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    memetaru_joka

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    memetaru_joka

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    【流三です】
    ありがたくも白井米さんとのお題交換で書かせていただきました❗️ひぃ光栄恐悦至極
    “ダメな女に引っかかる三井の彼女をことごとく奪って行きながら流の別れ話を聞いてあげる流のお話”です❗️性癖すぎ。最高。
    こんなに素敵なお題なのにみるみるうちに流君の愛が暴走しちゃって、作者は悲しいです。めっ!

    Steal!「おい流川、お前週末暇か飯付き合えよ」
    嵐のように飛び込んで来た先輩に、流川は小さく眉根を寄せた。
    「…ワンオン」
    「おう、やってやるから飯付き合え」
    乱暴な口振りに黙って頷くと、先輩は「よし」と睨み付けるような目で流川に拳を突き出した。拳を合わせ、流川は胸に溜まる複雑な気持ちを飲み込んだ。
     こういう時の先輩のプレイは、責め気満々で楽しい。それは良い。問題は、飯の方だ。何と言われなくても、流川には十二分に何の話をされるか見当が付いていた。
    「ぜってえ負けねえ」
    「おう、かかって来いや」
    勇ましくボールを掴んでコートに入る先輩の背中を、流川はとびきり恨めしげに睨み付けた。
     
     週末。流川が連れて来られたのは、男子高校生が部活後に連れ立って入るにはあまりにも軟弱なパスタ屋だった。
     白いペンキで塗られた木製の可愛い看板に、心臓の底に砂のようなものが溜まる感覚を覚える。不快なもので全身が満ちていくのに、流川は逃げ出すこともできなかった。不愉快の原因も、逃げ出せないことも、同じ一つの感情に起因していた。感情の源泉である目の前の男は呑気に電飾の付いた扉を開けてパスタ屋に入って行くから、本当に吐き気がする。流川は溜息を吐いた。
     恋愛に向かねえ。
     流川は、己をそう評価する。噂によると、恋愛とはサイコーなもので、煌びやかで甘くてお菓子のように楽しくハッピーでたまにちょっとほろ苦いらしいが、三井寿を見るたびに流川は「話が違うな」と思うのだった。世間一般で言う恋愛がそういうものならば、自分はきっととびきり恋愛に向いてないのだろうと思う。眉根を寄せながらメニューを見て「たりあってれ…何か楽しそうだな」と呟く男にもう一度ため息を吐いた。「たりあてっれ」だどあほう。
    「流川は」
    「ミートソース」
    「お前、もうちょっと真剣に考えろよ」
    ちょっと睨み付けられるが、照れ隠しが目に見えてる。悔しさをぶつけるようにオレンジジュースに刺したストローを噛み潰した。
    「真剣」
    「あっそ」
    興味を無くしたようにメニューに向き直る先輩に、流川は今日来たことを後悔し始めた。
     でも、何度後悔しても、すると分かっていても、どうしても来てしまうのだ。
     流川楓はこのしょうもない先輩、三井寿に己の心臓を全部任せてしまうぐらいにぞっこんだったから。この後されるのが大抵三井寿のとびきりしょうもない恋愛相談だと分かっていても。


     最初に呼び出された時、まだ流川は自分の気持ちをちゃんとは理解できてなかったのだと思う。奢ってやるから飯食うぞと言われてのこのこついてって、変なカフェに連れ込まれて凄く少ないカレーを食べた。おかしいだろと思って不服を申し立てると、先輩は照れくさそうに白状しやがった。
    「彼女できてよ。その…予行演習」
    「は」
    「デートすんの。で、リードしてえじゃん」
    女子ってこういう店好きなんだろでも俺あんま知らねえし。とぶつぶつ言う先輩に、流川はぐらぐらと胸の辺りが煮え立つのを感じた。何に付き合わされてんだよ俺は。
    「お前は飯が食えてラッキー、俺は予習できてラッキー、ウィンウィンだろ」
    「ウィン」「ウィン」と顔の横でダブルピースする先輩が口を尖らせるのを見て、流川は確かな怒りの出どころにたどり着いた。この、くそ自己中で横暴でどあほうで意外に真面目でくそ可愛い先輩が、他の誰かの物になるのなんてありえねえ。先輩を奪うものがあるならそれはただ一つ、バスケであるべきだ。恋愛なんてしてる暇ねえだろあんた。
    「彼女さ、結構こだわり強いタイプなんだよ。たまには洒落た店連れてけって言われててよ」
    ふーんと聞き流しながら、腹の底にどろどろとしたものが溜まっていくのを感じた。カレーではない。流川がその感情の名前を知るのはまだもうちょっと先だ。
     そっから30分、彼女の惚気なのか愚痴なのか分からない話をだらだらと聞かされた。「遅刻は当たり前」「飯は全部先輩の奢り」「一緒に居てもずっと携帯見てるし」「元カレと常に比較される」「自分を常に優先してもらえないとキレる」
     先輩によると、「それでも許せちゃう」が愛の証らしいが、どう考えたってやめとけでしかない。許せちゃうんじゃなくて、どうでも良いだけなんじゃねえのと突っ込んだら悩み始めたから違いない。
     前髪を切ったことに気付かなかったら「サイテー」と言われて口を聞かなくなり、ほとぼりが冷めるまでとそれを放置したら更に3日間ほど罵詈雑言の嵐だったらしい。ウケる。何で別れねえんだよ。
    「別れろよ」
    つい、口に出ていたらしい。先輩がキョトンとした顔で見つめてくるのを見て、漸く流川は己の失言に気付いた。先輩の顔がにたぁ〜っと歪む。うざ。
    「何だよ流川、嫉妬かお前は選びたい放題だろ」
    「違う」
    「正直に言って良いんだぜ。めんどくせえ彼女に振り回されるのが羨ましいんだろ」
    な訳あるか。めんどくせえのはあんただろ、と言おうとして、流川は気付いた。
    「…嫉妬、かも」
    ここだ。
    腹に溜まったどろどろの名前を、流川はようやく認知した。
    「急に素直だな。可愛いやつ」
    先輩がサラダのきゅうりをフォークで刺し、流川に向けてアーンしてくるのでそれに噛みつく。きゅうり押し付けんな。
     ゲラゲラ笑う先輩に、悔しさが募った。
     楽しそうに目を細める先輩は、ガラス窓の取り込んだざらざらの陽射しを受けて光って見える。
     流川は思った。
     先輩を奪って良いのは、バスケだけだ。そのバスケは、流川のものでもある。つまり、この先輩に触れて良いのは、誰よりも流川であるべきだ。
     この乱暴な暴論を、後に流川は恋と名付けた。

     出だしがこんな有様だから、流川は何かを間違えたのかもしれない。あるいは、もともと暴力的な解決に造詣が深かったとも言える。恋をすると自分の醜さがよく分かると、昔姉が言っていたが、なるほどそうかもしれない。
     先輩との全然足りないランチタイムのあった翌週、雨の降った火曜日、どんな巡り合わせか偶然流川は昇降口で"先輩の彼女“に出会した。長傘がないらしい彼女がうんざりした顔で鞄の底を漁っているのを見つけて、流川は思わず「あ」と声を出してしまった。
     流川の声に反応して顔を上げた彼女は、「やだ流川くん!」何て黄色い声をあげて髪を指でかきあげた。先輩の同級生のはずだから、2個上。大人っぽい仕草は明らかに色を孕んでいた。前髪を整える仕草に、流川の中で苛立ちと呆れが湧き上がった。何してんだこの女。
    「傘、無いんすか」
    「う、うん」
    「駅まで、入ります」
    女の顔が一瞬で輝いて、流川は舌打ちを飲み込んだ。天気予報は午後から土砂降りの予報。分かっていたから流川だってチャリを置いてきた。話しかけといて何だが、この女頭悪いんじゃねえのと自分だって人に言えないようなことを考えた。先輩の女のくせに、簡単に俺に媚びてんじゃねえよという思いが、流川を突き動かしていた。
     わざとらしく傘の中で肌を寄せてくる女に、流川は嫌悪感を抱いた。女が高い声で流川の試合を見たと囀って来るのも苦痛だった。その試合での先輩の3Pは見事だった。何見てたんだよこいつはと、苛立ちが募った。
    「あんた、先輩のこと好きなんじゃないの」
    感情を苛立ちに任せていたら、自然と声に出ていた。女は流川の苛立ちには一切気付かないようで、呑気にキャハッと笑った。
    「何のこと」
    「あんた三井先輩と付き合ってるだろ」
    「うん、でも流川くんの方が好きかも」
    「じゃあ先輩とは別れてよ」
    先輩返せよ。俺に返せよ。流川の怒りは正しく伝わらなかった。
    「えっそれってもしかして、流川くんが付き合ってくれるってこと」
    「は」
    何だこの女。どういう思考回路なんだよ。流川の理解を置いて女はベラベラと捲し立てた。これが良くなかった。
    「だったら全然別れるんだけど!ちょっと顔いーかなって思ってだけだし」
    「あっそ。じゃ、別れて」
    流川はもう女を理解することを辞めていた。どうせ聞いても分からないし、別に分かりたくもなかった。大事なことはただ一つだった。この女が「別れる」と言ったこと。それが流川にとって最も重要なことだった。
     はしゃいで早速先輩に連絡を入れ始めた女に、流川は内臓が捩れるような思いがした。傘を叩く雨が全部涙みたいに感じた。何でこんな女なんだよ、先輩。こんな女に振られるなんて、許せねえだろ。振られたことに、傷つかなければいい。傷つく価値もないし。でも、もし傷ついていたら、そばに居たい。癒すものは自分でありたい。
     複雑な感情に内臓を掻き回されながらも、流川はじわじわと指先に血が通っていくのを確かに感じていた。
     先輩が返ってくる。
     こんな薄暗いものを成功体験と呼んでいいものかどうかは分からないが、流川にとっては間違いなく良い結果であった。過程がどうあれ、結果は全てだ。

     結局1週間どころか、3日も持たずに流川はその女を振った。最低な女だとは思っていたが、別に傷つけたいわけじゃないし。バスケしたいし。ただ先輩から離れて欲しかっただけだから。俺は先輩とバスケするのに忙しいから。
     何かめちゃくちゃに喚き散らされたけど、流川の心には一言も響かなかった。流川を責める女の声を聞いている間も、3日前に聞いた先輩の「流川ぁ〜振られた〜」という泣き声を反芻していた。「良かったすね」と言ったらペシっとおでこを叩かれた。思い出して心臓がキュッと縮んだ。本当に良かった。これで良かったのだ。


     しかし、流川の安寧はそう長くは続かなかった。というのも、三井はまあまあモテる上に、どがつくほどの寂しがり屋なのだ。前世はうさぎだったに違いない。前世出会っていたら飼ってたのに。バスケ出来ねえから今の方がいいか。兎に角、三井はすぐに彼女を作ってしまうのだ。
     流川は、失敗からも成功からも学ぶ。学んで、より良い方向へ改善していく。
     それ自体は、客観的に見ても流川の良いところであった。ただこの場合において問題があったとすれば、そう、あの成功体験だった。それから、三井が振られたばっかの自分に告白してくるような軽率な女にホイホイ引っかかっていくのも問題だった。そうでなくとも、流川に勝てる女なんて碌にいないだろう。つまり、三井に彼女ができる度に流川が彼女にモーションをかけて三井を取り戻す→凹んだ三井を流川が慰める。という、大変不健康な生産ラインが組み上がっていた。
     流川は先輩が悪いと言う。
     変な女に引っかかる先輩が悪いと。だが、それは疑問だった。きっとどんな女が来たって、流川は先輩を奪うためにあらゆる手を尽くしたに違いなかったからだ。そんなことには流川自身、まだ気付いていないようだが。
     
     で、今日はあれから3人目の女の愚痴と予行演習の会になる。いい加減懲りろよどあほう。流川は眉根を寄せながらミートソーススパゲッティを口に運んだ。先輩は楽しそうな名前のパスタを不可解そうに食べている。可愛い。
    「___って聞いてんのかよ流川」
    「ウス」
    全然聞いてなかったが、反射的に勢いよく返事を返すと先輩は不服そうに顔を顰めた。
    「なんでこんなに振られるんだよ俺は」
    「さあ」
    「いっつもおんなじだぜ。他に好きな男ができたって」
    流川は返事の代わりに黙ってパスタをもぐもぐと噛んだ。おしゃべりな三井は流川の返事がなくてもベラベラと話し続ける。
    「俺これでもそこそこいい男だと思うんだけどなぁ」
    「先輩はいい男っすよ」
    「だよなぁ!」
    途端に目を輝かせて身を乗り出してきた先輩の口の端についたソースを、流川はそっと親指で拭った。途端に顔を赤らめて照れくさそうに顰めっ面になる先輩に心臓が跳ねる。
    「分かんない女の方がワルい」
    「おう、ありがとよ」
    先輩はまだ照れくさそうに口を尖らせていた。うん。やっぱり凄く愛しい。
    「そういやお前は意外と俺との待ち合わせには遅刻しねえよな」
    パスタをぐるぐると巻きながら、先輩は不意にこんなことを言い出した。
    「ウス」
    律儀に頷く。
    「食事中に携帯開かねえし」
    「ウス」
    「何なら一緒にいる時ずっと携帯開かねえし」
    「ウス」
    「何食っても美味いって言うし」
    「ウス」
    「なんだかんだ遅くまで付き合ってくれるし」
    スパゲッティを頬張りながら、こくりと頷く。
    「俺の連れてくとこにもなんも文句言わねえしよ」
    トーゼン。ごくんと飲み込みながら、もっかい頷いた。
    「お前、付き合ったら割といい奴かも知れねえな」
    「付き合う」
    「付き合わねえよ」
    瞬殺。なんで付き合わねえんだよ。流川はジトリと先輩を睨んだ。
    「俺今彼女持ちだからな」
    「どーせすぐ別れる」
    「呪うなよバカ」
    笑いながら腕を伸ばして流川のでこにデコピンかましてくる先輩に、流川は口を尖らせた。これまでの彼女達は流川が一声かけただけで簡単に別れてくれたし、付き合ってくれたというのに。
    「…ままならねぇ」
    「全くだよ」
    なんか勘違いしてる先輩に苦笑する。でも負けねえ。俺が一番先輩に相応しいから。
     
     予行演習にかこつけて可愛い後輩とのデートを楽しむワルい先輩が、怖〜い後輩に押し切られるのは、もう少しだけ先のお話。
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