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    hario11732

    俺はサソリのハリ尾。20↑腐。

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    hario11732

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    明治軸むずー。
    設定、キャラ観、時代考証、どれも甘め。勉強不足が否めませぬ。

    怪呼ぶ将校(仮題)東京へ来い、という唐突な中央からの呼び出しは、部隊を預かってからというもの幾度となく経験してきたのだが、今回の1ヶ月間の拘束は過去に類を見ないほど理不尽なものだった。
    「大方、我々がいない間に旭川のガサ入れでもするのでしょう」
    というのが月島の見解だったが、既に東京へ出向いてしまった以上、2人にはどうすることもできない。探られて痛い腹はないが、でっち上げに合う可能性もある。そうなれば今、下手に抵抗するより好きにさせた方が得策であると判断した鯉登は、大人しく滞在の要求を呑んで引き下がった。
    長期引き留めの建前は、以前鯉登が提出した書類の聴取のため、というので、有って無いような取り調べを受ける日が幾日か続いたが、他はろくな制約もなく、鯉登と月島は知る者のない東京で無為な日々を持て余すことになった。

    ところで、急に降って湧いたこの東京滞在は、2人に取って別な意味も持ち合わせていた。
    あの金塊争奪戦の間に、ひっそりと育んだ片恋が成就したのが半年前。以来、鶴見中尉がいなくなったあとの残務処理に追われて、瞬く間に時が過ぎた。
    人のいなくなった夜更けの執務室で行う、密やかな接吻だけが、鯉登と月島を恋人たらしめる証だった。僅かにでも触れた日の夜は、目を閉じても胸が掻き乱されて眠れなくなる。男色の経験がない鯉登も、この言いようのない胎の疼きが、欲情から来るものだとよくわかっていた。
    忙しさを理由にそれぞれの性欲を誤魔化してきた2人は、今、切実に余暇を求めていた。抱きたい。抱かれたい。互いの欲望が匂いとして伝わってくるようだった。
    つまり、この度の1ヶ月間の東京滞在は、忙しい2人に天が与えた蜜月とでも呼ぶべきものであったのだ。

    中央が用意した宿舎への入居を頑なに断った鯉登は、交通の便の良い市街地近くに空き家を見つけ、そこを仮の住まいとした。東京がかつて江戸と呼ばれていた頃に、この場所に住んでいた地方大名の旧邸宅と聞いている。昔の建築ゆえにこじんまりとして、使い勝手のいい間取りだ。築年数の割に十分手入れが行き届いているところも気に入った。
    月島は月島で、近所に手頃な住まいを見つけたようだった。鯉登の邸宅には空き部屋もある。一緒に住もうという言葉が喉元まで出たが、恥じらいが先行して言えなかった。
    とはいえ、夕餉に誘えば訪ねても来る。酒を勧めれば素直に呑む。
    「今日は泊まっていけ」
    と促した言葉に、幾分緊張した面持ちで頷くようになるまで、そう時間はかからなかった。

    鯉登は口吸いが好きで、人気のない執務室で唇をねだるのはいつも鯉登の方だった。この夜は勝手が違い、布団の上で向き合うやいなや、月島は有無を言わせず唇を塞いだ。
    「んっ……ちゅ………」
    鯉登は必死で月島の唇を受けた。この日の月島は思いのほか情熱的だった。今までのお遊びのような接吻とは比べ物にならないくらい刺激的で、鯉登の身体はこれから始まることを意識して熱く火照った。
    「少尉殿」
    余裕なく、月島が鯉登を呼ぶ。寝巻きの帯を解いてやると、月島もぎこちない仕草で同じようにした。互いの着崩れた浴衣の中から、歪に盛り上がった褌が覗いた。
    肌への愛撫は、ただ触られているだけとは思えないほど気持ちがよかった。息が上がり、時折上擦った声が出た。
    「は…………ん、ぅ」
    月島のこめかみに青筋が立つ。
    腹の筋肉をなぞっていた手が、そろりと尻に触れる。
    「ここ、触っていいですか」
    「……うん」
    鯉登も緊張しながら頷いた。朧気な知識で、夕方に中を洗った場所である。
    月島の指が越中の隙間に潜り込む。尻の肉をかき分け、奥の窄まりに指の腹が触れる。

    その時だった。
    夜の帳を引き裂くように、けたたましい鐘の音が鳴り響いた。
    「……ッ!」
    「なんだ? 火事か?」
    「いえ……これは警察の警鐘です」
    月島は唖然としながらそう応えた。
    どちらからともなく起き上がり、身なりを整えて外套を羽織った。
    狂ったように警鐘が鳴り響く夜の街を、人の流れが収束する方へ向かっていくと、鯉登邸からそれほど遠くない場所に人だかりができていた。
    「なんだ?」
    「死んでる」
    「殺しか」
    「化け物が」
    「いやだ、怖い」
    「何が死んでるって?」
    「血が」
    「どういうことだ、何が起きている」
    混乱する人混みに飲まれながら、鯉登は苛立って声を上げた。ひと目現場を見ようと伸び上がる人々をかき分けて鯉登は前に進んだ。
    突如、隣にいた若い婦人が「きゃっ」と声を上げて失神した。咄嗟に抱き留めながら、婦人が見ていた方を見ると、夥しい血の海に横たわる男の姿が一瞬だけ視界に映った。
    その時、ようやく到着した警察の一団が隙間なく立ちはだかって人混みを押し返した。なおも食い下がるのは新聞記者だけで、あとの野次馬はあっという間に散らされてしまった。
    背の低い月島は現場を垣間見ることを早々に諦めて、少し離れたところで鯉登を待っていた。
    「何があったんです」
    「わからないが、男が死んでいた」
    「殺しでしょうか。しかし、それにしては妙な気が」
    「うん、何かが変だ」
    そこまで言って、鯉登は振り返った。同時に月島も顔を上げた。気配の先に、二人を見つめる男がいた。
    「化け物だよォ」
    その男は浮浪者然とした汚い身なりをしていた。両手を腹の前でこね回し、立ち竦んでぶるぶると震えていた。
    「化け物が殺したんだよォ。俺はこの目で見たんだ」
    「行きましょう」
    月島が鯉登を促した。鯉登は黙ってそれに従った。
    通りを曲がる際に振り返ると、男はまだその場に立ちすくみ、恐怖にかられた視線をこちらに向けていた。

    当然ながら甘い空気はそのまま流れ、それどころか、何故か気まずい雰囲気になった2人は言葉少なに屋敷へ戻った。そそくさと寝支度をして、別々の布団で眠りにつくと、鯉登は内心地団駄を踏んだ。死んだ男は気の毒だが、何故我々が初夜を邪魔されねばならんのか。半年堪え続けてようやくここまで漕ぎ着けたのに。なぜ今夜だったのだ、おのれ間の悪い暴漢め。
    しかし幸いにも、次の機会は2日後すぐに巡ってきた。何せ2人は暇なのだ。あの翌日は、耐えかねるほどに胎が疼いて、月島が帰ったあとも暫し布団に伏していたほどだった。気を抜くと甘勃ちしそうになる一物を抑えるのに必死だった。月島の節くれた指が胎を掻き回すのを夢に見た。
    逢瀬の前に、鯉登は湯殿で秘部を念入りに洗った。先日は恐る恐る、浅い所までしか入れなかった指を、今度は大胆に突きこんで洗った。今日こそ絶対に挿れてもらわなければいけないのだ。

    かくして、再び屋敷を訪ねてきた月島を、鯉登はそこそこにもてなした。夕餉の語らいもそこそこ。晩酌もそこそこである。早く布団に連れ込みたくて仕方がなかった。月島が長風呂をする間、鯉登は某所から手に入れた通和散を枕元に隠し、知らぬ振りをして待った。
    夜が更けると、月島を急き立てて布団に押し込み、早々に電灯を消した。
    「やけにお早い」
    「うるさい」
    鯉登は食らいつくように接吻した。月島もそれ以上は揶揄することなく応じた。後頭部を撫でられると、舌の先から蕩けていきそうになった。
    手探りで月島の太ももを撫でると、空いた右手に手首を掴まれた。そのまま誘導され、鯉登は浴衣の奥でいきり立つ魔羅に触った。

    その時、つんざくような高音が、暗闇を引き裂いた。鯉登は、はっとして顔を上げた。
    外に鳴り響くのは警笛の音である。次第に、カンカンと猛烈に打ち鳴らされる警鐘の音も聞こえてきた。
    「少尉殿」
    暗闇の中で咎めるように月島がこちらを見ていた。行くなと言うのである。
    けれど、鯉登の情欲の半分は、既に正義感に塗り替えられていた。考えるより先に軍刀と外套を鷲掴みにし、鯉登は表へ走り出た。
    住宅地の間の路地に人が伏し、その上から夜回りの警備隊員が覗き込んで応急手当を施していた。微かに呻く声が聞こえる。生きているらしい。
    「犯人は」
    鯉登が聞くと警備隊員は慌ただしげに顎で路地の奥を示した。
    「行ったら駄目、君、あれは化け物だよ!」
    叫び声に呼び止められて、思わず鯉登は静止した。警備隊と一緒に被害者を覗き込んでいた民間人の男が必死の形相で叫んでいた。ぶるぶると震えていた浮浪者の男の、恐怖にかられた表情を思い出す。
    化け物?
    明治にもなって、今更化け物だと?
    鯉登は、フンと鼻を鳴らし、踵を返して路地の奥へ向かった。
    月明かりを頼りに目を凝らし、暴漢の痕跡を探す。路地の左右には民家が立ち並んでいる。垣根を越えて庭にでも逃げ込まれていれば見つけようがない。それでも鯉登は執念深く、犯人が逃げ込みそうな暗がりを探し続けた。途中、妙な臭いを嗅いだ気がした。鼻が曲がりそうな嫌な臭いだ。出どころを探そうとしたが、夜風が吹いてあっという間にかき消えてしまった。
    「少尉殿」
    後ろから月島が駆けてくる。鯉登は軍刀を握った手をだらりと下げ、立ち尽くして月島を待った。
    「被害者は」
    「頭を殴られて重傷です。今病院へ運ばれました」
    「…………」
    どっと疲れが襲った。徒労感が全身を覆って、1歩も動きたくなくなった。月島の手が労うように背中を押した。
    「我々も帰りましょう」
    「……うん」
    とぼとぼと歩いて、短い道のりを半刻もかけて帰った鯉登は布団に倒れ込んだ。寝落ちるまでの間、枕を寄せた月島が背中を抱いて撫でていてくれた。

    巷には、人を襲う化け物の噂が立った。
    暴漢の暗喩かと思えば、そうではない。妙なことだが、噂する人は皆、本当の怪異がいると信じ込んでいるようだった。先の2つの事件の数少ない目撃者たちの証言に、どこぞの新聞が盛大な尾ひれをつけ、面白おかしく書き立てているのかもしれなかった。
    夜、街を出歩く人はぐんと少なくなったが、代わりに町人からなる警備隊が路地を練り歩くようになった。警察も、腰に提げたピストルをちらつかせ、難しい顔で現場付近を聞き回っていた。そんな中、中央は我関せずと喧騒を横目に眺めて動かなかった。民間の事件は警察の範疇である。

    相変わらず拘束の解けない鯉登と月島は、あの日以来3日ほど顔を合わせていなかった。が、痺れを切らしたように、月島の方から「今夜伺います」と連絡があり、断る理由も思いつかず曖昧に頷いたのである。
    控えめに始まった接吻を受けながら、どうにも前回までのことが頭をよぎって離れなかった。
    また鐘が鳴るのではないか。
    また誰かが襲われるのではないか。
    鯉登が集中できないのと同じように、月島もまたそのことを考えているのがよくわかった。
    緩慢に口を合わせ、互いの身体をまさぐった。快楽で不安をかき消してしまいたかった。
    鯉登が浴衣の襟をはだける。
    月島が首筋に接吻する。
    そして、警鐘が鳴り響いた。
    「…………」
    「…………」
    鯉登は縁側に繋がる障子をじっと見つめた。月島を見ると、彼もまた障子の向こうを見透かすように睨みつけていた。
    「お前が呼んでるのか?」
    冗談のつもりで聞いてみると、はっと顔を上げ、すぐに「いやいや、少尉殿でしょう」と応じた。
    「ちごっ……、私ではない!」
    「わかってますよ、そんな訳ないじゃないですか」
    「でも……ならばどうしてこういう時にばかり起きるのだろう。私が、お前と睦みあっている時に限ってどうして」
    戸惑いながら反論する。月島は眉をひそめただけで何も答えない。

    その時、「いたぞ!」という罵声のあと、パァンと破裂音が鳴り響いた。明らかな発砲音。
    直後、近くでドンッと物凄い音がして、ぎょっとした2人は腰を浮かした。
    警備隊の懐中電灯が鯉登邸の障子を射抜くように照らした。
    障子の内側へ、影絵のように照らし出されたのは、ひさしにぶら下がる、大柄な人型の何かだった。
    なんだこれは。
    咄嗟に鯉登は立ち上がり、障子に手をかけた。
    「少尉殿!」
    慌てた月島に静止され、はだけた浴衣を直される。人型のそれは腕力を使って屋根の上へと飛び上がり、そのまま屋根の上を走って逃げたようだった。懐中電灯の強い光が別の方角を向くのを待ち、障子を開け放って庭に出た。
    縁側に見覚えのない染みが点々と落ちていた。月島が電灯を灯すと、それは赤黒い血痕であることがわかった。
    月島に踏み台を運ばせ、その直上のひさしを確認する。瓦が砕けて、深い引っかき傷のようなものが残っている。瓦の隙間に何かあり、慎重につまんで灯りのある場所へ戻ると、それはごわついた毛の束である。よく見ようと顔に寄せる。吐き気を催すほどに臭い。
    鯉登は露骨に顔を顰めた。
    だんだん腹が立ってきた。
    「なあ月島、こいつは私たちの手で捕まえよう」
    毛束を突きつけながら言うと、月島は目を向いた。
    「少尉殿、これは警察の領分です。軍が手を出したとばれたらまずいですよ。まして、ここは北海道じゃありません。中央に知れたら……」
    「そんなことはわかっている! わかっているが、これ以上、この暴漢をのさばらせておくというのか。こいつのせいで我々は満足に抱き合うこともできないんだぞ」
    「それは、流石に私情が過ぎるのでは……」
    「いいや、私の純情をないがしろにした罪はそれ程までに重いのだ。報いを受けさせねば収まらん。私は本気だ。お前が行かずとも一人で行く!」
    強情に言い放つと、月島は眉間に皺を寄せ、はぁぁと深いため息を吐いた。
    「わかりましたよ」
    すっかり諦めた様子で、月島は言った。
    「伝手がないことはないですから、一枚噛めるように手を回します」
    「まこち?」
    「その代わり、一人で突っ走るのはやめてください。ここで面倒なことになったら私じゃ助けられませんからね」
    「うふふ、善処する。ありがとう、月島」
    礼を言うと、月島は目を合わせずに、そっぽを向いてしまった。
    「……私だってこれ以上邪魔が入るのは堪忍しかねますから」
    ぼそっと言って部屋に入っていく。
    追いかけて頬に口付ける。珍しく照れている月島が愛おしかった。



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