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    wsms_sousaku

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    wsms_sousaku

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    愛〆がどうしても祝儀園センパイに頼みたいことがあるようです。

    愛〆がセンパイに貫通を手伝ってもらう話まるで切腹する寸前の武士のような座り方で、愛〆は祝儀園を見上げていた。
    対する祝儀園は図書室の椅子に座り夕陽に照らされた床の愛〆を見下ろす。

    「……お、お願いします」
    「うん」

    なぜこんなことになっているのかというと、時は少しだけ遡る。
    その日の昼休み、廊下を駆け回る愛〆の姿はなく、たまにたむろする三年生の教室に神妙な面持ちで入ってきた。
    あー、飯白くんだー、なんて女子の声も聞こえていないかのように愛〆はまっすぐ祝儀園の元に向かう。

    「あの、祝儀園センパイ」
    「ん?なんだ、元気ないね?」

    いつもなら一直線に向かってきてからからと笑いながら今日食べた美味しいものの話や遊びの誘いをしてくるはずの愛〆は、今日は緊張で頬を赤くしながら祝儀園の目を見た。

    「た、頼みがあって!こ、これ!」

    ずい、と差し出したのは小さいながらも少し太めの針。

    「これは……ニードル?」
    「流石センパイ!知ってたッスか!
    そうっす、ピアス用のニードルです!」
    「ドンキで見たことだけはあるんだ」

    こうやって触るのは初めてだけど、とニードルをつまみ上げた祝儀園の微笑みに、少し緊張が取れる愛〆。
    しげしげとそれを見ながら、祝儀園は愛〆に問いかける。

    「で、これをどうしてほしいの?」
    「あ、あの……」

    やっぱり嘘。緊張がぶり返してくる。
    祝儀園の何でもお見通し、みたいな眼差しで汗が吹き出す。
    引かれるかな?普通に断られるかも、そうなったらどうしようと柄にもなく悲観的な思考がぐるぐる回る。
    少しの間沈黙が続き、祝儀園が不思議そうな表情になったあたりで、クラスの派手な女子グループが祝儀園の手の中のそれを発見し、声を上げた。

    「あ!シュマ、それニードル?なに、ピアス開けんの?」
    「えー意外!祝儀園ってピアスとか絶対開けなさそう〜!あはは!」
    「いや、これ僕のじゃなくて愛〆のなんだけど」
    「えー?飯白くん?あー分かった!
    先輩に開けてほしくて来たんでしょ!
    分かる分かる、自分で開けんのって超怖いよね!」
    「え!?あ、あの……いや……」

    捲し立てるようにはしゃぐ女子たちの言葉に、愛〆の顔はみるみる真っ赤になっていく。

    「え?やだ図星!アハハ!」
    「かわいー!」
    「ねーあたしがやってあげよっか?あたし超上手い……」
    「いや」

    自席に座っていた祝儀園が立ち上がり、女子と愛〆の間に割って入り言葉を遮った。

    「僕がやる。お前たちは引っ込んでていいよ」
    「アハハ!マジー?頑張ってね?
    超痛いけど飯白くん泣かないでね!」
    「愛〆、詳しく聞かせて?」
    「うす…………」

    柔和な笑みで女子を席に戻らせて、愛〆に向き直る。
    恥ずかしいやら情けないやらで今にも泣き出しそうな愛〆の背中を優しく叩いて、少し人気のない廊下に促した。

    「僕にこれで開けてほしいの?」
    「うす……あの、軟骨、開けてほしくて。
    自分でやろうと思ったんすけど、痛いの怖くてできなくて。
    センパイなら、上手く開けてくれそうだなって思って……」
    「お前は痛いの嫌いだもんね」

    元から祝儀園より小さい愛〆は、背中を更に小さくして小声でモゴモゴとする。
    祝儀園はその背中に手を当てながらうんうんと話を聞いてやった。
    愛〆は涙目で先輩を見上げる。

    「お願いできます……か……?」
    「いいよ、やろう」

    可愛い後輩の頼みだ、と胸を叩いて快諾した祝儀園に、ホッと安心していつもの笑顔を取り戻した愛〆は、じゃあ放課後に、と残し自分のクラスに帰っていった。


    そして放課後、図書室の奥の、誰も立ち寄らないような書棚と書棚の間の勉強スペース。
    俺が暴れたら上から押し潰してください、という理由で椅子に祝儀園、床に愛〆という配置になっている。

    「一応調べてはきたんだけど、合ってるかは分からないや」
    「だ、大丈夫ッス!もう穴が開けば……何でも!!」
    「ふふ、何でもいいの?」

    祝儀園の冷たい手が愛〆の右耳に触れる。
    愛〆はびくりと肩を大きく振るわせた。
    当たり前に緊張している。

    「場所は?」
    「あ、えっと、この辺で、センパイがいいと思うところにお願い、したいッス」
    「僕が決めていいの?」
    「う、うす……センパイに、決めてほしい……ッス」

    恥ずかしくて言葉が尻すぼみになる。
    こんなこと言って、引かれてないかな、とかやっぱり自分でやればよかったかな、とか今更なことを頭に思い浮かべる。
    祝儀園の指が耳の外側の軟骨を軽く摘んだ。

    「分かった。この辺でいい?」
    「あ、うす!あざっす!」

    どうやら引いてはなさそうなので安心する。
    さすさすと耳を何度か触り、よしと祝儀園は持参したゴム手袋をつけニードルに軟膏を塗り始めた。
    それを見ながら、愛〆はドキドキバクバクと鳴る心臓をなんとか落ち着かせようと深呼吸をしていた。
    しかし、いくら深く息を吸って吐いてもちっともそれは鎮まらない。
    軟膏が時折ぬち、と鳴る音と愛〆の荒すぎる呼吸がしばらく響く。

    「よし、消毒するよ」
    「うす!……ッ、つめてっ……」
    「ふふ」

    ティッシュに含ませた消毒液が緊張で熱くなった耳のふちに触れ、愛〆は思わず肩を揺らした。
    それを見てくすくす笑う祝儀園を見て、少しだけ強張った体が解ける。
    しかしそれも、祝儀園が一度置いたニードルをつまみ上げたことで元のガチガチに戻る。

    「じゃあ……行くよ?」
    「お、お願いします……!」

    生唾をごくりと飲み込む。
    痛いよな、絶対痛いよな!
    目をぎゅっとつむり来る刺激に備える。
    も、なかなかそれは来ず、代わりに祝儀園の声が上から降ってきた。

    「愛〆、こっち向いて」
    「はっはい!なん、んむっ!?!?」

    顔の向きが良くなかったかとパッと祝儀園の方を向いて目を開けると、至近距離に端正な顔がありビックリすると同時に、唇に冷たくて柔らかいものが触れた。
    目が点になるほど大きく見開いた愛〆のぼやけた視界で緑色の瞳と目が合う。
    唇を合わせたまま少しの間静止し、無意識に息が止まる。
    そして、ちゅむっとわざとらしい音を立てて祝儀園は離れていった。

    「え、あの、なん……!?」

    先ほどまで緊張で顔が赤かった愛〆が、別の感情で額までりんごのように染める。
    はくはくと口を開閉させてそこに手を当てた。
    祝儀園はにっこりと微笑んだまま、手に持っていたニードルと消しゴムをむんずと耳に添える。

    「行くよ」
    「はぇっ!?、ッ!?ぐ、いッ……!
    んん"〜〜〜〜〜!!!」
    「そうそう、いい子だね」

    愛〆が身構える暇もなく針が無遠慮に皮膚を貫いた。
    思わず大きな声が出かかり、反射的に口に添えていた手で声を押し込める。
    自分で耳たぶに開けたときよりも何倍も痛い!
    暴れ出しそうになる手足をぎゅっと縮こまらせて、痛みに耐える。
    ふー、ふー、と荒い息が鼻から漏れた。

    「あれ、思ったより力がいるなこれ。
    まだ貫通してないや」
    「んぐ……ふ、ゔ、ん……ッ!!」

    ぐっ、ぐっ、と針が押されるたびに声が漏れ出る。
    我慢しようと思っていた涙も努力むなしくぽろぽろと頬と手を濡らした。
    針が貫通し、つぷ、と小さく耳の中で響くまで永遠にも感じられた。

    「もう少し、頑張れ、頑張れ」
    「う、うぅ〜〜〜〜」

    貫通した針をずるる、とそのまま通して、ファーストピアスをニードルの穴にはめ込み引き抜く。
    その感触が痛くて気持ち悪くて、愛〆は情けない声を上げた。
    キャッチをぐっと押し込み祝儀園はぱっと手を離した。

    「はい、完成。よく頑張ったね」
    「あ、ありがと、ござます……」

    まるで全力疾走した後のような疲労感を覚え、愛〆はぺたりと手を床につく。
    祝儀園はうんうんと頷いた後、自分の手をしげしげと見つめた。

    「思ってたより血が出たな、これ止まる?」
    「どう、すかね?うわマジだ、どうしよ」

    慌てる愛〆を落ち着かせ、祝儀園はティッシュを何枚か重ねて耳に当てる。
    愛〆はほっとして祝儀園を見上げた。
    気の抜けた顔をした愛〆とは反対に、祝儀園は、感情の読めない冷ややかな目をすっと細めた。
    そして、熱を持ったそこをひんやりとしたピアスごと、ぎゅっと強く摘んだ。

    「あぎッ、い"ッ!?
    せ、センパイ……ッ!?」

    悲鳴を上げて思わず下を向き、おずおずと困惑した眼差しで祝儀園を見上げる。
    祝儀園はにっこりと微笑み、愛〆を見下ろす。

    「圧迫止血だよ。
    このままじゃ血が止まらないだろ?」
    「な、なる、ほど……うぅ、痛ぇ……!
    こんなん、自分じゃできなかったと思うんで、あり、がとうございます」
    「いいんだよ」

    じくじくとした痛みになんとか耐えながら祝儀園に感謝を告げる。
    センパイは優しいな、とどこかふわふわとしてきた思考で再度ありがとうございます、と口にした。


    しばらくして血が止まり、愛〆が用意したビニールにゴミを全て捨てた後。
    トイレで祝儀園は手を、愛〆は耳を洗いながら、改めて二人で鏡越しにそれを見た。

    「おお、本当に穴が開いてる。僕が開けたんだけど。
    まだ痛む?」
    「ちょっとだけ。
    マジであざした!センパイがいなかったら一生ピアス一個のまんまでした!」

    すっかりいつもの調子を取り戻した愛〆は、明るい笑顔で祝儀園に礼を伝える。
    祝儀園は愛〆に笑顔を返し、その顔をついと近づけた。
    先ほどと同じように唇を合わせる。
    先ほどと同じく愛〆は目を見開き、みるみる顔が紅潮する。
    今度は祝儀園は目を閉じていた。
    その手が先ほどまで散々触っていた右耳に触れ、軽く摘む。
    ちくりとした痛みに愛〆は顔を少し歪ませた。
    また、ちゅっという音と共に祝儀園の顔が離れる。

    「あ、あの」
    「これからはこれ、見るたびに僕を思い出せるね」

    いたずらっぽく微笑んで祝儀園は自分のカバンを掴み、じゃあまた明日ね〜とトイレから出て行った。
    愛〆はしばらく呆然とした後、ちらりと鏡の中の自分を見る。
    銀色のファーストピアスが、きらりと光った。
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