死ぬ時はみんな独り「ずっと一緒にいようね」
「大好きだよ」
「きっと君が僕の運命の人なんだ」
僕の口から愛は溢れる。
今時こんなことハイティーンの子供でも言いっこない。だって僕たち人類は知りすぎた。人生は長く、世界は不定だ。明日も変わらないなんて誰が保証できる? 脳に巣食うナノマシンの働きひとつで僕たちは全く変わってしまえる。今すぐこの恋心を書き換えてみせようか。ドーパミンにセロトニンにオキシトシン。下らない免許証を持っているから僕は君の脳だって操れる。運命なんか所詮確率問題だ。君と違う人と出会っていれば僕は同じことを別の誰かに言ってる。
「ずっと一緒にいよう」
「大好きだよ」
「きっと君が僕の運命の人」
だけど僕がこう言うと君はとても喜ぶんだ。僕の言うことに少しも間違いがなくて、それは僕の聡明な頭脳によって導き出されていると本気で信じるんだ。おかしなことに僕はそれを――とても嬉しいと思う。
君が同じ気持ちでいてくれることが嬉しい。堅物の君が眉を下げて好意に染まっただらしない顔で僕を見て愛してると言うのが嬉しい。頬に触れてキスをして抱きしめて。
嘘を言っているわけじゃないんだ。そうであって欲しいことを人は口にする。
「ずっと一緒にいたい」
「愛してるよ、隆俊」
「きっと僕を君の運命の人にして」
ま、それでも死ぬ時はみんな独りだ。
2023.02.13