さっきまで明るかった空は目を離した隙にすっかり日が落ちていた。夏の夜は急に訪れて、昼の暑さは冷める暇もない。涼しいコンビニから一歩外に出た俺たちは、とたんにわだかまる熱気に迎えられた。
「だぁ〜〜〜暑っちい……」
「暑いのは家出る前からわかってただろ。オマエがどうしてもアイス買いに行くって言うから」
「チビだってついてきたくせに、いちいちうっせえな」
ビニール袋をがさがさと揺らしながら二人で家路に着く。家まで待てずにスイカの形のアイスバーをかじり出すコイツに倣ったわけじゃないが、俺も歩きながらアイスを開封した。あまり行儀は良くないが、家に着くまでに溶けてしまっては困る。
ソーダ味の氷菓は口の中をキンと冷やして、一時の涼しさを与えてくれる。隣りのコイツも食べている間はさすがに静かだ。シャク、シャク、食べ進める音が足音に重なる。そこにかすかにドン、ドン、と響くような音が届いた。
「なんだァ? この音…」
「どっかで花火してるのかもな」
「花火……ああ。前にらーめん屋とも見たな。事務所の上ンとこで」
「あれも今くらいの時期だったな。今年も花火大会してんのかも」
だが首を上向けて見回してみても、背の高い建物に阻まれて花火は見当たらない。音も遠いし、あの時のようには見られないだろう。聞き逃してしまいそうなほどの小さな音は花火の鳴き声みたいだ。シャクリ、とアイスの最後の一口が冷たく喉を通り過ぎた。
「チビの家からなら見えんじゃねえの」
「え…」
かけられた声に振り向いたら、ぱっと視線をそらされる。でも確かに今、コイツは俺の横顔を見ていた。
感傷に気づかれたのだろうか。「見てぇんだろ、花火」とわざとぶっきらぼうに言ってくるのが、コイツなりのやさしさなんだろうか。
「……そうだな。帰って、見るか。一緒に」
恥ずかしいようなくすぐったいような、そわそわした気持ちのままに、俺はコイツの手を取って早足に駆ける。
「なっ、おい、チビ!?」
「……早くしないと、花火終わっちまうから」
そう言い訳する俺の顔はきっと赤くて、コイツには見せられなかった。文句を言われるかと覚悟していたのに、コイツは意外なほどに黙っている。振り払われないように握りしめた手がおずおずと握り返されて、跳ねる心音をごまかすように走るスピードを上げた。
アイスの冷たさなんてとっくに忘れてしまうくらい、触れ合った手が熱かった。