午後八時。
賑やかしのためになんとなくつけていたリビングのテレビから、視聴者の注意を引く独特のチャイム音が響き渡る。
今日の仕事を終えて、虎次郎が作り置いていったつまみを肴に缶ビールを傾けていた薫も、思わず釣られてそちらに顔を向けた。
──東京都、○区。××氏。当選確実。
画面上部に表示されたテロップに、薫はそういえば今日が衆院選の投開票日であったことを思い出す。
薫がそのことを忘れていたのは、選挙に興味がないからではなく、期日前投票を利用したからだ。
自由業である薫はいつクライアントとの打ち合わせが入るか分からないため、空いた時間を有効利用して、国民の権利を行使したのである。
そう少なくない額の税金を納めている以上、投票は義務ではなくその対価たる権利であるというのが薫の意見だが、それはあくまで一個人の意見であり、他人に強制するべきことではない。
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