憾 3分ほどの曲だが悔しさ、やり場のない怒り、無念さがこの曲には詰まっている。
「……」
長義はストリートピアノの前で足を止めた。鍵盤を力強く叩き、最後のフレーズを弾き終えてから国広は手を離した。水を飲んで息を整えてから視線に気付いたのか長義へ目を向ける。
「もうそんな時間か。演奏に夢中になってて気づかなかった」
国広は椅子から立った。
「さっきの曲……滝廉太郎のだよね? 死の数ヶ月前に作ったと言われている」
「よく知っているな」
「聴いたことがあったからね。憾というタイトルがつけられているけど怨念の類ではなく、志半ばで逝く無念さや悔しさが込められていて、聴くと切ない気持ちになる」
椅子に座り、長義は楽譜を譜面台に広げた。
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