤の色がついては消えていった。
     これは何か。わずかな海上での時間に見えたそれに興を惹かれ、叩きつけた海面に落ちてすぐ浮上する。ヒト野肉体だけを出して浮くと視界の先にはまばゆい光がいくつも瞬いて消えた。

    「ほう…………」

     それは花火という火薬を爆ぜた人の世界の娯楽だが、人魚であるバルナバスには知り得ないものだった。ただ見たこともない物が光り、散って消える。その一瞬の煌めきと潔さに気分が良くなり眺めていた。

    「あ……あの…………!!そこの人みたいなお魚さん!!」

     かけられた声は唐突だった。驚いたバルナバスが振り向くと背後には大きな船があり、その縁で小さなヒトの稚魚が身を乗り出していた。
     あまりにも大きかったため岩だと思っていたのだ。これほどまでにヒトに近い場所で身を晒した愚行にバルナバスが舌打ちをする。
     これ以上面倒になる前に帰ろうとしたところで耳朶に稚魚の声が届いた。
     
    「さっき跳ねてたの、綺麗で、凄かった!もっかい見せてもらっちゃ、だめかな!!」

     耳を、声を、疑う。
     自分に掛ける言葉ではない。からかっているのだろうか。
     ついぞ歯牙にもかけないはずの言葉。だが何故だが無視できずバルナバスはその巨躯を海に沈ませて一気に飛び出すと宙に舞った。


     昏い闇夜に欠けた月が浮かぶ。
     星に届きそうな錯覚を見せながら浮かぶ人魚の巨体が綺麗な弧を描いて踊り落ちる。
     その美しさ、逞しさに口をあけた子供――クライヴが歓声を上げた。
     
     
      
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