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    きろう

    @k_kirou13

    ⑬きへ~二次創作
    だいたい暗い。たまに明るい。
    絵文字嬉しいです。ありがとうございます。
    まとめ倉庫 http://nanos.jp/kirou311/novel/23/

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    きろう

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    隆ツ

    休日の過ごし方もしかして、俺はツカサを連れ回しているのだろうか。

    交際を始めたばかりの恋人との過ごし方を考えるうちに、比治山はふとそんな考えに至った。

    元々アウトドア派であった比治山はコロニー内という環境であれど、休暇にはとりあえず部屋の外に出て娯楽やトレーニング施設に親しんできた。
    一方で交際相手の沖野は完全にインドア派だ。食事や買い物などコロニー居住者の多くが部屋の外で済ませるようなことすらデリバリーで完結させて必要最低限以外は部屋から出ない生活をしている。

    誘えば快く出歩くものの、彼が自分から外出したいと言ったことは比治山の記憶にない。
    健康のためにはもう少し運動をするべきであるし、彼が未知の体験に良いも悪いも様々な表情を浮かべるのが好ましく、ついあれこれと持ち掛けてしまっていたが、沖野に無理をさせていないだろうか。
    それどころか部屋の中でくつろぐような時間でも比治山の方から何をするか提案していることが多い。それが沖野の部屋であったとしても、だ。

    何でも喜んでくれる恋人は可愛らしいが、歳の差のこともあって気を遣われているようにも思えてくる。
    よくよく考えてみれば沖野がいままでどのように余暇を過ごしてきたかも知らない。
    単刀直入に、比治山は聞いた。

    「今まで休みの日はどうしていたんだ」
    「…………」

    返ってきたのは長い沈黙だった。
    どんな質問にも打てば響くように明晰な頭脳で答える彼にしては珍しく、仕事上の難題と向き合うように眉を寄せて考え込んでいる。ついには腕組みも始めた。
    聞かない方が良かっただろうか。比治山が質問を撤回しようと気の利いた言葉を探しかけた頃、ようやく答えが返ってきた。

    「休み、寝て……た?」

    不可解なものに接した時の様相である。

    「気になるならデータを確認するけど」

    記憶からでは検索結果が得られないと結論付けて淀みなくコンソールを開こうとする沖野の手を軽く制す。

    「いや、個人的な興味で聞いただけだ。十分な睡眠を摂るのは休みの過ごし方として珍しくないだろう。ただでさえ不規則な時間で働いているのだから、日頃の疲れを癒すのも有意義だと思うが」
    「それ、君が言う?」

    警備員の比治山は夜勤を含む不規則なローテーションで働いている。だが休日は活動的に過ごし、沖野と会う時間を作ることも欠かさない。

    「……でも本当に記憶が無いな」

    聞かれて気になってしまったのだろう。沖野は比治山の手をやんわりと避けて自分の行動ログにアクセスした。

    「えっと、寝て、起きて、端末を開いてニュースサイトを流し読みして、残ってる仕事に手を付けたり新しい技術に手を出したり、そうじゃない時は横になったりしてるみたいだ」

    それは普段の仕事中とどう違うのだろうか。今度は比治山が眉を寄せることになった。

    エンジニアという成果主義の職種柄、融通の利く勤務時間と勤務場所で過ごしている彼は、比治山のように持ち場できっちりと決められた行動をしなければならない者とは勤務スタイルがまるで異なる。
    理解の無い者が見れば不真面目であろうが、それこそが彼のような人間を最も生産性高く動かすのだ。しかし翻してみれば、仕事とプライベートの切り替えが難しい生活でもある。

    「出かけたりはしていないのか。気分転換も必要だろう」
    「そうだね。知っての通り必要以外は。娯楽で外出するようになったのは君と付き合ってからかな」

    ますます比治山は当初の疑問に立ち返ざるを得なかった。

    「外に出るのは苦手か?」
    「なんだ気にしてるのか。苦手だけど、君となら楽しいよ。ひとりで歩いてるとどうも目立ってね。番犬がいるなら安心だ」

    くすりと沖野は笑った。しかしすぐに表情を引き締める。

    「年上の人に犬だなんて失礼だったね」

    比治山の機嫌を損ねていないか、重大な心配のように見上げる。
    それがあまりにいじらしく、比治山は今すぐ抱きしめてしまいたい衝動を堪えねばならなかった。ようやく恋人としていくらかデートを重ねた仲だというのに、急にそんなことをすれば彼を驚かせてしまうだろう。

    「構わない、お前に頼りにされているなら光栄だ」

    沖野は外出習慣の無さと同様に、人付き合いにも慣れていない。正確には友人や恋人と言った、プライベートの気安い間柄の交流を知らないのだ。
    暫くの付き合いを経て比治山にだけ年相応か、それより幼い素の姿を見せてくれるようになった。
    歯に衣着せぬ物言いが不快でないのは彼の隠された素直さの表れを感じるからだ。もっと年齢が近ければきっとこうはいかなかっただろう。庇護欲という、恋人に向けるには躊躇する感情を持て余す部分もあるが、この点では歳の差を都合良くも思う。

    比治山は僅かに悩んだ末に沖野の頭に手を伸ばした。柔らかく癖のある髪が絡まないようにゆっくりと撫でる。
    心配を浮かべていた顔が少し驚いた後にはにかんで綻んだ。

    「……隆俊は僕に甘いな」
    「したいことがあればいつでも言ってくれ。したくないことも」

    大人しく受け入れるばかりか、もっと、と無意識の態度でねだる様子に受け入れられていると感じてしまう。

    「今は君が隣を歩いてくれるだけで満足だ」

    きっと沖野とはこれから沢山の休日を共に過ごすことになる。お互いが知らないことを知って心が近付いていく。今からそれが楽しみで仕方がないし、ずっとそうであればいい。
    比治山はさっそく、次の休日の過ごし方を考え始めた。


    2023.07.15
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