安易に触れること勿れ 夜の桜も乙なもんだと花見に来たはずなのに、気付けば今年もどんちゃん騒ぎになっていた。お酒を飲めない未成年などそっちのけで騒ぐ大人たちに、新八は早々にツッコミを放棄した。
新八は宴会からそっと離れ、より多くの桜が咲いている場所を探し始めた。年に一度しか咲かないのだから、しっかりと目に焼き付けたい。……というのは建前で、本当はただの現実逃避だった。この時ばかりは桜にだけ心を奪われていたい。そうすれば、要らぬ傷心に胸を焦がされる事もないのだから。
しばらく歩き回ってみたが目ぼしい場所は見つからなかった。潮時かと思いつつも、あの宴会場にはまだ戻りたくはなかった。戻ってしまえば今度こそ新八は自分を抑えられる気がしない。本当は、その着流しに気安く触らないでくれと力一杯叫んでしまいたかった。しかし、面倒くさそうでも楽しそうに過ごしているあの人を見たら何も言えない。発散したくても出来ない歯痒さに耐え切れなくなって逃げるように距離を置いた。
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