俺と恋仲の方は自分の上官で、年下で、そして人間ではなかった。街から離れた森の中、澄んで池底まで見えそうな綺麗な水の池がある。雪の山道を踏みしめながら二人で辿り着いたいつもの場所に、少尉はなんの躊躇いもなく軽々と地面を蹴って飛び上がると、軍服のまま冷たい池へと飛び込んでいった。バシャリと大きな水音がして、ざわざわと広がる波紋と驚いて逃げていく小魚達。ちゃぷちゃぷ。水面が揺れる。そして暫くするとしん、と池の表面は静かになって、そろそろか、と自分が思うと同時に水底からきらきらとした眩しい光の塊が飛び出してきた。
まばゆい程の金色。
黄金と同じ色をした艶やかな下半身は魚の尾であるが、上半身は健康的な褐色の肌に前を寛げた軍服が水を吸って色を変えている。
「……相変わらず、眩しいですね」
水と光、全てが彼の味方のような。豪華絢爛な金色の錦鯉。半人半妖の少尉は池の縁、俺の足元すぐの場所にまるで湯船にでも使っているかのように、地面に頬杖をついてこちらを見上げていた。
「せめて美しいとか艶やかですねとか言えんのか」
「すみません」
素直に謝ると可笑しそうに彼は笑った。金の鱗はまるで一枚一枚が丁寧に貼られた金箔のよう。その先にある尾びれの部分は半透明で、まるで虹のように光り輝いている。
池のほとりに座り込む。ぱしゃ、と少尉の尾びれが悪戯に俺に水をかけてきて、何するんですかと抗議する。そんなびしょ濡れの俺をみて何が楽しいのか子供のように笑う彼は、いつものクセはあるが肝の座った薩摩隼人ではなく、年相応の無垢な青年にみえた。
これが、たまに出来る二人の逢瀬である。
敷布の合間を泳ぐ貴方は雄々しくて獣のようなのに、水の中ではまるで子供のようですね。そう思ったことを口にすれば、人魚の血を引く少尉殿は少し考えるように黙り、そして「もしかして今のは夜の誘いか?」と真剣な顔をしていうものだから、俺はその辺の雑草を引きちぎってその顔に投げつけてやった。
人と魚、どちらの姿も貴方であるのなら、俺はどちらもお慕いしていますよ、悪いですか。