Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    きろう

    @k_kirou13

    ⑬きへ~二次創作
    だいたい暗い。たまに明るい。
    絵文字嬉しいです。ありがとうございます。
    まとめ倉庫 http://nanos.jp/kirou311/novel/23/

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🐈 💯
    POIPOI 67

    きろう

    ☆quiet follow

    隆ツ。

    世界の終わりにSNSSNSにアカウントを作った。
    昔からある、短文と画像データを投稿することが出来る簡素なサービスだ。
    まず初めにしたことは、全ての情報の公開範囲を非公開にする事。
    このサービスで自分のアカウントを持ったのは初めてだけど、仕事の関係で概ねの仕様やUIは把握していたから迷うことはなかった。

    SNSは嫌いだ。

    やむを得ずいくつかのサービスに登録しているし、そのうちのひとつは会員制の記事を読むためにたまにログインする。その度に誰かが僕に何かの反応やメッセージを寄越してきた通知が目について煩わしい。

    仕事用だから非公開にするわけにもいかなくて全て無視しているけど、繋がろうとさせてくるサービスは少しも意に沿う動作をしない。……とはいえ、僕も同じ要件で機能設計するなら近しいことを考えるだろう。だからプログラムに罪はない。これを是とする思想と相容れないだけだ。

    人と人が繋がって何になる。
    訂正、無遠慮にとにかく数多くと知り合ってみて浅く広く上辺だけで後は忖度して付き合うなんてのは、広告屋や政治家みたくそれに特化したいのでなければ時間効率が著しく悪いやり方だ。僕は価値ある少数の人間と接点を持てればいい。

    ところで、人類は繋がるためにあらゆるところにインプラントした機械――ナノマシンの汚染によって滅びることが決まった。
    というかもう地球は滅びたと言って過言ではない様相だろう。公的な被害レポートは高止まりしたまま途絶えた。

    登録したばかりのSNSに一枚の写真を投稿する。二つ並んだマグカップ。

    場所は僕の部屋のテーブルで、これは隆俊がくれたもので、他愛ないことを話して笑い合いながら無駄にキッチンに二人並んで淹れたことは写真を見ただけじゃ分からない。僕と隆俊だけが知っている。いや、隆俊にだってこれがいつの写真かなんて見分けは付かないだろう。

    僕の予測ではこの手のWEBサービスは地球の人類が死に絶えて宇宙の僕たちが死んだ後も当面は稼働し続ける。メンテナンスは自動化されているはずだし、分散管理されたデータセンターでは自動作業機がハードの経年劣化に対応して、必要な機材も自動工場が資源のある限り自動発注を受けて自動で生産する。

    一世紀前の自動工場ネットワークの実用化を端緒に人類は維持管理の業務を機会に明け渡し、選択と進歩、変革を自分たちの役目にした。その果てがこの終末だけど。

    少し考えてもうひとつ、写真だけを投稿する。僕のデスクに置いてある、隆俊がくれた小さな観葉植物。
    SNSに思い出を残すなんて興味なかった。そもそも隆俊と出会うまで残すべき思い出なんかなかった。だけど、今は記録しておきたいと思う。

    だってこのSNSと同様に地上に残した僕の仕事の成果物も人類の終末後まで稼働し続けるだろう。それなら意味の消失した電子データの海の中に隆俊が僕を愛してくれたことだって残したい。そのためにはネットワークサービスである必要があった。

    それから僕は思いつくたびに非公開アカウントへテキストと画像を投げ入れ続けた。

    対面に座って食事をする隆俊の手元。仕事へ行くためにがらんどうの廊下を歩く後ろ姿。映像の投影による偽物の旅行で見た風景。彼がラッピングした不器用なプレゼントには「うれしい」とテキストを添えた。

    隆俊は僕が時々写真を撮るようになったのに気付いて、何も言わない代わりに僕の写真を撮った。彼に共有されたそれらの写真の中で、ブレてしまって顔の分からない僕の姿を投稿した。二人で写る写真も撮るようになった。繋いだ手だけをアップロードした。

    誰も見ないし管理者すらいないだろうけど、顔の分かるものを投稿するのは憚られた。何しろこのアカウントのことは隆俊にも言っていない。僕だけが知っていて、僕だけに分かればよかった。

    だからテキストはほとんど書かなかった。その時間が惜しかったというのもある。思い出は僕の頭の中にある。それに隆俊との記録に適切な言葉を付けようとするとどうしても過不足が出て難しかった。

    参考に他のサービス利用者の投稿を見た。新着投稿は人類の残り人数を表すように日ごとに勢いを欠いて、嘆きの割合が増えた。稀に前向きなものもあったけど、どこか死が滲んでいて参考にならなかった。ついに全く更新されなくなって見るのを止めた。

    もし僕が先に死にそうになったらこのアカウントのことを隆俊に教えてあげようと思う。彼が僕のところに来るまでの少しの間、寂しくないように。気が紛れるように。

    自分の投稿を遡ってみるとこれでもなかなか悪くない気がした。
    沈みゆく地球人類史の片隅で僕は今日もソーシャル・ネットワーキング・サービスの思想と矛盾する行いを続ける。
    隆俊との日々は僕だけの大切なものだ。


    2023.07.02
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭😭😭😭😭😭🙏😭🙏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works