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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    85_yako_p

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    虎牙道。桜に攫われる漣。
    100本チャレンジその1。(2021/11/25)

    ##カプなし
    ##THE虎牙道
    ##牙崎漣
    ##100本チャレンジ

    グラム98円 アイツが桜に攫われた。バカな話だが、真実だ。
     今日の昼間の話だからハッキリと覚えてる。アイツを挟んで俺と円城寺さんは歩いていた。アイツは俺たちに挟まれてなお、一人でたいやきを食べながら歩幅をかったるそうに併せて同じく空間にいた。いつもどおり、有り体な光景だ。
     仕事帰りだ。今日は円城寺さんに晩飯を食わせてもらうから俺は円城寺さんと一緒に円城寺さんの家に帰る。コイツはあがりこむために、同じ方角へと歩を進める。
     なにげなく円城寺さんを見た。視界に見慣れた銀髪がチラつく。普段はやいのやいのとうるさいくせに、こうも静かにされるといよいよ俺はコイツに話しかけることがなくなるのだ。
     俺は円城寺さんに今日の晩飯を聞いたんだ。円城寺さんが口を開く直前、唐突な春一番が吹き抜ける。春一番ってなんなのかわからずに使っている言葉だけれど、俺は桜を散らす乱暴な風を春一番と呼ぶのだと思っている。それが、一番春っぽいって思うから。
     桜が散った。量にしたら片手いっぱいくらいの、些細な量だったと思う。視界を塞いだのは突風に驚いた俺のまぶたで、解放されたその時には、もうアイツはいなかった。
    「……円城寺さん?」
     思わず、縋るような声を出した。
     円城寺さんが我に返ったように周囲を見渡すから、慌てて俺もそれに習う。隠れるような場所は──ない。少なくともアイツの足の速さで一番近い木に隠れるのは不可能だと思うし、そもそもアイツが隠れる意味も分からない。アイツがそんな無邪気な悪意を滲ませるより、攫われたと考えるのが自然だと、桜のように散る思考が告げていた。
    「……攫われた?」
    「……アイツが?」
     とは言え、攫われたというのもまた現実味のない話だった。アイツをどうにかすることは、桜だろうと無理だと思う。アイツが消えるとしたら、それはアイツが桜を利用して、本人の意思で失踪したときだけだ。
     まっとうな思考じゃない。隠れているだけだ。探す義理もない。不安を振り切るように、わざと大きな声を出した。
    「……先に行くぞ!」
     俺は歩き出す。円城寺さんは少し戸惑うそぶりを見せた後、大きく息を吸い込んで、誰もいない空間に投げかけた。
    「……漣! 今日は唐揚げだからな!」
     そうして、俺たちは家路に着く。アイツがこなかったら俺が唐揚げをぜんぶ食っちまおう。言ってもよかったけど、黙ってた。


     円城寺さんの家でくつろいでいる心地の良い時間で、俺は普段だったらミスらないアクションゲームで三回死んだ。円城寺さんは数分前から立ち上がって、今朝から仕込んでいたという鶏肉に粉をまぶしている。手伝いたかったけど、揚げ物をしている間は台所に近づかない不文律だ。ゲームオーバーの音。ああ、また死んだ。
     パチパチと油が爆ぜる音が聞こえる。同時、靴音が安っぽい鉄筋に響く音がする。カンカン、という音は数秒で止み、代わりにドアを叩く暴風のような音がした。アイツだ。
     コイツはしれっと戻ってきて、手も洗わずに不文律を破り唐揚げをつまみ食いする。その様子は普段となにも変わらず、なんだか化かされたような気分になった。
     円城寺さんも何も言えないのだろう、俺たちの沈黙に気づいたコイツはどうでもよさそうに口にする。
    「んだよ」
     オマエはただいまも言えないのか。俺はどうでもいいけど、そろそろ円城寺さんにくらいは言ってもいいんじゃないかと思う。
    「……えっと、漣。どこに行ってたんだ?」
     円城寺さんが口にする。少し、他人行儀だ。
    「どこでもいいだろ」
     会話はそれきりだと言わんばかりの言葉。腹が立ったがそれがすべてだ。でも、それで終わらすのはちょっと腹が立つ。
    「……また、そこに行くのか?」
     どこに行ったか知らないけど、そんなこと、知りたくもないけど。
    「気が向いたらな」
     だ、そうだ。そう言われると俺はどうにもできない。コイツが本気で消えようと思ったら、俺も、誰も、見つけることすら叶わない。
     なんだかこういうときに、世界の定めたルールの外にいる存在を意識する。ぼんやり考えて、唐揚げの食欲をそそる匂いになんだかどうでもよくなってしまう。
     まぁ、いいか。コイツは唐揚げで戻ってくるんだし。唐揚げならコンビニにもあるし。俺は揚げ物が出来ないけど、円城寺さんがいてくれるし。コイツは俺との勝負をやめられないはずだから。
     だから別にどうでもいい。この話は、これでおしまい。
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