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    花式 カイロ

    @arisaki_hspr

    自創作本編とは1μも関係のない怪文書と、自創作の小説を投げつけるだけの場所です。
    あとちょっとセンシティブな絵も載せようと思う。

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    花式 カイロ

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    モノ君十三話!です!!

    出演メンバー
    ・ヴァイス
    ・ノワール
    ・ニーファ

    十三話 真紅の花 三人分の足音がバラバラなリズムで鳴っている。ヴァイスは自分の隣を行く、怯えたような早歩きの主に声をかけた。
    「僕はヴァイス、あっちはノワールです。……多分、気遣ってくれたのに、こんなことになっちゃってごめんなさい」
     恐らく同世代である初対面のニーファにどう接して良いか分からず、ヴァイスは辿々しげに言葉を選んだ。ニーファは少し遅れてそれに反応し、瞬きを一つする。
    「い、いえっ! 実はちょっぴり怖かったので、助かりました」
     屈託なく笑うニーファの表情は、どこかの誰かさんが浮かべるテンプレ微笑とはまるで違う。久しぶりに目にする純粋な笑みを眩しげな思いで見ながら、いえ、と答えた。
    「それより、その……私のせいでギクシャク? させてしまって、ごめんなさい」
     そう言ってニーファは申し訳なさそうに眉を下げた。両手の指を擦り合わせる様子から、その真剣さが垣間見える。
     ギクシャク、と言うのはまぁよく考えなくてもノワールとスティルのことであろう。側から見ても馬の合わない二人組を思い浮かべ、初対面であれは申し訳なかったなとヴァイスは思った。大丈夫だという意思を伝えるために、ヴァイスは両の手を左右に振る。
    「あの二人……特にノワールはいつもあんななので、特に心配しなくても大丈夫、かと……」
     自分で言いながらヴァイスは心配になった。今からでもノワールの性格矯正を始めた方がいいかもしれない。そう思ったが、あの歳であれだけの歪みようだ。もう根が蛇腹ほどに折れ曲がっていないとああはならないだろう。そう考えると、矯正の目処がまるで立たなかった。
    「そうで……きゃっ」
     ニーファが何か言いかけたその時、彼女は足をもつらせたのか前方向に転けそうになる。ヴァイスはそれを持ち前の反射神経で抱えた。
    「だ、大丈夫ですか?」
    「はい、ごめんなさい……ちょっと歩きにくくて」
     ヴァイスが聞けば、ニーファは困ったように笑いながらそう答えた。トントンと片足の爪先で地面を叩く。その動作につられて彼女の靴を見た。光沢が艶やかでどことなく高級感を醸し出す、彼女の瞳の色と似た赤色のパンプス。装飾として施された控えめなリボンは、少女らしい可愛さを演出していた。
     確かにこれでは道の悪いこの森を歩くのは辛いだろう。それに先程から、ニーファは前を歩くノワールに追いつこうと必死になって歩いている。人工亜人や他に身体能力の高い種族でもなければ、ずっとその速さで進んでいくのには体力的も厳しそうである。ニーファは推定十歳であることから体力が多いとは思えず、尚更心配だった。
     ヴァイスはニーファのことを支えながら、ノワールの方を見る。色彩の豊かさを微塵も感じない後ろ姿からは、十二歳とは思えぬ太々しさが漂っている。
    「ノワール、もうちょっと歩くスピード落としてくれない?」
     聞き取りに問題なさそうな程度のボリュームで話しかける。ノワールはヴァイスの声を聞いた瞬間にピタリと足の動きを止め、こちらに振り返った。ヴァイスのことを見据え、瞬きを境にその視線をニーファの方へと移す。溶かして濁らせたべっこう飴を再び固めたかのようなその瞳は、そうして何回かヴァイスとニーファとを行き来する。ヴァイスにとって見慣れたそれはニーファからすれば異様らしい。少しばかり目を泳がせて足を進めていた。
     そうしてヴァイスたちがノワールに追いついた途端に、ノワールはさっさと体を下の方向に向けて歩き出す。だが再び歩き出したノワールの速度は、先程より落ち着いたものとなっていた。分かりにくい従順に溜息をつきたい思いになるが、それでニーファにまた心配をかけるのは避けたい。そうしてヴァイスはそれを喉の奥で押し殺したのだった。

     どれだけ歩いただろうか。太陽がもうすぐで真上に到達しようとしているのを見て、ああそろそろ昼時かと考える。思い出したように端末を起動させれば、あと数分で十一時になる頃だった。
     ニーファをこのまま村に送り届けて、スティルたちが首尾よく事を終えればメインミッションは完了となる。ニーファの保護は、言い方は悪いが怪我の功名だ。そして余力があれば行方不明者の捜索、というサブミッションだが、ヴァイスは今のところ体力はそれなりに余っていたのでそれも行うつもりだ。ノワールは最初から乗り気どころかミッションだとも思っていなさそうなので、一人で行ってくることにしよう。そこまで完璧に終わったらそのままお昼はファタリアで摂ってしまおうか。ファタリアは確か果物の栽培が盛んなのだ。お小遣いで買える範囲内でスイーツを買ってしまおう。
     だなんて、戦いではない方・・・・・・・を任されたヴァイスは、安心し切って呑気なことを考えていた。
    「さっき僕はスティルに情報共有・・・・をしたんだ。追跡を彼に任せるためにね。……逃した一匹さえ殺せばそれで終わると思ってた」
     ふと歩きながらノワールが会話を始める。時間差での情報開示のようなことをされて、とっくに柔くなっていたヴァイスの脳は処理が遅れた。「えっ?」と思わず聞き返す。
    「現れた異形は僕たちのところに十匹。スティルとディアンのところにも同じ数だけ集まっていたと仮定して、合計二十匹程度。……この森に入った時に感じた魔力の大きさも、その数の多さからくるものだと思ってた」
     珍しくヴァイスの呼びかけにも答えないまま、ノワールはそのまま話を続けていく。まるで全ての音が耳に入らないように、今この瞬間、ノワールの世界には彼自身しかいないように。
    「けど、通常群れない異形があれだけいたことに、ちゃんと疑いを持って挑むべきだったね」
     ノワールはどこか諦めたようにそう言って、自責するように制帽の鍔を掴んだ。微弱な風しか吹かない森の中、漆黒で織られた彼のマントが靡く。不意に、ノワールが見据える森の奥から澱んだ空気が流れ込んできた。肺の隅々までを侵していくような空気は、ヴァイスの呼吸を浅くさせる。ニーファを左手で庇いながら、それでも濁った霞に気圧されるように一歩後退して。真白の靴裏と土が擦れるその音。それに引き摺り出されるように、澱みの正体が露わになった。
     異形だった。それも、ヴァイスたちの体を軽く二回りする程の巨大な異形。それが持つ鋭利な爪は隠されもせずに、木々の隙間から入り込む日光によって鈍く輝いていた。一度裂かれれば命はないであろう凶悪なそれに身震いする。ヴァイスは心許ない白剣を顕現させた。
     そうして目の前の異形は徐に一歩踏み出した。重厚な足音は敵ながら称賛ものであるが、そう多くは鳴らしてほしくない音だ。それに伴って揺れる尻尾。頭の上から尻尾の先まで綺麗なほどに均一な白銀のその毛並みは、しかしどこか刺々しい。毒を纏わせたように紫紺に輝く瞳は、先程の異形とは比にならない程に敵意と殺気で満ち満ちている。脊髄までもが痺れる思いだった。
    「親玉、ってやつかな」
     ヴァイスとニーファを守り立つようにしていたノワールがそう言った。親玉。確かにそう形容するのが正しいだろう。先の異形が順当に進化していったようなその姿とタイミング。そして、その大型異形を護衛するようにサイドに位置取りをするあの異形。生き残りは一体だけだと思っていたが、実際にその個体数はもっと多くいたらしい。ピンピンと元気な体で異形らはヴァイスたちを睨みつけていた。
    「……ノワール、お願いがあるんだけど」
     そう言って、ヴァイスは彼の隣に並び立った。キンッと音を立てて、また白剣を地面に突き立てる。そしてヴァイスは、異形から目を離さぬままに言葉を続けていった。
    「こっから先は、ノワールだけでニーファさんをファタリアに送り届けて欲しい」
     氷柱のように真っ直ぐで曇りのない声色。言葉を紡げば、ノワールは驚いたように瞳を揺らす。
    「ヴァイス、それは……」
    「理解してくれ、って言うかしてるでしょ、君なら」
     そう言ってヴァイスはほんの一瞬後ろへと視線を向ける。酷く怯えて表情が強張っているニーファと目が合った。
    「僕の力と体格じゃ彼女を抱えて逃げることはできないし、できたとして、追っ手が来た場合にそれらを振り切る自信もない」
     ヴァイスはそう言い放ちながら、なんて情けないんだと思った。だがしかし事実だ。ニーファを送り届けると決めた以上それは遂行しなければならないし、それができるのは今この場ではノワールだけなのだ。ヴァイスでは、筋力も体力も、そして器用さも、何もかもがノワールより足りない。だから託すしかない。
    「……分かったよ」
     そう言ってノワールは数歩下がり、そのままニーファを片手で抱える。どこにそんな力があるんだと言ってやりたくなったが、今は落ち落ちそんなツッコミもしていられない。
     ヴァイスは誰にも聞こえないようにぽそりと言霊を吐く。ヴァイスの立つ部分から地面が徐々に凍っていき、ヴァイスと異形だけを取り囲むように氷は壁を作り始めた。
    「ヴァ、ヴァイスさん! そんなっ、危険ですよ! あんな、巨大な……」
     氷を挟んで不鮮明になったニーファの声が聞こえてくる。ヴァイスは後手で自身とノワールたちとを隔てる壁に触れて、その厚みを増やしていった。振り返って、その場の雰囲気には合わない儚げな笑みを作る。
    「僕の仕事は、異形を倒すことです。情けなく敵前逃亡なんてしたりしません」
     氷壁に魔力を滲ませるにつれて、その不透明度はどんどんと上がっていく。ノワールとニーファの姿が認識しづらくなっていった。それは向こうも同じこと。それでもニーファは叫び続ける。
    「死んじゃいます! ヴァイスさん‼︎」
     小さい体で目一杯の声を張り上げるニーファ。もうほとんど見えないに等しい彼女にヴァイスはとびきりの笑顔を向けた。
    「僕、生き残ることは得意だから」
     その言葉が終わると同時に、ヴァイスは氷の世界へと自分自身を閉じ込めた。

     ヴァイスはようやくと言ったように異形の方に向き直る。それと同時かそれより遅いか、壁を張る時に展開させていた異形の動きを拘束するための氷が砕かれた。バキッと冷たく硬いそれに似合う音を鳴らして、破片が地面に飛び散った。ヴァイスは静かに息を飲む。
     体の自由を取り戻した異形らは、遠慮もなしにヴァイスへと襲いかかってくる。目の前の標的に集中するたちなのか、周囲に張った氷壁を壊すわけでもなく一直線に。正直助かる。そう思いながらヴァイスは空中に氷の礫を顕現させる。踏み出すと共にそれらを異形に向けて放った。
     小型異形は素早い動きでそれを回避し、難なくヴァイスの元へと辿り着いた。振りかぶった爪を剣で受け止めて、そのまま弾いて蹴りを入れる。その隙に近距離まで詰め寄ってきたもう片方の小型異形が口を開いて、その鋭利な牙を覗かせる。チッと舌を打ちながら、飛びかかってくる小型異形と自身の間に数枚の氷壁を作り出した。異形の攻撃を受け止めた氷壁は、パキパキと音を立てながらヒビ割れていく。完全に割れてしまう前にヴァイスは後ろへと跳んで距離を取った。
     ヴァイスは思考を巡らせる。三対一。誰がどう見ても今のところ劣勢でしかないこの状況を、どう打開するのか。ノワールという支援役もいない今、先程の戦闘のように発動に集中がいる魔法は使えない。となればやはり小さいのから一匹ずつ倒していくしかないわけで。ヴァイスは風の流れを断つかのように剣を一振りして、気合を入れ直した。
    「カッコつけた以上、ちゃんと無傷で・・・帰らなきゃいけないんでね」
     ヴァイスはそう言って駆け出す。同じくこちらへと向かってくる異形に対し、今度はこちらから刃を振り下ろした。異形がそれを避けて着地したのを目視し、ヴァイスは口元に笑みを作る。
    「ガアァァ!」
     凍った地面から針のように鋭い氷が突き出し、そのまま異形の体を貫いた。ビクビクと体を震わせて、鮮血を垂れ流す。放っておけば生き絶えるであろう。そう確信して残りの異形へと目を向けた。
    「おまえたちが踏んでるその氷は全て僕の魔力で生成されたものだ。お望みならすぐに穴だらけにしてあげるよ」
     挑発するように言ってみせる。実際には先程発動させた魔法は、一定の範囲内に来ないと発動できないトラップ魔法だ。ヴァイスは剣で戦いながらの細かな魔力の制御は苦手なために、相当近くに来てもらわないといけない上、一度ヴァイスが足をつけた場所でないと発動もできない。つまり「すぐに穴だらけにする」という宣言はハッタリである。
     実に扱いにくいものではあるが、それでも使えるものはなんでも使って勝たなければいけないのだ。それくらいの気概がこの少年にはあった。
     そして仲間を一体失った異形サイドと言えば。
    「ガルアァァァ……」
     当初よりも強く鋭い眼光をヴァイスに向けている。そんな奴らの様子にヴァイスは眉を顰めた。
    「仲間意識? 亜人みたいな感情持ってるね」
     驚きながらも吐き捨てるようにそう言った。敵の様子から早めにカタをつけた方がいいかと考える。
     ただ異形はトラップを発動させた後のヴァイスの言葉を警戒してか、不用意にこちらには近づいてこない。戦い方といい群れ方といい、この異形にはどこか知性を感じる。
    「グォォォォォ‼︎‼︎」
     そう上手くはいかないか、と心の中でこぼしながら再び踏み出そうとすれば、異形がそう吠えた。あまりの大声に一瞬怯む。その隙に異形は爪の斬撃を放った。ヴァイスに向けてではなく、地面を覆う氷に対して。
    「あぁ、もうっ! いちいち賢いな! ムカつくやつ……!」
     その強い力は氷を砕くだけに飽き足らず、地面までもを抉った。流れ弾を白剣と魔法を用いてどうにか躱しきる。収まったかと思えば、大型異形は地面に斬撃を放った姿勢のまま動かない。一瞬でそれが攻撃の反動であると察したヴァイスは、大型——ではなく、小型異形の方へと向かった。大型とヴァイスの一対一に持ち込むため。
     大型異形が再び動き出す前に、ヴァイスは小型の方を仕留めようと畳み掛けた。爪と牙、それを流水のような剣捌きでいなして切り捨てる。それによって動きを止めたのを見逃さず、脳天を柄で打った。力なくよろける異形に集中して、そうしてヴァイスはその首を刎ねた。
     これで小型の殲滅は完了。あとは一対一で全力を用いて倒すだけ。
     ——そうしてすぐさま大型異形へと体を向けたヴァイス。目の前にあるのは、すでに振り下ろされていた鋭く凶悪な鉄紺の爪だった。
     ザシュッ。肉を裂く音がゼロ距離で鮮明に聞こえてくる。右肩から斜め下へと入った爪痕。遅れて散った真紅の花は、真白のヴァイスに毒々しい染みを作った。体の内側が冷気に晒されたように、激烈な痛みが襲ってくる。
     ヴァイスの体は切り裂かれた。ヴァイス自身がそのことに気が付いたのは、ぼやける視界が斜めに揺れてからだった。
     
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    花式 カイロ

    DONEモノ君十二話です!お久しぶりのネームドキャラ登場!

    出演メンバー
    ・NoDiWS一行
    ・ニーファ
    十二話 胡桃色の少女 深緑の木々がざわめく中をヴァイス達四人は駆け抜けていた。異形の魔力を追跡可能なノワールが先頭を行き、ノワールと同じく魔力感知を得意とするスティルが補助役として斜め後ろを進む。そして二人の後ろでヴァイスとディアンが並走する。特に何かを話し合ったわけではなく、自然とこの陣形となっていた。
    「さっきのが嘘みたいだね、あれ」
    「本当にな。苦労した甲斐があったのかなかったのか、分かんねえわ」
     先導する二人を追いつつ、ヴァイスがそう切り出す。横で走っていたディアンは、呆れ笑いを浮かべながらもそう返した。ヴァイスは彼の返答を飲み込んで、確かに、と独り言みたく小さく溢す。
     スティルがマッチポンプだと叫んだシーンのその後は、それはもう大変なものだった。奇人ぶりを言動に滲み出させるノワールと、それに苛立ち堪忍袋の緒が切れる寸前だったスティル。それを必死で宥め説き伏せたのがヴァイスとディアンだった。全く悪びれない——というより己の言動が悪いとも思っていなさそうな——ノワールをディアンが黙らせ、ヴァイスの拙い弁論でなんとか仲裁したのだ。
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