よこがお講義が終わり、夕陽が傾いていく時間帯。寮に着くまで、同じ青獅子の学級の学友であるアッシュと一緒に帰っているところに、少し悲しそうな顔をした彼が口篭りながら、沈黙を破った。
「ねぇ、さっきはイグナーツと何を話していたの。」
私は彼がどうしてそんな悲しそうな顔をしているか分からない。なにかイグナーツとの会話で彼を不快にさせてしまったのだろうか。
少し、気が重いけれど私も沈黙を破る。
「彼の描いた絵を見せてもらっていたの。」
それだけを答えると、アッシュは悲しそうな顔から少し苛立ちを覚えたような複雑な表情をしていた。ガルグ=マクでは寮に住むといった形になるっているが、実家ではほとんど屋敷の自分の部屋にこもりきりで、同い年の友人と話すのがとても楽しいことだと知ってしまって、彼はその事があまり気に入っていないようだった。アッシュは私の弱々しい返事に対して思い切ったように言葉を紡いだ。
「カスパルは鈍感だから、自分の気持ちに気が付かないかもしれないけど…。」
怖い、それ以上言わないで。それ以上は聞きたくない!
「イグナーツは絶対君のこと、女の子として好きだと思うよ。」
「そんなわけ…!」
思わず言葉が飛び出してしまったが、これ以上何を言えというのだろう。私の手を無理矢理掴んだアッシュは紡いだ言葉を更に紡ぎ出す。
「全部、君が気づいてないだけだよコレット。」
掴まれていた手はいつの間にか彼の、私より少し大きい両手に包まれていた。
「それに、僕だって男だ。君のことを女の子として好きだよ。」
「…ご、ごめんなさい。私はアッシュのことを大事だと思っているけれど、友達としての大事という意味で…。」
逆光で彼の表情は見えなかったが、きっと怒っているのだろう。早くこの場から去りたい。私は逃げるように手を振りほどいて、自分の部屋まで帰った。
「まだ、仕方がないか。でも、コレットの心の何分の一かを占められるだけでも、僕は嬉しいよ。」
夕陽が沈み、辺りが暗くなってからポツリとアッシュは呟いた。