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    きろう

    @k_kirou13

    ⑬きへ~二次創作
    だいたい暗い。たまに明るい。
    絵文字嬉しいです。ありがとうございます。
    まとめ倉庫 http://nanos.jp/kirou311/novel/23/

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    きろう

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    隆ツ。

    君の隣で眠らせて君の隣で眠りたい。
    いつの間にかそれが最上位の欲求になっていた。
    何かしても、何もしなくてもどちらでもいい。そりゃあ何かした方が愉しいけど。
    でも本当のところは何も要らなくて、一人で眠るのより狭いベッドで足や腕を絡ませたり、何だかおさまりの悪いのを二人して身じろいでここだっていうところでおやすみの挨拶をして、軽いキスをして、埋めた口元がちょっと息苦しいななんて思いながらぼんやりと落ちていく意識に身を任せて、次に目が覚める時にいつもより暖かいのに暑くはない心地良い温度を感じて過ごした時間の長さに嬉しくなりたい。
    隣で眠って、もしかしたら違う夢を見て、起きるだけのこと。
    一人では出来ないこと。
    どれだけ気持ちが繋がっていても、そこにいなければ出来ないこと。
    傍にいること。
    「いってらっしゃい、隆俊。……必ず僕の部屋に帰ってきてね。何があっても」
    「ああ。必ず戻る」
    僕は不安を隠せていない。
    隆俊は……隆俊はどう思っているんだろう。約束を語る彼に偽りはない。僕が安心してしまうような一分の隙もない落ち着きと力強さで抱き締めて、そしてキスをくれる。
    君は確かに僕より楽観的な方だが、馬鹿ではない。人類の間で最早ありふれた出来事になってしまった別離――ナノマシンの汚染拡大防止に伴う永久的な隔離措置、社会の混乱によって頻発する事故や事件の影響――がこの世界をすっかり変えてしまったのをよく知っている。知っているからこそ、こうして仕事に行ってしまう。
    彼がなすべき仕事をすることで、少しの危険に身を晒すことで僕かもしれない誰かの安全が守られると信じているから。
    僕が好きになったのはそういう人だ。
    そんな君の隣で、ぬくもりで、皮膚で、匂いで、眠らせてほしい。
    そのためなら僕は何だってする。君の仕事先に押しかけて連れ戻す以外は。……そっちに行くことくらい僕には何てことないのに着いていっちゃダメだって言うから仕方ない。
    これが最後じゃありませんように。ああ、もしそうなったなら僕はすぐに君の所に行くだろう。
    君のため、と他ならぬ君が言うから僕は僕の部屋で君の帰りを待つ。美しい君の心を不安に曇らせたくはないからいい子にしてる。
    仕事はそこそこに、僕がいれば喜ぶ君に他に何が出来るだろうって考えながら待っている。
    実際、出来ることはあまりない。
    部屋の掃除、洗濯や消耗品の補充、食事の準備、どっちも特異じゃないけど最低限はこなして、君の好きそうな映画やドラマの評判を調べてリスト分けしておく。BGMみたいに流すためだけのものと、多分もう見る機会はなさそうなエンターテイメント性に溢れたものに。
    君は宇宙を舞台にしたスリリングな映画が好きだった。勇敢な主人公が困難な状況を体力と知力で乗り越える物語が好きだった。僕もそれなりに楽しく観れた。隆俊が物語や俳優の演技に夢中になっている隣で、撮影方法や技術考証なんかについて考えて意見を交わすのが楽しかった。
    今の僕たちに必要なのはそんな名作じゃなく、退屈で欠伸が出そうなつまらない凡作だ。
    カップルがいちゃついて、喧嘩して、仲直りするようなやつ。間抜けなヒーローがわがままなヒロインに振り回されて途方に暮れている間に僕らが睦言を交わしていちゃついておくための作品。
    分かりきった結末に辿り着く前に映像を止めて一緒に眠るためのもの。
    それから君はスポーツ番組も好きだった。今はもう試合なんかやってないけど、過去の名試合や選手のドキュメンタリーが過去の視聴記録からレコメンドに上がってくる。それそのものは僕には退屈で、隆俊の一喜一憂を観察する時間だった。お酒を飲んで、僕の知らない理屈で短い歓声を上げたりして一人だけ気分が良くなっている君を見るのは結構面白かった。自分のことでもないのに勝利の興奮で寝る時間を過ぎてもまだ落ち着かない君は、ベッドに入ってもなかなか寝付けなくて子供みたいで可愛かった。
    だけどこれも必要ないから、見つけたら非表示にしておく。君が好きだった選手やチームの安否はもう分からない。何かあれば主要メディアが確実に進退が報じていたはずのスーパースターですら不確かな伝聞に頼るしかない。少なくとも地球に住んでいるのだから無事では済まないだろうし、公式なスポーツの試合というものが再び行われる可能性はゼロに等しい。
    最後に残るのは手が届く距離にあるものだけだ。特に、宇宙コロニーなんていうこんな環境では。
    だから君が寂しくならないように隠してしまおう。
    大丈夫、テニスくらいなら僕が相手になってあげられる。君は完全な初心者で、僕は教育課程でやらされた時はそれなりだったからキャッチボールよりは対等な遊びになるはずだ。なんてね。
    何でもいい。他にやりたいことなんてない。君といたい。君の隣で眠りたい。
    もし世界が平穏だったら僕はもう少し違う考えだっただろうか。
    いいや。
    こんな風に君の好きなものを選り分けたり隠したりはしなかっただろうけど、きっと願いは変わらない。君へ恋をした時からずっと変わらない。
    君の隣で眠りたい。毎日、いつでも、変わらないみたいに。たまには喧嘩をしたかもしれない。それでも二人、世界で一番あたたかい場所を分け合って眠ることを大切にしただろう。
    君には僕を、僕には君を。その切実を僕は愛と呼んで交わしているから。
    「おかえり、隆俊」
    「ただいま、ツカサ」
    今日もまた隣で眠る日を重ねよう。世界に何があってもそれが全てだ。


    2025.01.19
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