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    花式 カイロ

    @arisaki_hspr

    自創作本編とは1μも関係のない怪文書と、自創作の小説を投げつけるだけの場所です。
    あとちょっとセンシティブな絵も載せようと思う。

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    花式 カイロ

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    モノ君四話!
    出演メンバー
    ・ヴァイス
    ・ノワール
    ・ディアン
    ・スティル

    四話 呼び出し 室内を包むひんやりとした空気。ヴァイスは肌寒さを感じて、自らの二の腕あたりを厚手のパジャマごとギュッと掴んだ。
    「さむい……ねむい……」
     一夜明けて、現在朝の六時半。元々寝起きの良くないヴァイスは呂律の回らない舌でボソボソと呟きながら、ベッドから這うようにして出た。
     ゴトン、と硬い音を響かせる。体を床に打ちつけた衝撃と痛みなど意に介さず、のろりのろりとなんとか立ち上がった。うぅ、と小さく呻き声をあげて、後ろ髪のそこかしこについた寝癖を軽く梳かす。眠気を残す幼児のように、ごしごしと目を擦った。
     そしてヴァイスは、パチンと一つ指を鳴らそうとする。だが寝起きの状態では力も入らず、一度目は無様に滑って終わってしまう。何度か慣らすようにして繰り返し、腕ごと勢いよく振ってそれはようやく成功した。
    「うっ、眩し……」
     シャッ、と勢いよくカーテンが開くと同時に、ヴァイスは普段よりも低い声で呟く。
     わざわざ手間のかかるフィンガースナップをしたのは、魔法でカーテンを開けるためだった。健康的で規範的な一日を始めるためにしたことではあったが、起きがけに日光を浴びたことのダメージは想定していたよりも大きい。ムッとした表情を作って、それから靄を払うように右手をぶんぶんと振った。
     軽いストレッチをした後で、扉近くにある壁掛けカレンダーへと近寄る。数秒ほどそれを眺めて、何か思い出したようにポンと手を叩いた後でマーカーを持ってきた。発色のいい真っ赤なやつだ。
    「研修期間、終わり……っと」
     小さめの、男の子にしては可愛らしい文字でそう書いた。カチッと音を立ててマーカーをしまいながら、満足そうな笑顔を浮かべる。乾いていないことを想定して、記入した文字とは少しズレた部分に手を添える。確かめるように人差し指で少し撫でて、浅縹の瞳を真っ直ぐに光らせた。

     人工亜人はその名の通り、人工の亜人——つまり造られた存在だ。そんな彼らは戦うために生まれてきたとはいえ、意識を持った瞬間から武器を手に取り魔法を扱うわけではない。他の存在と同じように、生まれた瞬間は何も知らない、無垢な赤子なのだ。
     目覚めた直後の人工亜人には「教育係」と言う、自身よりも経験を重ねた人工亜人があてがわれる。その肩書きの通り、教育係は学問、体術、魔法に至るまでを教える存在だ。そして、教育係がついている間の期間は「訓練生」と言う枠組みに入れられ、大凡五年間は教育を受けることとなる。因みにその間単独はもちろんのこと、訓練生が複数人いたとしても教育係の同伴がない限り、異形との実戦は禁止されている。
     そしてその期間を越えた後、彼らは「正隊員」となるのだが……。その正隊員となった後も、二週間は任務を教育係や先輩の正隊員と共にすることを義務付けられている。その間を研修期間、と名付けられている。
     意外にも、そのあたり国や組織はしっかりしているのだ。

     そしてヴァイスは、なんと昨日がその研修期間最終日。今日からようやく、本当の意味での正隊員として活動することができる。
    「にしても、キリ悪いな」
     先程とは違い気の抜けた表情で呟いた。キリが悪い、というのは日数のことだ。研修期間の日数だけの話ではなく、見回り場所の変更とのタイミングのこと。
     どうせなら、場所が変更するタイミングで研修期間も終わればいいのに、とヴァイスは思ったのだ。
    「……ま、いっか。そんなこと気にしてる余裕ないし」
     投げやりに呟く。事実、細かいことに関心の向かないヴァイスにとって、そんな問題些細なことだった。そういえば、訓練生を卒業するまでの期間だって、正確に定まっているわけではなかったな。
     それを思い出すと、尚のことちっぽけなことだと感じ始めて。きっとノワールやスティルならばいつまでも気にしたままなのだろう、と愉快に思いながらもヴァイスは身だしなみを整え始めた。

     パジャマから普段着へと着替えたところで、今日のスケジュールはなんだったか、とヴァイスは考えた。そしてさほど時間もかけずに、今日の用事を思い出す。午前は呼び出し、午後が変わらずの見回り、そして確か夕飯の後には勉強会が待っていたはずだ。
     勉強会。嫌な響きだ、とヴァイスは思った。ヴァイスは必要最低限の教育は受けてはいたが、かと言ってそれは難しくもない範囲。学問、それも進んでいる勉強は苦手だった。それだけなら別にいいが、いかんせんヴァイスの周りは勉強ができる亜人ばかり。ノワールやスティルはもちろん、意外にもディアンだって、勉強はそれなりにできる方だ。
     そこまで考えると、憂鬱な気分が更に膨らんでくる。勉強会では自分一人だけ筆の進みが遅いのだろう。なんて思ってしまえば、ネガティブの波に飲まれてそのまま項垂れてしまいそうだった。
    「って、違う違う!」
     パシッ、と切り替えるように両手で頬を叩く。ほんのりと赤みを帯びた頬を叩いた身でありながらさすって、それよりもと午前のスケジュールを頭の中で反芻した。
     呼び出し。場合によっては、こちらも気分が下がってしまいそうな言葉だ。けれど今日のそれは、お叱りやお説教を受けに行くわけではない。恐らく、研修期間を終えた正隊員についての説明やら何やらだろう。つまり、人工亜人であるヴァイスたちにとって、重大なことである。
     何の話をするのだろう、と想像を巡らせていれば、コンコンと部屋の扉が叩かれた。はーい、と返事をすればキィと音を立てながら滑らかに扉が開く。そこから覗いたのはノワールだった。ヴァイスは特に驚きもせず、予測していたように「どした?」と声をかける。
    「朝食、一緒にどう?」
     どう? と提案しながらも、まるで一緒に行くことが決定しているかのようにヴァイスを廊下へと導こうとする。
    「行くよー、はいはい」
     苦笑いを浮かべながらも、差し出されたノワールの手に素直に応じて。二人は他愛もない話を繰り返しながら、食堂に向かった。

     自然光によって明るさが保たれる食堂。時間帯が時間帯なので、やはり利用者はそこそこに多かったが夕方よりかは落ち着きのある雰囲気が漂っている。
     ヴァイスたちは各々好みの朝食セットを選んで取っていき、配膳カウンターから離れた人の少ない机へと移動した。
    「お、ノワールに……ヴァイスじゃねえか」
     不意に声がかけられる。それに反応して、二人は同じタイミングで声の方向に顔を向けた。そこには、大盛りの皿が並べられたトレーを持つディアンの姿があった。元来夜型なのも相まって朝は苦手なディアンだが、今日もまたいつもより顔つきが険しくなっている。
    「あぁ、ディアン。おはよう。……君って朝は苦手なくせに、本当馬鹿みたいに食べるよね」
    「あ? 喧嘩売ってんのかお前……ノワールこそ、もっと食わねえと背デカくなんねえぞ」
    「既に君より高いから問題ないよ」
     邂逅早々、二人は言い合いを始めてしまう。自分よりも年上の二人がそんな子供っぽいことをするものだから、ヴァイスは呆れから溜息を一つ吐いた。年上、といってもその差は僅か二つだけなのだが、ヴァイスにとってその二つが大きい差なのだ。
     僅差にしか見えない二人の見栄を、身長の低いヴァイスは忌々しげに見つめながら、ガチャンとトレーを乱暴に机の上へと置いた。その音に気付いたノワールたちは、揃ってヴァイスの方へと顔を向ける。それから互いの顔を見合って、二人してヴァイスの肩をポンと叩いた。
    「大丈夫だよ、ヴァイス。君の身長だっていつかグンと伸びるから。ね?」
    「ノワールの言う通りだ。今はちっせえかも知んねえけど……そのうちいつかぜってえ、きっと、多分伸びるだろうからよ」
     先程まで言い合いをしていたのが嘘かのように、息ぴったりに二人は続け様にそう言った。
    「何? わざと? わざとだよね、それ」
     ひと足先に椅子に着席していたヴァイスは、揶揄う二人をジト目で見上げた。慰むように肩に置かれた手を順に払い、ムスッとした顔で食事へと向き直る。
    「あらお兄様、随分とご機嫌斜めですね」
    「スティル……!」
     唐突に聞こえてきた声。その音から声の主を判断して、ヴァイスは助け舟を見つけたかのように勢いよく振り向いた。見覚えのある所作で自分の食事を運ぶスティルは、ヴァイスの方を見ながらニコリと柔く微笑む。向かいの席に座り、それから手を組みながら年上二人へと目をやった。
    「貴方たちはまたそうやって、お兄様をいじって……お兄様はその控えめな身長が可愛らしくていいんじゃないですか! ほら、まるで幼児のような小ささ、愛くるしいでしょう?」
    「君が一番酷いこと言ってるね?! というかスティルも大して変わらないだろ! 身長!」
     助け舟だと思っていたのはまさかの海賊船、とんだ裏切りだ。元より高い声を更に張り上げてヴァイスが叫べば、スティルは人差し指を上品な動作で口元へと持っていく。お静かに、とでも言うように。誰のせいだ、とヴァイスは思ったが、僅かに感じた周囲の視線が気まずくてきゅっと口を噤んだ。二人分の愉快そうな笑い声が聞こえてきて、ヴァイスは更に口をへの字に曲げた。
    「悪かったって。でも、お前は別にそのままでも良いんだよ」
     スティルの右隣に座ったディアンが言う。ヴァイスは、まだ納得のいかないようにその細い眉を寄せた。
    「そうだね、ディアンの言う通りだ。君にとっては良くなくても、僕にとってはその身長も魅力の一つだ」
     そしてヴァイスの隣に座ったノワールもそう言った。考えをぐるぐると巡らせながら、ヴァイスは体を右に少し傾ける。
    「二人の言う通りです。先程は……すみません。でも、可愛らしいと思っているのは本当ですよ。それにほら、私としては羨ましい限りです。その小さな躯体を生かした戦闘スタイルは、私たちにはできないことですから」
     真正面のスティルが柔和な笑みを浮かべてそう言ったところで、ヴァイスはピクリと反応する。視線を右へ左へ、四方向を一通り回ってからニコリと屈託のない笑みを浮かべた。上機嫌に頬杖をついて、ルンルンとでも効果音がつきそうな勢いで体を揺らす。
    「まぁ三人がそう言うなら……小さくても、良いかなぁ」
     ヴァイスはチョロかった。一気に機嫌を直したヴァイスを横目に、ノワールたちもくすりと笑う。
     これが昔から時間を共にした四人の——家族の、日常だった。

     ヴァイスとノワール、そしてディアンとスティルは、五年前に生を始めたその瞬間から家族として共に生きてきた。教育を受けるにも食事を摂るにも、何をするにも一緒な彼ら。目覚めた時期が同じだった四人はもちろん、異形と戦う正隊員となった日も同じだ。
     昨日の見回りで教育係である先生と行動していた他のメンバー二人も、ディアンとスティルのこと。だから夕方に会ったディアンとは労いあってハイタッチをし、食堂で鉢合わせたスティルは「お昼ぶり」と言ったのだ。ヴァイスは後で知ったことだったが、ディアンたちはどうやら異形には遭遇しなかったらしい。わざわざ人数の少ないヴァイスとノワールの前に現れた異形に苛立ちを覚えたのは、ここだけの話。

     そうして昼食を終えた四人は、かたまりになって歩いていた。呼び出しを受けたのは何もヴァイスだけではなかったからだ。ノワールたちもまた、同じように呼び出しを受けている。正隊員になったのが同じ日である彼らにはさして意外なことでもなく、そもそも事前に知らされてはいたことなので同じ行動を取るのは自然なことだった。
    「先生、何を話すんだろうね」
     歩いている途中で、ノワールが不意に話題を持ちかける。三人もそれに反応して、考えるような素振りをした。
    「普通に今後の活動についての説明とかじゃない? ほら、こういうことに注意しましょうね〜、みたいな」
    「そんな学校みたいな軽いノリで……」
     ヴァイスが朝、部屋で思いついていた考えを言ってみれば、スティルにそうツッコミを入れられる。えへ、と図星みたくそう笑えば、スティルも小さく笑みをこぼした。
    「分からねえことばっかだな。……そう言ってみれば、俺たちは異形のことも詳しくなんて知らねえし」
     少し話が逸れてはいるが、ヴァイスたちも確かに、と頷き同意する。ディアンの言う通り、彼らは異形と戦う身でありながらも異形の詳しい情報などは知らなかった。どうして生まれたのかと言うルーツももちろん、その生態のことですら。異界人の魔法は効かないと言う割に、異界人である亜人をオリジナルとして造られた人工亜人の攻撃が効く理由も。
     何も分からない中で戦いの炎を燃やし、そして戦いの中散っていく。ヴァイスは、やはりそれが間違いのように思えてしまって。前を行く三人には悟られないよう、ほんの少しだけ俯いて下唇を噛んだ。
    「分からなくても良いんじゃないですか? そもそも、分かったところで私たちのやるべきことは変わりません。異形を殲滅する、それだけを考えていれば良いんですから。……分かろうとするだけ、無駄ですよ」
     スティルが何気なく放ったであろうその言葉。それを聞いて、ヴァイスは心臓を鷲掴みにされたような息苦しさを覚えた。止まってしまいそうな足を、無理矢理にでも動かしていく。
     実際、スティルの言ったことが正しいのだろう。ヴァイスたちは、戦うためだけに造られたのだから。どれだけ人並みの生活を送ろうとも、何事もない平和な日々を過ごそうとも、その事実は変わらない。
     ノワールはあえて口には出さず、ディアンに至っては否定をするどころか同調されたことで忘れかけてしまいそうになっていた。一心に背負わされた使命を全うする。それこそが、自分たち人工亜人にとっての正義。けれど、その戦うことの真実さえをも求めてしまったヴァイスにとっては、神経を蝕む猛毒のような言葉だった。
    「……まぁ、そうかもね」
     ノワールが曖昧に返事をする。前を歩く彼が、どんな表情をしているのかなんて窺い知ることはできない。いつも通り、色のない笑顔を貼り付けているだけかもしれない。それでも少しだけ生じた間に、都合のいい解釈をせずにはいられなかった。昨日の話を覚えているのならば、その裏側に少しでも否定の意が込められているのかもしれない、と。そんな、都合の良い解釈を。
    「大丈夫か?」
     いつの間にかヴァイスの隣へと寄ってきたディアンが、静かに耳打ちをしてくる。ハッと顔を向けた。僅かながらに心配するような色が浮かぶその顔を見て、毒がスッと抜けていくような感覚を抱いた。引き結んでいた唇を開いて、大丈夫とヴァイスもまた静かに返す。ディアンは少しだけ目を細めたかと思えば、また前へと向き直った。
    「二人で何をこそこそと話しているんです?」
     そんな二人を訝しんだスティルが、後ろを振り向いて聞いてくる。不意打ちのその声かけに、ヴァイスはえっと驚く。口篭って困惑していれば、緩い動きでディアンが前へと出てきた。不安げにディアンを見上げる。
    「お前の話だよ。相変わらずお堅いやつだな〜、ってよ。お前らしいけど」
    「はぁ? なんですか、それ……」
     呆れたような声色でそう言って、スティルはまた前を向く。同い年とは思えぬほど、しっかりと正しく伸ばされた背筋が少し羨ましかった。けれどそれになれないと知っていたヴァイスは、ただ静かに微笑んだ。
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    花式 カイロ

    DONEモノ君十二話です!お久しぶりのネームドキャラ登場!

    出演メンバー
    ・NoDiWS一行
    ・ニーファ
    十二話 胡桃色の少女 深緑の木々がざわめく中をヴァイス達四人は駆け抜けていた。異形の魔力を追跡可能なノワールが先頭を行き、ノワールと同じく魔力感知を得意とするスティルが補助役として斜め後ろを進む。そして二人の後ろでヴァイスとディアンが並走する。特に何かを話し合ったわけではなく、自然とこの陣形となっていた。
    「さっきのが嘘みたいだね、あれ」
    「本当にな。苦労した甲斐があったのかなかったのか、分かんねえわ」
     先導する二人を追いつつ、ヴァイスがそう切り出す。横で走っていたディアンは、呆れ笑いを浮かべながらもそう返した。ヴァイスは彼の返答を飲み込んで、確かに、と独り言みたく小さく溢す。
     スティルがマッチポンプだと叫んだシーンのその後は、それはもう大変なものだった。奇人ぶりを言動に滲み出させるノワールと、それに苛立ち堪忍袋の緒が切れる寸前だったスティル。それを必死で宥め説き伏せたのがヴァイスとディアンだった。全く悪びれない——というより己の言動が悪いとも思っていなさそうな——ノワールをディアンが黙らせ、ヴァイスの拙い弁論でなんとか仲裁したのだ。
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