【さとあす】桜吹雪の下の恋人 春である。
満開の桜の下、都心の憩いの場たる公園では、ブルーシートを並べた上にビールケースの机を並べた古式ゆかしい花見が行われている。それはもう、あっちでもこっちでも。
そのあっちこっちの一角では、バビル出版の面々も飲めや歌えのどんちゃん騒ぎを繰り広げている。
発案者の社長は、あれやこれやの差し入れを持ってきて、乾杯の合図だけすると秘書を連れてスマートに去った。あとは編集者達と、招かれた作家たちが無礼講。
――そんな宴会の空気が、排水口の掃除の次くらいには嫌いな有栖がなぜノコノコと顔を出しに来たかと言えば、他でも無い、入間に誘われたからである。
しかし当の入間はといえば、他にも数人抱えているらしい担当作家やら編集長やらの相手に忙しく、なかなか有栖の横に座ってくれない。
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