ビブリオテーカがもたらし春***
ハロー諸君!ロナルドくんにはまだ内緒にしていたが、つい一週間前に、ヨドバツカメラで行われたQS5の抽選にようやく当選したドラドラちゃんだ!
感無量とはこのことで、いったい何度応募したことか……と、これで心置きなくスパイDマンがやれるぞ!積みゲーにしたままでいるのは惜しいからな!そう思っていたのに、トイレから戻ったらなんてこと。
「ヘロー、ドラルク」
どうしてこの人は、いつもタイミング悪く……。
若造がオータムで詰め込みだと聞いて、1週間前にようやく──ようやくだぞ!抽選が当たったQS5で!積みゲーをやろうと思ったら、突然のお祖父様の訪問。突然現れるのはいつものことだけど、トイレから帰ってきたらコントローラー握ったお祖父様がいるなんて、誰でもスナァするわ。勘弁してください。
さて、突然の訪問の理由だ。お祖父様に尋ねると、庭に増えてきて困っているセンニチコウのおすそ分けと言ってきた。渡された小さなプランターには、紫とも赤ともとれるような色の、かわいらしい花が咲いている。そりゃ吸血ウツボカズラを嗾けられるよりは、よっぽどマシだが。どうするんだこれ。
「これいいね、新しいヤツ」
しかしわたしの心配はどこ吹く風。お祖父様の目はすでにQS5の方にくぎ付け。仕様を聞いてきたということは、厄介なオンラインに巻き込まれる可能性が大きいぞ!と内心焦っていたのだが、今回はそんな予定の話は出なかった。非常に面倒くさいからな。まあそれにしたって、どういう仕組みなのかはわからんが、おそらく新しいQS5が後日すぐにお祖父さまの手に渡ることになるだろう。
QS5といえば、前に幻のQS1000万モデルをもらいに実家に帰ったことがあったなあ。デッドオアデッド逃走中をやらされて。QS5を眺めてるうちに、わたしはそんなことを思い出した。逃走中?ヤバイヨハザードの間違いだわ。
しかしまさか、お祖父様の部屋の先に、あんなに大きな図書室があったなんて……。ハリーポッター二巻さながらの展開だ。厳密に言うとお祖父さまのものではなく、ご友人のものだと聞いた。だが、あんなに大きな図書室をもらったお祖父様のご友人って、いったい誰だったんだろう。
お祖父様は答えてくれなかった。ただ、「お前にもいつか、お前を必要としてくれる誰かが現れるよ」。帰り際にわたしにそう言っただけで。
その言葉の意味もさっぱりだったので、わたしはお祖父様に聞いてみたのだ。
あれは誰のことですか?と。
だけどお祖父様は、やはり詳細なことは教えてくれなかった。
「もう答えは出ているだろう。ドラルク」
静かに、少しだけ嬉しそうな声で、そう言うだけで。
それがわからないから聞いているのですが……。何度そう言っても、お祖父様はただ目を細めるだけで。
心当たりがある?いや、ないな。少しもわからん。本当に?いや、でも。もしかしたら……。
「お祖父様のそれは、旅行先の飲み友達ですか?」
そして。それを聞いて口の端を少し持ち上げたお祖父様は、瞬きの間に蝙蝠の姿になって、窓から出て行ってしまったのだった。
あれが、お祖父様なりの答えだったのだろうか?と思ったが、わからんひとだからなあ。うーん、本当に何しに来たんだか、まったく……。
するとそんなことを思ってる間に、騒がしい足音と共にあー腹減った、という若造の声が聞こえてくる。
「ドラ公、これ何?」
あーあ、まったく。息をつく暇もくれないのかね、この五歳児は。
「ちょうどよかった。きみにやる」
置き場所にも困ってたし。この花はロナルドくんのデスクに置いてやるとしよう。ゴリラパワーですぐに枯れてしまいそうだが、歩き回る花よりはよっぽどマシだ。
スパイDマンはお預けになってしまったな。
飯!というアホルドくんのうるさい声を背中越しに聞きながら、わたしは夕飯の支度をするために狭いキッチンへと向かった。
***
吸血鬼と退治人が共に暮らす世界をひとり見つめていたセンニチコウは、それがとても嬉しかったので、ゆらゆらと動きながらかの竜の真祖に代わり、彼らの未来を祝福したのだった。
おしまい