頑張る元長官!「こっちに移ってから大分喧しくなくなったのぉ成長じゃな」
「そうね、落ち着いてきたのかしらね」
「年相応というもんを覚えたんじゃな」
「おいお前ら聞こえてんぞ」
「おっと、成長を喜んでおったんじゃ、許せ」
「コイツ…」
元長官殿はだいぶ大人しくなった。転んでもぶつぶつ文句を言わなくなったし、転んでブフェ!と汚い声を上げてもなかったように立ち上がって歩き出す。これが長官時代だったなら転んだことにブフェ!と声を上げて、つまづかせる道が悪い!とがなりたて、さっさと起こせ!コケる前に助けろ!とひとつ転ぶだけでこれだけ騒いどった。
かつての上司時代なら嫌々でもやっていたが、今は同僚だ。なんならルッチの部下だ。立場が同等になったなら助ける義務は無い。
いやはや成長したもんじゃと感心する一方でなければないで寂しい、とまではいかないが、物足りない気もするのであった。
知ってるさ誰にも手を差し伸べて貰えないことなんて、あまつさえ嘲った声で馬鹿にされ、侮蔑の目が向けられる。
昔に逆戻りだ。長官時代より前、ずっとずっと前の子供時代に。そのときは無力で世間知らずのガキだった使用人たちはドジの俺に泣くな親父の跡を継ぐものがみっともないと言い含めた。それがアイツらが考える育て方だった。みっともないそれでもスパンダイン様の跡を継ぐご子息なのか自覚が足りないのでは無いか
そう言って泣き喚くガキを放置して誰も助けてくれないことを思い知らせた。
当然そいつらは親父によって解雇された。この世からも消えた。
親父は忙しくってほぼ家にはいなくて、だから気づくのが遅れてしまった。事件の後は休みを取ってずっとそばに居てくれた。優しく声をかけてくれて、欲しいものなんでも用意してくれて、悲しい時には泣けばいい、嫌な時には怒ればいい泣いて俺を呼んでくれ、怒って何が嫌か教えてくれと言ってくれた。
その甲斐あって情緒を取り戻すことが出来た。子供の頃の思い出と片付けてしまえる出来事だったはずなのに。
ああ、あのころの再来だ。辛く苦しくて悲しくても誰もこない、救ってくれる者はいない。親父は病に伏している、迷惑を掛けて病状を悪化させてはいけない。
今はまだファンクがいる。あの子供の頃にはいなかった、事件の後に親父が与えてくれた俺を守る俺だけの武器。これがあれば俺の心は守られる。
「、ファンクフリードッッ!!!」
みしり、象剣が嫌な音を立てる。鍔迫り合いをファンクフリードが制する。しかし、次から次へと湧いてくる賊どもに剣の状態を注視出来ない。嫌な予感に腹の底が冷えるのを感じながら、敵に目を向ける。
場の制圧を完了し、船に戻る。割り当てられた部屋に戻り、今の今まで奮戦し続けた象剣を見やる、すると、刃こぼれと刀身の歪みがある。
俺は息を詰まらせた。
ファンクフリードは武器にぞうぞうの実を食べさせてできたもの、ふたつの姿を持ち合わせる。故に片方の姿で付いたキズはもう片方にも反映される。
今のファンクフリードをぞう姿に戻したら、傷だらけの姿で現れるだろう、剣の状態が著しく悪い。
俺を、俺を守って、ここまで傷ついて、
(ファンクフリード修理中に心の支え無くなって心労たたってぶっ倒れるスパンダム)
ぶっ倒れた俺は何故か医務室ではなく総監の自室で寝かされてる
「どうして何も言ってはくれないんですか…!」
「言ったところでどうなる、俺を嘲笑うだけだろうが。お前がそうしたんだ。俺を嘲り蔑んでもいい存在だと周りに知らしめた。そうでしょう、『 総監』」
「俺は…貴方に…」