書きたいとこ書いてるだけなので、細かい設定とかなーんも考えてません。「彰人……?」
ずっと探していた色が視界に入り、思わず名前を呼んだ。見間違えるはずがない、燃えるような夕焼けを。
敵軍の中に彰人はいた。最後に見た時とは真逆な白の軍服を身に纏って。
「うそ…、なんで…っ」
絵名さんもその姿を見つけたのだろう。驚きの表情を見せながら、今にもなきだきてしまいそうだ。
「彰人…!!」
気がつけば駆け出していた。
ずっと探してた。彰人が突然居なくなって、まるで自分の半身がいなくなってしまったような、心にぽっかり穴が空いてしまったような感覚だった。
生きていてよかった、無事でよかった。早くこの腕で抱きしめたい。そして、会いたかったとずっと探していたと伝えたい。あぁ、他にも話したいことが沢山ある。やっと…、やっと見つけた…!
「あき…」
ーカチャッ
ずしりと、腹部に何かが突きつけられた。
一瞬理解が出来なかった。落とした視界に映ったのは、俺の腹に突きつけられている銃口だった。
「ぇ…」
状況が理解できなくて、ぎこち無く視線を上げれば、そこに居たのは俺の知っている彰人じゃなかった。俺を見る瞳は、光なんて一切移さず冬の海のようにどこまでも冷たい。そして、向けられている明白な敵意と殺意。
「あ、き…」
「冬弥くんッ…!!」
「!!」
瞬間、すぐ目の前で銃声が響いた。そして、いつの間にか俺は彰人から離れていた。
「バカ!何ボーッとしてるの!?銃を向けられてるの分からないの…!?」
「ぁ…、草…薙…」
怒鳴り声に顔を上げると、草薙がいた。どうやら草薙が咄嗟に俺の事を後退させてくれたらしい。ということは…。
恐る恐る視線を前に向けると、変わらず冷たい目を俺に向ける彰人が持つ銃口からは、紫煙が上っていた。彰人が……、俺に発砲した……?
「なんで…」
「お前なんか知らねぇ。」
「ッ…!?」
今…なんて……
「ただの殺すべき相手のお前のことなんか、オレの記憶にねぇ。」
「ぁ、…え?彰人…、冗談…だろう…?」
「気安く名前呼んでんじゃねぇよ。」
「ッー!!」
冷やかな彰人の視線が俺を刺した。…嘘じゃない。彰人は、本当に…俺の事を…
「ぁ…うそだ……っ。彰人…ッ!本当に俺のことが分からないのか!?」
「知らねぇって言ってんだろ。」
「ちょっと、青柳くん落ち着いて…!今は…ッ!」
「ッ…!指輪…っ、二人でお揃いのものを買っただろう…!ずっと一緒だと…、いつか2人で一緒に暮らそうと…ッ!そう約束しただろう…!!」
「っだから…、お前なんか知らねぇって言ってんだろ…ッ」
「ずっと探してたんだっ…。お前のことを…!!ずっと会いたかった…ッ!」
「ッ…、うるさいっ…」
「!!」
突然、彰人が頭を抑えてふらついた。
もしかして…、敵軍の奴らになにかされたんじゃ…。そのせいで記憶を改竄されていたり、洗脳されているのだとすれば…
「彰人…!!俺の声が届いているのなら聞いて欲しい…!俺は、青柳冬弥だ…!俺は、東雲彰人…お前のことをこの世の何よりも愛している…っ!!」
「ゔ…ッ、…るさい…はァッ、ぁ"…っ」
「話したいことが沢山あるんだ…!だから彰人…、一緒に帰ろう…!」
「ハァッ…、ハッ…ぅ"…っ、……と…や…?」
「!」
ほんの少しだけ、彰人の瞳にかつての光が戻った気がした。届いている。俺の声は彰人に届いている。このまま…!
「そうだ、彰人…!一緒に…!」
ーパァンッ…!
「あ……」
また銃声が響き、それを合図に一瞬その場が静寂に包まれた。
じんわりと腹部が熱を持っていくのが分かる。視線を落とすと、腹部に赤が滲んでいた。瞬間、視界が揺れてそのまま地面に倒れ込んだ。
「青柳くん…!/冬弥くんッ…!?」
「ぁ…、きと……」
「大丈夫だよ、彰人くん。」
フラリとこちらに1歩踏み出した瞬間、青髪の男が背後から彰人の目を手で覆った。
彰人じゃない、発砲したのはあの男だ。
「大丈夫、僕に身を委ねて。ほら、疲れたでしょ?少し眠ろうか。」
「ぁ……」
意識が朦朧としてよく聞こえないが、男が彰人の耳元で何か言った瞬間、彰人の体がガクリと崩れた。
そのまま男は彰人を抱えあげると、こちらに視線を向けた。
「ダメだよ。彰人くんは返してあげない。」
そう言って妙に優しい笑みをこちらに向けると、男は兵を率いてこの場を去ろうとした。
このまま逃がす訳にはいかない…っ。やっと見つけたのに、今連れ戻さないでどうする…!彰人は、自分の意思であちらにいるんじゃない…。助けないと……!
「ま"て…ッ…!ッカハ…!ゲホッゲホッ…!!」
「出血が多すぎる…っ、今は動いちゃダメ…!!絵名さん!直ぐに手当を…!」
「う、うん…!でも…っ、彰人は…ッ」
「ハァ…ッ、はっ…ヒュッ…あき、…ッと…」
だめだ…っ、このままじゃ彰人が連れていかれてしまう…。動け……、今動かないと…っ。彰人…、彰人……っ…、あきと…っ…
「はぁ…、はっ…ぁ、…き……と…………」
「青柳くん…?…青柳くん…ッ!!」
*
*
ドボンッと音を立てて体が水中に落ちた。どんどん…どんどん沈んでいく。頭はぼんやりとして何も考えられない、体も動かない。
ただただ水底の闇の方へと沈んでいく。
「っ…」
口から空気が漏れた。体の中から酸素が無くなる。苦しい…。
『大丈夫だよ、何も心配いらないから。今はもう少し眠っていようか。』
誰かの声が聞こえる。その声のせいなのか、もっと頭がぼーっとしてくる。自分が何者なのか分からなくなっていく、そんな感覚。
『ーー!!』
また誰かの声が聞こえた。さっきとは違う声。だけど、その言葉は何を言っているのか分からない。
その声はさっきと違って、思考を引き戻してくれる気がする。頭の靄が晴れるみたいな…。
「……」
影が落ちた。誰かが手を伸ばしてる。
あぁ、でもダメだ…。体が動かないんだ。
『ーーー!ーー!』
やっぱり何を言ってるか分からない。2つ目の声、この人なのか…?誰なんだ…。知りたい…、このまま水底に沈んでいくのはいやだ…
そう必死に願い、何とか腕を動かした。けれどその瞬間、その人を激しい水流が攫ってしまった。その光景に、不思議と心臓が跳ねて嫌だと思った。
ーあ…、やめてくれ…。連れていかないでくれ…っ。ダメだ…やめろ…、ーー…!!
「……」
ぼんやりと意識が浮上する。初めに視界に映ったのは、医務室でよく見る真っ白な天井。
「良かった、目が覚めたんだね。」
「……朝…比奈さん…」
視線を動かすと、そこにはこちらを心配そうに見下ろす朝比奈さんがいた。
「すごい汗…。随分魘されてたけど、大丈夫?」
朝比奈さんが優しく声をかけながら汗を吹いてくれる。まだ頭がぼんやりとしてて、思考がまとまらないが、何とか口を開く。
「……夢、…を見た気がします」
「…怖い夢だった?」
「分かりません…。思い…出せなくて…。」
「そっか。うん、無理に思い出す必要は無いよ。」
「…でも、すごく…嫌だって感じた、…気がします…」
「…そっか、怖かったね。」
「あの、オレどうしたんですか…?」
「……任務の最中に急に倒れちゃったんだって。カイトさんが連れて帰って来てくれたの。」
「そうだったんですか…。御迷惑おかけしました…」
「ううん、大丈夫だよ。きっと、疲れが溜まってたんだと思う。外傷はないけど、倒れたばかりだから少なくともあと1日は安静にね。」
「分かりました」
「私は少し用事があるから、一度失礼するね。それじゃあ、くれぐれも安静に。」
そう言って頭を優しく撫でると、朝比奈さんはそのまま部屋を出ていってしまった。
なんか、子供扱いされてる気がする…。
1人になって思考を巡らせたところで気づいた。意識を失うより前の事が上手く思い出せない…。靄がかかってるみたいだ…
「っ、」
その謎の違和感を拭いたくてもう一度思い出そうとしたが、頭痛に襲われて辞めた。
…記憶が混濁してるだけか…?まぁ、忘れてしまったってことは、そんなに大したことじゃなかったのか…?
…でも、なんだろうか…この感覚は…。まるで、心に穴でも空いてしまったみたいな…。
「…」
…いや、きっと気のせいだ。もう一休みすればきっと治る。余計なことを考える必要は無い。今は考えるのをやめて眠ろう。早く治して任務に復帰しないと…
*
コツ、コツ…と静かな廊下にひとつの足音が響く。次第にそれは二つになって、まふゆとカイトはお互いの存在に気づいた。
「やぁ、まふゆちゃん。彰人くんの様子はどうだい?」
「…さっき目を覚ました。…何も覚えてない様子だった。」
「そっか、問題ないようでよかったよ。」
そう優しく笑い、カイトはまふゆの横を通り過ぎる。しかし、まふゆは振り返りカイトに声をかけた。
「いつまでも上手くはいかない。…分かってるでしょ。」
その言葉に、カイトも振り返ることなく足を止めた。
「……分かってるよ。まぁ、1度再会しただけで、あんなに影響が出るなんて予想外だったけどね。…僕が思っているよりも、彰人くんの中で彼の存在は大きいみたいだね。」
「……」
「…でも、僕はやめないよ。たとえそれが、誰かを傷つけたとしてもね…。」
そうはっきり言葉にすると、カイトはまた歩き出した。
まふゆはその後ろ姿をしばらく見送った後、何も言わず反対側へと歩き始めた。
*
「……」
医務室。冬弥はベッドの上で自分の手をじっと見つめていた。そしてやがて、後悔のため息をひとつこぼした。
やっと彰人を見つけたのに、連れ戻せなかった。まさか、敵軍についていたなんて…。彰人のあの様子からして、自分の意思じゃないのは確かだ。洗脳か何かしらのことはされていると思う。でもだからこそ、連れ戻すのは容易じゃないかもしれない。
俺の声は少しだとしても届いていたと思う。だって、あの一瞬だけ元の彰人に戻ったのは気のせいなんかじゃない。
「……何とかして彰人を助けないと…」
ーただの殺すべき相手のお前のことなんか、オレの記憶にねぇ
「……っはぁ…、あれは正直、少し堪えたな…」
ーコンコンコンッ
一人落ち込んでいると、ノックが聞こえた。返事を返し、扉が開かれるて入ってきたのはメイコさんだった。
「冬弥くん、傷の具合はどう?」
「はい。弾も体内には残っていませんでしたし、おかげさまで順調に快復しています。」
「そう、それは良かったわ。…その、彰人くんのこと、絵名ちゃんたちから聞いたわ…。辛かったわね…」
「……はい。まさか、あんなことになってるなんて思いませんでした…。すみません、連れ戻すことが出来なくて…。」
「冬弥くんが謝ることないわ。誰も悪くないもの。…それに、謝らないといけないのは私だから…」
「え?どうしてメイコさんが…」
そう言ったメイコさんは、暗い顔をした。何か言いにくそうに口を開いたが、一度閉じられてしまう。そして、少し間を置いたあと、もう一度開いた。
「…彰人くんのところに青い髪の男の人がいたでしょう?」
「あ、はい。」
状況から察するに、恐らく彰人に何かしたのはあの男で確定だろう。しかしなぜメイコさんは、その男の話を今出すのだろうか…
「…その人は、カイト。私の…、かつての仲間なの。」
「え……」
「少し色々あって、離別したの…。」
「そう…だったんですか…」
「…私も、カイトの目的は分からない。けれど、元私の仲間が迷惑を掛けてしまっているのは事実。…本当に、ごめんなさい…。」
「そんな…、頭をあげてください…!」
メイコさんは、本当に申し訳ないと言った様子で深く頭を下げた。
「でも…」
「本当に大丈夫ですから。」
「……。」
相変わらず申し訳なさそうにしたままだが、メイコさんは渋々と頭をあげてくれた。
「冬弥くんさえ良ければ、彰人くんを助けるのを手伝わせてちょうだい。」
「はい、ぜひ。とても頼りになります。それにメイコさんもきっと、かつての仲間と話したいこともあるでしょうし。」
「そうね…。あまりいい別れ方をした訳では無いから…。気を使ってくれてありがとう。」
「必ず彰人を助けて、そのカイトという人とも話をしましょう。俺も手伝います。」
「ありがとう、冬弥くん。それじゃあ、私はこの後任務が入っているから、この辺で失礼しますするわね。お大事に。」
「はい、ありがとうございます。」
部屋を出ていくメイコさんを見送り、また部屋に一人になる。
「……彰人、必ず助けるから、どうか待っててくれ。」