呪いのかぼちゃと電波達『この世界には、概ね人間界と同じような植物が存在している。
しかし、中には人間の世界には存在していないような奇妙な植物も存在する。』
ここは、電波人間の世界に存在している廃墟のような不気味な館。外見はボロボロだが内装はちゃんとしていて、キョウ、ケン、ミイナ、ルージュ、マジョカ、ミイナ、ナイトの7人の電波人間が暮らしている。
ルフィンとキョウは、館の図書室で見つけた植物図鑑を一緒に見ていた。
「へえ、僕たちがよく見る植物って人間の世界にもあるんだ。僕は人間の世界に行かないから分かんないなあ」
ルフィンがあくびをしながら言った。
「人間の世界の電波を縄張りにしてる電波人間さん達に聞けば知ってるんじゃない?面倒臭いから僕は興味無いけどね。」
「キョウは面倒くさがりだな〜。こういうのって普通気にならない?」
「別に気にならないよ。人間の世界に旅行しに行くわけじゃあるまいし。」
2人でお喋りしながら本を読んでいると、
「ご飯できたわよ〜早く席につきなさい」
キッチンからルージュの声がした。
「「は〜い」」
2人が席に着くと、テーブルの上に大鍋に入ったかぼちゃのスープが置かれていた。
「今日はかぼちゃのスープとミ〇ノ風ドリアよ、残さず食べてね」
「「「「「「「いただきまーす!」」」」」」」
「このかぼちゃのスープすごく美味しいわね」
ミイナがかぼちゃのスープを絶賛してくれた。
「マルーン達がおすそ分けしてくれたのよ」
ルージュによると、今年はかぼちゃがよく採れるらしい。館と農場は近いので、よくおすそ分けしてくれるのだ。
「そういえばさ、くいしんぼう草原ってあるじゃん」
ナイト(今週の食材調達係)がドリアを食べながら言った。マジョカに飲み込んでからにしなさい!と言われ、少し間を開けて再び喋り始めた。
「あそこにおばけかぼちゃを落とすケーキがいるけど、あのかぼちゃってどこからきてると思う?」
ルフィンが、
「ぶきみなかれきから採れるって図鑑に載ってたよ」
と得意げに話した。
「でもぶきみなかれきってあそこに生えてないし、なんならここら辺にも生えてない気がする…」
ナイトが疑問を述べた。電波人間達は、確かにぶきみなかれきなんて見たことないので(レプリカならショップで売っている)おばけかぼちゃはどこから来ているのか不思議に思った。
この世界では、おばけかぼちゃは高級な珍味である。人間の世界でいうキャビアやフォアグラ、トリュフのような物だ。マルーン達によると、おばけかぼちゃを育てようとしても上手くいかず普通のかぼちゃになるため、入手手段がモンスターに限られるらしい。そのため、レベルが高くて強い電波人間でなくては手に入れる事ができない。(優しい電波人間が手に入れたおばけかぼちゃを安く売ってたりはする)
「1度でいいから食べてみたいなあ…」
ルフィンがそう呟く。
「あの島にはとても強いエメラルドタイフーンっていうモンスターが出るから1人で行っちゃだめだからな」
ケンが念を押した。
「は〜い」
その日の夜。
「ってことで、明日おばけかぼちゃ採りに行ってこよ!」
ルフィンが元気よく言った。
「いやダメでしょ!さっきケンに忠告されたの忘れたの?」
すかさずキョウが突っ込む。
「いや、大丈夫でしょ。僕煙幕もってるし!最悪逃げればいい!」
「ルフィンにしては冷静だった…」
「よし!キョウも着いてきてよ!1人だと何かあった時怖いし!」
「なんでそうなるの!?」
キョウはまさか自分が誘われると思ってなかったので驚いた。でも、ルフィンを1人で行かせるのが少し心配だった。ビターホールのレベルは66、エメラルドタイフーンのレベルは77、単騎で挑むにはあまりにも危険だった。(ルフィンとキョウはレベル70)
そして次の日の朝。くいしんぼう草原への船が出る日である。
「結局キョウも着いてきてくれたんだ」
「1人で行かせるのが心配だし…」
2人はくいしんぼう草原行きの船に乗った。
程なくして着いた狩人の休憩所で説明を受け、2人は狩りに出かけた。
途中の敵も全て倒し、既に沢山の食料が手元にあった。
そしてビターホールが出現するらしい雪原(森)に向かった。
2人だと少し厳しかったが、何とかビターホールを2体倒し、おばけかぼちゃも2つ手に入れた。
「あの敵強かったね〜」
「本当にルフィンを1人で行かせなくてよかったよ…」
2人が喋りながら帰る途中、キョウが奇妙な物を見つけた。
「あれ、木が枯れてる…」
雪が降り積もる深緑の木の中に、1本不自然に紫色に枯れた木があった。規則的に並ぶ木の中で、その枯れ木は道を塞ぐように生えていた。
「これってもしかしてぶきみなかれきじゃない!?」
ルフィンは喜び、近くに駆け寄った。
「キョウ〜!おばけかぼちゃがなってるよ〜!」
その木には3つおばけかぼちゃがなっていた。
ラッキーと思い収穫し、ふと足元を見た。
「っ…!」
足元に木の細い根が絡みついていた。
「何これ????( ᐙ )?」
ルフィンも驚いている。
幸い枯れ木ということもあってすぐに外せたが、モンスターでもない枯れ木が動いてることに恐怖を隠せなかった。
すると、枯れ木の幹に顔のようなものが1つ浮かび上がってきた。電波人間の顔だ。これはまずいと思って、ルフィンの手を引きすぐに休憩所に走った。
「そんなに焦ってどうしたの?」
地底人のお姉さんが心配してくれた。
2人は先程起こったことを必死に話した。お姉さんはそれを聞いたあと、表情を強ばらせた。
「ねえ、その電波人間の顔ってどんな感じだったかしら…?」
「あのね、髪の毛がくるくるで、目は僕と同じで、口はにっこりしてて、チークがあったよ!」
その特徴を聞き、お姉さんはさらに真っ青な表情を浮かべた。
「そうなのね…ありがとう。」
「もしかして、何か知っているお方ですか?」
キョウが尋ねると、お姉さんはゆっくりと頷き、
「その子、つい先日あなた達と同じように狩りに来て、ここに帰って来てないのよ。その時はテレポーターでも使ったのかと思ったけれど、最近同じようなことが多いものだから…」
それを聞いて2人は青ざめた。
「死んじゃったの…?」
「それは分からないわ…でも、枯れ木にその子の顔が浮かんだということは、良くない何かがあったということかもしれない。君たち2人も、子供だけでここに来るのはもうやめた方がいいわね。何があるか分からないんだから」
2人はその言葉に頷いた。
「そろそろ帰りの船が出るわ。暗くなる前に乗っていきなさい。」
ルフィンとキョウは、帰りの船に揺られながら、かなり恐怖を感じていた。
「ねえ、キョウ、いなくなった電波人間さんってどうなっちゃったのかな…?」
「分からない…でも、モンスターに倒されただけならああはならないよね。島に帰れるし。」
「すごい怖かったね!このおばけかぼちゃどうする?」
「明日あたりこっそり料理して食べちゃおう?バレたら怖いから」
帰りの船は、なんとも言えない恐怖に包まれていた。
船から降りて、5つのおばけかぼちゃを抱えて帰路に着く途中、ある電波人間がはなしかけてきた。
「すみません、それっておばけかぼちゃでしょうか…?」
その人はやつれていて、顔が異様に白かった。
「はい、そうですが…」
キョウは訝しげにそう答えた。
「そうなんですね、ちょっとそのかぼちゃを2つほど譲っていただけないでしょうか…?」
(2つ…でも2人で食べるには5個は多いからいいかな)
ルフィンも頷いているので、その電波人間にかぼちゃを2個譲った。
「ありがとうございます!これで娘が助かります…!」
「何かあったの?」
ルフィンが気になって尋ねてみた。
「はい、実は…」
その電波人間達は生まれつき体が弱く、2人して流行病にかかってしまったらしい。そこで、貴重で栄養のあるおばけかぼちゃを食べたかったそうだ。
「そういうことか!お大事にね!」
ルフィンとキョウは笑顔で手を振った。
家に着き、いつものようにご飯を食べ、ベッドの下におばけかぼちゃを3つ隠して2人はベットに横になった。
「今日は色々あったね…疲れたあ」
ルフィンはあの時の事を思い出していた。
「ぶきみなかれきってあんなに恐ろしい木なんだ…」
キョウもぶきみなかれきに浮かび上がった顔を見て恐ろしくなってきた。
心も体も疲れ果てたのか、2人は程なくして眠りについた。
「あれ…もう2人とも寝てる。いつもならまだお喋りしているのに」
2人に早く寝るよう言いに来たマジョカは、既に2人とも寝てることに驚いた。
「相当疲れてたのかな。今日はどこかに出掛けてたみたいだし…ってあれ?」
マジョカは、ベットの下に何かあることに気づいた。2人を起こさないように近づき、下を覗き込むと…
「これ…おばけかぼちゃじゃない?まさかあの2人…」
マジョカは、おばけかぼちゃを全て持って部屋から出ていってしまった。
「本当に危なっかしいんだから…」
その顔に薄い怒りを浮かべながら。
次の日の朝6時。
ルフィンとキョウは、マジョカ(今週の料理当番)に「今日は特別な朝ごはんだよ!」
と朝早くから叩き起こされてた。
「とくべつな朝ごはんってなんだろう…?」
2人が首を傾げてると、顔に黒い笑みを浮かべたマジョカがお盆を2人の前に置いた。
「今日の朝ごはんは…」
2人は嫌な予感がした。
「あんたたちが昨日忠告を破って採ってきたおばけかぼちゃです!!!」
お盆に載っていたのは生のおばけかぼちゃだった。
「「ごめんなさーい!」」
2人はこんなに早くバレるものなのかと思いながら、必死に謝った。
「全く…無事に帰ってこれたからいいものの…あ、おばけかぼちゃは生でも十分美味しいからね」
怒りながらも何だかんだマジョカは自分たちを心配してくれてたので、少し反省した。そして、早速目の前のおばけかぼちゃにかぶりついた。
「うわぁ…ゾクゾクする!」
「でも美味しいね!この何とも言えない味が癖になる!」
2人は生まれて初めて食べるおばけかぼちゃに舌鼓を打った。全て食べ終わった後、いつものように外に遊びに行った。
「今日は僕、行ってみたい場所があるんだ!」
ルフィンが目をキラキラさせながら言った。
「また危険な場所?また怒られるし昨日みたいに怖い思いするかもよ?」
キョウは昨日の事件がこたえたのか、あまり乗り気じゃなかった。
「違う違う、危険な場所じゃないよ。昨日おばけかぼちゃを譲ってくださいって言ってた人いるでしょ?すごく美味しいおばけかぼちゃを食べて元気になれたかな〜って気になったんだよ」
「だから今日はその人の家に行きたいの?」
「そういうこと!でもどうやってあの人の家を探そう…」
宛もなく歩いていると、あるボロボロの一軒家を見つけた。
「わあ!すっごくボロいね!」
ルフィンは見たままの感想を述べた。
「ルフィン、失礼だよ!誰か聞いていたらどうすんの!ていうか僕たちの家も外から見たらかなりボロいし!」
キョウがいつものツッコミをすると、その家の窓からなにか細いものが伸びているのが見えた。
「あれなんだろう…?」
2人は様子を見ていた。よく見たらそれは紫色をしていて、まるで木の枝のようだった。
「ねえ、ルフィン、まさかあれって…」
キョウは青ざめた。そんな中、ルフィンは家の中へと一目散に駆け出して行った。
「中に人がいるかもしれない!キョウ、急ごっ!」
確かに中に人がいたら何か起こってしまうかもしれない。キョウも後に続いて走り出した。
その家はルフィン達の家と違って中までボロボロで、床を踏むとギシギシと音がした。
「あっ!キョウ、あの部屋から音がする!」
ルフィンが指さした部屋は微妙にドアが空いていて、中が小刻みに揺れてるように見えた。
2人は慎重にドアを開け、すかさず戦闘態勢をとった。
部屋の中には信じられないような光景が広がっていた。
狭い部屋の中にとても大きな枯れ木、のように見える2本の枯れ木が互いに絡み合って枝を伸ばしていた。
そのかれきには3個ずつ立派なおばけかぼちゃがなっていた。
「なんで…なんで部屋の中にぶきみなかれきが生えているの」
前回と違って枝が危害を加えてくることはなかった。
しかし木の幹には電波人間の顔が2人分浮かび上がっていた。
片方は痩せこけている幼い少女の顔、もう片方は…
「この顔って…昨日の人と同じ…もしかして枯れ木になっちゃったの?」
昨日おばけかぼちゃを譲って欲しいとお願いしてきたあの人だった。
ルフィンはただ驚き、枯れ木を見つめていた。
キョウは、何故自分たちがかぼちゃを食べても何ともなかったのにこの2人が枯れ木となってしまったのか…頭の中に色々な疑問が出てきた。
2人がその場に立ち尽くしていると、枯れ木はバリバリと音を立てて崩れた。
幸い2人に怪我はなかった。枯れ木は崩れたあと、全てが塵となって消えてしまった。
「中にいた2人も消えちゃったのかな…?」
その場にはおばけかぼちゃだけが残ったが、2人は気味が悪くなり持ち帰りはしなかった。
その後公園で友達と遊び、さっき起こった恐ろしい出来事が楽しさで上書きされた頃に2人は家に帰った。
「ルフィン、キョウ、おかえり。そろそろご飯出来るから手を洗ってね」
2人は手を洗って席に着いた。しかし、マジョカがあることに気づいた。
「ねえ、ナイトがまだ帰ってきてないよ。誰か聞いてない?」
そこにいた全員が首を振った。
「おかしいわね…どこに行ったのかな」
その頃、ナイトは本来行けないはずだが無理を言って地底人に船を出してもらってくいしんぼう草原に来ていた。知的好奇心の強いナイトは、いつも行ってる日以外ならぶきみなかれきが見れるかもしれないと踏んで、雪原へと向かった。
ナイトはレベルもそこそこ高く、1人でもビターホールを倒すことができた。しかし、援軍のおばけホイップを沢山飛ばされたせいで消耗していた。
「はあ…あんなに大人数で寄ってたかって攻撃するなんてズルいだろ」(超特大ブーメラン)
ゲットしたおばけかぼちゃを抱え、木の麓に腰を下ろした。
「結局ぶきみなかれきも見つからないし…お腹も空いたからこのかぼちゃ食って回復するか」
そう言っておばけかぼちゃを1口かじった。
「すっごくゾクゾクする…!でも、この感じがいいんだよなあ」
そう言って2口目を食べようとした瞬間、体に異変が起きた。
「ぐっ…」
体がものすごく熱い。心臓から突き上げてくるような痛みを感じる。思わずその場に倒れ込んだ。
「何…だこれ…」
ナイトは自分の腕がガサガサしてきたことに気づいた。足も重くなり動かない。
やがて体全体が動かなくなり、ナイトがいた所には栄養を吸って高く伸びたぶきみなかれきが生えた。
ぶきみなかれきは宿主の栄養を無くなるまで吸いつくし、そこには邪悪な笑顔のおばけかぼちゃが3つ生った。