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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    タケ漣ワンドロ95「見」
    ダニレナ(2021/03/19)

    ##タケ漣ワンドロ
    ##ダニレナ

    通り雨のあとに「見世物じゃないぞ」
     レナートの言葉が自分自身に向けられたものだと認識するのに少し時間がかかった。だってレナートはおれと会話するときは必ずおれの名前を呼ぶからだ。
     だから謝罪も反論も出来ずにただ「ああ、」とだけ答えてしまった。向けられた先がわからなかっただけでその言葉が示す意味はわかっていたのに、目線を逸らしもせずにそう答えた。「見るな」って、言われたようなものなのに。
     まだ注がれたままの視線にレナートは不満げな顔をする。それでもおれが目を逸らすよりも自分が服を着た方が早いと践んだのだろう。突然の大雨でびしょびしょになったからだをろくに乾かさないままシャツに袖を通してしまった。
     これで何も見るものはないだろう。そう告げるレナートの視線とレナートを見つめたままのおれの視線が絡む。レナートの目は不満ではなく困惑に染まっていくから、おれは少し困ってしまう。レナートはエディと会話するときはこんな顔をしないのに。
    「……ダニー、なんでまだ見ているんだ」
    「おれがレナートを見るのはいつものことじゃないか」
     そう。さっきは『レナートもおれも上半身に服を着ていなかった』という初めての環境があっただけで、おれは結構レナートを見てる。そうして、エディの言うエリートという人間とレナートの立ち振る舞いを重ねようとして、成功したり失敗したりしてる。
    「それに」
     レナートは気がついてないと思ってるみたいだ。別に言う機会がなかったから言っていなかったが、教えてあげよう。
    「レナートもおれのことよく見てるだろ」
     レナートの眉がぴくりと動いた、ような気がした。いつもの仏頂面でレナートは言う。
    「どうしてそう思う」
    「どうしてって……だって、見られてるから」
    「見てない」
     レナートが交渉モードに入った気がする。口調が強くなって、高圧的になって、抑揚の付け方が大げさになる。
    「……いや、違う。仲間のことを見るのは当然だろう。なにもおかしなことはない」
    「ああ。…………ん? なら、おれがレナートを見ててもおかしくないってことじゃ……」
    「いまは服を着てなかっただろう!」
     確かにそうだけど、それになんの問題があるんだろう。エリートは上半身裸でうろうろしたことがないんだろうか。
    「急な雨で濡れたから脱いだだけだろ。別に丸出しにしたわけじゃない」
    「当たり前だ! そんなはしたないことをするわけないだろう……」
     当たり前はこっちのセリフだ。エリートだろうがスラムの出だろうが、丸出しってのは問題だ。
    「……つまり、なんなんだ? 話が見えない」
    「……おおかた傷を見ていたんだろう。情けないからあまり見ないでくれ」
    「情けない……?」
     少し心がざわついた。きっとこれは怒りに近いんだろう。おれがレナートに抱くはずがないと思っていた感情だ。
    「レナート、おれのからだを見て」
    「へっ? な、なんで」
    「傷だらけだから」
     そう言って傷をひとつひとつなぞって口にする。これはあの日の傷、これはあの時の傷、これは、なんだっけ? 忘れるくらいたくさんの傷があって、ああ、これは覚えてる。
    「これはミハイルをかばったときの傷。これはレナートを守った傷……情けなくなんてない。傷はおれの誇りだ」
     そう言って、視線で射貫く。もっとも簡単に向けられる刃をレナートは恐れることなく、言った。
    「それはおまえが戦闘員だからだろう」
    「……だったら、レナートのからだに傷があるのはおれの恥だろう」
    「そうじゃない」
     シャツのボタンを全て留めた指先がおれの傷をつつ、となぞった。少しだけ背筋が粟立つが、振り払う気にはなれなかった。
    「おまえの傷を見ても僕は心を痛めない。そういうものだと割り切っているからな。……おまえは気づいていないようだが、僕の傷を見ているときのおまえの顔はしょぼくれた犬みたいだったぞ。そういう……悲しそうな顔をさせることが情けないんだ」
     指先が離れていく。
    「……違うな。情けないというか、不甲斐ないというか、申し訳ないというか……ようは、あまりいい気分にはならないんだ」
    「……すまない」
    「ほら、またしょぼくれた犬みたいになってるぞ」
     そう言ってレナートは笑った。濡れたまま着たシャツが張り付いていて、あの下にはおれの知らなかった傷がある。エリートのからだにだって消えないような傷があった。違う、レナートのからだに傷があったんだ。目一杯広げた手のひらよりも大きな傷が、真っ白な肌にべっとりと張り付いていた。別にそれだけのことだ。別にそれを見ていただけだ。でもおれはしょぼくれた犬みたいになってたって、レナートが言った。
     エディがタオルを持ってきてくれたから、ふわふわのそれに包まる。濡れても避難できる屋根があって、柔らかいタオルが出てくることは涙が出るほど嬉しいことのはずなのに、どうしてこんな気持ちになるんだろう。おれやエディにだって一生消えないような傷くらい当たり前にあるのに、あの傷から目が離せなかったのはなんでなんだろう。
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