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    花式 カイロ

    @arisaki_hspr

    自創作本編とは1μも関係のない怪文書と、自創作の小説を投げつけるだけの場所です。
    あとちょっとセンシティブな絵も載せようと思う。

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    花式 カイロ

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    モノ君五話です!
    出演メンバー
    ・ヴァイス
    ・ノワール
    ・ディアン
    ・スティル
    ・青鈴
    ・カティア

    五話 チーム結成 簡素な装飾の部屋。標準的な大きさのスクエアテーブルを前にして、ヴァイスたち四人は横一列に並んでいた。直立不動でいるノワールや、同じ姿勢で待つディアンとスティル。彼らと違ってヴァイスはそわそわと落ち着かない気持ちでいた。自分たちを呼び出した“先生”はいつ来るのか、と。
    「少しは落ち着いたらどうだ? お子様みたいだぞ」
    「なっ、……いいよお子様で。まだ十歳だし」
     顔の向きはそのままに、揶揄うようなセリフを吐いてきたディアンにそう返す。愉快そうに笑う控えめな声が、ディアン以外にも二人分聞こえてくる。全く、あとどれだけ揶揄われれば良いんだ。原因は自分にあるにも関わらず、ヴァイスはその思考をため息にして吐き出した。
     かと言って、そのいじりを不快に思うことはない。むしろ、この家族内ではお互いいじり合うのは日常茶飯事だ。もう既に慣れ切っているし、悪意のこもっているものではないと知っていたから些事である。きっと他人にいじられたのならそうはいかないだろう。一度目では不快を表し、二度もあろうことならば怒りを滲ませた言葉を吐いてしまうのは容易に想像できた。家族だからこそのこの距離感が、亜人としての・・・・・・ヴァイスには心地が良いのだ。

     ガチャ。
     そうして再び待ち人を望んでいれば、不意に部屋の扉が開かれる。ヴァイスは振り向きたい衝動をグッと抑えて、代わりに背筋を目一杯伸ばしてみせた。コツコツコツ、と急くような靴音が弧を描くように流れていき、四人の前に一人の女性が現れた。
    「あら〜みんなちゃんと待てて偉いわね。呼び出した側の先生が遅れちゃったって言うのに、本当いい子たち」
     カナリアがさえずるような声を転がして、目の前の女性は微笑んだ。両手を合わせて顔の横に持っていく仕草とその立ち振る舞いからは、スティルとはまた違った上品さを感じ取ることができる。薄桃の前髪を揺らして、それをさらうようにかけられた冷たい海色のグラデーション。腰あたりまでに伸ばされた、珍しさを感じるような柔らかい髪を纏った彼女の名前はカティアと言う。ヴァイスたち四人の、二人いる先生のうちの一人だ。
     カティアは上機嫌そうに閉じられていた瞼を開いて、そこから覗いた檸檬れもんの瞳を優しく光らせる。薄い唇で静かに息を吸った。
    「それじゃ、早速本題を……と言いたいところなのだけれど、彼がまだ来てないわねぇ〜」
     真剣な雰囲気を纏ったかと思えば、それは一瞬にして剥がれ落ちる。例えるならゆるふわ、という風な声色で困ったようにそう言った。かれ、とヴァイスは小さく復唱して、それからその心当たりを思い出した。どうかしたのだろうか、と首を傾げていると、廊下の方から規則的な革靴の音が聞こえてきた。今度は抑えきれずに、扉の方をくるりと向く。全開にされた入り口から入ってきたのは、一人の男性。
    「すまん! 持ってくものが多すぎてな……遅くなった」
     大量の書類と何やら小箱を抱えた男性は、へらりと笑いながらカティアの隣に向かう。両の手に持っていた荷物を慎重に机の上に置き、少し長めに伸びた銀髪を揺らしながらヴァイスたちの方を向いた。
    「ごめんなさいね、こんな大量の荷物を持たせてしまって……ありがとう、青鈴」
     カティアに青鈴と呼ばれた彼はその言葉を聞いて、謝罪をかき消すように快活に笑ってみせる。
    「いや、いいんだ。力には自信があるからな、任せてくれ」
     胸に手を当て、自慢するように明るく言った。それに伴って大ぶりな耳飾りが踊るように動く。ヴァイスが猫みたく釣られて視線を動かしていると、青鈴はそれに気付いてヴァイスにニコリと微笑みかけた。反射でヴァイスは子供のような笑顔を返す。面白がるように破顔した青鈴は、さて、と切替の言葉を放った。
    「そろそろ本題に入ろうか」
    「あら、それ私の台詞よ?」
    「はは、すまんすまん」
     そんなやり取りをして、二人はくすくすと笑い合う。仲睦まじいその様子は微笑ましいことこの上ないとヴァイスは思うが、一体いつ本題が始まるのだろうと思わずにはいられなかった。そわそわと、また体を揺らしてその時を待つ。焦燥の色を映した瞳を何度も瞼で覆い隠すようにしていれば、唐突にパンッと乾いた音が部屋中に鳴り響いた。その音はカティアが手を叩いたことによって発生したものだと、ヴァイスは一瞬で理解して。デジャヴのように姿勢を正して、カティアから放たれる言葉を待った。
    「さて、あなたたち四人が目を覚ましてから五年。訓練生としての課程を修了し、二週間の研修期間を終えてようやく、真の意味で正隊員として活動することができるようになりました。……思えばこの五年間は長いようで短くて、いつの間にかみんなはこんなに——」
    「カティア、そこら辺はまた後で……まずはあの話、だろ?」
     思い出を想起し語り出しかけたカティアに、青鈴が意味深な言葉を吐きながら制止をかける。カティアはあら、と言葉を一つ漏らして照れ笑いを浮かべた。
    「そうね、ごめんなさいね。私ったらすぐ話が脱線しちゃうんだから……」
     困っちゃうわね〜、と自らのことでありながら両の頬を手で包んでそう言った。どうしてもマイペースな彼女の性格が隠しきれないその様子に、ヴァイスは思わず笑みをこぼす。
     それからカティアは小さく咳払いをして、真っ直ぐな視線を四人に向けた。
    「今日はそんな研修期間を終えたあなたたちに、これからの活動について決めなければならないことがあります」
     一段とよく通る声でそう言われて、ヴァイスは頭にクエスチョンマークを浮かべた。先の活動について何らかの説明があるというピンポイントな予想をしていたのに、それを覆されることとなったからだ。これからの活動について決めることの内容もそうだが、そもそもその話自体事前に知らされていない。つまり初耳である。
     隣に立つディアンの顔をチラリと覗き見れば、彼もまた片眉を少し持ち上げ不思議そうな顔をしていた。どうやら、ヴァイスだけでなく他のメンバーも同様に知らされていないらしい。そこに謎の安心感を覚えながら、顔の向きを直して話の続きを待った。
    「まずは前提の説明からするわね。みんなも何となく知っているとは思うけれど、私たち人工亜人は基本的に複数人で組んで異形と戦うの」
     片手のみでジェスチャーをしながら、カティアは話す。あー、と心当たりを思い返しながらヴァイスは頷いた。

     人工亜人の駆逐対象である異形は、その個体によって強さもピンキリだ。平均的な強さの人工亜人一人が余裕を持って倒せる異形もいれば、苦戦を強いられ最悪の結果をもたらすような異形ももちろんいる。そこで、異形の殲滅を目的とする組織——異形殲滅特別組織は、チームという制度を定めた。
     チームは原則として二人以上の人工亜人で組み、人数の上限はないが平均として見れば大体四、五人で大人数のチームと認識される。
     人工亜人たちは、そうして仲間と協力しながら異形の殲滅を目指していく。
     しかしチームを組んだからと言って、必ずしもチームメンバー全員で任務に当たらなければいけない、というわけでもない。任務に赴くのが一人で事足りるならそれでよし。状況によって、出撃人数を増減させるのが主流なのだ。
     その、“チーム”の説明が何故前提にあるのか、と話を聞きながら考える。まさか、と浮かんだ考えを、今度は後押しするような控えめな手拍子が聞こえてきた。
    「そこで! めでたく研修期間を終えたあなたたち四人で、チームを組んでもらうこととなりました〜!」
     いつから持っていたのか、パーティー用として売っていそうなクラッカーをカティアは鳴らす。隣にいる青鈴は、何やら「祝! チーム決定」と書かれた紙をニコニコとしながら掲げていた。ヴァイスは思わずへ、と腑抜けた声をあげる。真面目とおふざけの反復横跳びで頭が混乱してしまいそうだった。ヴァイスは教師二人を交互に見やって、視線で更なる説明を促そうとする。
    「本当に感慨深いわ〜! 私もう、胸がドキドキしちゃって」
    「分かるぞ、その気持ち……何も知らなかったこの四人にも、ついにこの時が来たんだな……」
     ダメそうだ。先程は思い出話を食い止めていたはずの青鈴までもが、気が抜けてしまったのか和気藹々とした雰囲気でカティアと会話を繰り広げている。
    「すみません、一つ質問いいですか?」
    「あら、何かしら? ノワール」
     誰もが割って入る勇気のない中、ノワールが何食わぬ顔で手を挙げた。青鈴やヴァイスたち三人も、一斉にノワールの方を見る。
    「本来、誰とチームを組むのかは自由です。その前にチームの結成も、制度こそあれど義務化されているわけではありません」
     色のない淡々とした口調で話していく。
     確かに誰とチームを組むかも、そもそもチームを結成するかどうかさえ、それは個人の自由であるというのもチーム制度の内容だ。昔から共に過ごしてきたこの四人だからこそ違和感を抱かなかったが、指名されてチームを組むというのも変な話である。ふむふむ、とでも言うようにヴァイスは小さく頷く。
    「それなのに何故、僕たちはチームを組むことも、そのメンバーさえもあらかじめ確定されているんですか?」
     弱冠十二歳とは思えない口ぶりでノワールが続ければ、カティアもその疑問を予想していたようにゆっくりと相槌を打っていく。と、同時に何故だか段々とその表情が曇っていく。何か気に障ってしまったのだろうか、と質問した本人でもないのにヴァイスは思った。
     けれど同様のことを憂いたのか、ノワールは少し口籠った後に小さく「すみません」と言った。あのノワールが謝った、と驚きたい気持ちを抑えつつ、ヴァイスはカティアの顔色を窺う。すると、カティアは淑やかにため息を一つ吐いた。それが何に対してのため息なのか分からないヴァイスは、身構えるような心持ちになる。
    「上からの、命令なのよ……」
     ポツリと放った後にカティアはまた一つ、今度は盛大にため息を吐いた。そんな彼女の様子は、呆れているようにも怒っているようにも見える。
    「命令、ですか? たかがチームの決定に」
     訝しむような声色で、今度はスティルがそう言った。
     たかが、は言い過ぎかもしれないが、確かに多くいる人工亜人の中でこれまた多く結成されてきたチームに、上——彼らの立ち位置で言うならば人工亜人を作った研究員の干渉があったなど、ヴァイスの記憶する限りでは聞いたことがない。
     自分が知らないだけかもしれない、とヴァイスは思うが、それにしては他のメンバーも先程から不思議な表情を浮かべっぱなしだ。そもそも、四人の中では一番情報通であるスティルが疑問を呈するということは、つまりそういうこと。誰も、そんな前例を知らないのだ。
    「ええ、私も初めてよ。全く、あの人たちも勝手ねぇ……」
    「カティア、それは不敬だぞ……」
    「あらやだ、ごめんなさい」
     さほどごめんなさいとは思っていないような様子でカティアは言葉を放つ。そんな陽気な彼女とは違って、ヴァイスたちは若干の苦笑いをした。
    「まぁ、決まってしまったことは仕方ないわ。さっきも言った通り、あなたたち四人はチームを組むことになりました。上の決定だから、勝手に脱退したり赤の他人を引き入れたりしちゃダメよ?」
     注意するように人差し指を立てて、その内容とはチグハグな可愛らしい仕草をしてみせる。色々疑問は残るが、ヴァイスたちは「はい」と返事をする他なかった。

    「それから、次の話ね。青鈴?」
    「ああ。……研修期間を終えたお前たちに、ちょっとしたプレゼントだ」
     プレゼント。その単語に、ヴァイスは舞い上がるような気持ちになった。だって仕方のないことだろう。彼の歳ならば、親代わりのような教師からのプレゼントに喜ばない方が難しい。
     と、ヴァイス自身は思っていたが、ノワールたち三人は特に顔に喜びの色を浮かべるわけでもなく興味もなさげに「はぁ」と言葉を漏らしている。ディアンに至っては、与えられるのはプレゼントだと言うのに何だか気まずそうな顔をしていた。
     そんな三人の表情には一切気付かないヴァイスのみが、プレゼントを心待ちにしていた。この部屋に来る時に持ってきた小箱を、青鈴自身が手に持ち開封している様子を期待の眼差しで見つめる。
    「お前たちにプレゼントするのは……これだ!」
     小箱の中から取り出された、小型の機械。手に持ちやすく、薄いそのフォルム。彼の言うプレゼントとは。
    「スマホ!?」
     そう、スマホだ。それ一台で何でもできてしまうような、最先端技術の結晶体。
     ヴァイスは、まさかそんなすごい代物がプレゼントか、と喜んだ。ノワールとディアンは相変わらずの顔だが、スティルは驚いたような表情を見せた。
    「ああ、スマホだ! 通話もゲームも何でもできる、調べ物もなんのその。高性能な精密機械を、お祝いにプレゼント! ……と、言いたいところだが、これはただの仕事用支給端末だ」
    「へ?」
    「仕事用支給端末。まぁ要するに、仕事に関する機能しか備わってない端末だな!」
     そう言って青鈴は爽やかな笑みを浮かべた。呆然としたままのヴァイスを一旦放っておいて、端末を個人に配り始める。それはもちろんヴァイスにも配られた。ヴァイスの手では少し大きい端末を、まるで初めて目にしたかのようにまじまじと見つめる。それから、四人に端末を配り終えた青鈴を見た。
    「期待させたのは悪いが、そんな気落ちしないでくれ。わかるだろ? まだ幼いお前たちに何でもできるスマホをあげるわけにはいかないんだ。本物はもう少し大人になったらな」
     そう言って、青鈴は骨ばった大きな手でヴァイスの頭を撫でた。その手に絆されるようにして、ヴァイスは「はぁい」と気の抜けた返事をする。青鈴の手が離された後で、乱れて顔にかかった髪を払うように顔を左右に振った。
    「まぁその端末の使い方は、実際に操作して覚えてくれ。大抵、普通のスマホと変わりないからな。と言っても使える機能は通話、任務のスケジュール確認、あとは……体調管理くらいのものだけどな。まぁ機能が少ない分、使い勝手はいいと思うし、そもそも国からの支給品だから大切に使ってくれな?」
     片手だけでお願いをするようなポーズをする。それにもヴァイスは素直に頷いた。青鈴は自らの子供を見るような慈愛の瞳を向けて、それからカティアと何やら目配せをする。やり取りが終わったのか、カティアは机の方に寄りながら高く積まれた資料に手をついて、それからこちらへと向き直った。ヴァイスは嫌な予感を抱き、顔をしかめずにはいられなかった。
    「最後に、これはチーム結成にあたっての諸々の書類ね。全部に目を通しておいて、それからサインもちょうだいね。期限は明後日までだから」
     ふわふわと、語尾に音符でもつきそうな声色の割にその内容はハードそのものだ。表情の歪みが増していくのを、ヴァイスは否が応でも感じ取ってしまう。
    「それじゃ、午後のお仕事も頑張ってね」
    「じゃあ、えっと……そういうことだから、よろしくな?」
     ピアノの音色を転がすように言ったカティアに、青鈴が申し訳なさそうにそう続ける。
     そうして教師二人は大量の書類と新人四人を残して、後腐れもないように退室してしまった。はぁ、という誰かの深いため息が、四人全員の胸中を代弁するように響いた。
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    花式 カイロ

    DONEモノ君十二話です!お久しぶりのネームドキャラ登場!

    出演メンバー
    ・NoDiWS一行
    ・ニーファ
    十二話 胡桃色の少女 深緑の木々がざわめく中をヴァイス達四人は駆け抜けていた。異形の魔力を追跡可能なノワールが先頭を行き、ノワールと同じく魔力感知を得意とするスティルが補助役として斜め後ろを進む。そして二人の後ろでヴァイスとディアンが並走する。特に何かを話し合ったわけではなく、自然とこの陣形となっていた。
    「さっきのが嘘みたいだね、あれ」
    「本当にな。苦労した甲斐があったのかなかったのか、分かんねえわ」
     先導する二人を追いつつ、ヴァイスがそう切り出す。横で走っていたディアンは、呆れ笑いを浮かべながらもそう返した。ヴァイスは彼の返答を飲み込んで、確かに、と独り言みたく小さく溢す。
     スティルがマッチポンプだと叫んだシーンのその後は、それはもう大変なものだった。奇人ぶりを言動に滲み出させるノワールと、それに苛立ち堪忍袋の緒が切れる寸前だったスティル。それを必死で宥め説き伏せたのがヴァイスとディアンだった。全く悪びれない——というより己の言動が悪いとも思っていなさそうな——ノワールをディアンが黙らせ、ヴァイスの拙い弁論でなんとか仲裁したのだ。
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