あなたがいるから、戦えるエグザべはソドンの基地内を進み、シャリアの部屋の前で足を止めた。
呼び出しを受けてからすぐに向かってきたが、何の用件かは告げられていない。
シャリアが何かを頼む時は、大抵まともな仕事ではない。
それでも、彼の指示ならば従うつもりでいる。
ドアをノックすると、すぐに「どうぞ」と低い声が返ってきた。
「失礼します、中佐」
部屋に入ると、シャリアはデスクに座っていた。
淡々とした表情で、エグザべに視線を向ける。
「少尉、君に頼みたいことがあります」
「はい! 何なりとお申し付けください!」
エグザべは即座に背筋を伸ばし、敬礼をした。
シャリアはわずかに口元をほころばせ、机の上から黒い服のセットを手に取る。
「これを着て、今すぐ連邦の拠点に潜入してほしいのです。⋯⋯やれますよね? NTなら」
差し出されたのは、黒のスーツとカーキのパーカー付きコートのセットだった。
エグザべはそれを受け取りながら、思わず眉をひそめる。
「やりますが⋯中佐、そればかり言って無茶振りしていません?」
「フフ⋯⋯君ならやれると信じていますよ」
軽く笑いながらそう言うシャリアの声は、まるで当たり前のことのようだった。
エグザべは服を手のひらで撫でながら、微かに息をつく。
「もう⋯⋯そうやって信じ切られると、断れなくなるじゃないですか」
表情は苦笑交じりだが、どこか満更でもない。
シャリアにここまで言われてしまえば、やらないという選択肢は最初からないのだ。
「ターゲットの情報は?」
「詳細は端末に送ってあります。君には拠点への潜入と情報収集を任せます。
敵の司令官の動向を探りつつ、必要に応じて排除してほしい」
「了解しました」
エグザべは受け取った服を腕に抱え、背筋を伸ばす。
シャリアの指示ならば、どんなに無茶でもやり遂げてみせる。
それが、彼への忠誠であり、自分の誇りだから。
「それと、無事に戻ってきてください」
ふと、シャリアの声が僅かに柔らかくなった気がした。
エグザべは目を瞬かせ、一瞬だけシャリアの顔を見つめる。
「⋯⋯もちろんです」
言葉とは裏腹に、心の奥に微かな熱が灯るのを感じながら、エグザべは部屋を後にした。
-END-