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    MAcaROn_3923

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    POIPOI 33

    MAcaROn_3923

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    鍵に投げた、瀕死になった🌻🥞を黒⚔️☕️が〜のやつです。(黒⚔️☕️×🌻🥞)
    書きたいとこだけ書きました。

    急に始まり急に終わりますし、展開はジェットコースターです。
    設定とか細かいことはあまり気にせずお読みくださいませ。

    ※流血表現があります

    「はッ、…ッ…ハッハッ…!」

    ただ走っていた。必死に。息が上がって苦しいなんてこと無視して。
    このまま弾けてしまうのではないという程に逸る鼓動は、走っているからなのか焦りからなのか。
    伝達士から王都に敵軍が攻め込んできたという知らせを受けたのが数十分前。
    俺たちは敵国から宣戦布告を受け、指定された場所へと赴いていた。しかし、それは嘘だった。敵軍は卑劣にも我が国の軍を騙し、指定した戦地には現れず、主戦力が居なくなった王都に攻め入ったのだ。もちろん、騎士団員が全員出ていたわけじゃない。王都に残ってる者もいた。だが、一つの国家規模の戦力を残った者たちで対処するなんて到底無理だ。
    知らせをを聞いた俺たちはすぐに馬を走らせ、急いで王都に戻った。でも、遅すぎた。俺たちが着いた時には、既に王都は惨状と化していた。血の匂いと人やものが焼ける匂い、視界に飛び込んでくるのは変わり果てた姿の街並み。国で一番高い場所ではためいていた国旗は姿を消していた。
    すぐに分かった。これは戦争なんかじゃない、一方的な蹂躙と惨殺だ。
    遠くから聞こえる気がする敵国の勝利を示す声なんてうどうでもよかった。今はただ一つ、王都にいるはずの愛する人の…彰人の安否しか考えられなかった。
    皆同じ気持ちだったのだろう。惨状を目の当たりにしてすぐ、ほとんどの者が悲痛な声をあげてそれぞれの大切な人の元へ駆けて行った。俺もそうだ。
    通り過ぎていく景色はあまりにも悲惨で、目も当てられなかった。時々目に入る倒れている国民たちの姿が、より一層焦燥感を掻き立てる。国の門からこんなに家までこんなに遠かっただろうか…。
    ようやく家に着けば、玄関の扉は壊されて開け放たれているのが目に入った。その光景にドッと心臓がなる。

    「ッ…、彰人ッ…!!あき…、ッ!」

    血の匂い。家に入った瞬間、鼻をついた濃い血の匂い。

    「ぁ…っ、はっ、…はぁっ…」

    鼓動がさらに強く早く胸を打つ。サーッと血の気が引く。だって…、この血の匂いは間違いなく彰人のもの…。分かるんだ。血の匂いは人によって僅かに違う。竜の血が混じっている俺たちの一族、竜人族は普通の人間よりも鼻が利く。間違うはずがない。
    震える足を無理やり動かして、家の奥へと進んでいく。1階に彰人の姿はない。今度は2階を見ないといけない。フラフラと階段の方へ向かう。階段の下に来た瞬間、血の匂いが強くなった。

    「…ッ頼む…っ、お願いだ…っ」

    心の中でただ祈る。ここにあるのは血痕だけで、彰人は既に他の場所に逃げている。そうであってくれと。この血の匂いは彰人のものじゃない、何度そう自分に言い聞かせても返ってくるのは否定だけ。
    一段また一段と階段を上がる度に足が重くなっていく。そして、ようやっと上り終え真っ直ぐ彰人の部屋へと向かった。
    そして、少し開いている扉をゆっくりと開いた。

    「…ぁ…」

    …彰人は、そこにいた。真っ赤な絨毯の上に倒れ伏して。

    「ッー!彰人ッ…!!」

    すぐに駆け寄って抱き起こす。その体はあまりにも冷たい。いつも色んな色を見せてくれる瞳は閉じられ、いつも健康的だった肌は青白い。
    …出血が多すぎる。床に広がっている血の量は尋常じゃない。致命傷になったであろう腹部の傷は、未だに出血が止まっていない。

    「彰人…ッ、お願いだっ…!目を開けてくれ…ッ…!」

    何度名前を呼んで揺すっても反応は無く、ただカクリと頭が落ちる。彰人が死んでしまう。わかってしまう。この傷と出血量じゃ、もう…間に合わない。それがわかってしまうから、ただ奇跡を願って冷たくなってしまった愛しい人の体を抱きしめることしか出来ない。
    助ける方法が無いわけじゃない。でも、この方法は成功するかも分からなければ、自分勝手な気持ちでやっていいものじゃない。

    「ッ…なんで、俺はッ…!!」
    「……っ、…ゲホッ、…と、……や…?」
    「!彰人…!?」

    本当に小さな声だったが、彰人の声が聞こえてすぐに顔を上げた。彰人はうっすらと瞼を開き、確かにこちらを見ていた。

    「……よか、…った……。…まに、あっ…て……っハ…ッヒュ……、…っおか、……えり…と、ぅや……」
    「ッ…あぁ…っ、ただいま…っ。…遅くなってすまない…っ」
    「…ほん、…と、お……っせぇ…よ……ばか……っ」

    彰人はそう言って力なく笑う。いつものように笑おうとしてくれてるその姿が、あまりにも痛々しくて胸が締め付けられる。彰人の命の灯火は、今にも消えそうだと言うのに…。

    「わる、…っい…。しくじ…っちま、った……」
    「……っ謝らないでくれ…、彰人は何も悪くないだろう…っ」
    「……ひ、とって……はぁっ、ちが…こんな…でた、ら……、こん、な…に…ッは、…さむ…ぃ…んだ、な……っ」
    「っ、」

    震える声でそういう彰人の姿に、また胸が苦しくなる。どうにか暖めてあげたくて、ぎゅっと抱き寄せた。

    「…っこれで暖かくなったか…?」
    「…ん、…さん…っ、きゅ…。………と、や…ない…てる…のか……?」
    「…っいや…、泣いていないさ…っ」

    そんなの当然嘘だ。涙が溢れて止まらない。彰人にだって、そんな嘘はバレてるだろう。

    「……わる…っい……、ぬぐっ…てやりた、い…のに…、から、だ……うごか、なくっ…て……」
    「ッ…!彰人…っ、俺は…ッ」
    「…あ…れ……」
    「彰人…?」
    「と、…ぅや…が、みえ……ね…。…かん、かく…も……っ」
    「…ッ!」

    恐らく、もう目も見えなくなってしまったんだ。きっと、感覚もほとんど残っていない…。
    確実に、彰人の死が……近づいている…

    「…と、……や…、…っまだ…いる…か……?」
    「っあぁ…、ここにいる…っ」
    「よかっ…た……。さいご……にいいたい…から……っ」
    「…最後だなんて言わないでくれ……ッ、お願いだから…ッ…!」
    「ふっ…、…ごめ、……な…。」
    「嫌だ…ッ、彰人…ッ…」
    「なにか…まよっ…て、るな…ら……おま、ぇ…の……っ、すき、……なよう、にっ……すれば……い……か、ら……っ」
    「!」
    「……とう、や……、あいして…る……っ、…おまえ、に…であ……っえて…、いっ……しょに……い、られ…て、…っしあわせ……だっ……た……」
    「ーッ!」
    「……また、……ら、いせ…も……、…………」

    彰人の瞳はゆっくりと閉じられ、声は聞こえなくなってしまった。その瞬間、心臓が跳ねて身体中が一気に冷えた。
    まだほんの僅かに息はあるが、もう1分ももたないだろう。
    ……これが最後のチャンスだ。彰人は、俺の好きにすればいいと言ってくれた。俺は……

    「ッ、」

    迷ってる暇なんてない。俺は、彰人を失いたくない。だから、迷いを振り払い決心した。
    自分の唇を噛み切り、そしてそのまま彰人に口付けをした。



























    それから1年ー…

    あの日、俺たちの国は敵国によって落とされた。国民に与えられた選択肢は2つ。敵国の軍門にくだるか、この国を出ていくか。その時に騎士団も自動的に解体された。
    どちらが多かったかどうかは分からない。俺は、国を出ることを選んで王都に来る前に住んでいた森の奥の家に彰人を連れて戻ってきた。二人で静かに暮らしたかったから。

    「彰人、ただいま。」

    いつも通り返事は無い。
    …彰人は、この1年間ずっと眠ったままだ。
    あの日俺は、彰人を失いたくないと言う思いから番の結びをした。番の結びは、俺たち竜人族特有の風習で、一般的にいえば契約とも言える。竜人族同士であれば互いの、相手が人間であるなら自分の血を相手に飲ませることでそれは成立する。
    あの時、彰人を救う方法はこれしか無かった。この契約を結べば、竜人族の血の力で傷は癒され命は繋がれる。
    だが、俺は躊躇していた。理由は、この契約で俺と繋がりを持ってしまえば、彰人はこの先ずっと俺から離れることができなくなってしまう。そもそも、番の結びはお互い最後まで添い遂げる事を約束するものだ。だから、どちらかがそれを破るような事があれば呪いとなってその者を襲う。だからこそ、彰人の了承なしにしたくなかった。あの状況で彰人に全てを説明して了承を得ることは困難だった。
    そしてもうひとつは、リスクがあるから。竜人族同士であればこのリスクは限りなく少ない。だが、普通の人間である場合そのリスクは大きく跳ね上がる。人間の体内に竜人族の、異種族の血が入る事は異物を取り込んでいるのと同義だ。血液には魔力も含まれるから、同時に異種族の魔力が入り込むのと同じだ。
    人間の体内でその者の血と竜人族の血が上手く混じり合い、調和することで契約は完了する。その際に調和が上手くいかなければ、異物を取り込んだ拒絶反応で人間は命を落とす。
    そのリスクを無視することは出来なかった。現に彰人が眠り続けている理由は、その反動によるものだ。人間と番の結びをした場合、人間が反動でしばらく眠りにつくことは知っていた。だが、彰人はあまりにも長すぎる。俺が聞いていたのはせいぜい2、3ヶ月だ。
    毎日が怖い。いつか、気がついた時には彰人が静かに息を引き取っているのではないかと。不安になっては、彰人の胸に耳を当てて心臓が動いているのを確かめる毎日だ。
    脈はあるのに、彰人の体は成長することもなければやせ細ることもなく、髪なども伸びない。まるで、時が止まっているかのようだ。これも、番の結びの際に起きうることだ。

    「彰人、今日近くに綺麗なお花畑を見つけたんだ。彰人は花が好きだろう?明日時間があるから、一緒に見に行こうか。」

    彰人の手を取って静かに言葉をかける。でも、誰もその言葉を拾ってくれる人なんていなくて、ただ胸の苦しさが増すばかり。
    それでも俺は、この言葉をかけることがなにかの力になれるかもしれないと、僅かな希望に縋って毎日続けている。
    ずっと家の中で寝たきりも良くないなと、たまには彰人を連れて外へ出かける。と言っても近場だ。散歩をしたり、どこかで立ち止まって二人で日向ぼっこをしたり。なんて事ないことだ。ただ、いくら話しかけたところで彰人からは返事は無い。
    どれだけ毎日が苦しくても、諦めたくない。きっと上手くいく。彰人は必ずまた目を覚ますと信じてただ待つ。今の俺にできるのは、ただそれだけで…。なんとも不甲斐なかった。

    「……彰人、お前に会いたい……」















    「ただいま、彰人」

    今日もまた家に帰ってきて、まず彰人のいる寝室の扉を開いて声をかける。
    でも、今日は何かが違うと感じた。

    「……彰人…?」

    彰人の手がベッドから放り出されている。家を出る前、あんな状態だっただろうか?
    ……なにか…、言われもない嫌な予感がする。心臓がバクバクとなっている、ゆっくりと彰人の方へと歩いていく。そして、たどり着いて顔を覗いた瞬間、一際大きく心臓が鳴った。

    「ぇ……」

    思わず出たその声は震えていただろう。
    彰人の瞳は虚ろに開かれていて、生気を感じさせない。
    一瞬にして体が冷えきったのではと錯覚した。

    「あき…と……?」

    自分の目でもわかるほど震えている手で彰人の手をとる。その手は、まるで氷のように冷たい。

    「ぁ……、そん、な…っ」

    確かめたくない。そう思いながらも、恐る恐る胸に耳を当てる。
    ……音が……聞こえない…

    「ッ…ハッ、…ハッ…あ、あぁ…っ、嘘だ……ッ…あきと……?だめだ………っ」

    目の前の現実を受け入れられない。ただうわ言のように彼の名前を何度も呼び、強く抱きしめる。だんだん自分の息が上がって、頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
    違う……、あきとは…あきとは……っ、

    「あ………ぁ…っ、いやだっ…あきと…っ彰人…!いかないでくれ…ッ…あきと、あきとッ…!ハァッ、はッ…ヒュッ…いや、だ…ッ…あきと、あきと……ッ」

    何度も何度も名前を呼ぶ。なのに言葉は一言も帰ってことない。彼のぬくもりはもう帰ってこない。もう二度と……

    「ぁぁ……ッ、ああっ……ッ!」

































    「ッー!!ハァッ、ハッ…ハァ…ッ!」

    ガバッと飛び起きた。息が上がり、額を冷たい汗が伝う。
    動揺のあまり視界が揺れている気がする。ゆっくりと息を整えながら、頭を抱えた。
    どうやら、彰人のベッドに突っ伏したまま眠ってしまっていたようだ。

    「っ…、なんて夢だ……。そうだ…っ、彰人…ッ!」

    ハッとしてすぐに起き上がり、いつもと変わらない様子で眠る彰人の胸に耳を当てる。
    トクントクンと聞こえる心音に、ほっと胸をなでおろした。頬に触れれば、体温もしっかり伝わってくる。

    「…っ本当に夢でよかった……」

    あまりにも現実味の強い先程の夢に、今も動揺と恐怖が消えてくれない。実際に目で見た訳でもないのに、焼き付いたように先程の夢の光景が脳裏にこびりついている。
    どうにか振り払いたくて、未だに震える手で彰人の手を取り、祈るように顔に寄せる。

    「…大丈夫だ…、きっと大丈夫…。彰人は、必ず目を覚ます…。あんな結果にはならない…絶対に…っ」
















    「冬弥くん、最近ちゃんと寝られてる?」
    「え、」

    唐突に絵名さんが心配そうな顔でそう問いかけてきた。
    今日は、絵名さんが近くに来たからと久しぶりに顔を覗かせてくれた。
    あの日、絵名さん達は無事だったようで、国を出ていくことにしたそうだ。知り合い伝いに少し離れた国に受け入れてくれることになったらしい。それで、ご両親と一緒に移住した。その時、俺たちにも一緒に来ないかと声をかけてくれた。でも、俺は考えた後に断った。これは、彰人と静かな場所で二人でいたいという俺の我儘だ。そんな俺の我儘な返答に、絵名さんたちはただ優しくわかったと、彰人をお願いと言葉を返してくれた。
    絵名さん達には、彰人の現状について話してある。それについても、咎められることはなかった。
    今は定期的に手紙でやり取りをして、現状を伝えている状態だ。

    「目の下、隈ひどいよ…?」
    「あ…、すみません…。見苦しい姿をお見せしてしまって…。」
    「それは大丈夫だけど…。…何かあったの?」
    「……」

    彰人を失う夢を見てからのここ数日、情けないことに俺は眠る事が怖くなってしまって、まともに眠れていない。朝目が覚めた時、もしも彰人が夢のように息を引き取ってしまっていたらと思うと、不安で眠れなくなる。
    しまいには、仕事もまともに出来なくなってしまった。

    「……彰人が、死んでしまう夢を見て…」
    「…」
    「…いつものように帰ってきたら、彰人のぬくもりもなくて…心音も…なにも…聞こえなくて…っ…」

    言うつもりはなかった。でも、相当参っていたのか、一度こぼれた気持ちはポロポロと次から次へと溢れて出る。
    絵名さんはただそれを静かに受け止めてくれる。

    「…目が覚めたら、夢のように彰人が息を引き取ってしまっているんじゃないと…怖くて…。…時折思うんです、俺は…あの時選択を間違ったんじゃないかって…」
    「間違えた…?」
    「彰人を引き止めたのは、俺のただのエゴで……、…っ俺は彰人を苦しめているんじゃないかって…っ。……俺があんな選択をしなければ、こうして彰人の時間を…奪うことはなかった…っ…」
    「冬弥くん…」
    「…あの日の最後に、彰人は迷ってることがあるなら好きにすればいいと…。…っ俺は、いつも彰人に甘えてばかりです…ッ…」
    「っ…」

    絵名は思わず立ち上がり、冬弥を優しく抱きしめてやった。冬弥はただ、ポロポロと溢れ出る感情と涙をこぼしつづけた。

    「…っすみません…っ、俺が…っもっとちゃんと彰人を守れていれば…ッ…、俺のせいでっ…彰人は…!」
    「…っ違う、ちがうよ冬弥くん…。冬弥くんは彰人を助けてくれた…、命を繋げてくれたの。今はただ、あいつが寝坊してるだけ。冬弥くんのせいじゃないよ…。あいつを助けてくれて、ありがとうね…冬弥くん。」
    「っ…」
    「あいつだって、怒ったりなんてしないわよ。…きっと、大丈夫。大丈夫だから…。」

    包み込んでくれる優しく暖かい絵名さんのぬくもりは、どこか彰人と似ていた。







    「すみません…、みっともないところをお見せしてしまって…。」
    「ううん、気にしないで。たまには吐き出すことも大事だよ。」
    「…ありがとうございます。」

    数分後、しばらく感情のままに全てを吐き出して落ち着いてから、絵名さんを見送っていた。

    「それじゃあ、そろそろ行くね。何かあれば、遠慮なく連絡して。無理はしないようにね。」
    「はい、お気遣いありがとうございます。絵名さんも、お身体にはお気をつけて。」
    「うん、ありがと。それじゃあね。彰人のこと、よろしくね。」
    「はい。では、また。」

    歩いていく絵名さんの背中を見送り、見えなくなったところで家へと戻った。
    未だに眠ったままの彰人を見た時、絵名さんはとても辛そうな顔をしていた。当然だ、辛いのは絵名さんも一緒なんだ…。
    あーやって寄り添ってくれるのは、彰人とそっくりだ。

    「ずっとクヨクヨはしていられないな…。まともな生活をしていなかったら、彰人が目を覚ました時に怒られてしまう。」

    彰人が俺に説教をする姿が簡単に想像できてしまって、思わず笑ってしまった。
    今はとにかく、彰人を信じて待とう。いつ彰人が目を覚ましても大丈夫なように、いつものように彰人を迎えられるように。


















    「冬弥、最近元気になったね。」
    「?そうだろうか…」

    喫茶店での仕事が終わり、帰り支度をしているところに白石にそう言われた。確かに仕事には復帰したし、以前よりは幾分か変わったかもしれない。

    「うん。前までは仕事もまともに出来ないくらい心ここに在らずって感じだったじゃん。でも、最近はそんなことも無くなったなーって。何かいい事でもあった?」
    「…いや、特に何も。むしろ、帰る度に気を落とす毎日だ。彰人は未だに目を覚まさないしな…。」
    「そっか…。彰人まだ目を覚まさないんだ…。でも、逆に冬弥はちゃんと寝ないとね。」

    トントンと白石が目の下辺りを指で指した。なんのことだろうと思ったが、すぐにハッとして申し訳ない気持ちになった。

    「隈、まだ酷いね…。今も眠れない?」
    「…あぁ、情けない話だが…」
    「全然情けなくないよ。誰だって、怖いものの一つや二つあるって。でも、無理はしないようにね。」
    「あぁ、ありがとう。それじゃあ、先に失礼する。お疲れ様。」
    「うん、お疲れ様!またね!」

    白石に挨拶をし、店を後にした。
    白石にはバレバレだな…。絵名さんと話してから、多少は心身ともにマシになったとは思う。だが、そう簡単に行かないもので、未だにあの夢を見るのも目が覚めたときのもしもの事を思うと怖くてたまらない。
    こんな状態じゃ、彰人を心配させてしまうな…。

    「あ、」

    ふと、ある花屋さんが目に入った。その店先には綺麗な向日葵が並べられていた。彰人は花の中で向日葵は結構好きだと言っていたな。買って帰れば喜んでくれるだろうか。
    そういえば、本数によって花言葉が違うと彰人に教えてもらったな。たしか…

    「すみません、こちらの向日葵を9本と3本でそれぞれ分けていただいてもいいですか。」
    「はい、今ご用意しますね!」



















    確か、彰人に貰った花を飾っていた花瓶があったはずだ。それに飾ろう。彰人が目を覚まさなくなってから、随分と花瓶にも寂しい思いをさせていてしまっていたかもしれない。
    それから、彰人の近くに置いておこうか。そうすれば喜んでくれる気がするし、もしかしたら思いも届くかもしれない。

    「…彰人、いつまででも待ってるから。だから、きっといつかまた…」

    駄目だな。こんなことを口に出してしまっては、また余計辛くなってしまう。こんな顔じゃ彰人に心配をかけてしまう。俺はただ信じて待つんだ。彰人は必ず目を覚ますはずだから。
    少し歩いて家に着き、いつものように扉を開けて家に入る。相変わらずシンと静まり返っていて、どこか寂しくも感じる。ひとまず花をリビングに置いておき、先に彰人に声をかけようといつものように寝室へ向かった。

    「彰人、ただい…ま……」

    いつもと同じ。寝室の扉を開けて、「ただいま」と言う。でも、そこにはいつもと違う光景があった。
    …彰人が、体を起こして窓の外を眺めている。……彰人が、ゆっくりとこちらを振り返って俺を見て優しく笑う。

    「おかえり、冬弥。」
    「ぁ……」

    彰人の目が俺を写している…、その声が俺の名を呼んだ…。ずっと…ずっと、聞きたかった声……

    「あき…と……?」
    「おう、どうした。冬弥。」
    「本当に……?」
    「ったく…。ほら、確かめてみろよ。」

    彰人はやれやれと眉を下げて笑って、両腕を広げた。
    一歩、一歩ずつ近づいていき、彰人の傍まで来ると震える手でその頬に手を伸ばした。じんわりと指先から伝わってくる体温は暖かい。そのままするりと頬を撫でれば、擽ったさに彰人が小さく声を漏らした。
    そして、ゆっくりと抱き締めれば彰人も抱き締め返してくれた。密着して耳をすませば、トクントクンと確かに心音が聞こえる。
    試しに自分の手も少し抓ってみる。ちゃんと痛い…、夢じゃない……。本当に…彰人が…っ

    「…っ、…あきとっ、…彰人…っ!」

    ぎゅっとより強く抱き締めれば、彰人は優しく髪を撫でてくれる。

    「わるい、ずいぶん待たせちまったみたいだな…。」
    「あぁ…っ、あぁ…、本当に…っ。ずっと…、待っていたんだ…!っ、…おはよう、彰人。」
    「あぁ。おはよう、冬弥。」



















    「ん…、……?」

    ふと目が覚めた。窓の外を見るともう既に暗くなっていた。さっきまでは夕方だったのに。…もしかして、俺は眠ってしまったのか?

    「……彰人?」

    よく見ると、彰人が部屋に居ない。今まで寝ていたベッドには俺が寝ていたようで、姿が見えない。まさか、夢だったのか……?
    不安が拭えなくていてもたってもいられず、急いで寝室から出て、まずはリビングに向かった。

    「彰人…っ!!」
    「あ、目が覚めたか。」
    「あ……」

    勢いよく扉を開けた先には、キッチンに立つ彰人がいた。彰人が目を覚ましたことが夢じゃなくて本当に良かった…。心の底から安心して、なんだか体の力が抜けてしまう。

    「そんなに焦ってどうしたんだよ。悪い夢でも見たか?…!…冬弥?」
    「……良かった…っ」

    フラリと彰人元へ行き、そっと後ろから抱きしめて肩へと顔を埋めた。まだ心臓がバクバクいっている。

    「……わるかったよ、勝手に居なくなって。でも、お前が急に気絶するみたいに寝ちまうから、こっちだってびっくりしたんだからな…。」
    「……」
    「…あまり寝れてなかったのか?隈もひでぇみたいだし。」
    「…ん…。…彰人が、死んでしまう夢を見てから、あまり眠れなくなって…」
    「…そうか。怖い思いさせてわるかった…。」
    「彰人のせいじゃない…!」

    謝る彰人に申し訳なくて、顔を上げて咄嗟に否定する。すると、至近距離で彰人と目が合った。俺を見つめる瞳は、どこまでもまっすぐ優しくて…

    「…体はもう大丈夫なのか?」
    「あぁ。不思議だけどな。ていうか、オレってどれくらい寝てたんだ?」
    「1年と数日だな。」
    「1年!?寝すぎだろ…」
    「仕方ないんだ…。…俺のせいなんだ。」
    「なんでそうなるんだよ」
    「それについては、後でちゃんと話をさせてくれ。…だからその…、今は……」
    「?」

    これ以上自分のわがままを言ってもいいのか。それが分からなくて、申し訳なくてつい言葉に詰まる。
    きっと彰人は、余程のことじゃない限りダメだと言わないだろう。でもやっぱり、俺は彰人に甘えすぎている気がして…

    「言ってみろよ。」
    「…だが、彰人にまた俺のわがままを…」
    「いいから。」
    「……。…キス…してもいいだろうか…」
    「なんだよ、それだけか?」
    「あぁ、今は…」
    「ふはっ、今はってなんだよ」
    「それ以上求めてしまったら、幸せが過ぎて歯止めが効かなくなりそうだから…。…ずっと、彰人ともう一度触れ合いたいと…そう思っていたから…」
    「…そっか」

    そう言って彰人は静かに髪を撫でてくれる。そして、そっと腕を解くと二人で向かい合って触れ合うだけのキスをした。何度もお互いの存在を確かめ合うように…。
    次第に距離が縮まって、彰人を抱き寄せれば彰人もまた背中に腕を回してくれた。

    「…ふっ、がっつきすぎだろ。」
    「今だけは許してくれ…。まだ足りないくらいなんだ…」
    「…ったく、泣くなよ。お前、そんなに泣き虫だったか?」

    どうやらいつの間にか涙が出ていたようで、彰人がそれを指で拭ってくれる。

    「…っ彰人のせいだ…」
    「へいへい、そうだな。ほら、続きは飯の後な。腹減ったろ?」
    「っ…、あぁ、そうだな。久しぶりの彰人の料理、とても楽しみだ。」
    「色々勝手に使わせてもらってわるいな。ま、腕によりをかけてつくるから、期待して待ってろよ。」

    それから、夕飯を彰人と一緒に食べた。彰人の料理はやっぱり美味しくて、久しぶりのその優しく暖かい味にまた泣いてしまった。彰人は、そんな俺に苦笑していた。
    ご飯を食べながら、国はどうなったのか、絵名さんたちについてや俺が彰人と共に国を出る選択をしたこと。全部話した。
    彰人は、時折相槌を打ちながらただ静かに話を聞いてくれて、俺の選択について責めることはなかった。
    そして、番の結びについても話した。俺が何故躊躇していたのか、最終的に自分のエゴで決断をしてしまったこと。

    「なるほどな、大体話はわかった。」
    「…その、本当にすまなかった…。俺は、彰人の意思も聞かずに…」
    「……。冬弥、おでこ出せ。」
    「え?おでこ…か?」
    「おう」
    「わ、わかった…」

    突然なんでと思ったが、言われた通り前髪を上げておでこを出した。

    「これでいいだろうか?」
    「ん。で、目も瞑れ。」
    「あ、あぁ。」

    一体何をされるのか。なんだか彰人の考えてる事がよく分からなくて少し不安だ。
    と思っていると、まもなくおでこの一点をバチンッと小さな痛みを感じた。
    多分、デコピンをされた。

    「い、痛いぞ彰人…っ」
    「このバカ野郎」
    「な…」
    「大バカ野郎」
    「あ、彰人」
    「このわからず屋」
    「そ、そんなに言わなくてもいいだろう…!」
    「事実だろ。」
    「どうして…!」
    「お前は、今までオレの隣にいて、ずっと見てきたくせに何も分かってねぇ。」
    「…そんなこと…」
    「じゃあ、なんで謝るんだよ。オレをお前の身勝手に巻き込んだことへの罪悪感か?」
    「っ、そうだ…。番の結びをすれば、彰人の人生を奪ったも同然なんだぞ…!」
    「上等だよ。」
    「え…」

    彰人は突然立ち上がってこちらに歩いてくると、突然胸ぐらを掴んできた。かと思えば、そのままキスをされた。

    「…あ、彰人…?わっ!」

    突然のことに呆けていると、今度は乱雑に頭を撫でられた。さらに訳が分からなくて、呆然と彰人を見上げる。

    「オレは、はなから最後までお前といるつもりだ。お前が嫌だって言っても離れてやらねぇ。」
    「!」
    「たしかに、知らないうちにお前とそういう契約?を結んだってことはびっくりしてる。でも、オレのことを想ってした決断でもあるんだろ?」
    「あぁ…。だが、結局は自分が嫌だからって…」
    「ぐだぐだうるせぇな。オレだってお前と同じ気持ちだったんだ。結果的にお前の選択はオレのためにもなった。ただお前との繋がりがひとつ増えただけだろ?」
    「ぁ…っ」
    「…ありがとな、冬弥。おかげで、これからもお前と一緒にいられる。」
    「っ…!…いい、のか…?本当に…」
    「あぁ」
    「もしかしたら、俺は彰人が思っているよりも独占欲が強いかもしれない…」
    「別に構わねぇよ。オレだって、お前を誰にも渡すつもりはねぇよ。」
    「…これからたくさん迷惑をかけてしまうかもしれない…」
    「どんどんかけりゃいいだろ。そんなのお互い様だ。」
    「…彰人、触れてもいいか?」
    「あぁ」

    立ち上がって、彰人の指へと指を絡めもう片方の手で頬にそっと触れる。
    彰人は、目を細めてその手に触れて享受する。その様子に、胸がぎゅっとなった。

    「……彰人、好きだ。」
    「オレも好きだよ」
    「愛してる」
    「オレも、愛してる。」
    「……」

    心が満たされる。あまりの幸福に、なんだか熱に浮かされているような感覚だ。
    たまらず彰人を抱きしめた。

    「…幸せだ…。こんなに幸せでいいんだろうか…」
    「いいんじゃねぇの。もっと幸せになっちまえよ。」
    「ふふっ、その時は彰人も一緒だな。」
    「そうだな。あ、そういえば、あの花。お前が買ってきたのか?」

    あの花と言って視線を向けたのは、いつの間にかそれぞれ花瓶に飾られている向日葵だった。

    「あぁ。花瓶に飾ってくれたのか。ありがとう。」
    「お前、花言葉わかってて買ってきたのか?」
    「あぁ。眠っている彰人に思いが届けばと思って。」
    「よく覚えてたな。」
    「彰人が、向日葵は特に気に入っている花だと言っていたからな。」
    「…。じゃあ、オレは今度4本と6本でお前に送るか。」
    「……あぁ、なるほど。それは嬉しいな。だが、直接言葉で言ってくれるともっと嬉しい。」
    「そんな恥ずいこと誰が直接言えるかよ…」
    「彰人なら大丈夫だ。いつでも待っている。」
    「なんだよそれ…。はぁ、まぁいいけどよ。そうだ、オレが寝てた間の話もっと聞かせてくれよ。」
    「あぁ、もちろんだ。絵名さん達にも連絡を入れて、今度会いに行こう。そうだ!良ければ、明日外を散歩しながら話をしないか?彰人に見せたい場所があるんだ。」
    「いいな。それじゃあ、明日寝坊しないように今日は早めに寝るか。お前、朝弱いしな。」
    「む…、彰人と出かけるとなれば起きられるぞ…」
    「本当かぁ?前になかなか起きなかったやつがいたけど、誰だったかなぁ。」
    「ゔ…」
    「ははっ、冗談だよ。急ぐ必要もねぇんだし、ゆっくりしようぜ。」
    「…ふっ、そうだな。」
    「あ、あとひとつ聞きたいんだがいいか?」
    「あぁ、構わないぞ。」

    そう言って彰人は何やらそわそわしたかと思うと、歯切れ悪く口を開いた。

    「…なんつーか…その…。自分の魔力が変な感じがするっつーか…。なんか…、冬弥の魔力を感じる気がするんだよ…」
    「あぁ、それもそうだろうな。俺の魔力と血が体内にあるからな。」
    「は…?」
    「先程話したように、番の結びは相手に血を飲ませることで結ばれる。先程は、要点をまとめて話したんだ。まず、血液には魔力が含まれているものだ。だから、同時に魔力も相手の体内に入り込むことになる。反動は、それが原因の一つでもあるんだ。」
    「え、これいつか抜けるんだよな?」
    「いや、基本は抜けないな。これから彰人の体内には、俺の血と魔力も混じっていることになる。」
    「……」
    「どうした?少し顔が赤いようだが、もしかして体調が優れないのか…?」
    「……いや、なんか…常にお前が中にいるみたいで…、すげぇ……恥ずい…」
    「……」

    彰人がそんな言い方をするものだから、一瞬思考が停止してしまう。そして、間もなくカッと顔が熱くなった。

    「へ、変な言い方をしないでくれ…!!」
    「でも間違いじゃねぇだろ…!!くそ…、なんでこんなにわかるんだよ…っ…」
    「……ん?待て、彰人。お前は、体内の俺の魔力と自分の魔力がハッキリ違うとわかるのか?」
    「え?あぁ、まあ…」
    「凄いな…、普通はそんなに分からないものだぞ…。…ふふっ、彰人がしっかりと俺の事を覚えてくれているからだな。とても嬉しい。」
    「ば…っ!?お前…っ、恥ずかしさ倍増させんなッ!!」
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    MAcaROn_3923

    DOODLE鍵に投げた、瀕死になった🌻🥞を黒⚔️☕️が〜のやつです。(黒⚔️☕️×🌻🥞)
    書きたいとこだけ書きました。

    急に始まり急に終わりますし、展開はジェットコースターです。
    設定とか細かいことはあまり気にせずお読みくださいませ。

    ※流血表現があります
    「はッ、…ッ…ハッハッ…!」

    ただ走っていた。必死に。息が上がって苦しいなんてこと無視して。
    このまま弾けてしまうのではないという程に逸る鼓動は、走っているからなのか焦りからなのか。
    伝達士から王都に敵軍が攻め込んできたという知らせを受けたのが数十分前。
    俺たちは敵国から宣戦布告を受け、指定された場所へと赴いていた。しかし、それは嘘だった。敵軍は卑劣にも我が国の軍を騙し、指定した戦地には現れず、主戦力が居なくなった王都に攻め入ったのだ。もちろん、騎士団員が全員出ていたわけじゃない。王都に残ってる者もいた。だが、一つの国家規模の戦力を残った者たちで対処するなんて到底無理だ。
    知らせをを聞いた俺たちはすぐに馬を走らせ、急いで王都に戻った。でも、遅すぎた。俺たちが着いた時には、既に王都は惨状と化していた。血の匂いと人やものが焼ける匂い、視界に飛び込んでくるのは変わり果てた姿の街並み。国で一番高い場所ではためいていた国旗は姿を消していた。
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    MAcaROn_3923

    DOODLE以前多分鍵であげた、軍服黒騎士ヘア☕️×白軍服+ハーフアップ🥞の妄想で、行方不明になってた🥞が偶然再会したら洗脳されて敵軍にいた話の続きをほんのちょっとだけ書き足しました。

    冬彰☕️🥞

    ⚠️注意⚠️
    ・流血表現あり
    ・CPのつもりで書いてはいませんが、❄️🥞や🍨🥞に見える描写があるかもしれません。

    前回なげた分とまとめてここに投げときます
    書きたいとこ書いてるだけなので、細かい設定とかなーんも考えてません。「彰人……?」

    ずっと探していた色が視界に入り、思わず名前を呼んだ。見間違えるはずがない、燃えるような夕焼けを。
    敵軍の中に彰人はいた。最後に見た時とは真逆な白の軍服を身に纏って。

    「うそ…、なんで…っ」

    絵名さんもその姿を見つけたのだろう。驚きの表情を見せながら、今にもなきだきてしまいそうだ。

    「彰人…!!」

    気がつけば駆け出していた。
    ずっと探してた。彰人が突然居なくなって、まるで自分の半身がいなくなってしまったような、心にぽっかり穴が空いてしまったような感覚だった。
    生きていてよかった、無事でよかった。早くこの腕で抱きしめたい。そして、会いたかったとずっと探していたと伝えたい。あぁ、他にも話したいことが沢山ある。やっと…、やっと見つけた…!
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