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    namoff14_

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    暁月 ヘルメスとメーティオン

     エルピスは今日も変わらない風が凪いでいた。管理が行き届いている証拠として、規則正しく観察を行う職員を目で追いながら、ヘルメスは穏やかな面持ちでアナグノニシス天測園を後にする。彼の少し後ろを歩むメーティオンも、誰の心を汲んでか、ひとときの平穏を楽しむかのようだった。
     ふと、足を止めると背中にぶつかる感触と、小さな悲鳴が上がる。ふらふらとバランスを崩すメーティオンを、ヘルメスは両手で支えながら視線の高さを合わせた。
    「すまない、メーティオン。配慮が至らなかったね」
    「ううん、平気。ヘルメス 何か、気になった?」
     岩陰には最近観察が始まった創造生物……ではなく、花弁に色を宿さない花が咲いていた。あまり見慣れないものだったし、加えてあまり好きなものでは無かった。それでも立ち止まってしまう理由は、彼にとって納得いくものが見つかっていない。
     あぁ、いけないな。こういう些細な心の変化でさえ、彼女は機敏に感じ取ってしまうのに。重ねて「すまない」と頭を撫でてやる事しか出来なかった。
    「わたしは 何かやれる?ヘルメス、お願いが欲しい!」
     献身的な振る舞いをする彼女に、彼は少なからず心を寄せている。命の意味を、生きる目的を、見つけ提示してくれる存在として。所長でもある人間が自身の創造物に縋るなんて、周りはきっと笑うだろう。彼女は手段ではない。希望だ。
    「私の歓びを君の歓びとしてくれるように、私もまた同じだよ。メーティオン、君には笑っていて欲しい」
     その先に答えがあると信じて、今はその時を待つ。
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