人質(仮) 暫く進めば、この辺りは手入れがされている、ということに気付いた。道は歩きやすいように整えられており、石や枝も落ちていない。やはりこの先に誰かいる、と乙骨は確信を強めた。
さらに進むと、道が少し拓けてきた。上りはかなり緩やかになり、歩くのも楽になってきた。不意に、鼻腔に植物と土以外の匂いを感じ取る。水の匂いだ、と気づけば、思わず走り出していた。一層鬱蒼と生い茂る樹々を掻き分けると、ついにほぼ平坦な土地が眼前に現れる。
「わあ……」
感嘆の声が漏れた。動画の撮影者が言っていた通り、そこには小さくて丸い湖があった。山の中に突如現れるそれは、まるで砂漠のオアシスのような雰囲気を漂わせている。火山でもないのに、ぽっかり空いた穴に水が溜まってできているのが、神秘的な感じだ。湖というよりは大きな池に近いかもしれない。水は澄み渡っていて、ぞっとするほど綺麗なエメラルドグリーンだ。誰も近づかない廃れた地域に、こんなに美しい場所があるなんて、と乙骨は感動さえ覚えた。
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