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    帽子屋(とある星の語り部)

    うちよそは、穏やか雰囲気で。
    うちの空は、ほんのりビターな雰囲気で。

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    うちよそ【蓮兎✖️レア】

    出会いが、これってどうなの?この空には幾つかのバグ技と呼ばれる『非合法』な技が存在する。
    一般には推奨されない方法だが、迷惑をかけないならと目をつぶっている星も少なくない。

    師匠から教わった技の一つ「グリッジ」。小さな隙間から体を「すり抜ける」事が出来る実用性の高い人気の技だ。

    俺は、この技を愛用していて色んな場所を探索するのを趣味としている。
    裏世界と呼ばれる非合法エリアにも行ける便利な技だ。

    最近は、書庫エリアの奥にある禁書エリアに行き書物を楽しむのが日課になっていた。禁書エリアは、神殿の星の子も殆ど近寄らない保管庫で1人で読書を楽しみたい時は最高の場所だ。
    (ここの警備は大丈夫なのか?)

    あの日も日課の読書を楽しむ為、禁書エリアに向かった。優雅な読書タイムを過ごすはずだったのに、エリア奥に1組だけあるテーブルに誰かが座っていた。書庫の星の子かと瞬時に警戒し、本棚の影に隠れて様子を伺うと、座っている星の子が書庫の星ではないと気付く。

    書庫の星は静かで、いつも背筋が伸びた品行方正を絵に描いたような立ち姿や座った姿をしている。
    テーブルに肘を付いて読書なんてするはずが無い。

    「(なんだ忍び込みのお仲間か...しかし珍しいな?こんなエリアの書物に興味を持つ奴なんて...)」

    気配を殺し警戒したまま、近くの本棚の陰から手元の本を覗いてみた。

    「(近づいても気付かないくらい集中する書物...どんな内容なんだ?)」

    とたん脱力した。

    「(はぁぁ?!エロ本かよ真剣に読んでるから何かと思えば、エロ本かよ!俺の警戒心返せ!!)」

    思えばあの時、大声を出してツッコミをしなかった自分を心から褒め称えたい。
    その後は読書を楽しむ気分ではなくなり、そっと禁書エリアを離れた。

    「禁書エリアに保存されている禁断の本の中身か...気になるな。明日、探して見るか♪」

    楽しみを見つけた俺は、所属エリアに意気揚々と帰ったのだが...

    「(何でいるんだよ!毎日毎日!然も、俺が気になる本ばかり先に読んでるし!てか、俺がいるの気付いているのに無視かよ!なんなんだ、あいつは!!!)」

    心の中で、悪態をつくこと数日。
    何故かエリアに行くと先に座って読書タイムを満喫している星の子。住んでいるのか疑う程、いつ行ってもいる。いちいち隠れるのも面倒になった俺は、テーブルに座り一緒に読書するようになっていた。

    「(役割を持たない星か?暇なのか?)」
    「(あっ!今読んでいる本、昨日俺が見つけて隠してたやつ!楽しみにしていたのに!)」

    普段は師匠に叩き込まれた礼儀作法のお蔭か、礼儀正しい言葉使いや所作を心掛けている俺だが、目の前で優雅に俺を無視して俺の(みつけた)本を楽しんでいる星の子に思わず素で《心の中で》悪態をつくのが日課になっていた。

    「またいるよ...何で毎回いるのさ。邪魔なんだけど」

    楽しみにしていた本を先に読まれた苛立ちから、思わず出た声は思いの外、静かなエリアによく響いた。思わず、バツの悪さから視線を逸らすと小さなため息が聞こえた。

    「(しまった!流石に言いすぎたか?!)」

    「.....あ?ブーメランって知ってるか?お前教養なさそうだもんな、分かんなくて当たり前か!ごめんな!」

    仮面越しでも綺麗な笑顔だと分かる雰囲気と、よく響くその声の主は、呆然としている俺を横目に又ひとつ溜息を吐くと部屋を出て行ってしまった。

    「(は?なに言われたんだ?教養?)
    ...フッフッフッフ!お前が言うなよ!毎回!エロ本ばかり熟読しているヤツに言われたかないわーー!」

    言われた内容にキレた俺の叫び声が、静かな部屋に木霊していた。
    怒りの収まらない俺は数日間、バディの蓮水に愚痴り続け、蓮水に笑われていた。

    「あっははは!!そんなに怒りが収まらないなら、相手に一言言えば?」
    「負けた気がするから、嫌です...」
    「負けって何さ?毎日そのエリアに行っているんだし、会話するチャンスはあるでしょ?」
    「...話しかけたら、負けな気がします....」
    「今の蓮兎。とーーーーても!めんどくさい」
    「....」




    「(会話も何も、あれ以来視線も合わないし。
    そうだよ!毎日会っているのに失礼すぎないか?会釈ぐらいするのが礼儀だろ)」

    やらない自分の行動は、捨て地の汚染水にでも沈めて、又も読みたかった本を先に読まれて手持ち無沙汰になった俺は、他を読む気になれず仮面越しにソイツを見ていた。
    不意にページを捲る手が止まった。

    「(しかし綺麗な指してるよな)」

    無意識に見ていた指先から視線を逸らせずにいると、

    「視線が邪魔なんだけど」
    「…君、指綺麗だよな…名前は?」
    「は???頭大丈夫?」

    無意識に出た言葉に返って来たのは、相変わらずの口の悪さ。俺の言葉も、如何な内容だが聞いたものは仕方がない。

    「だから、名前。教えるくらい良いだろ?先に名乗った方が良いか?俺は蓮兎。ほら?君は?」
    「何で、答える必要があるのさ?」

    食い気味に聞くと、相手は冷めた視線を俺に向けていたが関係ない。自分でも分からないが、視線が合った瞬間、この星の視線を俺から逸らしたくなかった。

    ジッと見つめ続けると、居心地が悪くなったのだろう。小さく「レア」と呟くとレアは、視線を手元の本に戻してしまった。

    「(レア!レア!名前はレア!)」

    視線を逸らされたのは残念だったが、名前を知れた事が嬉しかった俺は、目元を和ませながらレアの読書が終わるまで横顔を眺め続けていた。
    時折「視線じゃま」「見るなよ、気持ち悪い」などの声が聞こえた気がするが、その日は気にならず上機嫌で雨林へと戻った。




    「そういえばレアくんとは、その後仲良く出来たの?」

    数日後、役割である雨林の門番の最中、蓮水が思い出した様に尋ねてきた。

    「あぁ。イライラする位、皮肉混じりの楽しい会話をするようになってね。レアからも『邪魔するな』とか『読書は、静かにするもんだ。そんなことも知らないの?』とか声を掛けてくれるよ♪」
    「…随分と愉快な会話だね。蓮兎が楽しいなら、それで良いけど」
    「とても楽しいよ♪思わず、素で会話してしまうくらいだから自分でも驚いてる」
    「へ〜丁寧口調を崩さない蓮兎にしては、珍しいね!おれも会ってみたいなぁ、レアくん」
    「う〜ん。まだ紹介は難しいけど、可愛い子だよ、ムカつくくらい」
    「仲悪いの?」
    「『喧嘩するほど仲が良い』だよ」
    「あははは!レアくんも、面倒なのに気に入られてしまったね。あ、そういえば今日のデイリーは雨林だったよ」

    蓮水は思い出した様にそう言うと、雨林ホームから続く雲の道に目を向けた。

    「来るんじゃない?真面目にデイリーをする子ならね?」
    「ははは!どうかな?わざわざ禁書エリアで、エロ本読んでるぐらいだからなぁ」
    「他の子のこと言えないでしょ、蓮兎も」
    「俺は真面目な星の子だからね。偶の息抜きは、必要なんだよ。まぁ、来るなら丁寧にエスコートするのも悪くないかな♪」

    そんな軽口を叩いていると、ここ暫くで慣れ親しんだ気配が飛んでくることに気がつく。

    「…そういえば、フレンド申請してなかった。容姿が見えない。」
    「蓮兎…。ダサい」

    容姿が見えないなら見える様にすれば良いだけ!
    レアであろう容姿が見えない星の子が、門の開閉装置にキャンドルを近付けた瞬間。門の上から飛び降りて、自分のキャンドルを近づけた。

    「こんにちは。レア君。
    デイリーですか?今日は、雨足がいつもより強いので気をつけて下さいね。」

    「えっ?」

    「傘は、お持ちですか?良ければ案内しますよ?」

    「はっ??」

    仮面の下で仕事モード全開の笑顔と共に、しかし、『禁書エリアの件言うなよ?』という意味を込めた眼差しで優しく声をかけると、レアは突然声を掛けた俺を俺を見つめている。

    イタズラが成功時の高揚感と共に、反応の無いレアを見る。

    「(驚かせすぎたか?)
    レアく『エ、エロ本男ーー?!』…ん⁈」

    エリア中に響き渡るほど(次のエリアにまで響きそうな)の大きな叫び声が、木霊する中。耳を真っ赤に染めたレアは開いた門に飛び込み次のエリアへと消えて行った。残されたのは呆然と佇む俺と、これ又エリア中に響き渡るほどの蓮水の笑声。

    「おや?誰かとお間違いですかね?ああ、行ってしまった...次に、お会いした時にじっくりと誤解を解かないといけませんね」

    仮面の下の表情をひくつかせながら、誰にいうでもなく呟いた言葉に、蓮水の更に大きな笑い声が響き渡った。




    後日、いつもの禁書エリアで見つけたレアに詰め寄ると悪びれもなく「あ、お前もしかしてそっくりな双子とかいる?」と聞いてきたので、

    「そっくりなバディならいるけど、間違いなく言い逃げされた被害者は俺だからな!なんだよエロ本男って!他に言い方があるだろ!『あの時のイケメン?!』とかさ!!」

    と、更に詰め寄ると

    「だ……って俺たちエロ本の話しかしないだろ!!て、てか近……ごめんってば!!だから離れて!!とりあえず!な!??」

    「なら、もっと楽しい話をしましょう。
    俺たちはお互いの事をもっと知る必要がありそうですね」


    ヘラヘラ笑いながら逃げようとするレアを捕まえ、耳元で囁きながら次の瞬間には、名誉毀損だ!慰謝料だ!フレンドになれ!と騒いだ俺に慌てたレアは俺が出しだフレンド申請をあたふたしながら受理したのだった。

    後に、フレンドになった経緯を知った蓮水に「レアくん、めんどうなのに気に入られちゃったね。あー可愛い♪」と又も爆笑されるが、フレンドになれば此方のものだ。

    自覚した感情のままに《逃がさない》と誓う。
    どう手に入れようかと計画する俺の横顔を見ながら蓮水がまた楽しそうに笑っていた。
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