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    きろう

    @k_kirou13

    ⑬きへ~二次創作
    だいたい暗い。たまに明るい。
    絵文字嬉しいです。ありがとうございます。
    まとめ倉庫 http://nanos.jp/kirou311/novel/23/

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    きろう

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    比治沖

    night walk想定よりも早く作業が終わった。と言っても既に日付は変わっている時刻だ。
    他の事をやるには遅すぎるが、達成感のまま眠るにはやや持て余し――そういえば比治山くんがたまには外の空気を吸えと言っていたことを思い出した。
    少し散歩でもしてから部屋に戻ろう。そんな気まぐれで寝静まった拠点施設の外へ出た。

    目覚めた時に既に用意されていた幾つかの施設を繋ぎ合わせるように広がった、庭と称するにはあまりに広い僕たち人類の生活圏。探索組の帰還を助けるために点々と建てた常夜灯の光が日没後でも安全を保証する。
    それはどこか、セクター4の緋衣町を思い出させた。より正確に言えば廃工場へ続く道を。
    似ているわけがないのにそんなことを思うのは僕の知る夜の景色がもっと明るく、或いは灯火管制によってもっと暗く、どちらにしろ人の気配を感じたからだろう。
    ここには誰もいない。
    人が去った夜の工場町と同じだ。
    もうひとつ加えるならば……僕が比治山くんのことを考えている。

    恋と愛。一度胸の内で認めてしまうと、事あるごとに特段の必然性無く彼の言葉や行動を反芻する理由として分かりやすい。
    比治山くんが僕の生活態度を心配していたな。この間の親切、何でもないつもりだろうが嬉しかった。彼はいつも美味しそうに食事をする。
    作業から離れるとすぐこれだ。
    娯楽にも人間関係にも殆ど波風立たない性格を自負しているつもりが、決まって彼のことばかり思い出す。
    出会ってたかが二年と少し、量的には限られるはずなのに些細なことを詳らかに覚えてしまっていて、一晩耽溺していても尽きることはないだろう。こうして遠いはずの風景にまで思い出を紐付けてしまう。

    まぁ、比治山くんは僕の告白を拒んだし、死線を共に生き延びたってその後の生活のことで有耶無耶になってそのままだけど。
    もし何かが違っていれば僕も今頃は他の何組かの皆のような関係を築いて、夜の散歩なんかせずもっと早い時間に寝床に入っていたかもしれない。
    だが、その何かの正体は掴めない。だから他愛ない一言から得た彼の気持ちを反芻するに終始する。
    不毛ではないさ。今のところ最良だ。成就だけが全てじゃない。そうだろう?

    星を見上げる習慣は無くとも他に何もないならそんなこともする。雲の薄明るい幕の先に二つの月がある。
    デスクワークに凝り固まった首と肩を伸ばして空気を吸い込む。身体的な気分が整う。
    たまに外の空気を吸った方がいいというのは確かに正しい。モニタと向き合って忙しなく動かしていた頭のネジが穏やかに緩んでいく。
    益体のない物思いよりもずっと簡単に。
    そう遠くまで行く気は無いし、そろそろ戻って眠るべきだろう。就寝時間が遅いことにも小言を言われている。全く君は僕の何なんだ。

    「……あれ?」

    遠く、視界に入った見慣れた人影に思わず時刻を確認した。作業を終えた時間からそう経っていない、深夜。いつもならばもう眠っているはずの今、どうして彼の姿があるのだろうか。
    僕が彼を見間違えるはずはない。
    常夜灯二つ分の先、光の途切れそうな暗がりに比治山くんは立っていた。近づくならば小走りになるような距離、確かそれより先は何もない僕たちの広大な庭の終端。
    もちろん幽霊なんかじゃない。

    意識的に歩速を変えないように注意して近付く。
    徐々に比治山くんの様子がはっきりとしてくる。顔を上げて空を見ている。山の稜線を眺めているのかもしれない。
    僕と同じく夜の散歩か、だが、その手が固く握られているのが見えて足を止めた。
    近付いてはいけない気がして、倉庫の影へ身を隠す。

    角度が変わったことで少し顔が見えた。
    生活の中では殆どしない、何かを遠く思い詰めるような真剣な表情。防衛戦の最中にモニタ越しに見たものと同じ。
    比治山くんは本当に分かりやすい。
    あれは、故郷を思う男の顔だ。

    「……約束、守ってないな」

    結局、僕が比治山くんを連れて行ったのはダイモスの侵攻によって変わり果てたセクター5だった。確かに僕たちは最後の戦いを終わらせて生きるべき世界を得たけれど、彼の本懐である故郷は成す術もなく滅ぼされたと言っていい。仮想世界の中とはいえ、それが全てだった時間は現実と同義であると理解するつもりだ。

    あの頃の僕はまだ世界の真実を知らなかった。けれど、彼の望みが果たせないことを知っていて約束を口にした。
    今更だけど「何でも」なんて言ったのにはいくらか罪悪感があったからだということにならないかな。終末を越えた先の展望は僕になかった。比治山くんが桐子に惚れていたから、という打算と侮りが僕にそれを言わせた。
    忘れていいはずの約束が忘れられない。

    「何でも言ってくれればいいのに」

    部屋に戻るために僕は比治山くんに背中を向けた。
    もし何かが違っていれば傍に寄り添うこともあったかもしれない。だけど今の僕にそれをする資格は無い。掛ける言葉を持たないし、仮に何か言えたとしても彼の目を故郷から僕へ奪うものに過ぎないだろう。
    そんな愚かな言葉しか知らない。

    星空を仰ぎ見て歩く。これは夜の散歩で、だからつい君のことを考える。望まれて愛していると言えたら簡単なのに。


    2023.09.24
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