Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    mimuramumi

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 28

    mimuramumi

    ☆quiet follow

    宇宙ロボ 元上司と部下です

     スペースルーラーズと呼ばれるロボットたちの立場は、実に複雑だ。
     彼らは厳密にはロボットではなく、地球外生命体である。地球の生命には観測できない領域に存在する故郷で生まれ、他の星を征服して支配圏を拡大することのみを目的として生きてきた。しかしある時、彼らの故郷は支配した星ごと滅んでしまう。白い彗星が降ってきたのだ。
     なんの前触れもなく天より現れて破壊の拳を振るいはじめた「悪夢」を前にして、寸でのところで「神」を伴って脱出艇に乗り込み逃げおおせたのが、現在スペースルーラーズと呼ばれる九機だ。何度かの時空間転移を経て、脱出艇は故郷から遥か遠く離れた星に辿り着いた。その星こそが古代の地球である。しかし度重なる転移と地表への墜落により九機はことごとく破損し、長く眠ることとなった。そして数千年の後、遺跡と化していた脱出艇から彼らを持ち出して目覚めさせる者がついに現れる──悪の科学者、アルバート・W・ワイリーその人だ。
     それからの経緯は多くの人やロボットが知るとおりだ。彼らは目覚め、地球を征服せしめんと戦い、ロックマンに討ち倒された。公的な書類に残る彼らの記録はそれだけである。それ以降は、何もない。



     大都市を一望できる小高い山の上の展望台で、スターマンはひとりベンチに腰かけて足をぶらつかせていた。周囲に彼以外の存在は見当たらない。午前二時にもなってこんな閑散とした場所に足を運ぶような酔狂な人間もロボットも、眼下の街には存在しないようだった──仮に存在したとしたら、悪の戦闘用ロボットの鋼の掌でひとにぎり(・・・・・)にされて物言わぬ身となっていただろうが。
     スターマンはどこか楽しげに、ゆらゆらと機体を揺らして光り輝く夜景を眺めている。ぽたり、と何かが地面に落ちる音がしたのはその時だった。背後から聞こえたそれにスターマンは振り返らない。ぽたり、ぽたり、次々に滴ったそれはやがてひとつの大きな塊になり、自ら渦巻くように蠢くとヒトに似たかたちを取った。
     できあがったばかりの脚で緩慢に立ち上がると、それは気怠げにベンチへ近付いてくる。スターマンは振り返り、笑みを浮かべた。
    「お久しぶりです」
    「おう。つか、ちゃんと話すの初めてじゃねえか? オマエがそうなってから」
    「そうですね。こうなっちゃいました」
     大きく両手を広げて小首を傾げるスターマンに、粘弾性の機体を持つロボットは肩をすくめてみせた。
     彼の名はマーキュリーという。少なくとも今は、そう名乗っている。
    「元気そうだな」
    「はい、とっても。マーキュリーはあまり元気ではなさそうですね」
    「テンションと一緒にエネルギー消費抑えてんの。あれ、低燃費ってヤツ」
     マーキュリーはスターマンの隣に腰を下ろすと、目の前の夜景に視線をやった。眠らない街は深い夜の中でも煌々と輝き、頭上の星の輝きをかき消している。文明の燈火を前にして、綺麗ですねえ、とスターマンは言う。
    「ボク、この景色が好きなんです。星のなきがらみたいでしょう」
    「あー確かにちょい似てる。この星からじゃ本物は見えねえよな」
    「死にそうな星が近くにあれば良かったんですけどね。……ご用件はなんですか?」
     静かな声で本題に入るスターマンを、マーキュリーは横目で見た。薄い笑みをたたえた彼の顔は記憶にあるものとは少し印象が違っているように見える。だがそれはマーキュリーも同じだった。
     大破した正体不明のロボットを再生させた技術力は大したものだが、失われた外装を想像力のみで組み直すことを「修理」と呼ぶのはいささか強引が過ぎる。マーキュリーはそもそも不定形であったために大きな影響はなかったものの、縁もゆかりもないこの星の生物を模した外装に替えられてしまった面々はあまりに不憫だ。……目の前にいるこのロボットの片割れにも言えることかもしれないが。
     思考が逸れた。言い出しにくいことを言い出す前には、つい余計なことを考えてしまう。気を取り直して、マーキュリーはスターマンへ向き直る。
    「オマエらの、今回の作戦ってやつ? あれの情報が欲しいんだよな」
    「理由をお聞きしても?」
    「ライトナンバーズに強請(ゆす)られた。なんか知らねえかってな……同時に協力要請も。ヤツら今回はオニイサマ任せにしたくないみたいだぜ」
     スターマンは困った表情を浮かべた。マーキュリーは足元にあった小石を蹴る。
     スペースルーラーズの立場が複雑である、その大きな理由は、現在の彼らがライト研究所の支援を受けて生活していることにある。全員まとめて叩きのめされた後、征服という本分を果たすことも故郷に帰ることもできず途方に暮れていた彼らを拾ったのが、他でもない彼らを叩きのめしたロックマンだった。彼は言った、君たちがこの星で生きていくなら、その手助けをしたい、と。
     結局、そのとおりになった。現在スペースルーラーズが地球のロボットに紛れてひっそりと生活を送れているのは、必要な資材や場所をライト研究所が手配してくれているからだ。代わりに彼らは労働力や知識を返すことにしているが、今まで与えられたものと返したものの分量には天と地ほどの差がある。その現状に甘んじていられるほど、彼らは能天気ではなかった。
    「アースは死ぬほど悩んでオマエを呼び出して、オレをここに来させた。まーオレでもそうする。タダより高いものはない……って言うだろ? この星じゃ」
    「……ライトナンバーズも思ったより冷静ですね。情報を求めたのは、あなたがたがワイリーナンバーズと交流しているのを知られているからでしょう。それ込みで飼われているのでは?」
    「ンなことこっちも承知してるさ。だから差し出さなきゃならない。そうだろ?」
     乾いた笑いが返った。肯定の意である。スターマンは力なく首を振る。
    「ボクは作戦に深く関わっていませんよ。昨日の今日でここにいるんですから」
    「オマエの仕事は人工衛星の保守だろ。通信まわりに噛んでるんだから地上の拠点も把握してなきゃおかしい」
    「はあ……ご明察です。ああ、うん、どうしようか……」
     唇に人差し指をあて、スターマンは考え込む。マーキュリーは待った。自我の二層構造による思考の多面化は彼ら(・・)の活動を大いに助けたが、同時に意思決定プロセスの複雑化という弊害を生んだ。要は、内部での話し合いという段階を踏まなければ重要な決定を下せないようになっているのだ。恐らく、分かたれた今でも。
     思考にかかった時間は数秒だった。やがてぽんと手を打ち、スターマンは苦笑する。
    「分かりました。お渡しします。全部は無理ですが、そうですね、重要部品の生産拠点の座標でも」
    「オレから頼んどいてなんだけど、それは駄目だろ」
    「ですから出処はご内密に。入手経路は適当にでっち上げてください」
    「無茶言うぜ」
     とは言うが、マーキュリーとしても初めからそうするつもりであった。どうせ情報の入手経路をしつこく追及されることはないだろうし、普段からあちこち飛び回っているジュピターが散歩中に偶然見つけた、程度のことを言っておけば問題ないだろう。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works