新刊進捗 火照る体に冷えた水が染み渡る。長湯でのぼせかけた体が欲するがままにごくごくとそれを飲み干していると、カウンター越しに恨みがましい視線と目が合った。長湯となった原因である彼の視線はできれば気づかなかったふりをしたいが、もはやこのやり取りも日課になりつつある事からそうもいかないだろう。彼――自分の敬愛する乱凪砂はすこぶる不機嫌だ。
彼の言いたいことはなんとなくわかっている。だがそれには触れず「どうかされましたか?」と白々しくも問えば、頬の一つでも膨らましそうな凪砂が拗ねたような表情を浮かべた。
「……乾かしちゃったんだ。やってあげるっていつも言ってるのに」
「いえいえ、とんでもない! 閣下のお手を煩わせるわけにはいきません! お気持ちだけ有難く頂戴致します!」
2613