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    花式 カイロ

    @arisaki_hspr

    自創作本編とは1μも関係のない怪文書と、自創作の小説を投げつけるだけの場所です。
    あとちょっとセンシティブな絵も載せようと思う。

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    花式 カイロ

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    登場キャラクター
    ・ヴァイス
    ・グレース
    ・ノワール
    ・ディアン
    ・スティル

    十九話 なんでもない ヴァイスは、あれからどうやってグレースの言葉に返事をしたのか覚えていない。抱いた不信感と違和感が強すぎたせいなのか、とどこか他人事に考えたが、理由を追求したところで思い出せはしなかった。
     そしていつの間にやら会話は終えられ、ヴァイスは研究所を発つことになった。
    「グレース様、今日はありがとうございました」
    「あぁ。何かあったらいつでも来ていいからな。なんなら、検査じゃなくてただ遊びにくるのでも大歓迎だぞ? 立場上表に出ることが少ないと、お前たちに会う機会も中々訪れない。やはりそれは寂しいから」
    「わ、分かりました! 分かりました、また来ますので!」
     帰り際にもグレースのマシンガントーク癖が発動しかけたため、慌てたヴァイスは語気を強めてそう言った。グレースもぽかんとした後にまたもや頭を抱えたが、「待ってるぞ」と羞恥の渦中でぽそりと伝えてくれる。反省をしながらもそう返してくるのだから、歓迎している旨は本意なのだろう。ヴァイスは勝手に解釈しつつ、「はい!」と元気に答える。それに釣られたのか、グレースもにこやかに笑ってくれた。
    「なぁ、ヴァイス」
     ふと、最初にここへ来た扉から出ようとしたところ、グレースに引き留められる。何かと思って振り返る。案ずるような、悲しむようなその表情をした彼女は、どこか遠くを見るような視線をヴァイスに向けていた。
     まただ、と再度湧き上がる違和感を抑えながら「はい」と聞き返す。グレースは深刻そうに口篭って、少しした後にようやく続く言葉を吐いた。
    「再生を酷使するのは、やめておけよ」
     酷く切なく優しい声で言われた。それはまるで、研究者という肩書きを剥がして親が一心に子を心配するように。意外な忠告と不意の声色に、ヴァイスは一瞬戸惑った。
     元々、グレースに再生の使用を強く推奨されたことはない。そして、ここまで切実に願われたことも。
     だがそもそもヴァイスだって好きで再生を使うことはない。攻撃を受けた際に不可抗力で発動してしまうものではあるので、なんならその点で言えば場合によっては煩わしいものだ。加えて怪我をすることも痛いのも嫌ではあったので、使わないで済むならそうしたいところがヴァイスの本音。
     諸々の思考を絡めながら、ヴァイスはグレースの言葉に頷いた。良い返事をしながらも、どこか間の抜けた顔のヴァイスにグレースは薄く微笑む。最後に「またな」とだけ言って、彼女はヴァイスを見送った。


     足早に研究所を出て、そうして地面を駆けていく。今日予定されていた任務の現場へと向かうため。なんだかんだでかなりの時間を食ってしまったため、間に合うかどうかは定かではないが、元々の用事を塗り替えられたからと言ってスルーしていい訳でもないだろう。走りながら端末で任務概要に載っている場所を確認し、そしてヴァイスは徐々にスピードを速めていった。
     今日の任務は「郊外の廃墟に縄張りを作っている異形の討伐」だ。
    『わざわざ行く必要あるの?』
     これは概要を聞いた当初のノワールの言葉。ドン引きものだ。
     まぁ確かに、廃墟、それも郊外となると異形が湧いたとて優先順位は普通なら高くはないだろう。だがそんな廃墟でも管理している人はいる。その管理人は、聞けば定期的に廃墟の様子を見にいっているらしい。その管理人に何かあっては遅いからと、組織はその廃墟周辺に立ち入り禁止令を出して、ヴァイスらNoDiWSに任務を発令したという経緯なのである。
     ヴァイスは目的地へと向かいながら、そうして昨日ノワール達と確認したことを思い出す。ついでのような形でノワールとスティルの、あの少しギスギスとした様子も思い出した。昼食の時以降不安に思ってはいたが、入浴後に翌日——つまり今日の任務について会議をした際には、すっかりいつも通りに戻っていたのだ。不思議に思い、スティルにこっそりと声をかけたら「あれは私にも非があったので」と言っていた。その後に「正隊員としての意識の低さは目に余りますがね」と、ノワールの態度に文句をこぼしてはいたが。
     それはさておき、何がどうなって非があるないの結論に至ったのかは知らないがともかく解決したのなら良かったと、ヴァイス本人は呑気に考えている。
     会議前には「次の任務に影響したらどうしよう」などと思っていたが、あれなら大丈夫だろう。脳裏で次々と思考を展開していれば、目的地である廃墟が見えてきた。
     廃墟周辺には、部外者が立ち入らないようにと結界魔法が展開されている。だがヴァイスは任務に就いた関係で結界の適応外となっているため、それをものともせず通り抜けることができる。体に違和感でも走るかと思っていたが、予測していたそれは全くなく、すり抜けるように結界内に入り込めた。
     建物に近寄ると、戦闘の最中だということがすぐに察せるほどの音が聞こえてきた。どうやらまだ片付いてはいないらしい。ならば美味しいところでも持って行こうか、とヴァイスは画策する。正面からの入り口ではなく、ちょうど開いていたガラス窓から侵入した。そしてすぐさま状況を確認する。建物内には異形が複数体おり、それにノワール達が応戦しているといった構図になっていた。事前に複数体湧いていることは聞かされていたため、ヴァイスは驚くこともせず冷静に誰のところに助太刀しようかと考える。素早く順に見ていって、そうしてスティルのところに行くことにした。
     彼は専用武器と魔法、そのどちらも手数が多い関係から他のメンバーよりも多い数を担当することが多い。スティルは効率の良い戦い方を選ぶために顕著な消耗がある訳ではないが、それでも他より負担は多い方だろう。日頃の感謝と遅れたことの罪滅ぼしを兼ね、彼の背後に回った異形目掛けて飛び降りながら斬りつけた。
    「お、お兄様!?」
     不意の出来事にスティルは驚く。それでも体勢を崩さない彼に流石だと心の中で称賛しつつ、背中合わせにして立った。
    「遅れてごめん!」
    「そういうのは後です! まずはこいつらを片付けましょう」
     そう言ったスティルは空中に銃を展開させる。異形の数と同数の、五丁の魔力銃。パチン、と指を鳴らした音を境に、その銃は発砲を開始した。
     魔力銃。実弾ではなく、使用者の魔力で形作った弾丸——魔力弾を直接装填する。そのため通常のピストルなどと構造も異なる代物だ。魔力弾の発射も魔法で行われるため反動などもなく、魔法を扱う種族の遠距離武器としてはメジャーなものである。
     そしてスティルは一丁の魔力銃を専用武器としていた。異形との戦闘用に改良され、魔力変換効率が上げられている魔力銃。彼の使うそれは、白を基調とした銃身に深緑色のラインが入っている。見た目からして洒落ているその魔力銃を自身の風魔法で模造し、手数の多さで戦う。それがスティルの戦闘スタイルだった。

     反動など存在しないその魔力銃は、いとも容易く異形の体に穴を開けていく。スティルとヴァイスは異形がその攻撃に怯んだ隙に追撃をして、数分と経たずに相対していた異形の殲滅を完了させた。
    「……ねぇ、これもしかして僕の助け要らなかった?」
     肉塊と血が飛散する酷い現場を見ながら、ヴァイスは力が抜けたように質問する。顕現させた魔力銃をしまいながら、スティルは「いえ」と声をあげた。
    「そんなことありませんよ。おかげで予想より早く片付きましたから」
     髪色と同色のローブをはためかせながら、にこにこと人好きのする笑みを浮かべてスティルは言う。事実ではあるのだろうけれど、それでも遅いか早いかの違いでしかないとヴァイスは思った。スティルは実力だって弱くない。ヴァイスが来なくても、このくらいの相手片付けられただろうに。
     優しいやつだ、なんて思いつつ「そっか」と答える。そのままに突っ立っていれば、ブォンと空を切る勢いでヴァイスの隣を何かが横切った。一瞬驚いて、そして飛んできた物体を見る。異形の死骸だった。
    「おー、そっちも終わったんだな」
    「ディアン」
     重々しい大剣を片手で持ちながら、ディアンが気だるそうに歩いてくる。いつもの仏頂面をする彼の頬には一つの切り傷があった。ほんのりと滲んだ血が痛々しい。
    「怪我したんだ、大丈夫?」
     同じくらい赤く染まる彼の瞳に視線を移しながら、ヴァイスは聞く。ディアンはそこに触れられると思っていなかったのか、少しだけ驚いた顔をしたのちにバツが悪そうに頭をガシガシと掻いた。
    「見た通りの切り傷だ。別に痛くも痒くもねーよ、心配すんな」
     ぶっきらぼうに返されて、思わず「お、おう」と答える。そういえば、とディアンはヴァイスに次いで怪我が多いことを思い出した。慣れているのだとしたら嫌なことではあるが、痛くも痒くもないというのは本当かもしれない。そう思うと同時に、少し前に見回りの任務で彼が受けた怪我のことを思い出す。今ではすっかり治って傷跡も残らなかったようだが、応急手当ての際は痛みから顔を歪めていた気もする。つまりそれは強がりということで、ならば今回もと訝しげにディアンを見つめた。
    「……なんだよ。切り傷くらいで死にゃしねえって、何がそんなに心配なんだ」
     そう言われて口籠もる。確かに、ディアンの頬にできている傷は小さなものだ。髪で指を切った、包丁の扱いを誤った、等々。日常の中でついた傷とも見た目はそう違わない。だからそんな傷が致命傷になる訳ないとヴァイスだって分かっている。けれど〝自分以外の誰かが戦闘で受けた傷〟を見るのは、どうにも慣れないのだ。自分の怪我には大分慣れてきてしまっているというのに。
     悶々としていれば、コツと革靴の音が聞こえてくる。それに反応して、ヴァイスは音が聞こえてきた方向につい目をやった。
    「そうだよ、ヴァイス。ディアンがこんな傷でヒィヒィ言う訳ないだろう? まぁそれはそれでちょっと見てみたいけど」
     脱いだ制帽を片手で弄りながら、揶揄い気味にノワールがそう言った。そのままディアンの隣へと行き、挑発的な笑みを浮かべる。
    「お前は少しくらい心配してくれ」
    「え? 何? 心配して欲しいの? かまってちゃんを兄にした覚えはないんだけど……まぁ君がどうしてもって言うなら? 心配してあげなくもないけど?」
    「やっぱいいわ」
     そしてお馴染みのやり取りが始まる。楽しそうにディアンを揶揄うノワールと、それに慣れた様子であしらうディアン。ディアンの方はため息をついてはいるが、感じ取ることのできる雰囲気から察するに、本当に煩わしいものだと思っているわけではないのだろう。
     仲良いな、と思いながら眺めていれば、スティルにトントンと肩を叩かれる。
    「検査、どうでした?」
     なんでもないようにさらりと聞かれた。スティルの言葉が聞こえたのか、年上二人も言い争いを止め、ヴァイスの方に注目する。それにどことなく居心地の悪さを感じながら、あーと声を漏らす。
    「ぜーんぜん異常なし。至って健康体だよ」
     言葉に説得力を持たせるみたく、両手をひらひらとさせる。にこにこと、年齢相応の笑顔も付け足せばスティル達は納得したように微笑んだ。
     嘘だ。本当は異常ありだ。異常、と言うと少し大袈裟ではあるが、けれどあれは——あの夢のような光景はヴァイスにとって不可思議なことでしかなかった。単なる夢ならばこれほどまでに引っ掛かることはなかっただろう。ただ意識を強制的にログアウトさせるような検査の中、タイムリーな夢を見た。そしてあれは、嫌に現実感が強かったのだ。あたりに広がる闇も、締まった喉から息が漏れ出る感覚も、そしてあの眩しい光だって今もなお鮮明に思い出すことができる。夢の記憶は普通は時間経過とともに薄れゆくのに、それと反するようにあの光景が脳裏に焼きついて離れない。夢と呼ぶのも正しくないような気さえした。
     いつもの氷菓子みたく薄い笑みの裏で考える。まるでノワールのようだ、と思いながらも止めることはできなかった。ふとノワールの方へと顔を向ける。同じタイミングで、図ったように目が合った。思わずびくりとしてしまい、それに伴って笑みも固まる。反対に、ノワールは柔和に微笑んでいた。
    「どうかした?」
     お馴染みの、温かいミルクの風味のような声色。変わらないその音のみでは、ノワールの心中を察することは不器用なヴァイスにはできない。
    「ううん、なんでもない」
     自らの感情の異変に、どうかノワールが気付きませんように。
     冷えた体の内側にそんな思いを詰めながら、吐息を押し出すように返答して。彼から逃げるように顔を背け、既に興味が失せたようにこの場の後始末をしているスティル達の方へと駆け寄った。
    「お兄様、グレース様に聞いてきたのですか? チーム結成のこと」
    「あ、忘れてた」
     不意に声をかけられて、ハッとその場で思い出す。チームを組まされた疑問は上司である研究者——つまりグレースに聞けば解消されるのでは。互いにそう考えていたことから、機会があれば聞き出そうという話になっていたのだ。ヴァイスはものの見事にそれを忘れていた訳だが。
    「全く……しっかりしてくださいよ」
     少し呆れながらも、さほどは残念がっていないようにそう言われた。日が経つにつれて、チーム結成命令に対する疑念が薄れているのだろうか、と考える。ヴァイス自身もそうだったから。任務をこなしていく日々の中で、〝この四人でのチームで戦うことは自分にとって最適解だ〟という意識が強まってきている。元々家族であることを強調されて過ごしてきたこともあるのだろう。そうした時にふと、例えチーム結成の命令が下されなかったとしてもこの四人でチームを組んでいたかもしれない、だなんて思うのだ。
     スティルも同じような胸中であって欲しい、なんて思えば口角が緩んでしまう。
    「なんですか、ニヤニヤと……」
     目敏い彼には表情の変化はお見通しだったらしい。怪訝そうな顔つきで言われてしまう。ヴァイスは思わず頬に手を添えた。
    「も、元からこういう顔だよ」
    「嘘おっしゃい。ノワールでもあるまいし」
     すかさず入ったツッコミに、うぐぐと呻きを漏らしていれば「聞こえてるよ」という声が飛んできた。ヴァイスはスティルと二人して知らんぷりを装って。そうして微笑ましそうに見える一面の後ろで、ノワールは怒る訳でもなくただ憂うようにヴァイスを見つめていた。
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    花式 カイロ

    DONE登場キャラクター
    ・ヴァイス
    ・グレース
    ・ノワール
    ・ディアン
    ・スティル
    十九話 なんでもない ヴァイスは、あれからどうやってグレースの言葉に返事をしたのか覚えていない。抱いた不信感と違和感が強すぎたせいなのか、とどこか他人事に考えたが、理由を追求したところで思い出せはしなかった。
     そしていつの間にやら会話は終えられ、ヴァイスは研究所を発つことになった。
    「グレース様、今日はありがとうございました」
    「あぁ。何かあったらいつでも来ていいからな。なんなら、検査じゃなくてただ遊びにくるのでも大歓迎だぞ? 立場上表に出ることが少ないと、お前たちに会う機会も中々訪れない。やはりそれは寂しいから」
    「わ、分かりました! 分かりました、また来ますので!」
     帰り際にもグレースのマシンガントーク癖が発動しかけたため、慌てたヴァイスは語気を強めてそう言った。グレースもぽかんとした後にまたもや頭を抱えたが、「待ってるぞ」と羞恥の渦中でぽそりと伝えてくれる。反省をしながらもそう返してくるのだから、歓迎している旨は本意なのだろう。ヴァイスは勝手に解釈しつつ、「はい!」と元気に答える。それに釣られたのか、グレースもにこやかに笑ってくれた。
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    花式 カイロ

    DONE【登場キャラクター】
    ・ヴァイス
    ・グレース
    十八話 白い蝶 検査を受けている間、ヴァイスは意識を失って、眠りの最中にいるような柔らかさに包まれる。そうして目を覚ませば、知らぬ間に検査が終わっていて、結果や所感を伝えられるのだ。
     けれど今日は違った。例えるなら、夢の中で起床をすると言ったような、そんな心地を味わっていた。
     体を動かそうと試みて、けれど上手くいかないことに気付く。眉を寄せて訝しみ、そうして声をあげようとしたところでまた一つの気付きを得る。声も出せない。音を紡ごうとして喉を震わせても、ヒュッと情けない空気が漏れるだけ。それも感覚だけで、実際にそのような音が聞こえる訳ではなかった。
     あたりは薄闇に包まれており、そしてヴァイスは急激に不安へと誘われる。瞼にすら上手く力が入らない中、神経を集中させてどうにか目を閉じようとした。この不安から逃れるために。目を閉じたところで待つのは同じ暗闇だ。それでも何もできないよりはできた方がマシだと懸命に力を込めていれば、唐突に一筋の白が視界を掠める。急なことで驚きはしたが、目の痛みなどは一切なく、不思議な感覚を抱きながら眼球だけを動かしてその正体を追った。
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