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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    鋭百ワンスアウィーク第10回『いたずら』
    いちゃつく鋭百です。(22/10/30)

    ##鋭百

    あめだませんそう「マユミくん、なんで僕には飴くれないの?」
     駄々をこねるような、あるいは非難するような百々人の声が事務所にぽつりと落ちる。しかし当の鋭心は当たり前の顔をして秀に飴を渡していた。それを見て百々人はますます口を尖らせる。
    「なんでアマミネくんには飴を渡すの。僕のが先に頂戴って言ったのに」
    「百々人が言ったのはトリック・オア・トリート、だろう。百々人にはイタズラをしていいと伝えたはずだが……」
    「だから、なんで僕だけトリートなのって聞いてるの。アマミネくんは飴もらってるじゃん」
     その言葉に百々人が鋭心ではなく秀を見る。秀は首をぶんぶんと振り、「知りませんよ」と逃れるような声を出した。
    「……マユミくん、まだ飴あるよね?」
    「ある」
    「隠しもしないんだ。……それ、僕にくれないの?」
    「そうだな。俺は百々人のしてくるイタズラに興味がある。……ダメか?」
     無邪気というには落ち着きがあるが、無垢と言っても差し支えがない屈託のなさで鋭心が問う。百々人は一瞬言葉に詰まりながら、質問に質問を返した。
    「……本当にいいんだね?」
    「ああ」
    「覚悟はあるんだね」
    「もちろん」
    「飴を渡すなら今が最後のチャンスだよ?」
    「渡さない」
    「……よし、ちょっと待ってて」
     そう言って百々人は秀の手を引いて距離を取る。百々人は置いてきぼりになった鋭心に「作戦会議だよ」と告げて、秀にそっと耳打ちをした。
    「……どうしよう」
    「え?」
    「どうしよう。僕イタズラなんてなにも考えてない」
     秀はため息と返事を混ぜたような曖昧な反応を返す。彼にとってこの二人の──この初々しいカップルのごたごたに巻き込まれるのは一度や二度ではないからだ。
    「なんで考えてないのにトリック・オア・トリートなんて言ったんですか……」
    「マユミくんがでっかい袋の飴もってるのを見たんだよ。事務所みんなにあげても余る量だったから、絶対にもらえると思ってたのに……!」
    「まぁ確かに、鋭心先輩らしくないですけどね」
     ふむ、と考え込む秀の仕草は完全にパフォーマンスだ。義務は果たしたと言わんばかりの笑顔で優しく告げる。
    「諦めてください」
    「見捨てるの早くない?」
    「ほら、鋭心先輩が待ってますよ」
     秀が百々人の背中を押して、供物のように鋭心の前へと差し出した。次の行動など何一つ決まっていない百々人に、鋭心は笑いかける。
    「どうした? なにをしてもいいんだぞ?」
     鋭心が両手を広げるのを見て、秀がうわぁ、とこぼす。鋭心の表情は変わらない。
    「鋭心先輩、完全にラスボスモードじゃん……」
    「よくない、よくないよマユミくん」
     後輩二人が手を取って震える様子を見ても、全く意に介さず鋭心はしれっと応える。
    「お菓子かイタズラか、選べと言ったのは百々人だ」
    「アマミネくんだって言ったじゃん!」
    「だから秀には飴をやった」
    「だからなんで僕には……!」
     言いかけて、百々人は言葉を飲み込んだ。その質問への解答を鋭心は済ませているからだ。苦し紛れのように、助けを求めるように百々人は視線を秀へと向ける。
    「アマミネくん……!」
    「俺のせいじゃないですよ」
     平然としている鋭心をしばらく見て、百々人はうー、と短く唸る。俺どっか行ってもいいかなぁ。そう秀が思った瞬間に、百々人が鋭心の手を取った。
    「ん?」
    「こっち来て、マユミくん」
     ずるずると外へ引きずられていく鋭心を見つつ、秀は深くため息をついた。ハロウィンだからと事務所に用意されたお菓子を三人で食べるためにコーヒーでもいれようと立ち上がる。もっとも、コーヒーが冷める前に二人が戻ってくる確証はなかったけれど。


     百々人は外に出てすぐに歩みを止めた。階段の踊り場は人が来たら簡単に見つかるが、人がこない限りは密室と同じだ。
     振り返ると同時に目があった鋭心はからかうような瞳を興味で希釈したような表情で百々人を見つめる。百々人は意を決したように呟いた。
    「……目をつぶって」
    「ああ」
     鋭心は素直に瞳を閉じる。視覚情報が閉ざされて、より鮮明に音が聞こえた。
     一度だけ、通り過ぎるトラックの音を聞いた。あとは誰かが階段をのぼる気配すらなく、目の前にいるであろう百々人の気配を感じるだけだ。
     イタズラをしてみろと言ったが果たしてなにをされるのか。好奇心と僅かな期待を持て余していた鋭心の髪に、百々人の手が触れた。
     これがイタズラなのだろうか。すっと指で髪を梳かれ、少し乱すようにかきあげられる。くすぐったくなるような感覚に、少しだけ祖母の手を思い出した。
     もういいか、と聞けなかった。指先から伝わるぬくもりに、こうやって瞳を閉じたまま身を委ねているのは心地よい。髪を流されて、少し引っ張られて、頭皮をつつかれる。イタズラに髪を乱すような指先は徐々に動きを変えて、柔らかく鋭心の頭を撫でていた。
    「まだだよ」
     優しい声が聞こえる。視界を閉ざしたまま動けない。ゆっくりと頭を撫でていた百々人の手がそっと鋭心の頬に触れた。
    「もも、」
     ふわり、唇にやわらかいものが触れた。驚きに目をぱちりと開けば、照れくさそうに百々人が笑っている。百々人はパッと鋭心の頬から手を離し、自らの口元にあてて困ったようにはにかんだ。
    「……イタズラ」
     そう言って事務所に戻ろうとする百々人の手を、鋭心がそっと掴んだ。
    「百々人」
    「……なぁに?」
     秘密を隠すように百々人が問いかける。鋭心は取った手に唇を近づけて、質問を返した。
    「トリック・オア・トリートと俺が言ったら……百々人は菓子をくれるのか?」
    「……あげない。イタズラしてみせてよ」
     手を振りほどいて背を向けた百々人をそっと捕まえて、その肩に顎を乗せて鋭心は笑う。
    「……耳まで真っ赤にしてよく言う」
    「……ほんと、そういうとこだよマユミくん……!」
     ぺち、と鋭心の額を叩いて、百々人は事務所に戻る。鋭心は百々人の背を追いながら、イタズラをするとなると意外となにをしていいのかわからないものだな、と考えていた。


    「あれ? 鋭心先輩なんだか可愛いことになってますね」
     事務所には三人分のコーヒーを用意した秀がいた。律儀に手のつけられていないコーヒーからは湯気が消えている。テーブルには自由に食べてよいと言われていたパウンドケーキが数個ほど用意されていた。
     秀の言葉に鋭心は少し戸惑った。先程のやりとりの余韻が表情に出ていたのかと無意識に頬を触れば、なにかを察したらしい後輩が「あー、」と声を漏らす。
    「……違いますよ。髪の毛、気がついてないんですか?」
    「髪の毛……?」
     くすくすと百々人が笑う。そういえばされるがままだった髪に触れれば、硬いなにかが指先に触れた。
    「はい、マユミくん。鏡」
     百々人がカバンから鏡を取り出して鋭心に差し出す。覗き込めば、いつもレッスンで百々人が使っているピンで髪の毛が止められていた。
    「マユミくん、ちょっとおでこ出すとかわいくなるね」
    「ほんとだ。でもちゃんとオールバックにしたらまた印象変わるかも」
    「ね。今度イメチェンしてみようよ。若里くんに頼んでさ」
     きゃっきゃと盛り上がる後輩を眺め、やられた、と鋭心は苦笑した。「百々人」と名前を呼べば、百々人は見せつけるようにカバンから取り出した飴を噛み砕く。
    「イタズラしたって言ったでしょ?」
     そう言って、瞳の紫陽花色を閉じ込めるように百々人が笑った。
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