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    michiru_wr110

    @michiru_wr110

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    michiru_wr110

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    brmy
    春衣都
    8月9日、ハグの日に寄せて。
    お付き合い中・愛が重い壱川くんと、同じ気持ちを向けたいけれど嘘はつきたくない衣都ちゃんについて。

    そういう奴だと知っている程度の距離感だと、俺は思っている。

    #春衣都
    #brmy男女CP

    問題だらけの俺たちは(はるいと) 窓から差し込む日差しが少しずつ遠くなっていって、それでも日没にはまだ早い時分だった。いつの間にか室内の明度が少し落ちている。自分一人だったら横着して、そのままにしている程度の中途半端な明るさ。
     作業にはちょうど、区切りがついた頃合いだった。見せられる状態のラフデザインを一瞥して、トラックパッドから手を離す。回転椅子をゆるゆると回しながら振り返ると、数時間前と変わらない、小さくしゃがみこんだ弥代の後ろ姿があった。部屋の明るさなど気にも留めず、おこげと戯れている。
     なんで電気、つけないんだろ。作業に没頭していた俺が言うのもなんだけど。きっと下手に電気をつけると、俺の気が散るとでも考えていたんだろうな。そういう奴だよ、弥代は。


     弥代的には、おこげを口実に部屋を訪れたつもりらしい。ハウスでの打ち合わせなどとっくに終わっていて、この後は直帰なのだと。おこげはにゃあ、と鳴いて嬉しそうに弥代へすり寄る。弥代も慣れた手つきで顔回り、おこげが喜びそうな箇所に触れていた。
    「気が済むまで、ここにいれば」
    「……邪魔にはなりませんか」
    「なってたらとっくに追い出してる」
     顔を上げた弥代と目が合う。ぼんやりとした焦点から急速にピントを合わせるように、俺の目の奥を見つめる弥代。こういう時は大抵、俺の体調やら機嫌やら、まあいろいろと様子をうかがっている時だと知っている。大河からは俺の体調がわるくないことも聞いているだろうに。弥代は毎回、きっちりと顔を合わせて、確かめるように俺と対峙してくれる。

     そういう奴だと知っている程度の距離感だと、俺は思っている。


     そうして薄暗さが加速している今。弥代は飽きもせず猫じゃらしのおもちゃをひらひら動かしているし、もとより夜行性のおこげなんて尚更周りを気にする様子もなく弥代の手にじゃれついている。
     頬杖をつきながら、ひじ掛けに腕を乗せる軋んだ音がした。双方こちらには目もくれない。
    (ふうん……)
     息を潜めながら。視線にプレッシャーを乗せないように気をつけながら。空気にでもなった気分で観測した光景は、平和以外の何物でもないだろうけれど。
     つまんない。大人げなく呟きそうになった言葉を、口のなかで転がす。
     弥代だって俺に会いに来たんじゃなかったの、と。俺の生存確認が終わったら用なしですかい、と。

     頬杖をはずして立ち上がる。わざと気配を消しながらそろりそろりと、弥代の背後に回り込み、屈む。おこげを追いかけ右へ左へ、微かに動く弥代の後頭部。後ろ髪から覗くうなじから肩のラインの、なだらかな細さを視線でなぞっていく。
    (あー……)
     女の子だな。率直な感想は、その一言に尽きる。
     同い年の成人女性に向けた言葉としてはやや幼い表現。けれど、童心に返ったようにおこげと遊ぶ姿は女の子以外の何物にも見えなくて。

     だから引き寄せられたのかもしれない。

    「――っわ」
     弥代の肩に顎を乗せたのはほとんど無意識だった。そのまま背後から体重を預けて、床に両手をつく。ほぼ覆いかぶさった体勢から、きょとん顔のおこげと目が合った。
    「見やすい」
    「あ……そういう」
     納得したような、しないような。ぼんやりとした回答に肯定の意を汲み取って、そのままの体勢に甘んじる。弥代の体温はやたらに温くて、油断すると瞼が勝手に落っこちそうな心地よさだった。
    「ま……壱川くんまって。寝るならベッド」
     弥代は、平坦に見せかけて揺れる声で言う。
    「んー……?」
    「仕事、終わりましたか」
    「ん」
    「終わったなら、いいです」
     やっぱり、そうだ。短くて雑な相槌を、正確に汲み取ってくれる。弥代だって俺のことを、そういう奴だと知っている。相槌を聞き分けられる程度の距離感だと。
    「弥代は、さ」
    「?」
     だけど。
    「俺のこと、すきなの」
     近しい間柄だと、わかっていても。
    「…………えっ」
     言葉で確かめたくなる瞬間は、ある。

     振り向く気配から逃れるよう、肩に預けていた顔を背中に擦り付けた。床につけていた両手で弥代を拘束する。再び前を向く気配に、俺の表情(カオ)を見るのを諦めてくれたことを理解する。
    「それは……まあ、はい」
     そこは、すきって言うところだよ。
    「なにが」
    「なにって」
     オウム返しができるなら、すき、も返しなよ。そんなのレアより頭わるいじゃん。
    「すきなの?」
     だからまた、同じこと聞くはめになるんだ。


     時々、わからなくなる。弥代の感情が。
     浮気の心配とか、そんな大それたことじゃない。アポリアなんて男連中が集う環境なんだから、そんなの今更だ。そんなことじゃなくて。
     弥代はふと、遠く、届かないところに意識を飛ばす時があるから。
     大河や誓とお茶している時。ハウスの玄関で靴を履く時。イベントで他の同僚と交わす、何気ない会話の合間。
     いつだって唐突に。さっきみたいに俺に焦点を合わせる時ですら、俺ではないどこか遠くを、見ていることがあるから。
     そうした瞬間に居合わせてしまった時。弥代への気持ちの置き所が、ぼんやりとわからなくなることがあるから。

     だから、確かめたくなる。

    「……ついでに俺、重い?」
    「体重がかかると、さすがに重いです」
    「……わかって言ってるっしょ」
     弥代の恋人、を、名乗る権利がある。けれどその権利を得た瞬間は、思いもしなかった。俺自身がこんなに、重たいもの抱えていたなんて。
    「すき、と言っても。壱川くんはきっと、納得しない気がする」
     そりゃあまあ、空っぽで実感のない「すき」の一言なんか、求めてない。求めちゃいないけど。
    「……かもね」
     それでもほしくなる時だってある。だから、腕に力を込める。背中に頬を擦り寄せる。
    「ちゃんと言えなくて、ごめん。でも不安になったら、聞いて」
    「……ん」
     これは弥代なりの、誠実さって奴なんだろう。弥代の中にあるしがらみの中で、最大限の、愛情表現。

     遊び疲れたらしいおこげは、丸くなって俺たちを見上げて、あくびをひとつ零した。
    「確かめてもらえなくなるのは……きっと、さびしい」
     弥代が零すのは、いくらか実感のこもった言葉。

     カレシカノジョを名乗るには問題だらけな、俺たちの関係。

     弥代にとってはやっぱり、重たいものだろうか。
     俺のなかに根付いた、家族への親愛ともまたちがう、「すき」の感情は。
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    michiru_wr110

    DONEbrmy
    弥代衣都(+皇坂+由鶴)
    捏造しかない・弥代衣都の中に眠る、過去と現在について
    image song:遠雷/Do As Infinity

    『きょう、ばいばいで。また、ママにあえるの、いつ?』
    軽やかに纏わる言霊(弥代衣都・過去捏造) 女は視線でめつけるように傘の骨をなぞり、露先から空を仰いだ。今日という日が訪れなければどれほど良かっただったろうか、と恨みがましさを込めて願ったのに。想いとは裏腹に順調に日を重ね、当たり前のような面をして今日という日を迎えてしまった。

     無機質な黒色の日傘と、切り分けられた青空。都会のように電線で空を区切ることも、抜けたように広がる空を遮るものもない。しかし前方には、隙間なく埋め尽くされた入道雲が存在感を主張している。

     女の両手は塞がっていた。
     片方の手には日傘。そしてもう片方の手には、小さな手の温もり。
     歳相応にお転婆な少女は女の腰にも満たない背丈で、時折女の手を強く引きながら田舎特有のあぜ道を元気に駆けようとする。手を離せば、一本道をためらいなく全力疾走するであろう、活発な少女。しかし女は最後の瞬間まで、この手を離すつもりはない。手を離せば最後、何もしらない無垢な少女はあっという間に目的地へとたどり着いてしまうに違いない。
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    (けれど、この時期ならもっと、さっぱりしたものが食べたい。となると)
     …………十。
    (さっぱり…………大根サラダ?)


    「よし、休憩」
    「ふう……」
     取り敢えずの結論が出たと同時にカウントが終わり、十キロのバーベルを所定の位置に戻す。仰向けの体勢のまま私は、天井の壁の無機質な模様の一点をぼんやりとみつめていた。
     当初は五キロほどで息も絶え絶えだった私が、今は倍の重量をそれらしく動かせる程度には進歩している。とはいえまだまだ初心者の域を出ない重量に違いはないし、まだまだトレーナーもとい新開さんのサポートは必須だけれど。いつものジム内、ほぼ貸し切り状態で行われるトレーニングは定期的に続けている甲斐あって、微々たる成長とともに「ある」寄りの体力に近づきつつある。
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    2023年3月20日、お彼岸の日の話。

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    ※一部捏造・モブ有
    あの世とこの世の狭間に(夏メイ) 三月二十日、月曜日。日曜日と祝日の合間、申し訳程度に設けられた平日に仕事以外の予定があるのは幸運なことかもしれない。

     朝方の電車はがらんとしていて、下りの電車であることを差し引いても明らかに人が少ない。片手に真っ黒なトートバッグ、もう片手に菊の花束を携えた青年は無人の車両に一時間程度揺られた後、ある駅名に反応した青年は重い腰を上げた。目的の場所は、最寄り駅の改札を抜けて十分ほどを歩いた先にある。
     古き良き街並みに続く商店街の道。青年は年に数回ほど、決まって喪服を身にまとってこの地を訪れる。きびきびとした足取りの青年は、漆黒の装いに反した色素の薄い髪と肌の色を持ち、夜明けの空を彷彿とさせる澄んだ瞳は真っすぐ前だけを見据えていた。青年はこの日も背筋を伸ばし、やや早足で商店街のアーケードを通り抜けていく。さび付いたシャッターを開ける人々は腰を曲げながら、訳ありげな青年をひっそりと見送るのが恒例だ。商店街の老いた住民たちは誰ひとりとして青年に声をかけないが、誰もが孫を見守るかのような、温かな視線を向けている。
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