新風掌編4つ切ないやつと悲恋もあります
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予想通り新堂の第二ボタンはなくなっていた。というか全部のボタンがなくなっていた。追い剥ぎにあったみたいだと笑ったら、実際卒業式の女子なんて追い剥ぎと変わらないとため息をついていた。第二ボタンがもらえたら、言おうと思っていたのにな。結局告白どころかボタンちょうだいとも言えなかった。
/さようなら僕の青と春風
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君がパフェを頼むなら僕はこっちを頼もう。着いて来てもらった手前文句を言うこともできずにテーブルに届いたハート型のストローと淡いブルーのソーダ。当たり前のように奴の反対側の飲み口を顎で示され、遠慮がちに咥えれば風間もそれに続く。喉を焦がす炭酸が染み込む感覚を別の何かと間違えそうだ。
/ソーダ味が胸に染みる春
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桜、全部落ちちゃうかなあ。風間の心配の割にはまだほとんどピンク色の木の下で奴は雨宿りしていた。舞い散る花弁が奴の黒髪に落ちて、かぶりを振ればそれと共に水滴が飛ぶ。桜は屋根に向いてねえよ。開いた傘を軽く持ち上げると小走りで傍に駆けてくる。髪に残ったひとひらを摘んでやると奴は笑った。
/桜雨降りしきる中君を見た
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しんどう。しんどー。しんどお。色んな呼び方をした。遠い記憶に思いを馳せながら呟くと、乾いた唇から出る名前はぎこちない。友達じゃなかった。恋人でもなかった。君のいじわるで、あったかい笑顔が好きだった。その表情も名前も、今や“好きだった”の名残だけで中身はない。どんな字だったっけな。
/あんなに呼んだ名前なのに、君の名前はもうすぐに書けない