ラブソングのように 口付ける、噛み付く、舐める、飲み込む。
そんなことよりも、もっと簡単に愛は確かめあえるはずなのに。
「オマエは俺のこと、好きって言わないな」
好き、って言葉が形になる前に不満が出た。正直、やっちまったと思った。
でも、今更撤回もできやしない。本心だ。
俺の目をじと、と睨み付けて、アイツはつまらなそうに出て行った。
一日目、耳元にはらりと舞った葉が「好きだ」と囁いた。振り向いても、誰もいなかった。風が、笑い声みたいな高い音で空に昇った。
二日目、眺めた月が静かな声で「好きだ」と呟いた。通りすがりのカップルがキスをしてた。世界で、確かに二人きりだった。
三日目、しゃがんだ膝に乗り上げて、頬に擦りよった銀の猫が「好きだ」と耳を舐めていった。ひらり、膝から飛び降りた猫は路地裏に消えた。
四日目、裏路地で見つけたアイツの手を取って、文句を言った。
「直接言えよ」
「やなこった」
お互いに、この荒唐無稽なやりとりをちゃんと理解していた。
五日目、ランニング中に鳩が喧騒に紛れて。「好きだ」
腹が立って捕まえてやろうとしたけど、鳩は呆気なく飛び去ってしまった。なんとなく、バカにされてる気がした。
六日目、レッスン中に文句を言った。
「もう、いい。わかったから」
「くはは」
上機嫌そうなアイツの笑い声。この声で、直接聞きたいのに。なんだか、俺たちに縁のないラブソングみたいだ。どこにいたって見つけてしまうなんて。
「わかりゃいーんだよ」
誰も見ていない一瞬の空白で奪われた唇。
これ以外にも、愛を伝える手段はいくらでもあるってのに。