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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    おいしい飲み物を飲むタケルと漣(2019/02/10)

    ##大河タケル
    ##牙崎漣
    ##カプなし

    名前はなくて、あったかい ホットチョコレートを飲む話
     
     
     レンジで温めた牛乳にチョコレートを一欠片。華奢なスプーンは持っていないから、カレーを掬うための大きなスプーンでくるくるとマグカップの中身をかき回す。
     ボクサーをしていた時は、この指がこんなに柔らかな動きをするなんて、思ってなかったわけではないが、意識したことは一度もなかった。ハンドクリームを塗るようになった手は、ようやくアップで撮られても胸を張っていられるようになった。
     マグカップの中、熱い牛乳がチョコレートを溶かしていく。湯気に甘い香りが混じって、それから少しして華やかな馴染みのない香りがする。これが、最近のお気に入り。チョコレートに包まれていたラム酒の香り。
     チン、という音。電子レンジの扉を開ければ、牛乳で満たされたカップがもう一つ。
     同じようにくるくる、チョコレートを溶かす。そこらに漂うラム酒の香りで、チョコレートが溶けたのか溶けていないのかはわからないけど、まぁ、このあたりは勘。飲ませるのはアイツだし、問題なし。
     マグカップをふたつ。両手に持って座布団に戻る。テレビに釘付けのアイツは、目の前に差し出したマグカップを一瞥もくれずに手にとった。
     示し合わせもせず、ふーふーと息を吹きかけマグカップに口をつける。ミルクと、チョコと、ラム酒の香り。なんだか、部屋中が柔らかな湯気で満たされていくような錯覚。
     こうして二人でテレビを眺める。今日という日を気にも留めずに。
     
     
    『それ』を知ったのは十日前、恭二さんの家。
     その日は朝からみんなで集まってゲームをしていた。夜になって、兜さんと橘さんが帰って、残った俺と隼人さんに恭二さんが作ってくれた、あたたかいのみもの。
     インターネットで見て試してみたかったと嬉しそうに笑う恭二さんの手には、チョコレートのパッケージ。アルコール分一%の表示が見える。酒が入っているようだ。
     恭二さん自慢の電子レンジが動きを止める。取り出したのは三つのマグカップ。俺たちの手に一つずつ渡されたカップの中から、真っ白な液体が湯気越しに見える。立ち上る、柔らかな牛乳の香り。
     恭二さんの指が伸びてきて、俺達のマグカップにパッケージから取り出したチョコを一粒、ポチャリ。膜が絡まりながら液体にチョコレートは沈む。手渡され、俺達の手でくるくると液体を混ぜるスプーンは銀色。徐々に立ち上るチョコレートの香りは、次第に馴染みのない華やかな香りに変化していく。
    「ラム酒の匂いが思ったより強いな」
     恭二さんの言葉で、これが酒の匂いだと知る。馴染みがないはずだ。ちら、と見た隼人さんの目がキラキラしている。きっと、俺の目も同じように期待が滲んでいるんだろう。
    「いい匂い。おいしそう」
    「な。ネットで見かけて、ずっと試してみたかったんだ」
    「ラム酒って、俺達が飲んでもいいのか?」
    「このチョコレート自体、子供が食べてもいいんだ。それを溶かしただけならセーフだろ」
     なんとはなしに小声になる会話。全員が全員、口をつけるタイミングを逃している。ぱち、と視線が絡む。口には出さないけれど、せーのでマグカップを傾けた。
    「おいしい……」
     そう零したのは誰だったか。でも、きっとみんな同じことを思っていた。
     砂糖をいれた牛乳ほどは甘くない。でも、チョコレートと、馴染みのない甘い洋酒の匂いがするからとても甘いものを飲んでいるように感じてしまう。
     ほ、と。ゲームのしすぎで固まった肩がほぐれていくような、優しい匂い。結局そのあとに寝るまでゲームはやってたんだけど、その温かさのことを好きだなって思ったんだ。
     
     
     恭二さんの家から帰るときに、同じチョコレートを二つ買った。牛乳は冷蔵庫にある。あの、名前のない飲み物を自分の家でも作ろうと思っていた。
     牛乳を温めて、チョコレートを一欠片。これくらいなら俺だって作れる。濃いとか、薄いとかはきっとあるけど。
     眠る前に飲んだそれは、なんだか夜に相応しいもののような気がする。きっと、くゆる湯気は神様の吐息の温度。乳白色は夜の帳の向こうに広がるシーツ。
     その夜は柔らかな夢を見た。たった一人、雲の上で白い毛並みの猫と眠る夢。
     
     
     翌日、俺は上機嫌だった。なんだか、ふわふわして少しだけ寂しい夢を見た。
     あの飲み物を円城寺さんに教えてあげたかった。なんなら、作ってあげようと思っていた。いつもおいしいものを作ってもらってばかりだったから、少しでも、そのお返しになればいいって思ってた。それに、俺の作った何かで笑顔になってくれる円城寺さんが見たかった。
     俺は少し浮足立っていたから、アイツにあの飲み物を作ってやってもいいと思っていた。知らない、おいしいものを食べて、少しそわそわするアイツを見るのは悪い気分じゃない。きっとアイツはこの飲み物を気に入る。そうして、さも興味がないように、なんだコレって口にする。でも、俺も、円城寺さんも、恭二さんだってこの飲み物の名前を知らない。
     昨日飲んだ、あの甘い飲み物。おいしかったけど、きっとあれは誰かと飲むことで完成するんだろうなって、心のどっかでわかってた。きっと誰かと飲んだら、あの夢に一匙の寂しさが混じることもなかったんだろうな、って。だからだろうか、俺はなんだか誰かに会いたかった。
     ただ、仕事の都合で俺は円城寺さんにもアイツにも、事務所の人間にも会えなかった。少しだけ残念な気持ちを持て余して、まっすぐ家に帰らずに事務所に寄った。窓から漏れる明かりって、どうしてこんなに安心するんだろう。
     だけど、そこにいたのは安心とは程遠い生き物だった。これから眠るつもりだったんだろう、しょぼしょぼした目と視線が絡む。
    「……オマエ、また事務所で寝るつもりだったのか」
    「アァ? オレ様がどこで寝よーがオレ様の勝手だろ」
     眠たげだろうがなんだろうが、コイツはだいたい喧嘩腰だ。少しだけ上機嫌が挫かれたが、コイツに会えたこと自体は嫌ではない。欲を言えば、プロデューサーか円城寺さんがよかったけれど。
    「……俺の家にくるか?」
    「はぁ? なんでだよ」
     なんでだ、と言われても。それは俺が上機嫌だからで、あの飲み物を誰かと飲みたかったから。
    「別にこなくったっていい。ただ、うまいもんがあるから、誘ってやっただけだ」
    「うまいもん……」
     コイツは今日、晩飯を食ったのかな。何を食べたんだろう。コイツの返答よりも、どうでもいいことが気になってしまう。アイツの目が、パチ、と開いた。
    「くるなら電気消して、空調止めてこいよ」
    「あのデコにメガネ乗っけてるやつがいるからいいんじゃねーの?」
     そう言ってコイツが立ち上がる。ついてくるようだ。え、というか、山村さんまだいるのか。
    「オラ、とっとと行くぞ」
    「ちょっと待ってろ」
     そう言って山村さんにチョコレートを一箱、渡してきた。牛乳があったら飲んでみてくれ、と作り方も教えて。
     頭使ってたから、甘いものは助かりますって山村さんは笑っていた。心配をしていたら、もう切り上げると言っていた。
    「おせーよ」
    「うるさい」
     戻れば、すっかり支度を終えたコイツに急かされて、事務所の扉を閉めた。
     
     
    『うまいもん』の正体が、腹にたまらない甘い飲み物だと知ったアイツは、勝手に俺の家のカップラーメンを開けてそこに湯を注いだ。ほっといて風呂に入って出てきたら、すっかり食べ終えた残骸を片付けもせずに風呂場へと消えていった。正直、いつものことだと受け流している自分を顧みると、侵食され具合に頭痛がする。
     風呂から上がったアイツは髪からしずくを滴らせてさして広くもない空間を闊歩する。その濡れた髪はあの飲み物に相応しくない気がした。
    「おい、髪乾かせ」
    「やだ。めんどくせぇ」
    「……じゃあ、俺がやる」
    「はぁ? チビ、何言って、」
     コイツの後ろに座り、有無を言わさずその頭にドライヤーの熱風を当てる。文句を言いかけたコイツはおとなしくされるがままになっていた。
     しばらくしたら、髪が乾いてきて、さらさら、ふわふわとしてくる。こんな手触りなんだな、って思った。これは思ったとおり、あの飲み物とすごす夜に相応しい。
    「よし。言ってたやつ、作るか」
    「ようやくかよ」
     待ちくたびれたぜ、とアイツは口を尖らせる。覚えてたんだな。まぁ、それが目当てでついてきたんだろうけど。
     電子レンジで牛乳を温めて、チョコレートを一欠片。ラム酒の香りが漂うまで、スプーンでくるくると混ぜる。それを二杯分。
     出来上がった飲み物を持ってコイツの隣に座る。マグカップを手渡せば、コイツは匂いを嗅いで物珍しそうにカップを覗き込んだ。
     俺もコイツも、息を吹きかけてカップの中身が冷めるのを待つ。しばらくそうして、俺が自分のカップに口をつけるとコイツも同じように甘い液体を口にする。そうして、思ったとおりの言葉を呟いた。
    「……なんだコレ」
    「名前は知らねぇ。でもうまいだろ、コレ」
    「まぁ、悪くねーな」
     その日はそれでおしまいだった。甘い飲み物を飲み干したアイツはころりと床に転がって、そこら辺に転がしていたジャケットを布団代わりに眠ろうとする。
     見慣れるほど回数は多くないが、何度か見た光景。俺はそれを見るたびに口にする。
    「ベッド、半分使えよ」
    「いらねぇ」
    「寒いだろ」
    「外より全然マシだ」
     コイツは、いつもそう言う。それを俺はいつも、少しだけ寂しい気持ちで受け止める。
     
     
     ここ最近は、えらく冷える。
     俺はあの飲み物を毎晩飲んでいて、それをやっぱり誰かと飲みたくて、暇そうなアイツに毎日声をかけていた。
     冬は寒いから、俺の家で寝るのがいいんじゃないかって思ってた。俺が、あの甘い飲み物に飽きるまで。
     アイツは三日に二回くらい、俺の家に来てあの温かい飲み物を飲んだ。そして、いつも同じように床で眠った。
     アイツが床に転がるのはなんとなく座りが悪かったから、布団を買ったってよかった。それでも布団を買わなかったのは、プロデューサーの話を覚えていたから。
     
     あれは梅雨の時期だっただろうか。アイツはしばらくプロデューサーの家にいたらしい。
     雨がしのげているならいい。そう思っていた矢先、プロデューサーは俺と円城寺さんにアイツを泊めてやってくれるように頼んできた。
    「アンタの家にいたんじゃないのか?」
    「うん、そうなんだけどね……ちょっと、機嫌を損ねちゃったみたいで」
    「なんかあったんスか?」
     困ったように笑って、プロデューサーが話し始める。
    「いや、ね。漣、梅雨の間はうちにいるんだと思ってたから、漣のための布団を買ったんだよ。でも、それが気に食わなかったみたいで……」
     アイツはプロデューサーがせっかく買ってくれた布団を一瞥して、一言。
    「うぜぇ、って言ってね。それからもう寄り付いてこないんだよね……」
     悲しさと戸惑いを隠すようにプロデューサーはもう一度笑った。
     俺たちはアイツの行動も、感情もわからなかった。でも、らしいと言われれば、アイツらしいとも思った。いつかはわかる時がくるんだろうか。話を続けるプロデューサーと円城寺さんの声を聞きながら、そんなことをぼんやりと考えた。
     
     そうして布団を買わないまま、今日が来た。俺にとっては特別ではない、ありふれた日だ。でも街は浮足立っている。今日はバレンタインデーだった。
     バレンタインの仕事は多かった。だけど、今日じゃなくて今までが忙しかった。バレンタインのイベント、取材、撮影がこれでもかと言うほどに詰まっていた。
     そして当日となったわけだが、当日は思った以上に暇だった。というか、オフだった。
     バレンタイン当日はやはり想い人と一緒にいてほしいという方針だろうか、バレンタインのライブなんかは直近の休日に済ませていたし、俺達に届けられたチョコレートは一度事務所に預けられているらしい。
     なので、暇だった。普段の休日と全く変わらない一日だった。いつも通りロードワークを済ませて、ゲームの続きをした。夢中になって、昼飯は適当なモンで済まして、そんなことをしてたから夕方には腹ペコだった。
     男道ラーメンに行ったらアイツがいたから、競うようにしてラーメンを食べた。暖かい店から出ると、外はとてつもなく寒かった。今日は晴れていたけど、きっと雨だったら雪になっていた。
    「今日はうちにくるか?」
    「行ってやってもいいぜぇ?」
     じゃあくるなよ、と言わない俺はそこそこ大人だ。少なくとも、コイツよりは。俺があの甘い飲み物に飽きるまでは、外で吐く息が白い間はコイツが家にいたっていいと思っていた。
     並んで歩く。アイツの息も、俺の息も白い。
    「コンビニ寄るぞ」
    「肉まん」
    「まだ食うのかよ。牛乳を買うんだ」
     コイツの食欲には呆れていたが、温かくふかふかとした肉まんを冷えた指先が求めている気がした。つまり、結局俺も肉まんを食べた。
     やる気のない店員の声に見送られ、ビニール袋をぶら下げて家まで歩く。冬は、星がキレイに見える。
     今日も、コイツとあの飲み物を飲むんだ。
     あの飲み物も、このわくわくするような気持ちも、名前がずっとわからない。
     
     
     レンジで温めた牛乳にチョコレートを一欠片。大きなスプーンでくるくるとマグカップの中身をかき回す。
     マグカップの中、熱い牛乳がチョコレートを溶かしていく。湯気に甘い香りが混じって、それから少しして華やかな馴染みのない香りがする。チョコレートに包まれていたラム酒の香り。
     チン、という音。電子レンジの扉を開ければ、牛乳で満たされたカップがもう一つ。
     同じようにくるくる、チョコレートを溶かす。そこらに漂うラム酒の香りで、チョコレートが溶けたのか溶けていないのかはわからないけど、まぁ、このあたりは勘。飲ませるのはアイツだし、問題なし。
     マグカップをふたつ。両手に持って座布団に戻る。テレビに釘付けのアイツは、目の前に差し出したマグカップを一瞥もくれずに手にとった。
     示し合わせもせず、ふーふーと息を吹きかけマグカップに口をつける。ミルクと、チョコと、ラム酒の香り。なんだか、部屋中が柔らかな湯気で満たされていくような錯覚。
     こうして二人でテレビを眺める。牛乳に溶かされたチョコレート。それでも、今日という日を気にも留めずに。
     バレンタインに、こうしてコイツと溶かしたチョコレートを飲むのか。なんだか、笑ってしまう。気づいているのはきっと俺だけだ。
     こういうのが友チョコなのだろうか。違う気がする。コイツと俺は友達じゃない。俺はまだ、コイツに布団を買おうと思えない。なんでコイツがプロデューサーの家に寄り付かなくなってしまったのか、その理由も感情もわからない。
     考えていた時間はさして長くなかったはずだ。それでも気がついたらコイツは床に転がってしまう。
    「……ベッド、半分使えよ」
    「いらねぇって言ってんだろ」
     いつものやりとりだ。でも、今日はちょっと食い下がってみたかった。どっちが正解なのか、わからないまま。
    「なんで、プロデューサーのとこに行かなくなったんだ?」
    「アァ? なんの話だよ」
    「梅雨の時」
    「……覚えてねぇ」
     コイツは思い出したように、覚えてないと口にする。
    「俺がオマエに布団を買ったら、ここにもこなくなるのか?」
     コイツがめんどくさそうに俺の方を見た。何か、答えが返ってくるんだろうか。
    「そんなくだらねぇこと、すんなよ」
     やっぱり、感情は読み取れない。思考回路はわからない。らしいな、って思うけど。
    「やっぱり、ベッド半分使えよ」
    「しつけーよ」
     金色がまぶたに隠れる。話を打ち切るように閉じられた目。
     ベッドに潜り込んで少ししたら寝息が聞こえる。コイツは寝たらなかなか起きないから、今のうちにベッドにひっぱりあげたら明日の朝にどんな顔をするんだろう。少しだけ、いたずら心のようなものが芽生える。
     それでも、俺はコイツを床に転がしてベッドで眠る。やっぱり、間違えるのは少し怖い。
     俺は、俺があの甘い飲み物に飽きるまで、外がもう少し暖かくなるまでは、こいつが家にいたっていいと思っていたから。
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