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    きろう

    @k_kirou13

    ⑬きへ~二次創作
    だいたい暗い。たまに明るい。
    絵文字嬉しいです。ありがとうございます。
    まとめ倉庫 http://nanos.jp/kirou311/novel/23/

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    きろう

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    クリスマス隆ツ

    Childish 十二月二十四日、夜の十一時を指す短針が明日に近づいた頃。
     比治山は遅番の勤務を終えて恋人である司の部屋を訪れていた。
     共に食事を摂った後、ソファに身体を傾けて他愛ない雑談を交えて見つめ合う時間は日々の中のささやかな癒しだ。出会ってすぐの無表情が嘘のように素直に感情を露わにする恋人の様子に心を許され、愛し愛されていると感じる。おまけに今日はクリスマス・イブ。仕事のために「らしい」ことは明日に持ち越しだが特別な日に変わりない。

    「ツカサは何歳までサンタを信じていた?」

     彼の目は過去を探して逸らされるだろうか。どんな色も見逃すまいと注意深く覗き込もうとした矢先、それは不思議そうに丸く見開かれた。

    「君はサンタが居ないと思っているのか」

     まさか、まさかまだ信じているのだろうか。ツカサに限って。いやしかし。
     比治山はいい歳の大人である。年齢の近い同僚から今まさにサンタクロースの正体を隠すために苦労しているだの、うちは卒業しただのという話をしばしば聞いている。自分に子供はいないが、なるほど子供たちの夢は固く守らねばならないと認識を新たにした次第である。
     表情筋の動かし方を思い出して気の利いた文句を絞り出そうとする比治山を余所に司は表情を引き締めた。

    「いいかい、隆俊。サンタは実在する。二百年以上前から国際サンタクロース協会できちんと免状が発行されているじゃないか。それに十一月から十二月にかけては自動工場の玩具部門の繁忙期だ。稼働率は百%を超えて臨時の工場すら運用されているのは君も知っているだろ? これはサンタクロースから多数の玩具が発注されていることを表している」
    「それはそうだが……」
    「嘘を言ってはいけないよ。サンタは居るんだ」

     なんという堂々とした物言いだろう。愛しい恋人はその天才的な頭脳をもって明快に理屈をつけてみせた。彼は子供時代に同年代の人間と関わる機会が乏しかったとも聞いている。それが彼の夢を守ったに違いない。ここは頷いておこう。彼の夢はこれから自分が守っていけばいい。
     比治山は心から戸惑いを追い出したが、司は比治山にだけ分かる僅かな形で表情を陰らせた。

    「僕のところに来てくれたことはないけどね」
    「ツカサ……」

     考えるより先に恋人を抱きしめていた。
     彼はいわゆる恵まれない子供ではない。彼の養育者たちは常に必要十分な物を与え続けただろうし、物質的には非常に恵まれた環境にあったとも言える。しかし誰もが子供の頃に心の奥底で求める愛情を彼が受け取れる形でようやく得たのは、宇宙のこのコロニーに来て比治山と出会ってからに違いない。少なくとも彼も比治山もそう思っている。
     二人は年齢も立場もかけ離れた、本来出会うはずのない間柄である。そんなところまで来なければ彼はサンタクロースに期待をすることすら思い出さなかったのではないか。

    「お前はもう独りではない。俺が、独りにはしない」
    「隆、俊」

     骨を軋ませた気がして、つい力を込めてしまった腕を慌てて緩める。体温の檻の中へ額を擦り寄せて司は微笑んだ。

    「サンタなんか来なくても僕には隆俊がいるから幸せだ。今日だってクリスマスプレゼントをきちんと持ってきてくれた」
    「お前だって用意してくれていただろう」
    「だってクリスマスは愛を伝える日なんだろ?」

     伝えたい相手が居るのは初めてだ、と司からもしっかりと腕が回される。キスをするのにもう言葉は要らない。触れ合わせるだけのそれを互いに交わして同時に笑い合う。

    「愛してるよ、隆俊」
    「俺もだ、ツカサ」

     窮屈そうに身動ぎをした司を解放すると、彼は無理のあった姿勢をあらためて比治山に半ばもたれかかるように座り直した。そのまま腕を持ち上げ、比治山の頭へ添えて猫か何かが甘えるように頬擦りをする。柔らかく細い髪が肌をくすぐる。
     比治山は司の腰へ手を添えて再び抱き寄せつつも、このまま手を出していいものか決めかねた。今日の司は子供のような会話に子供のような触れ合いと、とにかく態度が幼い。もしかするとクリスマスやサンタクロースと言った話題に流されてそういったものを望んでいるのかもしれない。だとしたら、恋人の関係にあって今更隠すもないが、いつものように自分の欲を見せるのは気が咎めた。彼のことは恋人として愛している。しかし彼が望むのならば父親の情だって、自分から与えてやれるものは全て与えてやりたいと思う。
     息がかかる距離で目が合った。怜悧な光を灯す虹彩にあどけない色が滲む。視線が横へと滑り、時計を見た。比治山も追って時間を確認するともうすぐ日付が変わろうとしている。
     喉の奥からひとつ、笑い声が聞こえた。

    「今頃地球じゃ配送ドローンが大忙しなんだろうな」
    「そうだな。……ん?」

     彼は今、配送ドローンと言った。ツカサはサンタの存在を信じているのではなかったか。
     よくよく顔を見ると堪えきれないとばかりににやにやと口元を緩めている。

    「隆俊は単純だなぁ。僕がいつ、トナカイの牽く空飛ぶソリに乗って各家庭に不法侵入して枕元にプレゼントを置く肥満気味の髭の老人が実在すると言った? 僕はサンタクロースの認定機関があることと、保護者がショッピングサイトを経由してこの時期に玩具を買い求めてサンタクロースを名乗ることを指してサンタは実在すると言っただけだ」

     僕は四歳の頃に世界の真実に気が付いたけど、君は?
     問いかけに溜息を吐く。

    「意地が悪いぞ、沖野」
    「比治山さんこそ、この手はなんだい?」

     諫めた呼び名にもまるで効果は無い。腰へ回した手に司の手が重ねられ、骨の間を指先が辿る。

    「当ててあげよう。君は十二、三の頃までトナカイに乗ってやってくるサンタが居たと信じていた」
    「残念だったな、卒業したのは十歳だ」
    「大して変わらないじゃないか」

     司はいよいよ声を立てて笑い出した。比治山はその腹を遠慮なく撫でまわして擽ったがらせ、戯れるままソファへ押し倒した。

    「メリークリスマス」

     重なった声が唇に吸い込まれる。ちょうど、日付が変わった。


    2023.02.19
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