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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    85_yako_p

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    クラファの三人が花火を見る話。(2022/02/02)

    ##天峰秀
    ##花園百々人
    ##眉見鋭心
    ##カプなし
    ##C.FIRST

    秘め事花火 去年見た花火はきれいだった。
     僕の力ではその美しさをキャンバス上に表現することはできず、結果は佳作。今年は見る理由もないから花火大会があること自体を忘れていた。
    「花火大会?」
     アマミネくんのお誘いはそれなりに急だった。週末に花火大会があるから時間を取れないかと問い掛ける彼の言葉に僕が真っ先に引きずり出された記憶は、どっかにやっちゃった佳作を証明する賞状のことだ。あのつるつるとした紙の質感、あるいはざらざらと喉を削るイメージに僕の気分は少しだけ下がったが、それでも素敵なものを一緒に見るというのはとてもよいコミュニケーション手段だということはわかる。
    「花火かぁ」
     それに、花火はきれい。去年は掴めもしない光に手を伸ばした僕が悪いのであって、あの美しさを手の内に収めようとさえしなければ、僕は充分にあの輝きとうまくつきあえるのではないか。それなりに前向きになった気持ちに、マユミくんの硬質な声がひんやりと寄り添った。
    「……人混みか」
    「あ、そっか。僕たちもうアイドルだもんね」
     すっ、と気持ちが醒めていく。ぴぃちゃんに迷惑をかける可能性があることはしたくない。ただ、そこまでの知名度が僕らにあるかと聞かれれば答えはノーだろう。そんな思考を読んだみたいにマユミくんは続ける。
    「いや……そこまでの知名度は俺たちにはないだろう。だが……」
    「鋭心先輩、人混み嫌いですか?」
     マユミくんの沈黙は一瞬だった。きっと一呼吸を飲み込むうちにマユミくんは続きを口にしただろう。それを奪うように降りかかったアマミネくんの言葉を受けて、マユミくんは記憶を辿るように呟いた。
    「嫌いではない。……すまない。週末なら俺は問題ない。百々人はどうだ?」
    「僕も空いてるよ。マユミくんは……かき氷、何味が好き?」
    「かき氷?」
    「ほら、縁日とかでるじゃない」
     マユミくんは飲み込んだ言葉があるんじゃないかな。そう思ったけど肝心の気持ちが喉につっかえて出てこなかった。当たり障りのない言葉で誤魔化せば、アマミネくんが何故か得意げに口にする。
    「かき氷は食べられませんよ」
    「え?」
    「縁日は回れません。……穴場のスポットがあるんです」
     食べ物と飲み物は各自持参。そう言ってアマミネくんが指定した集合場所は、会場からひとつ離れた駅だった。

    ***

    「すごーい」
    「見事な見晴らしだな」
    「でしょ。誰も入ってこれない超穴場です」
     マユミくんの持ってきた有名店のいなり寿司をコンビニで買ったオレンジジュースで流し込んで遠くの方見れば、紫混じりの夜空に大輪の華が咲いている。ぱちぱちと弾ける光も、追いかけるように響く音も、ぜんぶ僕らだけのものだった。
    「すごいでしょ。俺んちのベランダからすごいよく見えるんですよ」
     コーラを飲みながらアマミネくんは楽しそうに言う。相づちを打つように、ぱん、と向こうから花火の打ち上がる音がした。
    「すごいな。これはこれで、風情がある」
    「でしょ? 爺ちゃんと婆ちゃんはこれじゃ味気ないって言って、毎年人混みに行くんですよね」
     せっかく見えるのに。そうぼやくアマミネくんはこちらを見ていなくて、ラムネ色の瞳が断続的に光の華を映していた。
    「秀はいつもここから見るのか?」
    「いや……いつもは爺ちゃんたちと一緒に行ってたんですけど、なんというか……」
     アマミネくんがこちらに視線を向ける。すっと影が差して、うっすらと暗くなった瞳がやわりと細められた。
    「今年はここから見てみたかったんですよ。小さいころに見たことあるからちゃんと見えるっていうのは知ってたし……あー、でも、もったいなかったかな」
    「え?」
    「俺たち、これからすごく売れるから。花火大会なんて簡単に行けなくなりますからね……そう考えると来年とかでもよかったかも」
     やってしまった、というような顔をしているくせに、まったく困っていない声色でアマミネくんは呟く。なんだか独り言みたいなそれに、マユミくんが声を添えた。
    「いや……ここで見ることができて、俺はよかった」
     ふ、と息を吐いてマユミくんは再度口を開く。でも、それは言葉を紡ぐことはなく、いなり寿司に齧り付いたきり黙ってしまった。
    「……なにか、あった?」
     アマミネくんが黙ってたから僕が聞いた。待ち合わせを決めた日、あの時一瞬だけマユミくんが言い淀んだ言葉の続きがあるような気がしていた。
     こういうとき、僕は相手がマユミくんなら疑問を口に出来る。たぶん、アマミネくんだったら飲み込んじゃうと思う。マユミくんのことが特別に好きなのか、アマミネくんのことが特別にこわいのか、ちょっとどっちかはわからない。
    「……昔の話だ」
     とっくにぬるくなっただろうお茶で喉を潤して、マユミくんは過去を晒す。
    「一度だけ、両親と花火大会を一緒に見に行きたいとわがままを言ったことがある。……だが、彼らは『眉見』だからな。騒ぎになると、断られた」
     返事を待たず、マユミくんは「それだけだ」と言って会話を終わらせた。そうして、まるで義務のように話題を変える。
    「こっちのいなり寿司は食べたか? わさび味は少し辛いがうまいぞ」
     こういうとき、どうしたらこの人ともっと仲良くなれるんだろう。もっと聞かせてって言って柔らかいところに踏み込むのがいいのか、マユミくんの一番好きないなり寿司を聞くのがいいのか、わからない。僕はそういうコミュニケーションはそれなりに得意なはずなのに声が出ない。きっと僕よりもそういうことが苦手なアマミネくんは、迷う素振りも見せずにわさび味のいなり寿司を受け取った。

    ***

    「こうやって見ると、マユミくんってすっごくいいからだしてるよね」
    「言い方……でもほんと、胸板とかしっかりしてますよね」
     僕の言い方にケチをつけたくせに、アマミネくんは無遠慮な視線をマユミくんの胸元に向ける。アマミネくんに借りたTシャツはマユミくんには小さくて、どうしてもボディラインが目立つのだ。マユミくんは照れもせず、親もからだつきがしっかりしていると口にした。
    「やっぱ遺伝……いや、俺はこれから伸びますけどね。百々人先輩もやっぱり親がデカいほうですか?」
    「え?」
     どうだったっけ。笑っちゃうくらい、何にも思い出せなかった。大きかったかな。小さかったかな。なんか、人間だったなぁってことしかわからない。
    「んー、普通じゃないかな」
     それでも僕があの人たちからもらったからだはアマミネくんよりも大きい。だから、借りたジャージはちょっと丈が足りなかった。僕よりも布不足が顕著なマユミくんを見て、アマミネくんは溜息を吐く。
    「それしかなくてすみません……というか、いきなり泊まれだなんて、ほんと」
    「いや、むしろ突然泊まることになって悪かった」
    「いいんですよ。爺ちゃんも婆ちゃんも喜んでたし」
     花火鑑賞会は解散前に帰ってきたアマミネくんのおじいちゃんとおばあちゃんの一声によってお泊まり会へと形を変えた。焼きそば、イカ焼き、お好み焼き、などなど。たくさんのお土産を持って帰ってきた二人は僕らにもそれを食べるように言い、どうせなら泊まっていけと笑ってあっという間に客用の布団を取り出した。アマミネくんは僕の見たことがない『孫』の表情でふたりを止めようとしていたが、五分もしないうちに大人しくなって僕たちふたりに「よかったら……」と頭を下げたのだ。
    「お泊まり会ってあんまりやったことないから僕は楽しいよ。ありがとうね」
    「そう言ってもらえると助かります……ひさしぶりに俺が人を家に呼んだから、ふたりとも舞い上がっちゃってるんですよ」
     いつぶりだろ。アマミネくんは笑ったけど、なんだかその笑いはカラカラと乾いていた。こういうとき、僕は黙っちゃう。マユミくんが特別なのかアマミネくんのことが特別なのかはわからないけど、なんとなしに、触れるのが怖かった。それに、こういうことにマユミくんはきっと気がついていなくて、それをわざわざ掘り起こして三人の共通見解にまで持ち上げるのは違うとも思う。
    「俺はこういうことは初めてだな。不作法があったらすまない」
    「不作法って……」
     マユミくんが口にした武士みたいなセリフに弱めのツッコミをいれたあと、そろそろ眠ろうとアマミネくんは電気のリモコンを手に取った。僕らが短い了承を返せば、僕の家よりもずいぶんと白い蛍光灯の明かりが消える。
     言わなかったけど、全然眠くない。そもそも僕はいつもだらだらとスマホを見て、気がつくと寝落ちて朝、みたいな、不健全極まりない睡眠しか取っていない。だからぼんやりと、今日見た光を思い出す。美しかったはずのそれを思い出そうとして、佳作の絵の具に邪魔をされる。あの色は何色と言えばよかったんだろう。どの絵の具を混ぜれば、僕はそれを正しく表現できるんだろう。もうやらなくてもいいことをぼんやりと考えていたら、マユミくんがハッキリと寝言を言った。
    「……わさび……違う、それはもずくだ……帰ってこい、秀」
     マユミくん、寝言までハッキリしてるんだ。僕が笑うのとアマミネくんが笑ったのは同時だった。お互いに声を知って、お互いに探るように口にする。
    「……起きてたんだ」
    「先輩たちの手前、優等生の時間におやすみなさいしましたけどね。俺、普段はもっと夜更かしなんですよ」
    「あはは、じゃあ僕と一緒だ」
     柔らかく笑って、ふ、と息を吐いて、それきりまた音が消える。なんだか耳の奥に花火の打ち上がる音が反響しているような気がしているのに、その映像が捉えきれない。
    「……百々人先輩」
    「ん? なぁに?」
     アマミネくんの声は、なんだかもの悲しい声だった。なにかを抱えているような声だった。僕が恐れるべき『弱さ』を内包した、そういう声だった。
     それなのに僕は優しい声を出していた。それ自体は無意識だったけど、きっと僕がアマミネくんに正しく優しくできるとしたらこういう時なんだと、思考の及ばない心の底のほうでうっすらと理解していたんだと思う。
    「懺悔していいですか?」
    「……どうぞ?」
     懺悔。なんというか、不穏な単語だ。
    「……俺、本当は誘いたいやつがいたんですよ。花火大会」
    「うん」
    「でも……喧嘩、喧嘩かな? 喧嘩じゃないけど、いまちょっと誘えないって言うか……」
    「……うん」
    「だから、なんていうか、アレですね」
    「どれ?」
    「……やったことないけど、元カノにあげる予定だった指輪を、渡し損ねたから今カノにあげるみたいな……」
    「あはは、なにそれ」
    「まぁ、そういう懺悔です。でも勘違いしないでくださいね。ちゃんと楽しかったんです。先輩たちと今日花火を見れて、本当によかった」
     アマミネくんは嘘を吐かないタイプだと勝手に思ってる。天才だから、嘘を吐くなんてくだらないことをしなくてもうまくやれるっていうか。でも必要なら嘘が吐ける人だとも思う。
    「でもちょっとアイツのこと……元カノのこと考えてました。終わりです」
     それでも真摯な言葉だと思ったから、素直に受け止めることにした。アマミネくんに忘れられない元カノがいたとしても、今カノである僕たちとはうまくやってるんだからそれでいいと思う。
    「じゃあ……来年は元カノと見れるといいね」
    「……そうですね。でも、俺は今カノのことも大事な男なんで……二股させてくださいよ。四人で見ましょうよ」
     三股じゃん。僕のツッコミはアマミネくんの大きなあくびにぶつかって消えていく。
    「……たまに、すごく寂しいんです」
    「……元カノへの未練を今カノに言うんだ」
     茶化していいのかわからなかった。でも、そういう軽薄な優しさのほうが眠気でぼんやりしているアマミネくんには優しいんじゃないかって、そう言い訳して少し逃げた。
    「いま俺、すごく眠いんです。だから、忘れて。でも、でもですよ。好きな人のことを、好きな人が好きになったら、それって嬉しいじゃないですか……」
     布に落ちたインクが滲むような声だった。じわじわと影を落とす言葉を指で拭って、汚れた指を見て優しくしたいなって思う。
    「……きっと、アマミネくんの好きな人のこと、僕も好きになれると思うなぁ」
     だから元カノのこと紹介してよ。そう笑ったけど返事はなかった。寝ちゃったんだなって、ひとりぼっちになっちゃったんだなって理解する。真っ暗な中で目を閉じれば、もう少しで捉えられそうな、朧気な光がぱちぱちと弾けた。
    「……ふたりとも、本当に一緒に見たい人と花火が見れたらいいね」
     アマミネくんには手が届かないから、隣で寝ていたマユミくんの頭を撫でる。性別もわからないアマミネくんの元カノのことを考えて、テレビで見たことのある『眉見さん』のことを考えて、いままで忘れていたぴぃちゃんのことを考えた。
    「……僕も、ぴぃちゃんと花火が見たいなぁー」
     口に出して、その願いを胸の奥に刻む。だってそういうものがないと寂しいから。アマミネくんが元カノと遊びに行っちゃって、マユミくんが親とデートなんかするってなったら、僕はぴぃちゃんを独り占めさせてもらおうと心に決める。競争率は高めだろうけど、どうにかして、なんとかしよう。
     それでも、元カノにフラれたアマミネくんが誘ってきたら、僕はきっと二つ返事でオーケーしてしまう。別腹ってわけじゃないけど、楽しかったのは本当だから。
     今日は本当に楽しかったんだ。それなのに佳作のことが忘れられない自分が嫌だった。去年見た光はコンクールに出すために何度も何度も繰り返し思い出していたから、どうしてもイメージが拭えない。振り切るように今日のことを思い出そうとして、僕はふと気がつく。
    「……今日のこと、ふたりのことばっかりみたい」
     返事がないとわかっているのに、語りかけるような声が出た。ゆっくり、深く息を吸って丁寧に記憶に潜る。そうすると浮かんでくるのは光ではなく二人の楽しそうな笑顔だった。
     たくさんの笑顔を覚えてる。それだけじゃない。ぬるくなったオレンジジュースとか、わさび味のおいなりさんとか、遠くを見ていたアマミネくんの目とか、マユミくんの声色とか、そういうのがじんわりと胸に染みこんで、なんだか安心して眠たくなる。
    「……楽しかったな」
     楽しかった。それから、ちょっとドキドキした。マユミくんの少し柔らかいところに触れて、アマミネくんの脆い部分を撫でた。なんだか不思議な夜だった。きっと今日はたくさんの美しいものが目の前にあったはずなのに、そういうのを気にもせずに僕はただ笑っていた。
     想像する。三人で、また来年も見る光を。遠雷のような美しさに照らされる、二人の笑顔を。本当に好きな人には手を伸ばせない、臆病な僕らの世界を。
     もっと、想像する。僕と、マユミくんと、アマミネくん。そこに大物芸能人二名とアマミネくんの元カノとぴぃちゃんを足して、七人で見る花火のことを考える。
     あんまり広くないアマミネくんの部屋で、ぎゅうぎゅうになりながらみんなで花火を見る。元カノがマユミくんにアマミネくんの昔話を暴露して、それに気づいたアマミネくんがマユミくんの幼少期のエピソードを聞きたがる。ぴぃちゃんはそれを聞いて楽しそうにしながら、たまにぼんやりと花火を見てる。そんな日はこないってわかってるけど、叶わない夢ではないと祈ってる。もう絵の具は捨ててしまったけれど、描くのなら、そういう光景がいいと強く願った。
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