起因 ある日のことだ。天道輝には人の頭上に数字が見えるようになった。
ほとんどの人間に貼り付いた数字はゼロだが、ごく稀に数字の進んだ人間がいる。何故そのような違いが出るのかはわからなかったが、そのうちに輝はあることに気がついた。
ニュースで見かけた殺人犯の数字は、決まってゼロ以外の数なのだ。
もしやこの数字は殺した人間の数なのではないか。
と、ふと考えたがそんなはずはないと自身で結論付ける。彼にはそれは間違いだと言える根拠があった。
なぜなら、牙崎漣の頭上にある数字が『3』だからだ。
漣は態度こそ悪いが根は善良であると言い切れる。そんな彼に『3』という数字がついている以上、この数が殺人の回数であるわけがない。
なので輝は長いこと、この頭上の数字はなんなんだろうという疑問を持ちながら生活をしていた。
「プロデューサー、おはよ……なんだ? それ」
「ああ輝さん、おはようございます。これはちょっと……私たちも困っていて」
早急に処分しなければならないとプロデューサーは言う。その便箋はきっと可愛らしい見た目に反して厄介なものを抱えているのだろう。
「なんだ? イタズラか?」
「だと思います。というか、そうでないと困るというか……」
プロデューサーは輝ならば大丈夫だと判断し、そっと便箋を差し出した。そこには太く真っ赤なマジックでこう書かれている。
『私の漣くんが遠くにいったから死にます』
「……おそらく、昔からの過激なファンかと」
「そうだな……こればっかりはなぁ」
これは本人の問題で、こちらにはどうすることもできない。こういったものは誰の目にも触れないうちに処分すべきだろう。
ふいにドアの開く音がして、終わりに近づいていた会話は強制的に打ち切られた。入口を見たプロデューサーは「れっ、」と声を出し、一瞬だけ呼吸を整え、「漣さん、」と続ける。
んだよ、という気怠げな声に振り向けば、そこには頭上に『4』という数字を浮かべた牙崎漣がいた。