【巽唯】キスする二人 それは、あまりに突然だった。
ドンッと大きな音がしたと思えば、巽の手が朝日奈の背後の壁についていた。さながら壁ドンの形だ。
朝日奈は巽から溢れ出る甘い陰の気配に、身体を強張らせた。
「えっ!? なに!?」
見下ろしてくる巽は、驚く朝日奈と打って変わり、余裕を含んだ笑みを返してくる。
「ねぇ。……したいのでしょう?」
「なっ、何が……」
巽への思慕の視線を外して焦る朝日奈を、じっと見下ろしてくる巽の瞳。
何も言っていないのに「あなたが言い出したことだ」とじりじりと焼いて責めてくるよう。
耐えきれず朝日奈が視線を彷徨わせる様子に、巽が含み笑いをした。
「わかっていらっしゃるくせに」
そう言いながら巽が急に顔を傾けて近づいてくる。気づけば頬に息が触れるぐらい巽が近い。
朝日奈は慌てて巽の肩を掴んで、迫る巽に抵抗した。
「ちょっ、ちょっと待ってよ、瑛一っ!」
叫んでも一向に近づくのが止まらない。朝日奈は巽の口を手で塞いで間一髪止める。
「……何か、口づけをしたら困ることでも?」
「こ、困る、こと……!」
困ることは、……ない。でも、ちょっと待ってほしい。今にも心臓が爆発しそうなのだから。頬が火照りを繰り返して、焼けるようなのに。
でもこの全身のざわめきや熱は嫌じゃない。さっきだって、巽に触れたいなと思って彼に視線を送ったら、間髪入れずに迫られ、心のどこかで気持ちに応えてくれた事に嬉しくもなったのだから。
「困ることなんてないでしょう?」
巽は口を塞ぐ小さな手を掴み壁に縫い付けると、戸惑う朝日奈の唇にかぶりつくようにキスした。
「ンッ……!!」
壁に押し付けられながら唇を貪られる。頭が痛くないのは、巽の手が後ろに回っているからだ。クッションにしてくれた、というよりかは、朝日奈を逃さないための手。
巽にされるがままのキスは息継ぎもままならず、ただただ甘い蜜を流し込まれるよう。
そんな荒々しい口づけでも、巽に求められることが次第に嬉しくなって、朝日奈は自ら腕を伸ばして巽の首に抱きついた。
「フフ……やっと素直になられた」
巽はニヤリと笑うと、腕の中に閉じ込めた彼女へご褒美のキスをたくさん贈った。