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    花式 カイロ

    @arisaki_hspr

    自創作本編とは1μも関係のない怪文書と、自創作の小説を投げつけるだけの場所です。
    あとちょっとセンシティブな絵も載せようと思う。

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    花式 カイロ

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    はい、モノ君の十一話です

    出演メンバー
    ・NoDiWS一行

    十一話 マッチポンプ! ノワールがマントに覆い隠されていない方の腕を振り上げる。彼の手の周囲には小さい稲妻が発生し、パチパチと控えめながらも鋭い音を放っている。
    「待って」
     そんな攻撃準備は万全だというようなノワールに、ヴァイスは待ったをかける。ノワールはその通りに腕をそっと下ろし、ヴァイスの意図を読み取ろうとするかのように顔を覗き見た。ヴァイスはその行動に応えぬまま、ザッザッと砂を踏みつけながら前に出て、持っていた片手剣を地面に突き刺した。
     その動作でヴァイスが何をしようとしているのかを察したらしいノワールは、ヴァイスの邪魔には決してなるまいと言うように距離を取り、そして傍観した。
     ヴァイスは先程まで剣を握っていた右手を前に掲げる。目を閉じ深く集中して、人知れず咲く懸氷けんぴょうのような静けさをその身に纏う。
     異形は隙だらけに立ち尽くすヴァイスを目掛け、一斉に飛びかかった。異形の鳴き声と地を蹴る音。酷く騒々しい空間の中、ヴァイスはふっと瞼を上げ、氷結したムーンストーンの瞳を現した。

    「氷花ノ極 暁」

     冷えた魔力を乗せた言霊が周囲に響く。いくつもの音が奏でられていたはずの空間は、凍りついたようにその振動を失った。
     じわじわと下がっていく温度、パキパキと音を立てながら凍っていく緑たち。使用者であるヴァイス自身さえもが身震いするような極寒と静寂の中、急激に、鮮烈に、氷花は敵を貫いた。
     瞬間、異形たちはガラスが割れたような断末魔を上げた。聞くに堪えないその音を出しながら、異形はその身を貫く透明にはおおよそ似つかわしくない鮮血を流してそのまま倒れる。目の前で発動させたが故にヴァイスは返り血を多量に浴びたが、それを気にすることもなく素早く敵の生死を確認する。
    「三体残った」
     自然を青白く飾り立てた氷魔法に乗っ取られたように、ヴァイスの声色は酷く静かで。普段の子供らしい言動が嘘のように見えた。だがこれが、最大限集中した時のヴァイスの常だった。
     ヒュンッ。大気を裂く音が耳に入ってきた時には、生き残った異形の頭は全て落ちていた。ヴァイスではない、ノワールが落としたのだ。あまりにも急速に行われた処刑のような光景を目にしながら、ヴァイスは口を開いた。
    「わざわざごめん。それ、使わせて」
     黒と白の両手剣。赤に濡れたそれにヴァイスは目をやった。
    「別に良いよ、魔法で仕留めるより速いしね」
     にこにこと笑みを浮かべながらノワールはそう言った。表情の細かな動きと声色から、その言葉は本音であると確信して。それからヴァイスは「そっか」とだけ言った。
     異形も全て生き絶えただろうと、死骸はそのままに凍ってしまった木々だけを元に戻す。はるか北の雪国みたく冷えていた空気はゆっくりと元に戻っていき、ふわりと舞い上がる暖気の中ヴァイスは息をつく。地面に刺したままだった白剣を引き抜いていれば、「それにしても」と始めるノワールの声が聞こえてきた。
    「相変わらずの圧巻の光景だね! 綺麗で幻想的で、儚いかと思えば鋭利な刃のようになって異形を仕留める、君の氷魔法。あぁやはり、君が使うと様になるね」
    「うわっ! ちょっと、おいっ! 危ないなぁ!」
     これでもかと称賛の言葉を浴びせながら、ノワールはヴァイスに寄りかかった。労いのつもりなのか、制帽を勝手に脱がせた手で肩を抱かれてそのまま頭を撫でられる。持ち上げた剣がそのままどちらかに刺さってしまいそうでヴァイスは焦った。白剣を惜しみながらも消して、どうにかノワールを引っぺがす。身長差もあれば体格差もある彼を引き剥がすのは少々骨が折れたため、ヴァイスは戦闘外で今日初めて息を乱した。
    「つれないねぇ」
    「今のは絶対つれないとかじゃない……!」
     戦闘時よりも激しい動きを取ったヴァイスの拍動は、バクバクとテンポを速めている。ノワールに対して構えを取り直したヴァイスは、いつも通り年齢に沿った子供らしさを示していた。
     ノワールは楽しそうに笑いながら、氷漬けにされた異形の方へと足を進める。そんなノワールを遠目で見ながら、ヴァイスもまた異形の死骸を確認した。戦闘中のヴァイスは気付いていなかったが、改めて見ると中々酷い光景である。それでもその中に美しさを感じるのは、ヴァイスの魔法自体が美しいものだからであろう。先程のノワールの評価を思い出す。ヴァイスはその時否定も肯定も表さなかったが、この現状を見れば大抵の者が賛同するような気はした。

    「——八、九……あれ、やっぱりだ」
     ノワールにしては珍しく何回かの確認を終えた後、スタートの地点まで戻ったところでそうつぶやいた。困ったように腕を組むノワールにヴァイスは近寄る。
    「どうしたの?」
    「死骸が一体足りない。逃げたかもね」
     他人事のような態度でノワールは推測を立てる。何拍か置いた後に、ヴァイスはサッと血の気が失せる感覚を覚えた。
    「し、失態じゃん! どうしよう!」
     直後、ヴァイスは目に見えて焦った。元々の任務が異形の討伐なのだから、当然である。
     ノワールはそんなヴァイスを柔らかに宥めながら、さほど気にしていない様子で地面のとある部分を注視していた。焦燥は消えないままにヴァイスはノワールのその行動をなぞる。真新しい血痕が地面に真紅の花を咲かせていた。
    「血痕と……それから魔力を追跡すれば見つかるだろうね。あまり時間をかけない方がいいけど」
     ヴァイスとは真逆に、至って冷静な口調でそう述べる。要は完全に逃げ切られる前に逃げた一体の魔力を追って、そしてトドメを刺せばいい、ということだ。
     だがその方法を頭の中でしっかりと理解した瞬間、ヴァイスは眉間に皺を寄せる勢いで眉同士の距離を縮めた。十体いた中の一匹。その魔力の判別など、元から十体全て倒すつもりで臨んでいたヴァイスは当然行っていない。そもそもあれだけいた中で個体ごとに魔力を測るなど不器用なヴァイスはできないし、やれと言われて速攻で頷けるほどのものではないのだ。この少年にとって。
    「……あぁ、大丈夫だよ。追跡は僕がやるから。逃げた一匹の魔力がどんなのかも分かってる、逃しはしないよ」
     そんなヴァイスの胸中はお察し、とでも言うようにノワールは言葉を並べていった。正直助かる。心の中で安堵しつつ、けれどさらりと有能発言をしてみせたノワールに悔しさが湧く。ノワールは魔法の扱いに長けている。それ即ち魔力の扱いも上手く、その分野ではNoDiWSイチであった。別のことを得意とするヴァイスとは比べる土俵が違うのは分かりきっている。それでもまぁ、悔しくはなるのだ。
     どこか拗ねたようにノワールを見つめていれば、ぐいっと制帽を下に引っ張られた。
    「そんな顔しないんだよ。互いの失敗は互いで補えばいい。僕らはニコイチなんだから」
     ちょっと違うぞ。そう言いかけた口の動きを、ヴァイスは咄嗟に考え込むような仕草で押さえ込んだ。ノワールが言ったことをそのままの意味で捉えれば、確かにヴァイスが気にしている部分とは少し違う。だが、「互いで補えばいい」という言葉と「僕らはニコイチ」の常套句には、密かにヴァイスを慰める意図が含まれていたように思えた。赤の他人には良心の欠片も見せないくせに、こういう時だけこの男は嫌に優しい。
     ぬるま湯のような優しさにこそばゆい思いを抱き、制帽を元の位置に戻しながらそれでもヴァイスは素直にこくりと頷いた。そんなヴァイスに対してノワールは、夜の静寂しじまで微かに存在を主張する星のような微笑みを向けていた。

     例の如く死骸の処理を終えて、逃走した異形の行き先の把握までを終えたところで足音が二つ分聞こえてきた。ヴァイスとノワールは同じタイミングでその方向を見る。
    「お前ら無事だったか」
    「随分と派手にやりましたね」
     黒から炎の色へとグラデーションのかかったマフラーと、象牙の色をしたローブとをそれぞれはためかせながらディアンとスティルがこちらに向かってきた。戦闘服の汚れ具合から、二人も同じように今し方先頭を終えたばかりなのだろうと推測できる。
     ヴァイスは彼らの名を呼びながらその元へと走り寄る。「二人も無事だったんだ」と安心したように言う最中、スティルに服の埃を払われた。
    「そう簡単にやられるわけないでしょう。私はそれより、貴方の戦闘服の返り血が気になりますよ」
     そう言って、スティルはヴァイスに生活魔法の一種である浄化を使用し服を清潔にしてくれる。にこにことしながらお礼を述べれば、その場に遅れてノワールがやってきた。
    「良いニュースと悪いニュースがあるんだけど、どっちから聞く?」
     ノワールの質問先は三人全員宛ではなく、スティルとディアンに対するものだった。二人は考え込むように神妙な顔つきをする。先に回答を示したのはスティルだった。
    「……良いニュースから聞きましょうか」
     順番に聞いていきたいのだろう。彼の細かな性格からヴァイスはそう予測する。腕組みをするスティルは後に訪れる悪いニュースを既に待ち構えているのか、硬い表情は崩していない。
     そんなスティルの返答に了承でもするみたく、ノワールはその顔を少しだけ傾ける。森の景観とは不釣り合いな彩度のない黒髪を揺らして、息を一つした。
    「悪いニュースから聞いてくれた方が楽だったんだけどな。悪いニュースから話すね」
    「は?」
     途端にスティルが力強く一言発した。マジかこいつ、とヴァイスも思った。そんな風に言うなら、選択肢の提示も情報の開示も、最初から最後まで自分一人でやれば良いものを。心底理解不能だ、と言うように顔を歪めるスティルが不憫でならない。スティルの隣に立つディアンもあからさまにドン引きしていた。
    「十体の異形と交戦。九体撃破、尚うち一体はトドメを刺す前に逃走。……はい、これが悪いニュース」
     そんな三人の様子をまるで気にもせず、ノワールは悪いニュース・・・・・を知らせていく。キャスターよろしく淡々と言葉を並べたかと思えば、事実を述べた後はいつもみたくあっけらかんとした口調で報告の一節を区切った。
     両の掌を前に差し出して、「悪い情報は開示しましたよ」とでも言うようににこりとしている。こいつサイコパスの気があるんじゃないか、とヴァイスは思いながらスティルに視線を移す。彼は困惑したようにノワールの顔と差し出された手を交互に見やり、ようやく現状を理解したかのように一度頷いた。依然として、スティルの顔からは険しさが抜けきっていなかったが。ただそうなる気持ちはヴァイスにも痛いほど理解できたので、同情するより他なかった。
    「そ、そうですか。えっと、それでは……良いニュースの方を」
     腕組みを解除して背の後ろへと移しながら、スティルはそう言った。ノワールの意味不明なトンデモムーブに、スティルも負けじと冷静な対応を心がけるその様は流石としか言いようがない。だが真面目なスティルが「異形を取り逃がした」ことについて言及しないことからも、相当混乱しているのが分かった。ディアンもそれを理解しているのだろう。気の毒そうな瞳でスティルを見ている。
    「逃げた異形の魔力は特定済みなので、早速追跡していこうと思いまーす」
     パッと両手を挙げた後に「これが良いニュース」とノワールは言った。相も変わらずの貼り付けられた笑みはどことなく楽しそうである。これは性悪だ、とヴァイスは隣に立つ男をジト目で見つめた。
     肝心のスティルはと言えば、ノワールの方を凝視しながらポカンとした顔をしていた。四人の間にはまたもや冷えた空気が流れ始める。そのうちにわなわなと体を震わせたスティルは、高らかにこう叫んだ。
    「マッチポンプじゃないですか‼︎‼︎」
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    Replies from the creator

    花式 カイロ

    DONEモノ君十二話です!お久しぶりのネームドキャラ登場!

    出演メンバー
    ・NoDiWS一行
    ・ニーファ
    十二話 胡桃色の少女 深緑の木々がざわめく中をヴァイス達四人は駆け抜けていた。異形の魔力を追跡可能なノワールが先頭を行き、ノワールと同じく魔力感知を得意とするスティルが補助役として斜め後ろを進む。そして二人の後ろでヴァイスとディアンが並走する。特に何かを話し合ったわけではなく、自然とこの陣形となっていた。
    「さっきのが嘘みたいだね、あれ」
    「本当にな。苦労した甲斐があったのかなかったのか、分かんねえわ」
     先導する二人を追いつつ、ヴァイスがそう切り出す。横で走っていたディアンは、呆れ笑いを浮かべながらもそう返した。ヴァイスは彼の返答を飲み込んで、確かに、と独り言みたく小さく溢す。
     スティルがマッチポンプだと叫んだシーンのその後は、それはもう大変なものだった。奇人ぶりを言動に滲み出させるノワールと、それに苛立ち堪忍袋の緒が切れる寸前だったスティル。それを必死で宥め説き伏せたのがヴァイスとディアンだった。全く悪びれない——というより己の言動が悪いとも思っていなさそうな——ノワールをディアンが黙らせ、ヴァイスの拙い弁論でなんとか仲裁したのだ。
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