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    LadyBellAUのweek1-5までの妄想会話です。ダイアログ形式で進みます。
    別の小説からサルベージした為、各Week二曲だけというちょっと駆け足な進み方になっています

    #FNF_Lady_Bell_AU
    ##FNF_Lady_Bell_AU

    FNF_Lady_Bell_AU -week1-5-○滅茶苦茶簡単な登場人物紹介

    ・Boyfriend / Bell
     プロを目指す新米シンガー。トランスジェンダーで可愛いものと甘いお菓子が大好きなゆるふわ乙女。愛称は“Bell”。

    ・Girlfriend
     BFの恋人。今日も今日とて彼女を着飾るのが楽しい、Xジェンダー(両性)な売れっ子モデル。ボケでもツッコミでもある。

    ・Daddy Dearest
     GFの父親。元ロックスターとしてBFを指導する。GFの友達としては認めているが、恋人としては認めていない。

    ・Mammy Mearest
     GFの母親。有名なシンガーでありファッショニスタ。BFを可愛がり彼女からもなつかれている。

    ・Skid & Pamp
     ある廃洋館に住まう子供のゴースト達。Lemon Monsterの庇護下にあり、BFとはミドルスクール時代からの友人関係にある。

    ・Lemon Monster
     廃洋館に住まう小洒落た人食いの怪物。BFとは度々お茶会に誘う仲。尚、GFは二人どちらにもドン引いた。

    ・Pico
     BFの元恋人。「GFを殺してほしい」という依頼を受けて二人を襲撃する。多分一番常識人。Xジェンダー(不定性)。


    ○Prologue (Tutorial)

    【某月某日、ステージにて。
     そわそわしながらあっちへこっちへ往来するBF。
     それを見かね、スピーカーの上に座ったGFが声をかけた。】

    *Girlfriend / GF
    「どうしたのBell。緊張してる?」
    *Bell / BF
    「多分。
     もうすぐ時間だと思うと、何だか落ち着かなくて。
     大丈夫かな?寝癖ついてない?服も乱れてたりしてないかな」
    *GF
    「問題ないよ。この僕がしっかりコーディネートしたんだからね。
     今日も世界一可愛いよ、Bell」
    *BF
    「……うん、ありがとう。貴方はいつも良くしてくれてるよ。
     でも私……ちょっとズレてるみたいだから。知らない所で失礼なことしないかなって心配なの」
    *GF
    「大丈夫だって。大体、今日初めて会うって訳じゃないだろ。
     いつも通りにしてればいいのさ。ほら、リラックスリラックス」
    *BF
    「……たしかに初対面じゃないけど、歌手としては初めてでしょ?
     (ぐるぐる目になって)駄目だしとかされたらって考えると、口が乾いて喉が張り付いちゃって。
     声がちゃんと出るか、確信が持てないんだ」
    *GF
    「あー……まぁ、緊張はするか。
     それじゃ、今からちょっと練習してみる?」
    *BF
    「練習?」
    *GF
    「そ。今ちょこっと音楽流して練習してみようよ」
    *BF
    「いいの?
     私は構わないけど、機材とかって勝手に触っちゃいけないんじゃないのかな」
    *GF
    「大丈夫だいじょーぶ。壊れたらその時はその時さ。
     えーっと、曲は……これでいっか」
    *BF
    「(不安そうな顔で)もし聞かれてたら、下手だって怒られない?」
    *GF
    「怒られないって。流石に父さんもそこまでケーワイじゃないし。
     それに何より、僕がBFの歌聞きたいんだ。いいでしょ?」
    *BF
    「それは……今じゃなくても、この後いっぱい歌うよ?」
    *GF
    「父さんとのデュエットだろ、それ。指導時間になったら僕なんて口挟めなくなるし。
     僕は、君だけの歌が聴きたいの」
    *BF
    「(少し照れて)……そっか」
    *GF
    「準備はいい?
     それじゃ、一つ行ってみよー!」

     *─Track─*

    *BF
    「どうかな?」
    *GF
    「最高だよMy Bell!
     いやぁ、やっぱり君の歌は世界一だね。どんな困難にだって立ち向かえる、そんな確信をもたらす力がある。
     勿論見た目だって最高のゆるふわキューティガールだ。さすが僕」
    *BF
    「あはは、買い被りすぎだよGF。
     でも、服は本当にいつもありがとうね。さすがに私一人じゃ、買えるお金もなくって」
    *GF
    「お金がないって……ああ、借金?
     別に今すぐに返さなくたっていいだろうに。父さんだって出世払いで良いって言ってただろ」
    *BF
    「うーん、でも、こういった案件は早めに済ませておきたいの。
     お金は怖いって、あの人達も言ってたしね」
    *GF
    「(少し納得のいってない顔で)……。ほどほどにね。
     ま、そのお陰で僕がたくさんコーディネート出来るんだから、役得ではあるんだけど。
     そろそろ、他のジャンルのも着てみてほしいしね~。BFはこれ着てきてみたいとかある?」
    *BF
    「いいの?」
    *GF
    「いいよいいよー、ジャンジャン言って」
    *BF
    「だったら……私、今度はカッコいいの着てみたいな。
     ほら、前に二人で読んだ雑誌にあったでしょ?ストリートファッション?とかいうの」
    *GF
    「なるほどなるほど。
     ……今のと随分真反対なの来たな……」
    *BF
    「やっぱり、ダメだったかな?」
    *GF
    「まさか!僕を誰だと思ってるのさ?君のGirlfriendだぜ?
     恋人の願いを叶えられないなんてそれこそモデルの名折れってやつさ。大船に乗った気でいなよ。
     しっかし、そうなるとやっぱり身長がネックだよなぁ……」
    *???
    「BFは小柄で胴も足も短いからな。生半可な物だと着せられている感が強くなってしまうだろう」
    *GF
    「そうなんだよねー。どうしたもんか……って、
     パパ!?」
    *BF
    「(少し目を見開くBF)」

    【Daddy Dearestが舞台袖から出てくる】



    ○Week1

    *GF
    「ちょっと、いつからそこにいたのよ!いたなら教えなさいよ!」
    *Daddy Dearest / Mr.Dearest
    「曲中に口を挟むのは野暮というものだろう。カメラが回っていないからこそ出せる声や言葉というものもあるのだよ。
     それはそれとして、機材を許可なく扱ってはいけないと前にも言った筈だぞ。壊れてしまったらどうする」
    *GF
    「ふーんだ。コソコソ盗み聞きする人なんかに言われたくないですよーだ」
    *Mr.Dearest
    「(ため息と共に)まったく……」
    *BF
    「こんばんは、Dearestさん。
     えっと、機材の方は、ごめんなさい。私が止めれば、良かったですよね」
    *Mr.Dearest
    「こんばんは。君が気にする事はない。大方我が子の独断だろうからな。
     それより、最近の調子はどうだい?薬もちゃんと飲めているかね?」
    *BF
    「はい。お陰さまで、大丈夫です。薬も今のところは問題ないです」
    *Mr.Dearest
    「なら良かった。
     勿論、もし何かあればすぐに電話をしなさい。遠慮することはないからね」
    *BF
    「はい、ありがとうございます」
    *GF
    「(不機嫌な顔になって)ちょっと父さん、僕のBFなんだけど?
     あんまりベタベタ触んないでよ。親子じゃあるまいし」
    *Mr.Dearest
    「おや、それはそれは悪かった。
     どこぞの反抗期な我が子とは違って、彼女は素直だからね。どうも構いたくなってしまうのだよ」
    *GF
    「はー?誰が反抗期ですって?自立心があるって言ってくださる?」
    *BF
    「GF、GF、落ち着いて。大丈夫だよ。
     Dearestさんは確かに恩人だし色々とお世話になってるけど、さすがに親みたいには思ってないよ。
     血も繋がってないし、ずっと目上の人だし……
     それに、Dearestさんが私の親だと、色々と困るでしょ?」
    *GF
    「それはそうだけど、なんだか私が嫌」
    *BF
    「ふふ、もしかして嫉妬ってやつ?」
    *GF
    「……そうよ。悪い?」
    *BF
    「ううん。むしろ嬉しいな。
     それくらい私を好きでいてくれてるってことだから」
    *GF
    「(照れながら)BFっていつも言葉が直球よねぇ……
     ま、そこがいいところなんだけど」
    *BF
    「?」
    *GF
    「なんでもなーい。今日も私のBFは最高だなぁってだけ!」
    *BF
    「そっか。良かったね」
    *Mr.Dearest
    「(少し間を置いて)あー、ごほん」

    【Mr.Dearestの咳払いで二人は我にかえって彼を見る】

    *Mr.Dearest
    「世間話はここまでにしておこう。
     BF、君は歌手になりたいと言っていた。それは今でも変わらないな?」
    *BF
    「はい。私は、歌手として上を目指したいと思ってます。
     専門学校にも行かなかった私が言うのも烏滸がましいかもしれませんが……それでも、それが私の出来る唯一の“したい事”なんです」
    *GF
    「だいじょーぶだいじょーぶ。そんな事言ったら、僕なんて学校入る前からモデルやってるから。何だったら中卒の同僚だっているんだから。
     大学中退ぐらいどうって事はないよ~」
    *Mr.Dearest
    「GF、口を挟むのはやめなさい。
     あと、それは全く慰めにならないぞ。油断して単位を落としたらそれ以前の問題だからな」
    *GF
    「ちぇー。
     もうちょっとノってくれたっていいじゃんか」
    *Mr.Dearest
    「……とにかく、それなら君は人一倍努力をする必要がある。才能だけで乗り越えられる世間ではないからな。
     初舞台までおよそ一ヶ月──
     過酷な旅を始める準備はよろしいか?」
    *BF
    「もちろん」
    *Mr.Dearest
    「よろしい。
     では、まずは軽いものから行くとしよう」

     *─Track─*

    *Mr.Dearest
    「ふむ。まずまずと言ったところか。
     自分からエントリーするだけはあるな」
    *GF
    「ふふん。私の自慢の“友達”よ?
     あんまり舐めてると痛い目見ちゃうんだからね」
    *BF
    「初心者の私には勿体無い言葉だよ」
    *GF
    「またまたそんな謙遜しちゃって。
     いつも子守唄とか歌ってくれてるじゃない。私、あれで充分寝れるんだから。
     貴女はちゃんと歌手をやれているわ、Bell」
    *BF
    「ありがとう、GF。私、貴女の為にももっと頑張るね」
    *Mr.Dearest
    「(二人を交互に見、訝しげに首を傾げる)
     ……ところで。前々から聞きたい事があったのだが。
     友達とは言うが、君は我が子とは実際どんな関係なんだ?」
    *BF
    (あっ)
    *Mr.Dearest
    「今までは単なる友達だと思っていたのだが……それにしては随分と親密に見えてな。
     まさかと思うが──恋人などとは言うまいな?」
    *BF
    「(思案に耽りながら)うーん……」
    *GF
    「ちょっと、彼女を怖がらせないで、パパ。
     BFのBはBellのBだから!BoyfriendじゃなくてBellfriendなの!
     ほんっともう、変な邪推はやめてよね」
    *BF
    (それはちょっと無理があるんじゃないかなGF)
    *Mr.Dearest
    「ならいいが……」
    *BF
    ((キョトン顔で)いいんだ)
    *Mr.Dearest
    「だが、もしもの事があれば一大事だ。
     我が子に恋愛はまだ早い。どうしてもと言うのなら、私を越えていく事だな」
    *GF
    「はぁ……パパったら、ほんと過保護なんだから。
     言っとくけど、それ理由でイビったりしたらママに言い付けてやるからね」
    *Mr.Dearest
    「心配するな。私は仕事に私情は挟まん。
     仮にそうなったら、この小娘に才が無かったというだけだ」
    *GF
    「へーへー、そーですか。
     ま。信用しないで見守ってますよーだ」
    *BF
    「……“私を越える”って、例えばもし私がトップになったら、GFとの交際を認めてくれるんですか?」
    *Mr.Dearest
    「ふむ?まぁ……そうだな。
     世界に名の知れた者になら、娘を任せてもいいだろう。
     最も、声楽もまだまだな小娘にそこまで行けるとも分からんがな」
    *BF
    「そうですか……
     (無表情になって)……ふぅん、そっか……
     (目を細めて)──ふぅーん……
     ──うん、俄然やる気が出た!」
    *GF
    (あちゃー、乗り気になっちゃったなあれ。
     あの状態のBF、加減知らないまま突っ走っちゃうからなぁ。
     ノリノリな彼女も可愛いけど……水か何か、持ってこないとな。倒れるまで歌い続けちゃう)
    *Mr.Dearest
    「何が一体君の心に火をつけたのかは分からないが、やる気が出たのなら良いことだ。
     どうやら、もっと厳しめにしてもいいみたいだな?」
    *BF
    「へぇ。そんな簡単にハードルあげてしまっていいんですか?」
    *Mr.Dearest
    「それほど期待しているということだ。君こそ、簡単にギブアップしないよう気を抜かないことだな」
    *BF
    「ふふ、それはそれは……とても、楽しみです。
     ──ご指導のほど、宜しくお願い致しますね?」

     *─Track─*



    ○Week2

    【それから一週間後。
     何処かの道すがらにて】

    *BF
    「ふぁー……
     うーん、眠い」
    *GF
    「ずいぶん大きな欠伸だこと。昨日ちゃんと眠った?」
    *BF
    「一応日を跨ぐまえには眠ったよぅ……でも、練習の疲労?があんまりとれなくて……
     顎動かすのが億劫なのは練習の疲労で良いんだよね?」
    *GF
    「どう見ても練習のせいね。まったく、パパったらやりすぎなんだから。
     大丈夫?魅了使われたり無茶ぶりされたり上手く歌えるまで帰れま10てんみたいな事されたりしてない?」
    *BF
    「大丈夫だよGF。今のところ特に違和感はないから。
     ちゃんとしっかり指導してもらってるから、心配しないで」
    *GF
    「(ちょっと怒った顔で)……My sweet、真面目なのは良いことだけれど、貴女は他の人より感覚が鈍いって自覚してる?
     前もそうやって熱あるのを『頭がふわふわする』で済ませて、結局倒れたじゃない」
    *BF
    「そんな事もあったねー」
    *GF
    (自覚してないな、これは……)
    *GF
    「まあ、今のところ肌が荒れてたりクマが出来てたりはしてないけどさ。もし何かあったらすぐに私が行くから。
     知っての通りパパは親バカだからね。『パパ大っ嫌い!』って言えばイチコロよ」
    *BF
    「……ご両親は大切にね?
     でも、ありがとうGF。気にかけてくれて」
    *GF
    「どういたしまして。
     それで……えーっと、次の十字路を左、だっけ?」
    *BF
    「うん。このまま行けば目的地だよ」
    *GF
    「『紹介したい人がいる』って言ってたけど……ここ、随分と町外れよね。
     あんまり車の通りも無いし草ぼうぼうだし、本当にここに人が住んでいるの?」
    *BF
    「住んでいるというか……まぁ、会えば分かるよ」

    【暫く歩いていくと、大きめの洋館に辿り着く。
     しかし、そこは明らかに廃墟と分かるほど荒れていた】

    *GF
    「(少し顔を青くして)……Oh」
    *BF
    「(ノック音)
     ごめんくださーい」
    *GF
    「ええ?ちょ、ちょっと?ここ、廃墟だよ?
     人が住んでるにしても絶対不審者──」

    【そこでひょっこりとSkid達が顔を出してくる。
     あどけない表情の彼らは、しかし明らかに幽霊だと分かるほどに透けて見えた】

    *GF
    「(固まるGF)」
    *Pamp
    「知らないひとだ。お姉さんたちだれー?」
    *Skid
    「待って。青いかみってことは……もしかしてBell?」
    *Pamp
    「ほんと!?帰ってきたの!?」
    *Skid
    「Bellだ!おっきいBellだ!久しぶり!」
    *BF
    「久しぶり、Skid、Pamp。
     あの人はまだいるのかな」
    *Pamp
    「いるよー?ずっといるー!」
    *Skid
    「呼ぶ?ここに呼んじゃう?」
    *Pamp
    「それとも奥に来る?お茶会しちゃう?」
    *BF
    「じゃあ、お茶会を頼もうかな。
     あと、はいこれ。三人で食べてね」
    *Skid
    「(大きな紙袋を受け取って)やったー!ケーキだー!」
    *Pamp
    「お茶会だお茶会だー!お菓子がいっぱい食べれるぞー!」
    *Skid
    「待ってて、今起こしてくるー!」

    【Skid達がその場を離れる】

    *BF
    「二人とも変わってないなぁ。
     ……どうしたの?GF。さっきから黙り込んじゃって」
    *GF
    「いや、いやいやいや。ちょっと待ってくれ」
    *BF
    「うん」
    *GF
    「(頭抱えながら)
     ……My Bell、あの子達が何なのか、分かってる?」
    *BF
    「SkidとPampのこと?うん、知ってるよ。
     あの二人は、ずっとここに住んでるゴーストだよ。白くてしっかりしてるのがSkid、橙色でお菓子大好きなのがPampなんだ」
    *GF
    「そっかぁゴーストだと分かった上でその反応かぁ……マージかー……」
    *BF
    「もしかして、GFってゴーストが苦手だった?」
    *GF
    「(目をそらしながら)べ、べっつにー?
     ただ意外な友達がいるんだなぁって思っただけだしー?怖くなんかないしー?」
    *BF
    「(悪戯っぽい顔で)……へぇー?」
    *GF
    「今なんか悪巧みしただろ」
    *BF
    「(一転朗らかな笑顔で)さぁ、どうでしょう?」
    *GF
    「してるパターンじゃんそれ……
     逆に、BFは大丈夫なの?ゴーストだよ?」
    *BF
    「何が大丈夫かどうかなのかは分からないけど、今のところは何も問題は起きてないよ。
     そもそも、私にはゴーストと生きてるヒトの区別、つかないし。二人のことも、言われなきゃ分からなかったよ」
    *GF
    「あんなに透けてるのに?」
    *BF
    「透けてるヒトも透けてないヒトも沢山いるから……
     あっ、ほら見て。あそこの窓から誰か中覗いてる」
    *GF
    「……うん、今度ちゃんとした所でお祓いしてもらおうね。
     今の君、ゴーストからしたら格好のエサ過ぎるから……」
    *BF
    「悪魔の貴方がお祓いって言うの、なんか面白いね」
    *GF
    「好きに言え」

    【Skid達が戻ってくる】

    *Skid
    「お待たせー」
    *Pamp
    「今ちょうど準備してるところだってー」
    *BF
    「そっか。私達も手伝った方がいいかな」
    *Skid
    「ダーメ!
     Bellはお客さんなんだから!もてなされる方なんだから、まだ入っちゃダメだよ!」
    *BF
    「そっか。それじゃあ、時間潰しに何をしよっかな」
    *Skid
    「ふふーん、そりゃ決まってるでしょ」
    *Pamp
    「せっかくの再会なんだから!パーって明るいの行こう!」
    *Skid
    「あれからいっぱい練習したんだから!見ててね」
    *BF
    「そうなの?それは楽しみね」
    *Skid
    「準備はいい?よーい……スタート!」

     *─Track─*

    *Pamp
    「あははは!楽しいなぁ、楽しいなぁ!」
    *Skid
    「Bell、なんだか変わった?なんだか明るくなった!」
    *BF
    「そうかな?それはきっと、私の恋人のお陰だよ」
    *Skid
    「恋人?Bell、好きな人できたの?」
    *GF
    「うん。ほら、そこの可愛くてカッコいい女の子……
     ……GF?どうしてそんな距離取ってるの?」
    *GF
    「いやーまーそのーぅ……写真写りの良いところ探し?」
    *BF
    「なぁに、それ」
    *GF
    「ダイジョーブダイジョーブ、私のことは放置してダイジョーブ。気にしないでモーマンタイ。オーケイ?」
    *BF
    「(とても楽しそうに)そう言いながら後ずさられると、なんだか気になっちゃうなぁ。かえって近付きたくなっちゃう。
     あ、そうだ。よかったら、次はGFがこの子達と遊ぶ?」
    *Pamp
    「いいの?やったー!遊んでみたーい!」
    *Skid
    「Bellの恋人さん、気になるー!」
    *GF
    (このゆるふわサディストが……!
     可愛いから許すけど!)

    【鈴の音がしてくる】

    *Skid
    「あ、準備出来たみたい」
    *BF
    「もう?……せっかく良いところだったのに」
    *BF
    (まあ、明日明後日があるからいっか)
    *GF
    「(明らかにホッとした顔)」
    *Pamp
    「おっかしーおっかし~♪キャンディーキャラメルビスケット~♪」
    *Skid
    「二人ともこっちだよー、はやくはやく!」
    *BF
    「うん。
     それじゃあ、行こっか」
    *GF
    「そうだね……」
    *GF
    (大丈夫かなぁ……なーんか嫌な予感がするなぁ……)

    【Skid達に連れられて行く二人。その先は洒落た大きめの部屋だった。
     中心には人数分の椅子が置かれたテーブルがあり、その一つに明らかに異形とおぼしき男が立っていた】

    *GF
    「(嫌な予感が当たったことに頭を抱えるGF)」
    *BF
    「お久しぶりです、Lemonさん」
    *Lemon Monster
    「久し振りだね、Mademoiselle。
     何度呼んでも来ないものだから、すっかり忘れられてしまったのかと思ったよ」
    *BF
    「それはごめんなさい。暫く忙しかったり外出禁止だったりして、なかなか外に出られなくて」
    *Lemon Monster
    「はは、気にすることはない。別に怒ってはいないからね。
     私が招待する度、貴女は欠席状をその都度出していた。今までの人生の中で来ようと来なかろうと返してくれたのは貴女ぐらいさ。
     そんな奇特な客人を嫌う訳がないだろう?」
    *BF
    「それなら良かったです」
    *Pamp
    「あのね、あのね!Bellったらすっごい変わったんだよ!とっても明るくなった!」
    *Skid
    「好きな人ができたんだって!それで変わったんだって!」
    *Lemon Monster
    「──ほう?それはまさか、君の後ろにいる子の事かな?」
    *BF
    「はい。彼女はGF。私の恋人です。とても可愛らしくてカッコいい、素敵な人なんですよ」
    *Lemon Monster
    「なるほど。まさか君に恋人なんて存在が出来るとは。
     やはり君は面白い存在だ」
    *BF
    「楽しんでいただけたようで何よりです。
     GF、彼はLemonさんだよ。
     ずっと昔からここに住んでる人喰いの魔物で、いつもお茶会を開いてるんだよ」
    *GF
    「(両手でTの字を作りながら)
     タイム、いろいろとタイム。ちょっと僕に話を整理させて」
    *BF
    「どうしたの?」
    *GF
    「どうしたもこうしたも!僕が可笑しいの?これ!
     怪物だよ?ねぇ、どう見たって怪物だよ!?そんな笑って紹介する人じゃないよ!?」
    *BF
    「そうかなぁ。Lemonさんはいいヒトだけど」
    *GF
    「My Blue、ちゃんと見て。
     あの人、怪物。あの子達、ゴースト」
    *BF
    「?そうだね?」
    *GF
    「普通のヒトは如何にも怖そうな人喰い怪物に礼儀正しく挨拶しないしゴーストの頭を撫でたりお菓子あげたりしないんだよ。分かる?」
    *BF
    「それを言ったら、GF達も悪魔だし、Dearestさんとか強面な方だと思うよ?」
    *GF
    「……そうだね……ソウダネー……」
    *Pamp
    「GFって悪魔なのー?Lemonさんとお揃いだねー」
    *GF
    「ひいっ、きゅ、急に近づかないで……!」
    *Skid
    「ちょっとPamp、怖がってるのに近付いちゃダメだよ。
     もっとLemonさんみたいに“エレガント”にいかなくちゃ」
    *GF
    (ゴーストにエレガントも何もあるの?
     というか、Lemonさんみたいに、て)

    【そろりと横を見るGF。
     そこには、気づかぬ内にすぐ近くまで来たLemonがいた】

    *GF
    「(魂が抜けたまま固まるGF)」
    *Lemon Monster
    「ふふ。流石は君の恋人だ。見ているだけで面白いな」
    *BF
    「そうですね。私も彼女の新しい一面が見れて嬉しいです」
    *GF
    (色々と言いたいけど嬉しそうなBF見てると言えない……!!)
    *Lemon Monster
    「そうだ、Belle。再会の祝いに、一つ私と遊戯をしないかい?」
    *BF
    「遊戯ですか?」
    *Lemon Monster
    「なに、簡単なものさ。
     君が勝ったら祝福を授ける。私が勝ったら君は今日のディナーとなる。分かりやすいだろう?」
    *BF
    「ああ、いつものですね。構いませんよ」
    *GF
    「待ってBF、ほんとに待って!!?僕を置いてかないで!
     というかそんな危険な遊びすんなー!?」

     *─Track -─*

    *Lemon Monster
    「素晴らしい!久しぶりに君の歌声を聴いたが、よりいっそう抑揚と艶が増したね。さながら熟成させたワインのようだ。
     やはり出会いと言うのは人を変えさせるな。少しの間見なかっただけで、こんなにも変わるものとは。
     最早君はMademoiselleなどと子供扱いするべきではない……
     Frau……Madam……いや、さしずめLady Belleと呼ぶべきか」
    *BF
    「お誉めにあずかり光栄です、Lemonさん」
    *GF
    「(とても気が気でない表情)」
    *Lemon Monster
    「だが……
     また時が経てば、君はどんどん老いていくのだろうね。
     その可愛らしい顔にも皺が出来、髪は白み、声も出なくなっていく……。それはとても勿体無い。
     やはり、ここで君を永遠に眠らせるべきではないかね?」
    *GF
    「ちょ、ちょっと!?何言ってくれてんだこの魔物!?
     ねぇBell、もう帰ろう!あいつ君を殺す気だよ!?」
    *BF
    「……。心配してくださってありがとうございます、Lemonさん。
     でも、その心配はご無用です。私は、もっとより良く変わっていくつもりですから」
    *Lemon Monster
    「ほう?随分と自信ありげだね」
    *BF
    「当然です。だって、今がそうなんですから。
     GFと出会って私は変われた。これからもそうでしょう。
     彼女と一緒であれば、私は何処にだって行ける。勿論老いも含めてね。
     だから何も心配はいりません。愛する人と老いるのも一興ですし、あまり悪いものでもないですよ」
    *Lemon Monster
    「なるほど……ならば、そこの者が隣にいる限りは見守ろうか。
     最も、老いで破滅した人間を私は腐るほど知っている。君がその一員になろうとするなら、そこで時を止めてしまうのも一つの手だと、私は思っているぞ。
     これでも私は結構君に入れ込んでいるからね。あまり失望させないでくれたまえ」
    *BF
    「肝に命じておきます」
    *GF
    (ひ、ひやひやする……!)
    *Lemon Monster
    「そして、そこの少女」
    *GF
    「ひぇ、え?わ、私?」

    【ずい、とLemonが顔を近付けてくる】

    *Lemon Monster
    「君が彼女を変えた張本人で間違いないかね?」
    *GF
    「(目をそらしながら)あー、うん、はい。そうじゃ、ないかなー?」
    *Lemon Monster
    「はは、そんな恐れずとも良い。今のところは特に危害を加えようとは思ってないからね」
    *GF
    (この怪物今のところって言った!)
    *Lemon Monster
    「彼女……Lady Belleは、ああ見えて大雑把で細かいところを気にしない部分がある。周りがしっかりと見ているのが大事だ。
     その点、君は大丈夫そうだね。怪物の危険性をよく分かっている」
    *GF
    (しかも、自分が怪物でBFを傷つけようとしてる自覚あるのかよ……!
     怖いなー、霊媒体質の先輩といいこの怪物といい、BFの周り怖いなー!)
    *Lemon Monster
    「君なら彼女を任せてもいいかもしれない。
     これからもLady Belleを宜しく頼むよ、可愛らしい恋人さん」
    *GF
    「Pi (泡を吹いて倒れる)」
    *BF
    「……GF?おーい、GFー?」
    *Lemon Monster
    「おやおや。気絶してしまったようだね。
     少し一休みといこう。そこのソファーを使いなさい」

    【そう言ってLemonが指し示したソファーは鮮やかな赤で汚れていた】

    *BF
    「いいえ、私が背負っておきます。
     これでも体力に自信がありますので」
    *Lemon Monster
    「そうか。無理はしないように」
    *BF
    「はい。あと、お食事中失礼してすみませんでした」
    *Lemon Monster
    「気にすることはない。どちらにせよ、今日のモノはあまり良くなかった。酷く耳障りだったしな。
     口直し──というのは些か失礼か。とにもかくにも、君とのお茶会以上に優先すべき物はないからね」
    *BF
    「そうでしたか。それはありがとうございます」
    *Lemon Monster
    「……それにしても、まさか悪魔の娘と恋仲になるとは。君はとても運がいい。
     彼らはそう簡単に馴れ合いはしないし、彼らによって破滅した者も少なくない。まあ、その殆どが欲に溺れた末の自業自得だがね。
     私も悪魔は一度も喰べた事がない。一体どのような味がするのか……」
    *BF
    「Lemonさん」
    *Lemon Monster
    「……」
    *BF
    「(無表情)」
    *Lemon Monster
    「……」
    *BF
    「(無表情)」
    *Lemon Monster
    「……。
     ……はは!冗談さ。
     そんな今にも教会の者を呼びそうな顔をしないでくれたまえ」
    *BF
    「ならいいです。
     ……えっと、GFが気絶しちゃったので、帰ってもいいですか?折角お茶会の準備をしてくれてすみませんが……」
    *Lemon Monster
    「(少し驚いた顔)」
    *BF
    「……やっぱり、ダメですか?」
    *Lemon Monster
    「いや、構わないさ。君が言うならちゃんと理由があるのだろうし。ただ……
     ……本当に、随分と変わったな。Lady Belle」
    *BF
    「そうですか?」
    *Lemon Monster
    「そうだとも。
     嘗ての君は空虚な子だった。そこいらのゴースト達が中に入りたがる程の、完璧な器でしかなかった。
     確かに改善の兆しは数年前からあったが……そこまで強い自我は持っていなかった。
     今まで一度も退出したいと申し出る事など無かっただろう。それも恋仲のお陰か」
    *BF
    「そうなのでしょうか。私は、前と変わらないように生きていると思うのですが。
     ……ああでも、“普通”を演じることは、無くなったと思います。
     それでも良いんだって、“普通”じゃなくたって嫌いはしないって、皆が言ってくれたから」
    *Lemon Monster
    「ああなるほど。それは確かに変わるものだ。君はもはや入れ物である必要がなくなったのだからね。
     それにしても、君が他人のために変わるなど、思ってもみなかったが。よほどそこの恋人が大切らしい」
    *BF
    「ええ、彼女は私の星ですから。
     いつでも見守ってくれて、私が迷っても導いてくれる、大切な人です。
     私は彼女を愛しています──彼女の為なら、死んだっていいくらい」
    *Lemon Monster
    「……」
    *BF
    「っと、ごめんなさい、長居してしまって。
     それでは、失礼します」
    *Lemon Monster
    「ああ。ゆっくり休むといい」

    【扉が閉まる】

    *Lemon Monster
    「(紅茶を一口飲む)」
    *Skid
    「ケーキ切ったよー!……って、あれ?Bellはー?」
    *Lemon Monster
    「ああ、彼女達は帰っていったよ。もう一人が倒れてしまったからね」
    *Pamp
    「えー、せっかくのお茶会だったのにー」
    *Skid
    「こらっ。そーゆー事言うもんじゃないよPamp。
     それほど恋人さんが大切ってことなんだから」
    *Pamp
    「大切ー?大切って、なにー?」
    *Lemon Monster
    「いつか君達にも分かるようになるさ。
     さ、お茶会を始めよう。彼女達はいないが、せっかく贈り物を貰ったのだからね」
    *Skid & Pamp
    「「はーい!」」



    ○Week3

    【それから一週間後
     BFが住むマンションの屋上にて】

    *GF
    「エラい目にあった……」
    *BF
    「えへへー、楽しかったね、遊園地」
    *GF
    「その殆どがお化け屋敷だのビックリドッキリハウスだのに費やされたんだよなぁ……」
    *BF
    「怯えるGF可愛かったよ」
    *GF
    「笑顔で言う台詞じゃないのよ……」
    *GF
    (まあ、途中で休憩とか可愛いのとか挟んだりしたから、気絶だけはしなくて済んだけど)
    *BF
    「でも、怯えながらも私を庇ったり先導したりするGFもカッコ良かったよ。
     Lemonさんに会わせて良かった」
    *GF
    「そこはほら、ちゃんと彼女守んないと男が廃るってもんだし……というか、あの魔物の話はヤメテ。頼むから」
    *BF
    「そう?……嫌いになっちゃった?」
    *GF
    「嫌いになったというか、前提がおかしいというか……。あの魔物、色々と変だからね?
     BFは気付いてないだろうけど、普通に血の匂いしてたからね?どっかで人間バリムシャした帰りだからね?」
    *BF
    「そうだね」
    *GF
    「そ……分かってたの!?」
    *BF
    「うん。だってLemonさんは人が主食だから。
     やっぱ食事の最中にお邪魔するのは失敗だったかな……」
    *GF
    「(無言で顔を覆って天を仰ぐ)
     類は友を呼ぶって本当なんだな……」
    *BF
    「GF?どうしたの?」
    *GF
    「なんでもないです……
     兎に角、あの魔物は変わり者だよ。
     ああいう風にもてなしてくれるの、BF限定だって。絶対」
    *GF
    (それも、一番最初はそれこそ喰う為に誘ったに違いないし)
    *BF
    「そっか。……私限定なんだ。
     次会うときは何かお礼の品持ってかないと。お菓子……は先週贈ったし、何にしよう」
    *GF
    「んんんん律儀なのは良いことだけど違うそうじゃない」
    *BF
    「?」
    *GF
    「あー……
     ……あとでパパにおすすめの酒聞いてみるか」
    *BF
    「お酒?Lemonさんに?」
    *GF
    「ええ。彼、アルコールは大丈夫なのかしら」
    *BF
    「ワイン飲んでるから大丈夫だと思うよ。
     でも……それくらい、私が買うのに。私が招待されたんだから……」
    *GF
    「まぁまぁそう言わないで。
     私のせいでお茶会中断しちゃったんでしょ?なら謝りにいくべきは私だわ。
     その代わり、これからあの人達の元に行くときは必ず私も連れていってね」
    *BF
    「……GF、お化けは苦手なんでしょ?無理はしなくていいんだよ?」
    *GF
    「大丈夫だよ。それよりBFの方が心配だし」
    *GF
    (悪魔はまだ律儀だから良いけれど、これが天使や妖精だったら目も当てられなくなっちゃうわ。
     絶対にBFを一人にしちゃいけない……!)
    *BF
    「んー……?まあ、それでGFが安心するなら、いっか」
    *GF
    「よし、それで決まり。
     はーぁ、それにしてもここ、本当に夜景が綺麗ね。ママが選んだだけはあるわ」
    *BF
    「うん。とても綺麗でいいところだよ」
    *GF
    「ちょっと電車が近いのがたまに傷だけど……でも、貴女がストレスなく過ごせてるようなら良かったわ。
     どう?パパラッチとかは消えた?」
    *BF
    「分かんない。ただ、意識はしなくなってきたよ。
     ボディーガードさん達がずっと守ってくれるから」
    *gf
    「そっか。
     前にもお父さんが言ってたけど、何かあったらすぐに伝えてね。
     アイツらプライバシーってもん頭にないから。すーぐ不法侵入とかしだすんだもの」
    *BF
    「分かってるよ。
     それにしても、変な人たち。私の部屋に侵入したって、何もないのに」
    *GF
    「何もなくても貴女の心が削れるのよ。
     それは嫌だからさ。遠慮しないで、私達を頼ってね」
    *BF
    「ふふ、ありがとうGF。大好きだよ」
    *GF
    「ああ、私も──
     (眉を顰めて向こうを見る)……」
    *BF
    「GF?」
    *GF
    「……いや。
     出歯亀とは随分な趣味を持ってるな。そこのヤツ」
    *BF
    「……そこに、誰かいるの?」
    *GF
    「ああ。ボディーガードを突破してくるなんて相当の手練れだろうけど……機会窺ってたのが仇になったな。
     そっから出てきたらどうだ。居るのは分かってるんだぞ」
    *???
    「……。
     (ため息)
     ただ始末すれば終わりだと思ったら──
     まさかアンタとまた会うなんてな、Bell」
    *BF
    「(目を見開いて)貴方、もしかして──Pico?」
    *GF
    「Pico?お知り合い?」
    *BF
    「うん。最初に言ったでしょ、恋人が昔居たって。彼だよ」
    *GF
    「ふぅん。で、その元カレさんが今更何の用さ?
     しかも銃なんて物騒なモノまで携えちゃって」
    *Pico
    「話が早いヤツは嫌いじゃねぇ。
     Girlfriend、オレはアンタを殺しに来た」
    *BF
    「(口元をおさえて)……!」
    *GF
    「へえ?随分直球だな?僕を殺して得する奴なんて、そうそう居ないだろうに。
     せいぜい同じモデル界隈の奴等か、父さんに恨みがある奴か……
     ……君の都合って線もあるね?」
    *Pico
    「ご託はいい。そこを動くなよ、他の任務が押してるんだ」
    *GF
    「やーだね!誰が言うこと聞くもんか。今すぐ警報鳴らして──
     ……って、ちょ、BF!」

    【BFがGFを庇うように前に出る】

    *Pico
    「……どけ、Bell。お前に用はない」
    *BF
    「いやだ」
    *Pico
    「今更話すことはねぇぞ」
    *BF
    「私はあるよ、いっぱい!
     ねえPico、どうしてあの時私を避けたの?追い掛けても追い掛けてもずっと逃げるばっかりで、最後には蒸発までしちゃって。
     私……心配したんだよ?どうして?私が嫌いになったの?」
    *Pico
    「そうだと言ったら?
     いいからそこを退け。お前の声は耳障りすぎる」
    *GF
    「おい、耳障りってなんだよ。
     仮にも元恋人だろ?そんな言い方ないだろ」
    *Pico
    「元だから、だ。あの時も、雛みたいにおいかけてくるアンタにどれ程苛立ったことか。
     いい加減うんざりなんだよ、アンタには」
    *BF
    「(悲しそうに目を伏せる)……Pico……」
    *GF
    「BF……」
    *GF
    (ショックを受けてるな、当然か。
     昔の恋人がろくに会話もしてくれない上に、今の恋人を殺しに来たんだから。
     仕方がない。ここは父さん達に任せて、僕達は退散した方が──)
    *BF
    「本当に、それだけなの?
     私のことも、自分のことも、全部どうでもよくて……
     ただGFを殺しに来ただけなの?」
    *Pico
    「何度も言わせるな」
    *BF
    「……そう」

    【BFは一度目を閉じ、黙する。
     次の瞬間、彼女はいつもの笑顔に戻っていた】

    *BF
    「じゃあいいや。
     警察呼んでちょうだいGF。私ちょっとこの人縛り上げるから」
    *GF
    「(虚をつかれた顔になって)────はっ?
     いや、えっ、はっ??」
    *BF
    「どうしたの?」
    *GF
    「いや、“どうしたの?”じゃないけど!?
     だ、大丈夫?BF。さっきまで泣きそうな顔だったのが嘘みたいに笑顔なんだけど??」
    *BF
    「?だって、この人はGFを殺そうとしてるんだよ?
     殺人犯は警察に任せるのが一番でしょ?」
    *GF
    「それはそうだけど……」
    *BF
    「だから、時間稼ぎは私に任せて、GFは警察を呼んで。
     大丈夫だよ。彼が私に勝てっこないのは、私が一番知ってるもの!」
    *GF
    「(絶句)」
    *Pico
    「ハッ。結局アンタはそういう女だよ、Bell。どれほど普通を装っても、その本性は隠しきれない。
     見ろよ、お前さんの恋人とやら、戸惑ってるぞ」
    *BF
    「どうでもいいね。殺人犯の言葉なんて、聞くに値しない」
    *Pico
    「そうかよ。
     ……そうかよ」
    *GF
    「(とても困惑した顔で)…………」

     *─Track─*

    *BF
    「ここまで一度も撃たないなんて。
     さっさと撃たないと捕まっちゃうよ?どうしたの?詰まジャムった?」
    *Pico
    「……。撃つに決まってんだろ。
     ただお前がどうしようもなく邪魔で鬱陶しいだけだ。
     さっきからソイツ庇いやがって、当たったら死ぬぞ?命が惜しくないのか?」
    *BF
    「別に。臆病者が撃つ弾なんて怖くないし」
    *Pico
    「誰が──」
    *GF
    「あー、ストップ。二人ともストーップ」

    【GFが手を叩き、二人の意識を自分に向ける。
     無防備に振り向いたBFが不思議そうに首を傾げた】

    *BF
    「GF、警察呼んでないの?
     もしかしてスマホ無くした?なら私が……」
    *GF
    「大丈夫。必要ないよ、BF。
     通報も何も要らない。いや、普通は通報して正解なんだけどね?」
    *Pico
    「どういうつもりだ。ソイツの豹変に臆したか?」
    *GF
    「まあうん、否定はしないさ。でも、それとは関係ない。
     君は彼女を撃てないし彼女に勝てない。ならこんなの不毛だろ?」
    *Pico
    「何を言って──」

    *GF
    「だって君、
     まだBFのこと、好きだろ」

    *Pico
    「(少し目を見開き、すぐに元の顰めっ面に戻る)
     !
     ……何を言い出すかと思えば、ふざけたことを」
    *GF
    「そこで動揺する時点で答えたも同然だね。
     大体、こうやってボーカル対決に付き合ってるのも可笑しいじゃんか。一応警備を潜り抜ける実力はあるんだろ?
     それなら僕の言葉に応えて姿現さないで、とっととその銃で撃ち殺せばいいじゃないか。
     なのにわざわざ会話しにくるなんて、自分からBFの土俵に上がってきたようにしか見えないね」
    *Pico
    「おい」
    *GF
    「元とはいえ恋人なら、彼女の実力だって知ってるだろうに。
     それなのに此方のバトルに乗って自分から負けに行くとか、君って実はマゾヒストだったりすんの?」
    *Pico
    「そのふざけた口を閉ざせ女狐……!」
    *GF
    「失礼だな、狐じゃなくて悪魔だよ」
    *Pico
    「言葉の綾だ!」
    *BF
    「えー……っとー……
     つまり、この人はGFを殺すつもりは無いってこと?」
    *GF
    「いや、殺意はあるとは思うよ、何せ依頼なんだし。ただ……
     その上で、わざと君に嫌われようとしてるんだ」
    *BF
    「嫌うも嫌わないも、私の大切な人を傷付けるなら、私にとってはどうでも良いけれど」
    *GF
    「……。そう簡単に切り替えられない人もいるのさ、Bell。
     “ずっと心配してた元カレが今カノを殺しに来ました”なんて、普通の人が耐えられる事実じゃない」
    *BF
    「(ぐるぐる目で)……よく、わかんない。私が傷付いてるってこと?」
    *GF
    「前から言ってるだろ、君は痛みに鈍すぎる。そんな君がこの状況に傷付いてないなんて、どうして言える?
     だからあいつはわざと嫌われようとしてるんだよ。相手は悪人だと認識すれば、少しは痛みが軽くなると思ってね」
    *BF
    「んー……
     ……
     ……ごめん、何も、分からないや。それがどうして私を傷付けない事になるのか、全然分かんない」
    *GF
    「そっか……エゴイズムは、君にはまだ早かったか」
    *BF
    「でも、私を思っての行動だってことは、何となく分かったよ。
     ありがとうね、Pico」
    *GF
    「んーだからってまたそういう風に唐突に切り替わられると僕も着いていけないなー?」

    【一拍おいてから、怒りを何とか抑えた表情のPicoが映る】

    *Pico
    「…………アンタら、好き勝手言いやがって──
     もういい。
     そこのバカもターゲットも、二人まとめてブッ飛ばしてやる!」

    【銃撃SE】

    *BF
    「あ、やっと撃ってきた」
    *GF
    「はっはっは、ここはもっと焦るべきだと思うよMy Bell!」
    *BF
    「だって撃たれても痛くないし、Lemonさんから貰った加護もあるから、焦らなくてもいいかなって。
     GF、これからどうするの?幾らでも盾になれるから、何でも言っていいよ!」
    *GF
    「もー!この子はほんっともー!!
     取り合えず一度取り押さえるよ。対話も何もそれから!
     あと君は後で説教ね!」

     *─Track─*

    【BFは持っていたマイクを投げた。Picoはそれを避けるが、避けた先で走って来たBFのドロップキックを直に食らう。
     一切の手加減のないそれに倒れた彼を、BFはマイクのコードで縛り上げた】

    *GF
    「BF、ストップストップ!
     首絞まってる!キマっちゃってるから!」
    *BF
    「でも、危険だよ?もう一丁持っているかもしれないし。一回意識落とした方がいいよ」
    *GF
    「わぁさっすがBF、隙がなくて真面目!でもちょっと待ってね!
     その前に私ちょっとお話したいなー!だから首だけ外してくれるとありがたいなー!」
    *BF
    「……大丈夫?」
    *GF
    「大丈夫大丈夫。何かあったらすぐに離れるよ。
     何ならそれ以外は縛ったまんまでいいから」
    *BF
    「なら……」
    *Pico
    「(首のコードが緩んで咳き込む)
     チッ……なんで殺さなかった。慈悲でも乞えってか?」
    *GF
    「いいえ、色々と聞きたい事があるだけよ。
     動機とか依頼人とか……彼女のこととか、色々とね」
    *Pico
    「素直に答えるって本気で思ってんのか?」
    *GF
    「思ってないわ。嘘つくかどうかはどうぞお好きに。
     その代わり、嘘だって分かったら、その都度貴方の目の前でBFとイチャツイてやるわ。
     ねーMy Bellー」
    *BF
    「?
     (とりあえずGFが抱きしめてほしそうなので抱きしめる)」
    *Pico
    「やる気あんのかお前ら……はぁ。
     いいよ、好きにしろ。警察なり何なり呼べよ」
    *GF
    「あら、随分と素直になるのね。もうちょっと生き汚いのかと思ったわ」
    *Pico
    「あのなぁ……オレだって自分の置かれてる身ぐらい分かる。
     そもそも、お前を標的にした時点でお前の父親が黙ってる訳ないだろ」
    *GF
    「まぁ、そうね。八つ裂きにぐらいはしそうだわ。
     でも、それが分かってたならどうして引き受けたのよ。死ぬじゃない貴方」
    *Pico
    「……どうせもう分かってんだろ」
    *GF
    「そうねぇ……例えば、依頼は二の次三の次で、実はBFにただ会いたかっただけとか?
     その割には随分と乱暴な態度だったけれどねぇ?なんでかしら、不思議だわ」
    *Pico
    「……お前、性格悪いって言われないか?」
    *GF
    「何の事だか。
     本当はまだ好きなんだけどハナから諦めてるとか、
     だったらせめて傷になって憎まれたいって破滅願望が出てるとか、
     でもそれで傷つくBFが見たいわけではないって頭が滅茶苦茶になってたとか」
    *Pico
    「おい、ちょっと」
    *GF
    「なにより、最期の最後にBFと会ってボーカル対決出来たら依頼失敗してもいっかって思うくらいベタ惚れな事とか、
     ぜーんぶあくまで私の憶測だから、貴方から言ってくれないと分からないのよね!」
    *Pico
    「~~~この悪魔が……!」
    *GF
    「元から悪魔よ。しかも否定しないのね」
    *Pico
    「誰が先に暴きやがったんだ、誰が!」
    *GF
    「私は憶測で言っただけよ。
     で、どうなの?貴方の口から言ってくれないと、BF判らないわよ?
     あ、それともここで一回嘘ついちゃう?じゃあ先ずは頬にキスでいいかしら」
    *Pico
    「……っ、~~~っ!!
     あーもう、分かったよ!
     全部そうだよ!なに、悪い!?」
    *GF
    「だってさBFー。よかったね」
    *BF
    「……Pico、死ぬつもりだったの?」
    *Pico
    「くそ、なんでこんな……
     ああそうだよ全部自分の身勝手だよ。あの事件の後アンタが傷付かないようにって勝手に離れた癖に、アンタが別の女と話してるのに嫉妬したんだよ。
     だから対象がアンタの恋人だって知った上で依頼受けたし、だけどアンタを捨てた自覚はあったし……
     それで、いっそのこと最初から無関心になってしまえばいいって思った。アンタは単純だから、敵だって認識すれば真っ先に自分なんてどうでも良いと思うだろうって。
     ……これでいい?動機説明するの、恥ずかしすぎるんだけど」
    *GF
    「それはBFが決めることよ。ね?」
    *BF
    「うーん……分かったような、分からないような……
     結局それって、やっぱり死のうとしてたって事だよね」
    *Pico
    「……話聞いてたか?いや、聞いた上で出した結論がそうなんだろうけど……」
    *BF
    「だってPico、私が貴方を忘れて、耐えられるの?」
    *Pico
    「……」
    *BF
    「私が可笑しいのは知ってるよ。親の顔だってもう思い出せないし、さっきだってもう貴方の事を全部捨てようと思ってた。
     そうやって私から声も名前も姿も全部忘れられて、Picoは耐えられる?
     どう考えてもDearestさん達に報復されて死ぬ未来しか見えない依頼を受けたのは、耐えられないからでしょ?」
    *Pico
    「……思い上がらないで。お前にオレの感情を決めつける権利はないだろ」
    *BF
    「でも事実でしょ。それに、相手を利用してる時点で同じだよ。
     貴方だって今、私の思考回路を自分のために利用したでしょ。
     えっと、なんだっけ……エゴイズム、だっけ?それと私が過去の貴方の振る舞いから推測するの、どっちが思い上がってるの?」
    *Pico
    「(目をそらす)
     ……仮に死ぬつもりだったって言ったら、どうするの」
    *BF
    「うん、そうだったら──止めてよかったなって。
     私、貴女に死んでほしくないんだ。まだまだこれからなんだし、果たしてない約束もあるし。だからそうならなくて良かった。
     勿論それはGFが止めてくれたお陰だけどね!どうもありがとう」
    *GF
    「どういたしまして。
     それで……貴方、いい加減諦めた方がいいわよ。どうやってもBFには勝てっこないんだから。
     分かるでしょう?惚れた弱味ってやつよ」
    *Pico
    「……少しは見栄張らせろよ」
    *BF
    「Picoはいつでもカッコいいし可愛いよ?
     さっきのだって銃の扱い凄くカッコよかった!私はああいう事出来ないから憧れるなぁ」
    *Pico
    「……………………。
     もういい
     なんかもう……やる気失せた。
     というか昔からそうだった……お前と一緒にいると色んな悩みがどうでも良くなる……
     なんで忘れてたんだ自分……」
    *GF
    「あれまぁ、完全に戦意喪失しちゃったわ。
     これじゃあ私を殺すなんて夢のまた夢ね」
    *BF
    「そうなの?じゃあ、これからどうするの?」
    *Pico
    「あ?どうもしねぇよ。どうせ捕まるんだろ……ほら、足音してきたし。
     ついでに言うなら、あいつら詐欺に引っ掛からねえよう注意しとけよ。偽メール数個で慌てすぎなんだよ」
    *GF
    「参考にさせてもらうわ。
     あと、貴方の処遇は私がどうこうするから、そんな死ぬ覚悟はしなくても大丈夫よ」
    *Pico
    「は?なんでアンタが決めるのさ?」
    *GF
    「それは勿論、貴方を利用させてもらうからよ。
     つまり──
     貴方、今の依頼捨てて、私の護衛にならない?」
    *Pico
    「……は?」



    ○Week4

    【それから一週間後
     何処かへ走るリムジンの中、BFは窓から身を乗り上げながら景色を眺めていた】

    *Henchmen
    「Ms.Boyfriend、どうかお座りください。それ以上は落ちてしまいます」
    *BF
    「ん……ああ、そっか。ごめんなさい。
     今日は風が強いってテレビで言ってたから、つい」

    【席に座るBF。風で少し荒れてしまった髪を弄っていると、おもむろにガードマンが櫛を差し出す】

    *BF
    「ありがとうございます」
    *Henchmen
    「お礼はいりませんとも。貴女はGirlfriend様の大切な友人でございますので。
     どうぞ、ごゆるりとおくつろぎください」
    *BF
    「ふふ、はい。お言葉に甘えて、ゆっくりさせて頂きますね」
    *GF
    「僕は絶賛課題中だけどな!」

    【視線がGFに向く。そこには課題を広げて睨めっこするGFがいた】

    *GF
    「(しわくちゃのピカチュウみたいになりながら)課題、つらい……宿題、しんどい……
     なんでこんな事しなきゃいけないの……なんで課題ってこんなにも苦行なの……」
    *BF
    「どう?宿題終わりそう?」
    *GF
    「(少しくまの出来た目で)あはははは先が見えねぇ」
    *BF
    「別に明日締め切りって訳じゃないんだし、一度詰まったらゆっくり休むのも手だと思うよ?」
    *GF
    「そうなんだけど、今のうちに出来るとこまでやりたいというか……」
    *BF
    「でも、それでストレス溜まったら元も子もないもの。
     無理はしないでね、GF」
    *GF
    「うう、恋人の笑顔が身に染みる……」
    *Henchmen
    「Ms.Boyfriend、お茶の用意が出来ました」
    *Henchmen
    「Ms.Girlfriendも一度お休みになられては?もうかれこれ数十分近く課題と向き合っておりますぞ?」
    *Henchmen
    「目的地に着くにはあと十分ほどかかります。一度休んで酔い醒ましを飲まれては……」
    *GF
    「うーん……ちょっと待って。少なくともこの大問だけでも済ませたいや」
    *Henchmen
    「ですが、」
    *GF
    「終わったらすぐに休むよ。それまで待って。
     BFもそっちでお茶飲んだら?父さん厳選の高級品だよ」
    *BF
    「わかったよ。でも、無理して酔わないようにね。じゃあ、皆あっちに行こ。
     Picoもほら!マカロンとかあるよー」
    *Pico
    「(リムジンの隅っこでゲンドウポーズしているPico)
     ……なんで自分、リムジンに乗せられてるの?」
    *BF
    「何故もなんも、護衛でしょ」
    *Pico
    「それは保留中って話だろ。
     あの女の父親……Dearest氏、だったか?猛反対だったじゃないか」
    *BF
    「まぁ、GFの命を狙ってたんだもの。しょうがないよね」
    *Pico
    「そうだなしょうがないなそれなのにどうして自分はアンタらと一緒にいるんだよ!」
    *BF
    「(滅茶苦茶笑顔で)私が呼んだから!」
    *Pico
    その笑顔腹立つdamn it……!
     あのな、オレはアンタらを傷付けようとしたんだぞ?なんでそんな安々と近付けるんだよ。また撃つかもしれないぞ?」
    *BF
    「?もうGFを撃つ気はないんでしょ?」
    *Pico
    「それは……そうだけど」
    *BF
    「じゃあ問題ないよ。それに、私自身貴方と話したいし。
     この三年間勝手に消えてた分、いっぱい付き合ってもらうんだから」
    *Pico
    「(深いため息)
     そういうところだぞ、お前……」
    *BF
    「それでなくても、私はPicoに感謝してるんだよ。
     この一週間も今日も明日からもそのお返しを兼ねてるんだから。受け取ってよ」
    *Pico
    「感謝って……そう言われるような事なんて──」
    *BF
    「してる。してくれたんだよ、Picoは。
     昔、丸刈りにされた私を笑わなかったのはPicoだけだった。貴方だけが酷いと怒ってくれて、帽子まで貸してくれた。
     貴方がそうしてくれたお陰で、今の私がいるの」
    *Pico
    「……何を大袈裟に。
     あの時の自分は、ただ当たり前のことをしただけで……」
    *BF
    「その当たり前をしてくれる人が今までいなかったんだよ。皆、私を気味悪がってたから。
     Lemonさんは、仲が良かったけど人間じゃないし。
     貴女がいなかったらきっと、私は最後まで私自身の事も分からなかった。何をしたいのか、何がしたくないのか、それすらも判らずに自傷行為ばっかり繰り返してた。
     ありがとうPico、私と出会ってくれて。だから私は、貴女に沢山のものを返したいの」
    *Pico
    「(呆れるようにそっぽを向く)
     ……ほんっとアンタは……わがまま娘なくせして、どうしてこういう時に限ってそう……」
    *BF
    「?」
    *Pico
    「何でもない」
    *GF
    「ちょっと、二人で話してて狡いわよ。
     私も入れてー?」
    *BF
    「いいけど、課題は終わったの?」
    *GF
    「終わった終わった。分かんないとこすっ飛ばしたけど」
    *BF
    「分かんないなら聞いてって言ったんじゃん。幾らでも教えるのに。
     あ、私よりPicoの方がいいかも。Picoね、私よりずっと頭がいいんだよ。
     高校の時はそれで学級委員長までやってたんだから!」
    *GF
    「へー、そうなの?
     そんな優等生がヒットマンやってるとか、何があったのよ貴方」
    *Pico
    「……色々とあったんだよ。
     それよりお前ら座れ。茶が冷めるぞ。ミルクと砂糖はいるか?」
    *GF
    「あら、ありがとう。それじゃあ両方一つずつ貰おうかしら」
    *Pico
    「BFは……レモン二枚砂糖なしでよかったか?」
    *BF
    「うん、それでいいよ。ありがとうPico」
    *Pico
    「ちゃんと冷ましてから飲めよ。お前すぐ火傷するんだから」
    *GF
    「(じっとPicoを見つめるGF)」
    *Pico
    「なんだよ」
    *GF
    「いいえ。
     何となく貴方とBFが仲良くなった理由が分かった気がしただけよ」
    *Pico
    「……?」

    【舞台が大きな更衣室へ変わる。
     そこには既にMammy Mearestが待機していた】

    *Mammy Mearest / Mrs.Mearest
    「ようこそ、いろはのいも分からぬ石コロ達。
     Daddyから話は聞いているわ──この一ヶ月間、貴女達がどれほど経験と知識を積んで来たか、ここで試させてもらうわよ」
    *BF
    「こんにちは、Mearestさん。今日も宜しくお願い致します」
    *Mrs.Mearest
    「うふふ。礼儀正しい子は嫌いじゃないわ。
     でも、時にはフレンドリーになることも重要──なにせ貴女と私は昨日今日の間柄ではないのだから。
     誰かと仲が良いことをアピールするのは、コネを作る機会としても邪な奴ら虫どもへの牽制としても良いツールなのよ」
    *BF
    「参考にさせていただきます」
    *Pico
    「Mearest……?って、あのスーパーモデルの?」
    *GF
    「そ。そんでもって私のママ。
     BFがファッションに疎いの知ったら随分と構い倒しちゃって。彼女も結構なついてるのよねー」
    *Pico
    「……噂じゃ他人とは馴れ合わないって話だった気がするけれど」
    *GF
    「それパパのせい。パパ、愛妻家だけど嫉妬深いから。
     ママに近づく輩を片端から千切っては投げ千切っては投げしてるのよ。
     そういや、BFも初対面の時はそれで疑われてたなぁ。すぐにママが否定したから何ともなかったけど」
    *Pico
    「(眉間を押さえて)……ロックスターにスーパーモデルって、あいつ、いつの間にそんな大御所と出会ったんだ……」
    *GF
    「貴方、裁判の件知らないの?結構報道もされていたってのに」
    *Pico
    「知ってるけれど、ここまでの仲だとは思わなかったんだよ」
    *GF
    「ふーん」
    *Mrs.Mearest
    「……あら」

    【唐突にMammyがPicoに近付き、顎を掴んでまじまじと見詰める】

    *Pico
    「?、??」
    *Mrs.Mearest
    「……ふむ。なるほど。
     ──お前たち!」
    *Henchmen
    「へい、なんでございやしょう」
    *Mrs.Mearest
    「この小動物をシャワールームへ連れていきな!」
    *Henchmen
    「わかりやした!」
    *Pico
    「は、ちょっと!?なんで担ぎ上げるんだよ、離せ!
     というかなんでオレ!?初対面ですよね!?」
    *Mrs.Mearest
    「私はね……妥協は絶対にしない主義なのよ。例えそれが娘の護衛であろうとね。
     美しさとはまず自信と余裕から!その荒みきった内側を隅々まで洗い流してくれるわ!」
    *Pico
    (キャラが濃い……!!)
    *GF
    「あれはエステフルコースね。さすがママ、判断が早いわ」
    *BF
    「私の時も同じことしてもらったなぁ」
    *Pico
    「呑気に笑ってないで止めてよ!?」
    *GF
    「だいじょーぶだいじょぶ。悪いようにはならないわ」
    *BF
    「(手を振りながら)またねー」
    *Pico
    「この能天気ども……!
     つかまさか、最初からこのつも」

    【扉が閉まる音
     ついでにPicoの悲鳴もシャットアウトされる】

    *Mrs.Mearest
    「……さて。
     Xデーは一週間後。その為にも準備はかかせないわ。
     スキンに化粧、ファッションに小道具……そして何より、貴女の歌声のコンディション。
     最後の詰めの準備は宜しいかしら?Kitty Bell」
    *BF
    「はい。ご指導のほど、よろしくお願いします」
    *GF
    「じゃ、私は服一式持ってくるね~。
     皆も手伝って。色々試したいのがあるし」
    *Henchmen
    「わかりやした、お嬢!」

     *─Track─*

    *Mrs.Mearest
    「実にエレガント──よりいっそう、貴女の歌声に花園のような豊かさが溢れたわ。
     先週とは少し違うわね。また新たな出逢いがあったのかしら」
    *BF
    「出逢い……?ああ、Picoの事でしょうか。
     ずっと心配だった人と再会できたので、安心してるのかもしれません」
    *Mrs.Mearest
    「まあ。もしかして、さっきの小動物のことかしら?
     予め電話は受けていたけれど、随分と難儀そうな子だったわねぇ。心と体が致命的にズレていたわ。
     まるで私達の可愛い娘──貴女に出会う前のGFみたいだったわね。いえ、それよりももっと事態は深刻かしら」
    *BF
    「……やっぱり、路地裏で暮らしてたのかな。家には帰ってなかったみたいだし……」
    *Mrs.Mearest
    「何はともあれ、新たな出会いが貴女に新たな刺激を与えたというのなら、それは喜ばしい事。その調子で己の腕を磨いていきなさい。
     でも磨き過ぎてもダメ。過度な磨耗は亀裂、そして自壊の原因になりかねない。
     適度に、適切に。沢山の人からアドバイスを貰いながら慎重に磨きなさい。貴女にはそれが最も重要よ」
    *BF
    「はい。肝に命じます、Mearestさん」

    【扉を開ける音】

    *GF
    「戻ってきたよー。
     どう?上手く行ってる?」
    *Mrs.Mearest
    「おかえりなさい、GF。
     そうね、この調子なら、来週も大丈夫でしょう。
     後は服を決めるくらいかしら」
    *GF
    「ふふん。まっかせて!この日の為にいっぱい用意してきたんだから!
     前言ってたストリートファッションのヤツだって厳選して来たんだよ」
    *BF
    「(分かりやすく目をキラキラとさせて)本当?ありがとう、GF!」
    *GF
    「どーいたしまして。ささ、こっち来て着てみて」
    *BF
    「うん。Mearestさん、失礼します」
    *Mrs.Mearest
    「ええ。着せ替えに夢中にならないようになさいね」

    【~数時間後~】

    *Henchmen
    「Mrs.Mearest。さっきの者の準備が出来やした」
    *GF & BF
    「(パッと一斉に顔をあげる)」
    *Mrs.Mearest
    「丁度いいわね。通しなさい」

    【Henchmenたちに連れられてPicoが出てくる。髪をおろして服も中性的なものに変えた姿に二人が呆気にとられていると、Picoは気まずそうに目をそらした】

    *Pico
    「…………あー」
    *BF
    「可愛い!」
    *Pico
    「!?」
    *BF
    「とっても可愛くて素敵だよ、Pico!
     ありがとうございますMearestさん。まさかここまで変わるだなんて思ってもみなかった!」
    *Mrs.Mearest
    「お礼は不要よ。その子は貴女の知人である前に、娘の護衛なのだから。
     当然のことをしたまでよ」
    *Pico
    「だからその話はまだ保留だって、」
    *GF
    「良いじゃない、ママが認めたんだから公認も同然よ」
    *Pico
    「お前はそのアバウトすぎる判定をどうにかしろ……」
    *GF
    「まぁまぁ。で、どうだった?
     推定初体験なエステフルコースは?」
    *Pico
    「……居心地が悪い。居たたまれない。正直逃げたい」
    *GF
    「あら、残念。
     ママ厳選の店なんだから、腕が悪いはずがないのに」
    *Pico
    「(目元に影の入った複雑そうな顔)……。
     お前らは馴れてるから分からねぇんだろうけど、こちとらずっと血にまみれて生きてきたんだよ」
    *GF
    「でしょうね。でも、それで納得はさせられないわ。
     何たって、BFが直々にお願いしたんだから」
    *Pico
    「Bellが?なんで……」
    *BF
    「Pico、こっち来てー。写真とらせてー!」
    *Pico
    「アンタは……はしゃぎ過ぎだっての。髪崩れるぞ」
    *BF
    「(膨れっ面で)えー」
    *Pico
    「えーじゃない。ちっとは落ち着け。
     何たってそんな忙しないんだよ、今日のアンタは」
    *BF
    「だってやっと三年前の約束果たせるんだもの!はしゃぐって!」
    *Pico
    「……は?三年前?
     アンタまさか、あの時の話、覚えてるの?」
    *BF
    「?覚えてるよ?当然じゃない。
     約束だもの、ちゃんと守るし果たすよ」
    *Pico
    「でも、あれは殆ど冗談みたいので──」
    *BF
    「冗談でも約束は約束でしょ。あ、それとも、覚えてないって思ってた?
     ならお生憎様、ちゃーんと一字一句覚えてるんだから。
     『もし私達が自由になってもっと大人になったら、お互いの本当に好きな格好でデートしよう』ってね」
    *Pico
    「(絶句)」
    *Mrs.Mearest
    「(GFとキャーキャーしながら)
     まあ、デートですって。なんて熱烈なの!」
    *GF
    「しかも三年間も覚えてたなんて!
     これはしっかりとデートしないと人柄が廃るってもんよPico!私たちなんて構わず行ってきなさいよ!」
    *Pico
    「いやお前恋人だろ。現抜かされていいのかよ!?」
    *GF
    「ふふん。約束を果たさせてこそ真の恋人というものよ。
     この程度で私の心は乱れないわ、お馬鹿さん」
    *BF
    「(GFを見て我に返って)あ……
     ご、ごめんなさいGF!目の前でこんなはしゃいじゃって……面白く、ないよね」
    *GF
    「だいじょーぶよ。寧ろ、そこまでBFが感情顕にする人間なんて、私も気になって仕方がないわ。
     だからもっとイチャイチャして?貴方、Pico相手だとけっこう地が出るみたいだし」
    *GF
    「……本当にありがとう、GF。
     埋め合わせは明日の昼でいいかな」
    *GF
    「うーん、性格に反して律儀に拘り過ぎなのも考え物ね……
     それで貴方の気が楽になるならいいけれど」
    *Pico
    「いやいやいや……本当にそれでいいのかよ……」
    *GF
    「まーね、実のところ、私も色々あってね。人食い悪魔とか、それはもう色々と。
     だから、なんかもう、Bellが笑顔なら良いかなって!」
    *Pico
    (それって要するに思考放棄じゃねぇか……!)
    *GF
    「まぁまぁ。とりあえず、今は目の前の恋人に集中なさい。
     あ、私達、部屋から出た方がいい?」
    *Pico
    「(突っ込みに疲れきった顔)もう好きにしろ……
     …………
     ……Bell」
    *BF
    「なぁに」
    *Pico
    「結局アンタは、自分とどうしたいの」
    *BF
    「一緒にいたいの」
    *Pico
    「……人殺しでも?」
    *BF
    「人殺しでも」
    *Pico
    「昔みたいにはなれないよ」
    *BF
    「構わないって。第一、それを言ったら私なんて貴女以上に変わったみたいだよ?
     優等生が殺人犯になるくらい、貴女以外でも聞く話だしね。人形が人間になる方が珍しいんじゃないのかな。
     私は貴女が何者になっていても構わないの。私はただ貴女と一緒にいたい。
     だって──うん。やっぱり、私、まだ貴方の事が好きなんだもの。
     大切にしたいし、色んな話がしたいし、デートしたいし、もっとハグもキスしたりしたいし、それに」
    *Pico
    「ああもう分かった!解ったから!それ以上言わなくても判った!
     ほんっと、何処で習ったんだよそんな口説き文句……!」
    *BF
    「(拗ね顔で)ありのままを言っただけだよ。
     Pico、私は貴方のことが好きだよ。人として、性として、私個人として貴方を愛しているの。
     気取った言葉も一般的な生活もあげられないけれど、それでも貴方と幸せになりたいという気持ちに偽りはない。
     どうか、この気持ちを受け取ってもらえないかな」
    *Pico
    「(片手で顔をおおう)
     (そのまま天を仰ぐ)
     ……アタシ、服は緑より青の方が好き。
     それと……今日デートは急すぎる。他の日にしましょう」
    *BF
    「……!うん、良いよ!
     でも、今週と来週は忙しいから……さ来週でも良い?
     一緒にいろいろな所回ろ!行きたい所とか行きたくない場所とかあったら、遠慮なく言ってね」
    *Pico
    「……まぁ、うん。期待しないで待ってるわ」
    *BF
    「そこは期待してるって言ってよー」

    *GF
    「……予想以上にベタ惚れでびっくりした。
    *GF
    (いや、違うか。
     あれは単純に、オブラートに包むってのを知らないだけなんだ)
    *GF
    「(ちょっとだけ眩しいモノを見る眼差しになるGF)……」
    *Mrs.Mearest
    「──さて。話も一件落着したところで。
     次のステップへ行きましょうか」
    *Pico
    「ステップ?
     これ以上何かする事なんて──」
    *Mrs.Mearest
    「あらあら、可愛い子……。まさか、この、常に最先端を行くファッショニスタが、容姿を整えただけで満足すると思って?」
    *Pico
    「整えただけって……あの、嫌な予感がするんだが……BF?」
    *BF
    「(分かりやすい笑顔)」
    *Pico
    「な、なんでマイクスタンド押し付けてくるんだよ。
     まさか……」
    *Mrs.Mearest
    「さぁ、貴方もマイクを取りなさい。
     そして歌い、叫び、ありのままをさらけ出すのよ──貴方の全てを!」
    *Pico
    「ああやっぱり、これオレが相手する流れだ!」
    *BF
    「頑張れPicoー」
    *Pico
    「いや本来ここにいるべきはお前だろ!」
    *GF
    「ダメよ。BFは今着疲れで休憩中なんだから。
     これ以上無理させたら絶対どこかで倒れるわ」
    *BF
    「だってさ。応援してるよ」
    *Pico
    「地獄か……!?」

     *─Track─*

    *BF
    「(二人のボーカル対決に合わせて鼻唄を歌っている)」
    *GF
    「楽しそうねぇBF。……ちょっとジェラシー感じちゃうわ」
    *BF
    「?どうして?」
    *GF
    「だって、今までの中で一番はしゃいでるじゃん。
     やっぱり、前の恋人なだけに特別な感情でもあるの?」
    *BF
    「……どうだろう。特別だとは思うよ。もしかしたら、GFに抱いてるのと、同じかもしれない。
     Picoは、私の恩人で大切な人で……まるで一等星シリウスみたいな人だから。
     ずっと私を導いてくれたの。何が正しいのか分からなかった時に、いつも正解を教えてくれた。
     だから、その分、いろいろとお返ししたいなって思ったんだ」
    *GF
    「あら、随分と詩的な表現をするのね。
     なら逆に、私は星に例えたら何になるの?」
    *BF
    「うーん……──北極星ポラリス、かな。
     だって、ずっと私を見守ってくれるでしょう?私がどれだけ迷子になっても、ずっと側にいてくれる。それがとても嬉しくて、優しくて、安心できるんだ。
     いつもありがとうGF。貴女がいるから私はここまでこれた。これからも宜しくね」
    *GF
    「(赤面しながら)わ、わざわざそこまで言わなくても……」
    *BF
    「?Picoに嫉妬したんじゃなかった?じゃあ、同じくらいGFにも返さないとダメでしょ。
     それに照れてるGFも可愛いし。ずっと見てたくなるから、どうしてもいっぱい言っちゃうな。
     ……だめ?」
    *GF
    「(耳まで真っ赤に)ほんとさー……BFさー……そういうとこなんだよー……」
    *BF
    「?」
    *GF
    「なんでもなーい。
     ……。
     ……じゃあさ、
     私とPico、どっちの方が好き?」
    *BF
    「……どっちが好きって、何が?」
    *GF
    「何がってそりゃあ、どっちが優先的に好きなの?って」
    *BF
    「(全く言葉を理解できてない顔で)優先的に、好き……??」
    *GF
    「……やっぱりそういう反応になるのか……。
     薄々感付いてたけど……BF、恋人は二人いても問題ないって思ってるでしょ」
    *BF
    「…………???
     二人を愛してるなら二人を恋人にするべきじゃないの?」
    *GF
    「おっとぉ……
     (困惑しているが察した顔で)…………
     ……それが君にとっての誠実さなら、良いと思うよ」
    *BF
    「……貴方がそう言うってことは、普通じゃないのかな。
     恋人は、一人であるべき?」
    *GF
    「まぁ、そうだね。世間じゃ浮気とか不倫とか言われちゃうね。
     例えどれほど好きな人が沢山いても、一人を選んで一途に愛する。それがまぁ、現代の“普通の恋愛”ってヤツだよ」
    *BF
    「(どこか寂しそうな顔で)それは……やだよ、そんなの。贅沢すぎるよ。
     感情をくれる人はいっぱいいた方がいいし──その人達全員を私は愛したいもの。
     私に返せるものなんて、それくらいだから」
    *GF
    「BF……」
    *Mrs.Mearest
    「あら。それじゃあ、私達のこともとても愛してくれているのかしら?」
    *BF
    「Mearestさん。
     はい。MearestさんもDearestさんも、とても大好きです。
     ……あ、でも、その、やっぱり二人とはちょっと違うというか、その、
     (ぐるぐる目で)えーとえーと、私にとって二人は星みたいなもので、でも、Mearestさん達はそういうのじゃないというか、いつも側で暖めてくれる暖炉みたいというか」
    *Mrs.Mearest
    「うふふ、言い方がロマンチックで困っちゃうわねぇ。
     でもいいのよ、それで。愛に貴賤は無いけれど差異はあるものなのだから。
     ──ああ、貴女って本当に面白い子。
     素直で、誠実で、善良で、それなのに我が儘で悪辣で残酷。
     このご時世で、誠実であれば複数人を、ましてや犯罪者を愛そうが問題ないと本気で思っている……
     ええ、正に悪魔の恋人に相応しいわ。最も、Daddyはますます反対するでしょうがね」
    *GF
    「あー……目に浮かぶなぁ……
     ぜーったい、『やるならもっと巧妙にやれ!』とか『お前が思っているほど世間は寛容ではないぞ!』とか言ってくるよ。
     で、そこの踞ってる御仁は何か異論ないの?」
    *Pico
    「(とても小さい声で)いっそだれかおれをころせ」
    *BF
    「死んじゃダメだよ。今日はまだまだこれからなんだから」
    *Pico
    「……え?これ以上自分がすることあるの?」
    *BF
    「もっちろん!おめかししたらね、その次はお出掛けするの!
     カフェ行きましょ、カフェ!皆に見せて回るんだから!」
    *Pico
    「お前、そんな行動力のあるヤツだったか……?
     せめて少し休ませてくれ……この状態で人気のある所は無理だ……」
    *BF
    「うん、待つよ。ゆっくり休んでね」
    *GF
    「……。
     ……BF」
    *BF
    「どうしたの?GF」
    *GF
    「カフェってことは、いつもの喫茶店でいいのよね?」
    *BF
    「うん、そうだよ?」
    *GF
    「つまりそれは……
     また、パンケーキ論争を起こしたいってことね?」
    *BF
    「…………!
     (真剣な顔になって)……ふん。大人しくしていれば平穏でいられたのに。雉も鳴かずば撃たれまいって知ってる?」
    *GF
    「あら、私はそんなこそこそとするような姑息な手は取らないのよ。
     だってそんなの、自分から負けを認めているみたいじゃない?
     堂々と宣言してこその正義というものよ、これは」
    *BF
    「それで負けちゃったら世話ないね。
     当たって砕けろって言うけど、実際砕けちゃったら意味ないじゃんか」
    *Pico
    「何の話してるんだアンタら」
    *BF
    「何って、まさかPico……貴方……」
    *GF
    「パンケーキ戦争を、知らないっていうの……!?」
    *Pico
    「いやなんだよパンケーキ戦争って」
    *BF
    「(何処からともなく取り出した眼鏡をかけて)ふ……教えてあげる、Pico。パンケーキ戦争って言うのはね、昨今世界を二分しているある論争のことを言うんだよ。
     巷ではこの論争の影響でパンケーキが売り切れた店が続出したって話なんだ」
    *Pico
    「んな話聞いたことも見たことも無いんだが。
     で、どんな論争なんだよ」
    *GF
    「ふふ……聞いて驚きなさい。ズバリ──」
    *BF & GF
    「「パンケーキのトッピングは蜂蜜かメイプルか!」」
    *Pico
    「……
     …………は?」
    *BF
    「ぜーったい蜂蜜だよ!あの上品な甘さの中に微かにある苦みがいいの!
     それがふわっふわのパンケーキに染み込んで口いっぱいに蜂蜜の味が広がるのがいいのよ!」
    *GF
    「はん!王道こそ正道!蜂蜜なんてお高くとまってるだけで甘いのには変わらないでしょう!
     安価のメイプルの方がコスパ良くて家庭に優しいのよ!」
    *Pico
    「(眉間の皺を伸ばすPico)」
    *BF
    「ぐぬぬ……でも!メイプルなんて味がくどくて濃すぎるでしょ!甘すぎて途中で飽きちゃうもん!
     そうやってあます人達、いーっぱい見てきたもの!」
    *GF
    「わーかってないねこの甘ちゃんが!蜂蜜なんて人を選ぶモノよりもオーソドックスでハズレのないメイプルの方が良いに決まってるわ!
     お菓子も流行も、結局は万人受けするものが最終的には勝ち残るのよ!」
    *Pico
    (なんでこの二人、パンケーキでこんなに険悪になってるんだ……?)
    *BF
    「うぎぎ……」
    *BF & GF
    「「Picoはどっち!?」」
    *Pico
    「……あー……
     とりあえず、喧嘩するのは店では止めとけよ。他のお客さんの迷惑になるし」
    *BF
    「……Pico、話ちゃんと聞いてた?」
    *Pico
    「聞いてた聞いてた。BFは上品な甘みが好きな蜂蜜派で、GFは安価でお手頃なメイプル派って話だろ」
    *GF
    「予想以上に話聞いてたわね……。
     で、どっち?」
    *Pico
    「オレがどっちだろうが関係ないだろ……人の好みなんてそれぞれだし」
    *GF
    「それはそうだけど、乙女には決して妥協してはいけない矜恃というのが存在するのよ……!」
    *Pico
    「もっとマシな矜恃持て」
    *BF
    「それで、Picoは何が好きなの?
     蜂蜜?メイプル?ベリー?それとも生クリームと果物どっさり?」
    *Pico
    「それで自分がメイプルって言ったらどうするの」
    *BF
    「?何もしないよ?私とGFの戦いだもの。
     でも、出来るなら貴方の好きな物の店を選びたいなぁって思うな」
    *Pico
    「(ため息と共に)アンタって……」
    *BF
    「で、何が好きなの?」
    *Pico
    「……何も、正直、考えてもみなかった。
     腐ってなきゃなんでも食えるし」
    *GF
    「……腐ってなきゃ?
     貴方、腐ったモノを食べたことがあるの?」
    *Pico
    「路地裏で過ごしてたら幾らでもあるだろ。
     まあ、腐ってるというか、賞味期限切れの廃棄品というか……。
     別に、いいだろこれくらい。気にすんな」

    【ショックを受ける二人】

    *Pico
    「な、なんだ、二人とも?」
    *BF
    「GF」
    *GF
    「ええ分かってるわ。
     今からそこら辺のカフェテリアを総なめするわよ。
     いえ、寧ろファストフードファミレスバー本格レストラン全部制覇するつもりで行きましょう」
    *BF
    「大丈夫、お金は私が持つよ」
    *Pico
    「そこまでしなくても……」
    *BF
    「(膨れっ面で)私が!ヤなの!」
    *Pico
    「このワガママ娘はほんっと……仕方がないな」
    *GF
    (ふーむ。
     やっぱりあの様子だと、PicoってBFの行動に付き合う事自体が好きなのねー……世話焼きめ)
    *Mrs.Mearest
    「予定は整ったかしら?
     カフェテリアなら、ここから数分した所にバイキング形式のところがあるわ。
     あまりクオリティが高いとは言えないけれど、好きなものを探すにはうってつけでしょう。
     でも分かっているわね?お菓子はカロリーが高い。だから──」
    *BF & BF
    「「“パンケーキは一人二枚まで”!」」
    *Mrs.Mearest
    「Goodgirls!節度とルールを守って、楽しく食べてきなさい」
    *GF
    「はーい」
    *BF
    「じゃあ行こ、Pico」
    *Pico
    「……その手はなに」
    *BF
    「一緒にお手々繋ご。ほら、GFも」
    *Pico
    「そんなことしなくても逃げないって」
    *GF
    「あらー?もしかして照れちゃってるのかしら?
     じゃあ私がBFの手独占しちゃおっかなー」
    *Pico
    「……」

    【少しの間の後、PicoがBFの片手を掴む】

    *Pico
    「これで良いだろ」
    「……えへへー、ありがとうPico。
     それじゃあレッツゴー!」
    *GF
    「ゴー!」
    *Pico
    「……ん」

    【三人が部屋から出る。その背中を、Mearestは微笑ましい物を見る眼差しで見送っていた】



    ○Week5

    【ある商業施設の会場スペースにて。
     歓声があがる裏で、BF達は準備をしていた】

    *BF
    「(ぐるぐるお目目で)
     大丈夫、髪型ばっちり、お薬も飲んだ、大丈夫……」
    *GF
    「そう、大丈夫だよMy Bell。今日も君は世界一可愛いさ」
    *BF
    「ありがとうGF。
     でも……あんなに観客がいるなんて、やっぱりDearestさんって凄いね」
    *GF
    「そりゃあ元とはいえロックスターだもん。ゲリラライブするって聞いたら皆集まるさ。
     ちょっと集まりすぎて窮屈なくらいだけど。
     ほんっと、もうちょっとこっちの事情を考えてほしいよねー」
    *BF
    「ふふ。
     なんだかんだ言ってGFはお父さん大好きだもんね。あまり騒ぎは起きてほしくないんだよね」
    *GF
    「はー?何処をどう見たらそう見えるんだよ?
     あんな頭の固い頑固親父、誰が進んで好むかっての」
    *BF
    「うんうん。そうだね」
    *GF
    「話聞いてる?」
    *Pico
    「(休憩用のベンチに座り込むPico)
     ……気分悪ぃ」
    *BF
    「Pico、大丈夫?もしかして人酔いした?」
    *GF
    「無理しないでそこに座ってなさいよ。どうせ私達は表に出ないんだから」
    *Pico
    「いや、これは普通に食べ過ぎだ……なんでガッツリ寿司食った後にホールケーキ食えるんだよ……」
    *GF
    「貴方って少食な方なのね」
    *Pico
    「うるせぇ」

    【歓声SE】

    *GF
    「そろそろ出番ね。
     頑張って行きなさいLady Bell。なに、いつも通りにすれば大丈夫よ」
    *BF
    「……うん!行ってくる!
     ちゃんと見ててね、GF、Pico!」
    *GF
    「もっちろん!バッチリカメラに納めてやんよ!」
    *Pico
    「……まあ、調子づいて転ばないようにな」

    *MC
    【さぁお待たせいたしました、本日の挑戦者はこちら!
     廃れかけた音楽界に流星の如く現れたポップシンガー!コードネーム“Boyfriend”!】

    【そこそこの歓声が上がる】

    *BF
    (わ、人がたくさん……!
     こんな僻地なのに、広場から溢れるぐらい人が来てる……やっぱりDearestさんって凄いんだ。
     ……えーっと、とにかく、ここは台本通りに……)
    *BF
    『初めまして観客の皆さん!新米シンガーの“Boyfriend”です!
     本日はこの舞台にお集まりください、本当にありがとうございます!』
    *MC
    【おやおや、なんと初々しいご挨拶。観客も照れと可愛さにやられて湧いております。
     Dearest氏ではもう表現できない新鮮さ。これは難敵なのでは?】
    *Mr.Dearest
    『ふん。どのような相手であれ、今までと変わりはない。立ち向かってくれる者は私のこの手で粉砕するのみだ。
     その末にまだ立っているようであれば慈悲は授けるがな』
    *BF
    『はい、貴方はそのような人なのでしょう。Mr.Dearest、悪魔のロックスター。
     でも──寄る年の波と流行りには、流石の貴方も勝てないのではありませんか?』
    *MC
    【おおっとここで挑戦者がまさかの挑発!ただ可愛いだけでは終わらずギャップを狙っていくとは!
     なんというあざとさ、ハングリー精神。流石のDearest氏もこれは再現できないでしょう!
     いろいろキツいしね!】
    *Mr.Dearest
    『ははは、MCはあとで私のところに来るように』
    *MC
    【はい、私の死亡フラグが立った所で、それでは第一曲目行かせていただきまーす!】

     *─Track─*

    【舞台を裏から見るカット】

    *GF
    「うんうん、歌よし姿勢よし顔色よし。
     今日も絶好調だね。さすがMy Bell」
    *Pico
    「お前、何をしても誉めるじゃねぇか」
    *GF
    「そりゃあ誉めて伸ばすのが一番ですから。
     あと、誉めた時にふにゃって笑うの可愛いし。Picoもそう思うでしょ?」
    *Pico
    「……否定はしない」

    【舞台裏に場面が映る】

    *GF
    「さっきからなんでそう鬱々としてるのよ。食べ過ぎがまだ響いてる?」
    *Pico
    「あのな……分かって言ってる?
     自分の好きな奴の事を他の奴が惚気てるのを見て面白いと思うほど、自分は人が出来てないんだよ」
    *GF
    「じゃあ、他に何の話をすればいいのよ。先々週の話?」
    *Pico
    「陽気に話すことが無いからって一番気まずい話に持ってくヤツがあるか。
     黙ってアイツの歌聴いてればいいだろ」
    *GF
    「そうは言っても、あれはあれでとても気になるのよね。例えば……
     あのあと依頼人とはどうなったのか、とか」
    *Pico
    「金返して依頼断ったよ。つか、お前も現場に居合わせたじゃねぇか」
    *GF
    「あれは依頼人じゃないでしょ。あんなパッとしない、如何にも仲介者ですって感じの人間。
     どうせ、依頼人が素性バレたくなくて用意した身代わりじゃないの?パパが怒って何かしても自分達に火の粉が飛んでこないようにさ」
    *Pico
    「そこまで分かってて、これ以上何を知りたいって言うんだよ。本当の依頼人か?
     そんなの、お前ならもう分かってるだろ」
    *GF
    「まぁね。私個人に恨みがあって、仲介者を置くほど慎重でお金があって、貴方に依頼するような人脈の持ち主。大方目星はついているわ。
     でも、確証が欲しいのよ。貴方の口からね」
    *Pico
    「……。
     ……お前を殺せと命じたのは──
     ──Bellの両親だったよ」
    *GF
    「……元、ね。もう裁判でその辺りの決着はついてるから。
     貴方はどうやって知ったの」
    *Pico
    「仲介者に聞いた。ちょっとした刺激与えてな。
     大金積まれただけのヤツなんてそんなモンだ。沈黙する義理もない」
    *GF
    「どこもかしこも現金ね。見習いたくないや。
     それはともかく、正直意外だったわ」
    *Pico
    「何が?両親が暗殺を企てたことが?」
    *GF
    「ええ。てっきりBellを浚いに来るのかと思ったのだけど……あの人達、何だかんだ言って彼女には甘い感じだったから。
     ついに焼きが回っちゃったのかしら」
    *Pico
    「いや……あいつらはいつも通りだよ。昔から何も変わってない。
     実のところ、あいつらはBFを傷付けるつもりなんて毛頭ないんだ」
    *GF
    「なに言ってるのよ、充分傷付けてるじゃない。
     まさか、心の拠り所が無くなればBFは自分の言うこと聞くって、本気で思ってるの?」
    *Pico
    「正解」
    *GF
    「はぁ?」
    *Pico
    「アンタの言った通りだ。
     伸ばす髪を無くして、自分達の選んだ大学に行かせて、頼る者も片端から排除していけば──
     そうなれば自分達の望む子になるって、心の底から信じていたんだ」
    *GF
    「……バカね。大馬鹿だわ。
     その結果自分たちが捨てられたらどうしようもないじゃない。ざまぁないわ」
    *Pico
    「ハッキリ言うな……」
    *GF
    「そりゃそうよ。自分の子を頭弱いだのイカれてるのだの、挙げ句のはてに魔女呼ばわりしやがったのよ?どうかしてるわ。
     あいつらは“BFの為だ”って最後まで言ってたけど、そんな訳ない。
     ……そりゃあ、確かに彼女は経験も感情も持っていない物が多すぎるわ。普通を装ってるだけで、中身は伽藍堂の空っぽ。
     恐怖が分からないから怪物と仲良くなるし、愛着が判らないから元恋人を簡単に切り捨てる。そんな社会不適合者、普通を装わせた方がよっぽど良いに決まってる。
     ……でも。だからって、彼女がせっかく得た自我の芽まで潰すことないじゃない。そんなの殺すのと同意義よ」
    *Pico
    「……まあ、同意はするよ。あいつらはやり過ぎた。だから今のBellがあるんだろうし。
     弁護士な親を相手取って裁判と言うのも大きく出たなって思ったけど」
    *GF
    「うん、めっちゃくちゃ手強かった。でも今はもう心配ないわ。無事勝利したんだから。
     何より、この私がいるんだもの」
    *Pico
    「お前のその自信は何処から来るんだ……」
    *GF
    「だって事実だもの。
     ねぇねぇ、もっとお話ししましょう?貴方から見た彼女のこと、もっと知りたいわ」
    *Pico
    「なんで自分がお前に教えなきゃならないんだよ。
     本人に聞けばいいだろ?今の恋人なんだからさ。オレは関係ないだろ」
    *GF
    「関係あるわ。
     だって、私だけじゃ彼女を支えられない」
    *Pico
    「……」
    *GF
    「たしかに私はBFが好きよ。大好き。貴方に負けないくらい、彼女を愛してるわ。
     でも……私と貴方、どちらがより深くBFを知っているかと言ったら──断然貴方なのよ。
     彼女、見栄っ張りだから。私の前では可愛い子のままでいようとして、話してない事はきっと沢山あるわ」
    *Pico
    「……敵に塩を送れって言うの?」
    *GF
    「ええそうよ。その代わり、私だってガンガン塩を送ってあげる。
     ライバルってそうじゃないと楽しくないじゃない」
    *Pico
    「自分がいつアンタのライバルになったんだ……。
     ……。
     ……仮にそれで塩を送りすぎて、Bellがこっちに靡いたら、どうするの」
    *GF
    「その時は、その時。私がもっと上に行くだけ。
     ……まぁこの話BFが聞いたら、絶対『どっちも私の最愛じゃダメなの?』って言うでしょうがね」
    *Pico
    「はあ……
     お互い、変な奴に惚れちまったもんだな……」

    【歓声が上がる】

    *GF
    「……っと。二曲目が始まりそうね。
     話、殆ど聴いてなかったや。後でビデオ見直さないと」
    *Pico
    (カメラ回してんのか……)

     *─Track─*

    【終】
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