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    花式 カイロ

    @arisaki_hspr

    自創作本編とは1μも関係のない怪文書と、自創作の小説を投げつけるだけの場所です。
    あとちょっとセンシティブな絵も載せようと思う。

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    花式 カイロ

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    モノ君十四話更新です!かなり重要な情報が出てくる回

    出演メンバー
    ・ヴァイス
    ・ディアン
    ・スティル
    ・ノワール
    ・ニーファ

    十四話 こういう体 忙しく流れていた時は嘘のように静まり返って、この場にしっかりと己の足で立っているのは大型異形のみとなった。爪に多量についたヴァイスの血を気にすることもなく、異形はあたりを見渡している。もう息をしていない仲間を数秒見つめて、そうしてこの場から立ち去ろうとした。
     その時、先程まで地面に伏せって死体と成り果てていたヴァイスが体を起こした。体の裂け目から血を滴らせながら、ゆっくりと立ち上がる。ヴァイスは異形と同じように、自分の足でその地に立っていた。
     異形は目を見開き、信じられない出来事にでも遭遇したかのような顔をする。それを見て、ヴァイスは思わずあははと笑った。
    「仲間意識が強い、だけじゃなく……表情も、豊かなんだね。っ、ごめんね……僕、こういう体・・・・・なんだ」
     喋る度にヴァイスの口からは血液が溢れてくるが、それらは地面に落ちる前に消えていく。血の雫が一滴ずつ落ちる度、細氷が包み込むようにしてまるで最初からなかったようになっていく。異形の爪を濡らしていた深緋こきひも、地面に飛び散った鮮血も、同様に氷に攫われるようにして消えていった。異形はそれに気付いて腕を思い切り振るが、その現象に攻撃性はなく、行動は無意味なものへと終わった。
     ヴァイスの体は、つい先程までの状態が嘘のように元に戻って・・・・・いた。

     再生。それはヴァイスが持つ特異体質。いつからこんな体質だったか、などということをヴァイス自身は覚えていない、知らない。確か自覚したのは教育が始まってすぐの頃、紙で指を切ってしまった際にその傷が瞬時に治ったことからだった。発覚した時はそれはもう身内間で大ごとに、ということは置いておいて。
     この体質が研究者による人為的なものか、それとも成長段階で何らかの変異を起こしたのか。どちらにせよヴァイスは幼い頃から、それこそ物心がついた時からこの特異体質と共に生きてきた。だからヴァイスは誰よりも分かっている。この程度では自分が完全に死に至ることはないということを。この程度の怪我では、大事になどならないことを。

     時が巻き戻ったかのように戦闘開始時点のまっさらな状態に戻ったヴァイスは、気怠げに地面へと落ちていた片手剣を拾い上げる。ブンっと一振りして剣に異常がないことを確認し、今も尚硬直状態のまま戻ってくることができない異形を見やった。
    「そろそろ、終わりにしよっか」
     峰を敵へと向けて、ヴァイスは無邪気に微笑んだ。些細なことでも勝敗を決さんとする幼児のようなその笑顔は、それよりもずっと大きい異形の体を震え上がらせた。
    「グルゥァァァァァ‼︎‼︎」
     半狂乱のように叫んで異形はヴァイスに飛びかかる。無駄の多い大ぶりな動作、混乱からか周囲の状況も確認しないままの特攻。先程まで見せていた知性はどこへ行ったのやら。
     ヴァイス小さく溜息を吐いて、異形の攻撃をひらりと交わす。体の小ささを生かして懐に入り、そして、そのまま。

     頸を切られて倒れ込んだ異形を見ると、改めてその大きさがよく分かる。こんなのをよく単騎で討伐したものだと、ヴァイスは自分自身を労った。後片付けをして、その後にディアン達の様子を見に行こう。そう思いながら足を進めようとして、ヴァイスはふらつきどさっとそのまま膝をついてしまった。
    「っ、ゔぅ゙、っぐ……い゙っ、あ゙ぁぁ……‼︎」
     心臓あたりを押さえて苦悶の声を漏らす。地面についた方の手を強く握り締めた。地面を数ミリ抉るまでに力は込められ、それによって礫がヴァイスの手を傷つけるがその傷も瞬時に消えていく。瞼を狭めたことで悪くなった視界の隙間から、ヴァイスはその光景を痛みを紛らわせるように見つめていた。
    「……っ、はぁ! はぁ、はっ……」
     そのうちに痛みもマシになっていき、ヴァイスはのろのろと体を起こす。額にじわりと滲んだ汗を拭って、一際大きく深呼吸をした。右手を強く心の臓に押し当てる。生々しく命を感じさせる鼓動が、まるで直に触れているように伝わってきた。気持ちが悪い。この身で感じた痛みと、傷の一つもない今のこの体。釣り合わない情報に苛立ちを覚えながら、ヴァイスは再び立ち上がった。
     ヴァイスの再生は大抵の怪我なら治してしまえる対応能力はあったが、それでも万能ではない。その名前の通り、再生の能力のみを持っているだけで、痛覚を消してはくれないのだ。怪我の程度にもよるが、ヴァイスはこの能力を行使しても体が感じる痛みから逃れることはできなかった。
    「本当、嫌になるなぁ……」
     元から血の気が全くないような白さであったヴァイスの肌は、気疲れから更に青白さが増している。怪我の治りを実感するために、左肩から右の腰の上あたりまで指でそっと撫で、そしてそのまま小さな拳を力強く握り締めた。その時脳裏に過ったのは、「僕にとっては大事さ」と宣ったノワールのあの、悲しむような顔だった。

     しばしの休憩を終え、再生を行使したことによる疲労も無くなってきた頃、森の奥へと向かう方から僅かに魔力の揺らぎを感じた。一瞬の間を置き、ディアンとスティルのことを思い出す。
     ——二人が向かった方向だ。
     ヴァイスが感じる程のその大きさは、けれど誰のものかまでは分からない。だがなんにせよ、この状況から彼らも自分と同じく異形と戦っているのだと推測できた。それならば、するべきことはただひとつ。
     トンっと軽い音を響かせて、ヴァイスは走り出した。

     倍速にしたように森の景色がヴァイスの視界を過ぎていく。空気を介して伝わってくる魔力は大きさを失うどころか、ヴァイスが一歩また一歩と進む度にその存在を更に強く主張してきた。
     地面を強く蹴り、ほとんどジャンプするみたくまた一歩踏み出す。それを繰り返していれば、前方から黒く燻んだ実態を持つ熱風のようなものが迫ってきた。いや、熱風のようなものではない。それは実際に波状に広がっていく炎だった。
    「えっ!? ちょ、自然大破壊!?」
     突然の出来事に驚いて、ヴァイスは意味不明なワードを叫ぶ。両腕で防御姿勢を取り、更に自身を取り囲むように氷壁を作り出す。被害が及ぶことを想定していたヴァイスだったが、その炎はヴァイスに辿り着く前に突如として消え去った。ヴァイスは恐る恐る壁の端から顔を出し、前方を確認した。目を細めて注意深く確認する。数秒経っても先程のように炎の波が迫ってくることはなかった。
     一応は安全であると判断して魔法を解き、今度は少しスピードを落として駆け出す。先程ヴァイスを危険に晒したあの炎。その規模と、通常より低い彩度明度で構成された様から、元凶が誰なのかはすぐに分かった。この先にその元凶の人物がいることを確信して、ヴァイスは力強く足を進めていった。
     歩いていくうちに、少し開けた場所に出た。近くに川でもあるのか、僅かながらに川のせせらぎが聞こえてくる。ヴァイスはその場所の中央に、どこか見覚えのある肉塊が転がっているのを視認した。すぐ近くで見ていたわけではないが、その形状から先程ヴァイスが交戦した大型異形と同じものだということは分かる。節々が擦り切られたように傷ついていたり、全身に焼け痕がついていることから気付くのが遅れてしまった。
    「ディアン! スティルー! どこー?」
     高い声を張り上げて呼びかける。木々の隙間を縫ってその声は森に響いていき、反響してきたそれを聞いて、まだ近くにいるならば必ず聞こえるはずだと予想立てた。
    「おーいってば——」
    「あ? ヴァイス? 何してんだこんなとこで」
    「うわっ、そんなところにいたの」
     少し足を進めると、不意にディアンが大型異形の影から顔を覗かせた。ちょうどヴァイスに見えない位置にいたらしい。ヴァイスはびくりと驚きつつ、彼の方へと歩いていく。ディアンの隣には、探していたもう一人の人物であるスティルもいた。ヴァイスが来たタイミングと合わせて彼は顔を上げる。ふわりと弱々しく揺れるアホ毛とは真逆の、凛とした表情がよく見えた。僅かながら、それには困惑も混じっているようにも見える。
    「お兄様、どうしてここに……」
     膝に手を添えながらゆっくりと立ち上がる。ヒールの関係でいつもより目線が上になった彼から、疑念の視線が向けられた。
    「……僕も、戦ったからね。この異形と」
     既に死骸と化して静かに禍々しく横たわる異形に手を添えながら、ヴァイスは緊急事態でも報告するみたくそう言った。スティルの目が見開かれ、アベンチュリンの瞳が大きく揺らぐ。何か言おうと開いた口を閉じ、そして深刻そうに顎に手を当てた。口元に手を持っていくのは、彼の普段からの癖だった。
    「見ての通り、私達も異形と交戦していましたので……その影響で、お兄様の魔力が掻き消されてしまっていたのでしょうか」
     まるで自問するように仮説を吐いた。ヴァイスの意見も大方同じだ。実際に、ヴァイスが戦闘を終えて初めて他の魔力を感じたのだから。そう、その魔力とは例の森を波打って進んできた爆炎の魔法のもの。ヴァイスはゆっくりと、魔法の主を見やった。
    「随分と大層な使い方をされたようで」
    「……木が燃えないよう、加減はしたからいいだろ」
     大仰な口ぶりでヴァイスが言ってみせる。因みに手本は言わずもがなスティルだ。いつも彼がそうしているように後手を組んで、ディアンの方に一歩寄れば気まずそうに顔を逸らされた。なるほど、めちゃくちゃな魔法の使い方をしたことは自覚しているようだ。ヴァイスも人のことを言えない戦い方をしてはいたが、それは一旦棚に上げておく。
    「それより、ですよ。お兄様達はニーファさんを送り届けに行ったのでしょう? そちらはどうなったんですか?」
    「あぁ、それね……」
     いつかは来るだろうと予想していた質問が、ヴァイスとディアンのやり取りを遮って投げかけられた。ヴァイスは、自分達の身に起こった出来事をかいつまんで説明した。

     ヴァイスの話が終わった時、眼前の少年二人は各々異なる感情をその顔に浮かべていた。スティルは相も変わらず複雑そうな表情を、ディアンの方は分かりにくかったが、ヴァイスのことを心配しているのではないかと推察できる表情を。ただヴァイスを含め三人とも、発する言葉がまとまらないのかしばらく黙っていた。
    「……お前、よく無事だったな」
     その沈黙を破ったのは、ディアンの簡単な一言だった。やはりヴァイスのことを心配していたらしい。そんなディアンに対して自慢するようなポーズをとってみせる。誇らしげな笑みを作って、ヴァイスはこう言った。
    「いやぁ僕じゃなかったら死んでたね! まぁ僕も一回死んだけど」
     まるでゲームでの出来事みたく言ってのける。あっけらかんとした口調に対して、ディアン達は若干引き気味の表情を作っていた。
    「洒落になりませんよ、お兄様……」
     彼らはヴァイスの体質のことを知っている。故にスティルの声には確かにヴァイスを嗜める意図は含まれていたが、それでも仕方のないことではあるとでも言うようにどこか諦めたような雰囲気を漂わせていた。
     目を逸らしながらどこか自責するように腕をさする彼を見て、ヴァイスは冗談を言った身で申し訳ない気持ちになる。自身の体質にヴァイス本人はもう慣れてしまってはいるが、恐らくスティルからすればそれも許容し難いものなのだろう。ヴァイスは、眉を下げながら作った微笑みをスティルに向けた。
    「……まぁ、なんともないならそれでいい。とにかく今はさっさとノワール達と合流するべきだ」
     ヴァイスとスティルの間に生まれた重い空気を中和するみたく、ディアンが割って入ってくる。今すべきことを提示しながら彼はその通りに歩き出していた。ヴァイスは失言を取っ払うように慌ててそれについて行き、スティルも足取りは重いながら二人を追いかけた。

    「——ということは、元々あの大型異形が二体いて、子分? を使って私達を始末しようとしたものの、失敗したため自らが前線に出ることに。結果として、現状が出来上がった、ということですか?」
     道中でお互いの出来事を擦り合わせよう、ということになってから数分。ヴァイスの洒落にならない失言によって生まれた微妙な空気は名残を見せないまでに消え失せ、いつも通りの平和な雰囲気へと戻っていた。
     そして話し合いを進める中、三人で一つの仮説を導き出したのだ。それは、「大型異形二体を筆頭に形成された異形の群れが発生し、ファタリアに被害をもたらしていた」という仮説。そこに行き着く中で、各々が浮かべていた疑問にも思考を巡らせて三人で納得する答えを引き出した。

     まず、森に入った際にスティル達が感じた魔力は十中八九、二体の大型異形のものであろうということ。そこから派生の疑問で、何故スティルとノワールは大型異形の魔力を曖昧にしか認識できなかったのか、というもの。事実、四人の中で最も魔力感知に優れているノワールがはっきりと感知出来なかったのだから、それなりの理由があるはず。それに対して一つの考えを述べたのはスティルだった。
    「今回戦った異形は一回も“魔法”を使いませんでした。たまたま使用しなかっただけかもしれませんが、群れの形成のこともありますから、何とも言えません……ともかく、魔法を使わない代わりに、自身の魔力を極限までに抑え込んで感知の目を掻い潜ったのかもしれません。知能は高かったようですし」
     とのことだった。それから念を押すように「私達の魔力感知は、万能というわけでも熟練というわけでもありません」と言っていたので、それも一つの要因として考えた。
     それから、異形を捜索しに行ったスティルとディアンはまだしも、それを目的としていなかったヴァイス達までもが大型に遭遇した理由。これについては運が悪かった、としか言えない。ニーファというイレギュラーがいたことによって、四人が分断されてしまったのだ。あとはそれに異形もフォーメーションを対応させるだけ。生憎、異形側も魔力の感知は可能なためそれが出来るのだ。結果勝てたことは幸いである。
     そして最大の謎である、群れの形成。一応、「狼型の異形だったために群れを形成する習性も似たのでは?」という仮説が一番可能性があったが、それでも理解は出来なかった。
     どこがあっているのかも分からないし、もしかしたら全て間違いかもしれないが、そうして三人は今回相手した異形達と、それに関する疑問に彼らなりの回答を示した。

    「——! 〜〜、……〜!」
     そうして歩いている三人の耳に、何か言い争っているような声が薄らと聞こえてきた。皆一様に首を傾げていたが、声の主にヴァイスはいち早く気付く。
    「ニーファさん?」
    「えっ?」
     ヴァイスの言葉にスティルは驚いたような声をあげる。ここに彼女がいるということは、言い争っている相手は当然ノワールのはずだ。すぐに駆けつけるべきなのだろうが、言い争いの内容が気になってしまったヴァイスはその様子を覗くことにした。ギリギリまで近付いて、そばにあった木の影に隠れる。
    「ちょっとお兄様……!」
     小声でそう呼びつけるスティルに対して、ヴァイスは人差し指を立てて「静かに」とジェスチャーする。彼は不服そうな顔をしていたが、ディアンもヴァイス側に行ったことで人数不利になったため、諦めて同じ行動をとった。
    「酷いですよ、仲間を見捨てるなんて!」
    「いや、見捨ててないけど……」
     予想通り、彼女が言い争っていた相手はノワールだった。ノワールが消極的だったため、言い争いというよりニーファが一方的に彼を責めているような図になっている。
    「もうずっと戻ってきませんよ!? きっとヴァイスさんに何かあったんです! ああ、もしものことがあったら……」
    「あの子は死なないから大丈夫だってば……」
     今日が初対面だというのに、ニーファは健気にもヴァイスを心配する言葉を放っていた。それに対し、ノワールは酷く冷ややかだ。ただ彼もヴァイスの特異体質を知っている人物だったので、仕方のないことでもあった。
     ここは両者のために自分が登場してやるべきだ。ヴァイスはそう思ったが、それと同時に少しの野次馬精神が湧いてくる。悪戯っ子のように笑みを浮かべて、よしと意気込んでから控えめに一歩踏み出した。
    「その見捨てられた仲間っていうのは、僕のことかな?」
     首を傾げながら、わざと棒演技をしているように見せかけて言う。ヴァイスのことを視認したニーファは、薔薇柘榴の瞳をこぼさんとばかりに瞼を開き、口をぽかんと開けていた。そのうちに眉を頼りない程に下げ、その赤紅の瞳を潤わせながらこう言った。
    「生きてる〜〜っ‼︎‼︎」
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    花式 カイロ

    DONEモノ君十二話です!お久しぶりのネームドキャラ登場!

    出演メンバー
    ・NoDiWS一行
    ・ニーファ
    十二話 胡桃色の少女 深緑の木々がざわめく中をヴァイス達四人は駆け抜けていた。異形の魔力を追跡可能なノワールが先頭を行き、ノワールと同じく魔力感知を得意とするスティルが補助役として斜め後ろを進む。そして二人の後ろでヴァイスとディアンが並走する。特に何かを話し合ったわけではなく、自然とこの陣形となっていた。
    「さっきのが嘘みたいだね、あれ」
    「本当にな。苦労した甲斐があったのかなかったのか、分かんねえわ」
     先導する二人を追いつつ、ヴァイスがそう切り出す。横で走っていたディアンは、呆れ笑いを浮かべながらもそう返した。ヴァイスは彼の返答を飲み込んで、確かに、と独り言みたく小さく溢す。
     スティルがマッチポンプだと叫んだシーンのその後は、それはもう大変なものだった。奇人ぶりを言動に滲み出させるノワールと、それに苛立ち堪忍袋の緒が切れる寸前だったスティル。それを必死で宥め説き伏せたのがヴァイスとディアンだった。全く悪びれない——というより己の言動が悪いとも思っていなさそうな——ノワールをディアンが黙らせ、ヴァイスの拙い弁論でなんとか仲裁したのだ。
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