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    きろう

    @k_kirou13

    ⑬きへ~二次創作
    だいたい暗い。たまに明るい。
    絵文字嬉しいです。ありがとうございます。
    まとめ倉庫 http://nanos.jp/kirou311/novel/23/

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    きろう

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    ラッキースケベコメディ比治沖(桐)

    スカートの中は天国廃工場の棚の前で比治山は梯子を支えながらただただ地面を見つめることに徹していた。

    「おい、沖野。まだ見つからんのか」
    「暗くてよく見えないんだよ。もう少し……。こんなに奥に置いたかな……」

    何しろ沖野は「桐子さん」の姿のままで梯子に上がって棚の奥に手を伸ばしている。
    つまり顔を上げてしまえばスカートの裾がチラチラと揺れる無防備な足が比治山の視線に晒されてしまうのだ。
    ええい落ち着け隆俊。沖野は男だ。男の足など見ても何ということはない。
    例えばこれが股引を履いた姿だったらどうだ。男の尻など見たくはないが比治山は堂々と顔を上げていられるだろう。
    いや待てしかしそこにいるのは沖野である。桐子の姿で比治山の心を射止めてしまった彼の尻を冷静に見られるだろうか。慶太郎であればどうだ。比治山はきっと何も感じない。彼の安全以外に考えることはないだろう。だが沖野に対して果たしてその心地でいられるだろうか。いられないとすればその理由は何だ。ただの男の尻であって桐子さんの尻ではあるまい。そもそも桐子さんはそのような無防備な姿で人前に出るなどしない。彼女は大胆な素振りもするが、肝心なところでは淑やかな女性だった。もんぺ姿であれば彼女もそれくらいしただろうし、実際に工廠でそのように高い所へ登る場面も見た事があるが、彼女は必要があってやっていたのであって、そこで尻に目を向けるなどというのはこちらの不埒に他ならないのでやはり桐子さんは貞淑な人だった。
    嗚呼、桐子さん! たとえその姿が幻想であったとしても比治山の中では未だ燦然と輝く乙女である。

    「比治山くん、降りるよ」

    思索に耽っていたところに突然声が降ってきたので比治山は反射的にその方向を見た。
    つまるところ上、沖野のいる方である。
    途端、比治山の視界が真っ暗になった。
    何事か。頭は疑問を発するより先に真っ白になり本能が答えを告げる。
    スカートの中である。
    後頭部がそれを捲り上げたことにより、比治山は沖野のスカートの中に頭を突っ込んでいた。

    「ひっ、比治山くん!」

    これには流石の沖野も動揺した。
    想定外の事態は天才の頭脳を鈍らせ、梯子の段を上がれば事態が解消されるという単純なことに気付けない。
    比治山はゆっくりと呼吸した。気を落ち着けるためであるがスカートの中に滞留した空気を吸っているに他ならない。当然ながら温度も湿度も匂いも外側のそれとは異なり、比治山は落ち着くどころではない。真っ白になった頭がそれを理解することを拒否している。思考の掴みどころが泡のように生じては消えていく。
    ここはどこだ。俺は誰だ。これは沖野か。

    「何をしてるんだ、早くどいてくれ!」

    沖野は半ば悲鳴のように言葉を発した。
    前に肩車を要請した時の方がよほど距離が近いというのに、ただ布で隔てられた空間の中に頭が入っているというだけでこれほどおかしな気になるとは思っていなかった。
    こんなことならばきちんと後ろを確認してから降りればよかった。沖野の両手は荷物でふさがっていて、スカートを押さえることもできない。
    ももの内側に生暖かい息遣いを感じる気がする。ぞわぞわと名状しがたい心地がする。一分も二分もそうしていた気がするが、比治山は全然全く動く様子がない。
    確かに沖野は今まで比治山を揶揄ってきた。沖野自身、あまりその手のことに興味はないのだが比治山が「桐子」という存在に一喜一憂し、助平心と不可分の恋慕をありありと寄せていながら紳士を取り繕うのが面白く、自分の今の装いもそのように彼を翻弄して楽しむためであった。
    僕は男だし、比治山くんもこの姿を悪いように扱うまい。だから少しぐらいサービスしてあげよう。だからこんな、のっぴきならないアクシデントが起きるなんて考慮してなかった! 吸われている。スカートの中の空気を吸われている。間違いなく。
    これはもう仕方のないことだ。やむを得ない処置だ。沖野は体の均衡に留意しつつ後ろ足で比治山を蹴った。実際のところ沖野が声を発してから三秒程度の出来事であるが冷静ではない二人には分からない。
    辛うじて頭がスカートから飛び出し、廃工場の中とはいえ新鮮な空気を得た比治山が我に返って梯子を揺らす。

    「おっ、沖野! すまん!」

    彼の顔が赤いのは酸欠のために違いない。自分の顔が熱いのはこんなことをされたのだから当然だ。
    沖野は自分にそう言い聞かせてから、持っていた荷物を踏板に預けて振り返った。

    「比治山くんの……変態っ!」

    心からその言葉を使ったのは初めてだった。


    2023.08.13
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