Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    memetaru_joka

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 2

    memetaru_joka

    ☆quiet follow

    流三です。
    支部にあげた「わたしはあなたの」っていう作品

    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19892164

    の6話目?の三視点です。
    ※本編読んでないとわけわからんですきっと。
    三、お誕生日おめでとう。

    あなたはわたしの B面 ポストに入っていた見慣れない封筒を睨み、三井はしばし難儀した。
     2年前、かなり手痛い別れ方をした男からの便りである。
     中を見てしまったが最後、かなり精神衛生上良くないことが起こるに違いないと思えた。いっそ見ずに捨てるかという考えが一瞬浮かばないでもなかったが、すぐに霧散した。それだけはありえない。この便りを寄越した相手をなんだかんだ三井はとびきり深く愛していたし、その感情はあの2年前の別れの時から、否、そのずっと前から、1ミリも変わってないのだ。
     開けるしかない。だが、どうしたってそれにはそれなりに勇気がいる。どんな言葉が出て来たって、三井には受け止めきれる自信がなかった。たとえばそれが透明で一才の情を乗せない当たり障りのない挨拶であったとしても、それにさえ傷つく自信があった。感情の乗った言葉なら尚更だ。自分で振っておきながら、身勝手だという自覚はあった。
     2週間放置して、ある日くだらないバラエティ番組を見ながら夕飯を食べ終えた時、何となく「開けるか」という気分になったので開けた。テレビではタレントのペットがスタジオで嬉ションして大騒ぎになっている。可愛い。ハサミで端を切り、何でも出てこいと恐る恐る中を改めると、細長い紙が一枚ペロリと出て来た。それだけだった。何度も封筒を振ってみたが、三井が恐れたような言葉はどこにも一つも無かった。
     紙は、NBAの観戦チケットだった。


     2年前、聞こえなかったふりをしてずっと見ないふりして来た流川の好意に無理矢理向き合わされ、結果手酷く振った。その後流川からの連絡があったわけではないが、万が一にも話したくないと思って一方的に全ての連絡を絶った。
     そのくせ、流川と過ごした部屋だけは捨てられなくてしがみついたままだった。
     だから、住所さえ分かれば出せる手紙が唯一の連絡手段ということになる。しかし、この部屋にいるのがもう俺じゃなかったら大問題だぞとなんの言葉添えもない不器用な封筒を睨んだ。まぁ、実際言葉があったら三井は更に3週間ほど頭を痛めていたかもしれないのである意味正しい判断だったとも言える。
     さて、観戦チケットだ。
     連絡を絶った割に、この男の動向を三井はしっかり把握していた。というのも、三井の生活の大部分を占めるバスケというものにおいて、この男の目覚ましい活躍っぷりときたら目を逸らし続ける方が難しかった。専門誌から一般的なスポーツ誌、エンタメ系雑誌、新聞はもちろんテレビでも取り上げられるようになったのは、プレイだけでなくその麗しい見目の影響も多分にあったに違いない。何はともあれおかげで三井はどんなに目を逸らそうとしても嫌でも視界に入ってくる気まずい後輩の動向をよく知っていた。チケットは、こいつのNBA初舞台だ。三井は、心臓のあたりがずんと重くなるのを感じた。
    「会いに来て」
    と言われた。
     その声の質感を、今でも覚えている。思い出すだけで、胸がヤスリでもかけられたように削れて痛む。あんな可愛かった流川が、向こう行ってからはいつだって会いに来る方だったはずの流川が、言うようになった。それは三井にとって必ずしも嬉しい成長ではなかった。あの時も逃げ出したかったのを覚えている。
    「遠いからな」
    結局、そんな言葉で三井は逃げたのだ。まぁ、逃がしてもらえずその後も醜い泥試合が続き、そこで負った傷を三井はいまだに引きずっている。無論、負わせた傷の方がでかいが。
     さて、どうしたものか。
     片方の三井は、行けるわけねえだろと叫んでいた。忘れたのかよ宮城の言葉。思わせぶりな態度取るなって。ちゃんと振ってやれって。
     それはもうやっただろ。と、もう1人の三井が反論する。そうだ。ちゃんと振った。それにあれからもう二年も経った。あいつは世界の舞台に立っている。あの頃とは違う。もう時効だ。
     それもそうだと三井は思う。
     何よりも、“何も無かったら”行っていたはずだと思った。絶対に。迷うことなく。何があっても。全力で走って行って、声が枯れるほど叫んだに違いない。
     三井はずっと、“何も無かった”ことにしたかった。流川はさせてくれなかったが。あんなことで流川を応援できなくなるのはおかしい。
     結論が出たのは、チケットに記載された日付の5日前で、慌ててチケットを買うことになった。

     あんなに覚悟を決めていたのに、直前になってまたぐずってしまい、見慣れぬ土地で迷子になったこともあって、試合前のアップから第一クォーターまでを見逃すという大失態をおかした。同じく会場にいた宮城に助けてもらって事なきを得たが、ここまで来て見れませんでしたはないよなと苦笑した。
     流川の出番は、第四クォーターで来た。
     周りに比べるとまだ少し華奢に見えるが、当たり負けなんかせずにがんがん攻めていく。すげえな。本当に、たくさん練習したんだろうなと思うと、何故か胸に熱いものが込み上げた。あの頃とは違って、俺の居ない場所で、俺以外の力で、俺には見えない形で、どんどん成長していく流川。何故か瞬間、三井はバスケの神様を呼んだ。ありがとう神様。流川を愛してくれて、ずっとずっと見守ってくれて、ありがとう。

     試合終了3秒前。流川に、再びボールが回った。
     会場中の空気がビリビリと張り詰めるのを肌で感じながら、汗でびしょびしょの手を膝の上で祈るように組んでぎゅっと握り込んだ。心臓が壊れそうだ。
     流川の前にはガードが3人。
     フェイントをかけ、ガードがそれに反応した瞬間、流川は後方に跳んだ。
     流川の指から、ボールが離れる。
     そのフォームに、見覚えがあった。
     3P__。
     瞬間、走馬灯のように時間が凝縮される。
     2年前。公園。夏。日差しの眩しさ。汗。鼓動。流川の、目、声、体温、痛み。
    「誰が仕込んだと思ってんの」
    「先輩のシュートが決まったら俺と付き合って」
    「だって、俺は外さねえ」
    「俺なら外さねえ」
     そうだ、あの時あいつ、打たなかった。最後の一球。
     流川なら、外さねえ。

     喉が震えた。張り裂けるんじゃないかってくらい。心臓から直接飛び出るみたいに。
    「流川!!」
     わけのわからない涙が溢れた。
     全部。これまでの全部。この一瞬、あのボール、あの指先に、凝固してる気がした。
     流川お前、本当にずっとカッコいいな。

     パスっと、リングを潜る音が、聴こえるはずのない位置にいたのに、聞こえた気がした。2年前の亡霊による幻聴かもしれない。でも、確かに三井には聴こえた。
     目から溢れ出続けるものを止める術もないままに、会場は喝采に湧いた。

     当然、ヒーローインタビューのカメラは流川に集中した。
     適当に何やら返しているようだが、英語がまだまだ疎い三井には極めて簡潔な答えだということ以外はよく分からなかった。
     そんな中でも、割り込んだ日本のメディアがかけた言葉だけはよく分かった。
    「試合とは関係ない質問で恐縮なのですが、応援席に一人凄い目立つファンの方がいらっしゃいましたね」
    中央にぶら下がった電光掲示板に、三井の顔が大写しになる。待てこら。
     大声で流川の名前を叫ぶ三井が晒されたかと思うと、次の瞬間にはまだ目元を赤く染めた現在の三井が映る。おいふざけんな。
     慌てて顔を肘で隠す。流川にばれたじゃねえか。来てること。どうすんだよ。こちとらあれから一度も流川と連絡取ってないんだよ。もしかして、これって結構、いやかなりピンチなんじゃねえの
    「この方はお知り合いですか」
    「差し支えなければ、どなたかお聞かせ願えますか」
    インタビュアーの陽気な声に悪意がないのは誰が聞いても明白だった。しかし、三井は全身にナイフを突きつけられているような居た堪れなさを感じていた。どなたかだって流川に聞くなよ。調べたら分かるだろ。『くっそ生意気な先輩』。なんて、昔の記事が出てくるはずだ。あの時は、そう言われて本当は少し、安心した。でも今は__。今は怖い気がする。何でだろう。流川に、突きつけられるのが嫌だ。あの頃と同じ、ただの先輩。ただの高校の先輩だって。世界に注目されるスーパープレイヤー流川楓、の、先輩三井寿。悪くない。けど、せめて優しい先輩ぐらいには昇格させてくれよ流川。はるばる遠いとこから来てやったんだからよ。
     しかし流川の唇は、三井の思い通りには動かない。いつだってそうだ。

    「好きな人です」

     思わず、流川を見た。カメラを向いてると思ってた流川は、馬鹿かあいつ、三井を真っ直ぐ見ていた。
     三井の負けだ。あの時の勝負も。8年近い恋煩いも。
     負けでいい。今は流川の望みを、何でも全部叶えてやりたい。とりあえずは、そうだな。いっぱい撫で回して褒めてやろう。
     そんでいつか、言ってやろう。
     俺もずっと、好きだったって。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💗💗💗💗💗💗💗💗💗💗❤😭💗🙏❤👏👏💖💖☺😭👏👏👏😭🙏💖💖💖😭😭😭😭🙏☺💖🙏🙏💒💒💒😍💒💒😭💒💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works