Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    スオウ

    @Suou_Seiten

    博右

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 5

    スオウ

    ☆quiet follow

    ナイフ/炎博(性別どちらでも)
    生息演算の時空の話 博の人心掌握術にあてられる炎(まんざらでもない)

    ナイフ「……迷子だね」
    「そうだな」

     そんな分かりきったこと、当てもなく砂の上を歩き始めた頃から知っていた。二人はお互いに視線を合わせることなく、殆ど同時に歩みを止めた。
    「地図は?」
    「携行用のは拠点に置いてきたかも」
    「……端末は?」
    「手元にはあるけど、実質使えない状態だね。ビーコンの情報が送られてきていないみたいだ。電波も来てない」
    「……方位磁石、サバイバルキット、」
     エンカクがそこまで言ったところで、ドクターは彼にまるで“お手上げだ”と言わんばかりに腕を上げて手のひらを見せた。こいつが凡人だったら既に殴りつけているところだろう。一瞬だけ握りしめた拳を抑えて、エンカクは岩場に身体を預けた。歩き方に気を付けなければならない荒野を歩くのは、思っている以上に体力を使う。ドクターも、もたもたと岩場をよじ登り、少しだけ平らになった岩場に座り込む。
    「君、結構落ち着いてるね。私は結構焦ってるよ」
    「少なくともお前よりは荒野を歩いた経験があるからな」
    「普段は歩かないからね、そりゃあ。私なんなら車乗っちゃうし」
    「乗せられる、の間違いじゃないのか」
    「それはそうかも」
     そう言って、ドクターは端末をポケットに仕舞った。この周辺には砂か岩か少しの木くらいしか見当たらない。
    幸い風はまだ吹いているようで、ドクターがきょろきょろと辺りを見渡す度に、フードがはためいた。
    「確か、近場に連絡用のビーコンがあるはずなんだ。それを探すことが出来れば、本隊に連絡がつく」
    「……で、それを探す算段は? 戦術指揮官殿?」
    「……無いね、今のところは」
     呆れて物も言えなかった。はは、とドクターの乾いた笑いだけが残る。とてもじゃないが、こんな不健康が服を着て歩いているような奴を護衛しながら歩くのは危険過ぎる。出来るだけ、早くこの状況を脱せねばならない。
    「よっ、と」
     そう考えている間にも、ドクターは歩き慣れない岩場に足元を捕られ、蹴躓いていた。うぷ、と余りにも情けない呻き声が土に埋もれる。エンカクは身体を預けていた岩場から離れ、土に埋まる上司の腕を掴んで持ち上げた。
     脆い。中身の詰まっていないスカスカの骨に、とってつけたような肉が付いている。
    「わ、わ」
     エンカクは当たり前の動作かのようにドクターの身体を腕ごと持ち上げて、ひょいと肩に担ぐ。まるで荷物だ。訳も分からず担ぎ上げられたドクターは、自分の身体がまた砂に落ちてしまわないように彼にしがみつく事しか出来なかった。何食わぬ顔でエンカクはそのまま歩みを進める。何でもいい。人か、建物か。何かが見つかれば、肩に乗せているこの“ドクター”が何とかしてくれるだろう。
    動かす指の先に“誰か”がいるのであれば、こいつは十徳ナイフより優秀だ。

     †

     結果として、エンカクの見立ては間違いではなかった。全てがあまりにもとんとん拍子に進んで、本隊の待機する拠点の位置を探り当てただけではなく、なんと作戦に有益な情報までも持って帰ってきた。
     だが、突然拠点から姿を消した指揮官の身を案じない者はいない。何を言われたか知る由も無いが、ブレイズやホシグマにもみくちゃにされたまま、ドクターは臨時で置かれた作戦机を囲んでいた。その姿を傍目に、エンカクは食事を摂る。カニの身と獣の肉と米を混ぜたものだ。ここ最近の食事にしては豪華なものだった。
    「やあ」
     声を掛けられたのが自分だと気が付くまでに数秒かかった。そいつはマスクもフードも外して、すっと細い目をしてこちらを見ていた。胡散臭い、気味が悪い目だ。それと同時に、ドクターのこの表情が一番“分かりやすかった”のだ。
    「叱られたのか」
     エンカクがそう問いかけると、ドクターはわずかに驚いたように一瞬目を見開いた。まるで子供に問いかけるような言葉遣いに、その言葉を発したエンカク自身も違和感を抱いた。隣に座ってきたドクターは、手持ち無沙汰なようで、殆ど手遊びに近い動作を繰り返す。
    「いいや。ここでは情報は命よりも重いからね。結果的に良い方に進んだから今回はお咎め無し、だ」
    「……甘いな。お前のお守りをさせられた俺の身にもなって欲しいところだ。それにお前の、」
     お前の命は、この土地に埋まっているどんな宝よりも、此処に生きる人々よりも重いだろう、だなんて。エンカクは口が裂けても言えなかった。心の中には確かに有った。だが、その言葉を発した先に、目の前の人間がする表情が透けて見えたのだ。言葉が止まったエンカクをドクターは訝しげに見つめる。
    「お前の……、何?」
    「……何でも無い」
     少し目を伏せると、それに合わせてドクターは膝に頬杖をついた。表情がまた、張り付いたような微笑みに戻る。察しがいい、というのも案外苦労するものだ。
    「はは、君がどうだかは知らないけれど、私は結構楽しかったよ」
     何食わぬ顔でドクターは話を続ける。
    「同行していた君の素行を聞かれたから、ポジティブな返事をしておいた。私からしても結構……君に対してのイメージは変わったほう、かな」
     どうして最後に言い淀んだのか、エンカクは敢えて詮索しなかった。まだその時ではない、と頭の中で漠然とした“警告”が鳴っていたからだ。

    「明日の作戦にも同行してもらうよ。なんたって君は優秀だから、ね」
     
     その言葉に込められた意思が、ぞわりと首筋を撫でる。ぐらぐらと煮え立つ感情に名を付けるには、まだ毒が足りない。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works